学習通信030703
◎世の中ちっとも変わらない。承知できないことに反抗しても変わらない……と。流しそうめん状態から脱出だ。新潮新書「バカの壁」がバカ売れらしい。一元論はダメ。そもそも一元論だから相手が見えない、だから戦争も起こる、と。
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「つまり、本来、人間にはわからない現実のディテールを完全に把握している存在が、世界中でひとりだけいる。それが「神」である。」(20p)
◎これは頂けない。カントのイデアも出てくる。「神」やイデアを持ち出さなければならないのだ。突き詰めたところに「神」「イデア」が……。
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バカの壁というのは、ある種、一元論に起因するという面があるわけです。バカにとっては、壁の内側だけが世界で、向こう側が見えない。向こう側が存在しているということすらわかっていなかったりする。
本書で度々、「人は変わる」ということを強調してきたものも、一元論を否定したいという意図からでした。今の一元論の根本には、「自分は変わらない」という根拠の無い思いこみがある。その前提に立たないと一元論には立てない。
なぜなら、自分自身が違う人になってしまうかもしれないと思ったら、絶対的な原理主義は主張できるはずがない。「君主は豹変す」ということは、一元論的宗教ではありえないことです。コロコロ変わる教祖は信頼されない。
(養老孟司著「バカの壁」新潮新書 149p)
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先に弁証法は、ものごとの運動・変化・発展の姿こそそのものごとの本来のあり方だと考え、重視する考え方だと述べてきました。しかし、このことについて反論や疑問があるかもしれません。たとえば、日本の自民党一党支配の政治はいっこうに変わらないではないか、日本資木主義の金もうけ主義のしくみもいっこうに変わらないではないか、世の中には大事なことでいっこうに変わらないことが多すぎるという疑問が出されるか
もしれません。
それはまことにもっともな疑問です。世の中のものごとはいつもただひたすら運動・変化しているわけではなくて、たしかに動かないもの・変化しないものがあることは認めなければなりません。政治や社会の問題でなくても、自然物であっても動かないもの・変化しないものはいくらでもありますね。
「動かざること山のごとし」という言葉があるように、山は動かぬものの代表のように考えられていますが、ところでここに問題があります。山は本当に動かないものだろうかということです。山は今日や明日、五年や十年はたしかに動きませんが、一万年や十万年あるいは百万年や一千万年先のことを考えてみると動かないとはいえませんね。
山は長い時間の単位をとると隆起や陥没を繰り返しており、あるいは風雨の浸蝕で形が変わっていっています。ヒマラヤ山脈も数千万年前は海中であったといわれており、山の上に貝の化石があるそうです。
山だけではなく日本列島自体が隆起や陥没を起こしていますし、最近の研究では大きな地球上の大陸が一年間に数センチという速度ですが、あれこれの方向に移動しつつあるということですね。日本附近でも太平洋プレートとかフィリピンプレートとかがぶつかりあい、プレートのもぐりこみが起こっており、それが大地震や火山噴火の原因だといわれています。このように考えてくると山もまた動くといわねばならぬことになります。
結局、これはどのように整理したらいいかというと、次のようになるでしょう。山もまた動くのであって、これがものごとの本来の姿です。しかしものごとは一時的あるいは条件的には動かぬこともある点も認めねばならぬということになります。つまり運動・変化・発展が本来であり、固定・不変・静止は一時的・条件的であるということです。
固定・静止が一時的とはどういうことかというと、山は長い目で見ていると結局は動くのですが、ある短い時間をとってみると一時的には動かないということです。たしかに山は五年や十年あるいは百年や二百年はほとんど動きませんね。
固定・静止が条件的であるというのはどういうことでしょうか。それは山は当分の間は地球の上にあるという条件のもとで(地球にたいしては)動きませんが、実はその地球は自転しながら太陽の周りを公転しているわけですから、太陽から見るという条件のもとでは、山も地球とともにとても大きなスピードで動いているわけです。つまり山は地球との関係では動いていないけれども、もっと大きな視野で考えると結局、山は動いている。このような意味だと考えられます。
先にあげた社会現象も同じことです。自民党一党支配の政治も、日本資本主義のあり方もここ数十年という短期的には顕著な変化はないといえましょう。しかし長い目でみると大きな変化の過程にあり、それ自体の内部の矛盾も年々大きくなりつつあります。
(鰺坂真著「哲学入門」学習の友社 143〜144p)
固定した考えでは、問題を解決する糸口も見つけることはできません。変化・運動しているという現実を直視してこそ、糸口が見えてきます。「バカの壁」が売れている現実を直視すると何が見えてくるのでしょう。そして「神」を持ち出すことで「落としどころ」が結局=c…なのです。