学習通信030623
◎読書にはその豊かな生涯の糧を供給するという深い一面がある── 本を読むことは自由≠獲得する助走となるもの……。人がものを考える時には、それまでの経験(学習)が総合され関係がつくられまとめられるのだと思う。
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勉強ほどやる人とやらない人の差が大きいものも、なかなかないのではないか。──なぜ私たちは勉強しなければならないのだろうか。
ひとことで言えば、それは「頭のチャンネルを開くため」なのではないか。人間の脳や心には、たくさんのチャンネルがある。しかしそれは、自然に開通して使えるようになるわけではない。家にあるテレビにいくらチャンネルが50も60もあっても、アンテナをつないだりリモコンの設定を行ったりしない限り、どこにあわせてもノイズしか聞こえてこないのと同じだ。
そして、そのチャンネルを開くのにいちばん手っ取り早い方法が、勉強なのではないか。もちろん、ほかの手段(冒険やサッカー留学など)でもチャンネルは開かれる。とはいえ、それにはあまりにも多くの時間とお金が必要で危険もともなう。
人間の可能性や自由な発想を奪い、思考を硬直化させる最大の原因に、「強迫的な観念」がある。つまり「○○をしなければ」「○○ができなかったどうしよう」とひとつの考えに縛られるだけで、心や社会の柔軟さが極端に失われてしまう。学歴偏重の傾向はすいぶん弱まったとはいえ、日本の大人は圧倒的に勉強に対して「やらなければ、子どもにもやらせなければ」と強迫的な観念を抱き続けている。それがかえって、勉強恐怖症にこどもを生んだり、勉強の義務から解放された大人の頭から知識を消し去ったりすることになっているのだ。
(香山リカ著「若者の法則」岩波新書 114〜116p)
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人の価値観というものは一朝一夕に形成されるものではなく、それこそが大学生活の4年間をかけてじっくりと取り組むべき課題なのでしょうが、しかし価値観形成の出発点は意外と単純ではっきりしています。それは「本をたくさん読む」ということです。
何が正しいのか、今の自分で結論が出せないのであれば、あらゆる見解を視野に入れることから始めるしかありません。だから、学びのための読者の出発点は、一冊の本だけでに固守することなく、多読することです。
また多読することの意味をもう少し広い意味で考えると次のようにもいえます。つまり、人間の知的好奇心というものはそもそも無限であるはずなのだから、狭い一つの対象に関心を集中させるより、多様な現実に関心を寄せる方が教養と人間の幅はより一層広がるということです。
(和田・河音・上瀧・麻生著「学びの一歩」新日本出版社 73p)
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ところがそのプロセスをこなすうちに、私は驚愕してしまった。数々の作品の文章にはほとんど覚えがないと言ってよいくらいなのに、それらが物語る風景や風の匂い、鳥や動物の鳴き声には、信じられないほどはっきりとした心当たりがあったのだ。(54p)
そう、それは私自身の「経験」ではなく、遠い昔に聞いた本の風景だったのである。──あるいはそれは、ようやく紙の上で指を止めずに、すらすらと点字が読めるようになって、初めて音読して録音した物語の景色でもあった。(55p)
読んていた当時は、何の目的もなかった。受験に役に立つと思ったわけでもないし、就職に有利になると思ったわけでもない。「そこに山があるから登る」という台詞ではないけれど、私はただ、そこに本があったから手当たり次第に読んでいた。(55p)
けれども、そんな小さな読書の積み重ねが、脳の深いしわのどこかにしまいこまれ、いつの間にか言葉という音律から一つの大きな風景となって、無意識の彼方にきちんと整理されていたのだろう。それが、こんなに時間を隔てて、突然大人となった私の意識に壮大なパノラマの姿が沸き上がってきたのである。
勉強とも生活とも関係のない精神の世界、だがそれなくして人間は豊かな生涯を営むことはできないだろう。読書にはその豊かな生涯の糧を供給するという深い一面があるのかもしれない。それはもはや、何かに役に立つからとか体によいからといった現世利益的な次元では計れない効用である。いますぐに役立つかどうかの判断ならどんな人間でもできるけれど、それが何十年先にどう役に立つかなんて、だれにもわからないであろうから。
子どものころに読んでおかなければならない本、読んでおけば素晴らしい宝石となって未来の自分を育む本、読書とはそういう宝石集めではないだろうか。
(三宮麻由子著「目を閉じて心開いて」岩波ジュニアー新書 54〜57p)
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脳の本質は、ものとものとを結びつけること
ものとものを結びつけて新しい情報をつくっていくことが、脳のはたらきの基本です。脳は、毎日出会っている新しい情報がどういうものなのかを分類しています。そして、何かを解決したい場合には、まったく関係のないように見える情報どうしをとっさに結びつけるのです。
(池谷・糸井著「海馬」朝日出版社 104p)
いま流行の、効率主義、現実主義におちいると本は読めない。読めるとしても金儲けの本∞恋人探しの本=c…。それ以外≠ヘ焦って読めない。私たちに働きかけられる読書のすすめは、そういうものとは縁遠いものに見えるものもある。そういうものこそ本当は豊かな生涯を営むこと≠ノ資するものであったりするのだと思います。