030612
 
◎個性が輝く! ということを深める。──みんなの関心があつまる美人∞不美人≠ニいうことを考えてみよう。以下の文章はすべて<陶智子著「不美人論」平凡新書>からのものです。
 
美学の世界には黄金率なるものが存在し、美しく見える身体的な比率がまことしやかに並べられる。しかし、現代の認識では、寸法上完璧であることが完璧な美人を意味しない場合があることも現実である。完璧な美人とは美しく見えるだけではなく、内面など見えない部分も含め、その人間に備わるすべてが美しいことを意味する。(13p)
 
結局のところ、美人を考えるとき、前提として美と人格が分裂しているかのように考えたのはあやまりだということになってしまうのであろうか。いや、分裂しているということを悟られてしまうようでは美人としては失格ということか。
 しかし、分裂しているという観点に立てば現代のいろいろな美人の存在についても容易に納得がいくのではなかろうか。大雑把に人格という目に見えないもので括(くく)られている様々が付加価値となるということであるから。(21p)
 
「化粧は肌にするのではなくて、骨格にするのです」とのお答え。
「骨格を意識しなさい」
なるほど人間のおおもとの形を決めるものは骨格である。(65p)
 
もうひとつ考えておかなければならないことは、「顔」と「表情」は違うということである。(73p)
 
美容整形には独特の匂いがある。
そのことばにあるのか、行為にあるのか。
たぶんそのどちらにもあるのだ。
──そのような匂いが存在するのかどうかもわからない微妙な匂い。好意を拒絶するような匂いだ。(82p)
 
顔のひとつひとつの部分が目立たないことが美人の条件である(98p)
 
プロ(メイクアップアーティスト)が時間をかけるのは修正、つまり欠点の改善である。(100p)
 
ナチュラル・メイクの方法は実は自然でもなんでもないのだ。完璧に作り上げられた「自然」が顔の上にあるということにすぎない。「隠すことで人に発見を迫る」化粧こそが化粧の極致ということになる。──自然に見えることは、自然であることとは異なる。(114〜115p)
 
美人になることはたやすい。現代ではそういう時代であるということを述べてきた。それは、美人にあらゆるバリエーションがあり、ほとんど「それって美人?」と穏やかかつシニカルに疑問を発するか、「そんなものが美人であってたまるか!」と反発したくなるようなものまでを美人の輪の中に入れてしまうような、甘くてゆるゆるな時代性にある。美人はどんどんうすまっていく。(120p)
 
私は不思議なことに不美人というものを悲観的に考えてはいない。それはこの本の奥深くへ彷徨い(さまよい)こんでしまえば自ずとわかること。欠点がわかれば、改善の余地があるということもあるが、欠点とされていることが、はたしてほんとうに欠点であるのかということも考えなければならない。(140〜141p)
 
最近、私の勤務する短大の学生に「なぜ化粧するのか」「誰のためにするのか」というような質問をしてみた。その結果、「自分のために化粧する」という答えが過半数だった。「可愛くなりたいから」である。誰のためでもない。なりたいように可愛くなるというのである。現実的な他者を想定していないのだ。もちろん、彼女たちは意識していないだけで、「見せる」他者はどこかにいるのであろう。が、意識の中では、「化粧は自分のためにする」のである。(190〜191p)
 
美はゆらぎの中にある。人の心の中にある。一人ひとりにある。左右対称であろうがなかろうが、美しいものは美しく、美しくないものは美しくないのだ。
左右対称であることが、必ずしも美の基準とはならないということである。(200p)
 
不美人とは何か。そして美人とは何か。
しかしそれを決めるのは私たち一人ひとりの美の物差しでしかない。
美とは曖昧でうつろいやすいものであるのだから。(205p)
 
不美人とは何か。
達することができないものこそが不美人である。けっして満足などできないものが不美人である。
そして、美しくない人が不美人である。
ところが、明らかに美しくない形が、心地よくない形であるかどうかは別問題である。美しい形が心地よいものであるとも限らない。(208p)
 
美人の素とはいかないまでも、不美人の素はある種の個性、もしくは魅力とも成り得るからだ。画一化された枠組みの中にけっしておさまることのない、その人だけが持つもの、私はそれこそが個性であると考えている。(211p)
 
他人とは明らかに異なる自己を見いだすことが、すなわち不美人への道となるのであればそれで結構ではなかろうか。
それは美人というナンバーワンをめざすことではなく、不美人というオンリーワンになることである。不美人は唯一無二のものなのだ。ただ一人の自己認識である。(213p)
 
どうでしたか。@欠点とされていることが、はたしてほんとうに欠点であるのか。A美しい形が心地よいものであるとも限らない。B不美人というオンリーワンになることである。などは、わたしたちの考え方がためされます。この不美人論≠ワさに Only One であり閉じられた世界では受け止めることは出来ない。