学習通信030930
◎この国では完全に社会戦争が勃発している。みんなが自分のことだけを考え、自分のためにほかのすべての人とたたかっている。
 
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 ●労働者の状態──特徴的なこと
 
 (雇用と失業の動向)
 
 まず、この九〇年代から今日まで労働力人口は若干増えましたが、自営業者と家族従業者が大幅に減少し、完全失業者が大幅に増大しています。
 
 とくに大企業が激しいリストラをやり、規模五〇〇人以上の企業で二一〇万人、三五%も雇用が減っています。さらに大企業では、正規社員を非正規労働者に置き換えていますし、現場労働者を生産請負会社の派遣に代替させています。ソニーなどは生産を分社化して別会社にし、過半数が生産請負会社でやる。トヨタでも同じです。
 
ですから非正規労働者に切り替えるだけではなく、まるごと委託してしまっています。厚生労働省の調査でも、「人員削減による士気の低下」五二%、「優秀な人材の流出」三三%という極めて深刻な問題が起きています。社内と下請けタタキによるコスト削減、リストラによって、大企業そのものも中小下請けの「現場の力」も崩壊してきている。
 
さらに日本企業が海外に生産を移転して地域経済が疲弊する。ものづくり、流通、商店街、地域経済の破壊が進む。雇用の受皿が失われ、日本の産業が自立していく基盤が失われているのが特徴です。
 
 パート・派遣・契約などの非正規労働者が急増していますが、パートの比率がいちばん高いのが、小売業、スーパーです。スーパーは七割がパートですが、さらにアルバイト・委託が増え、パート以下の労働条件、無権利状態の人たちがつくられています。
 
 重大な問題は、低賃金、過酷な労働が原因で、青年の転職率、離職率が高くなってきていることです。まともに働く場がないという状況です。しかも、労働法制が改悪されて、有期雇用三年、派遣労働自由化で、今後、不安定雇用労働者が急増することは必至です。相対的な過剰人口、不安定就業者の急増によって貧困層が拡大し、希望の喪失と技能・スキルの喪失が激しくなっていることは重大です。
 
 そういう状況を反映して、雇用と地域経済を守る共同が大きく広がっています。主なものだけ申し上げますと、日産とかNTTをはじめ大企業のリストラとたたかってきたこと。誘致企業の閉鎖・撤退や、大型店の出店・撤退に対する共同が広がって、自治体決議も一〇〇〇を超えていること。
 
とくに自治体や商工会議所が大企業に対して要請をするという大きな変化が生まれています。また、緊急地域雇用創出特別交付金を増額させることができました。自治体訪問をつづけるなかで、労働組合と雇用や地域経済の要求が一致してきています。そして、仕事おこしや地域経済振興条例の制定が全国で広がっています。
 
 (労働と賃金の動向)
 
 労働と賃金の動向です。パートが増えたために労働時間は若干減少しましたが、最大の特徴は、サービス残業が推計でも三〇〇時間を超えると言われています。トヨタに労基署が調査に入りました。
 
五六事業所で、普通勤務者で年間労働時間が平均二三四三時間、最高は三六五〇時間。時間外労働がフレックス勤務者で月平均七〇時間、最高二六六時間もあって、それがサービス残業ということで是正された。経常利益一兆五〇〇〇億円をあげたトヨタですが、このようなただ働きによって利益が生み出されているのです。
 
 変形労働時間制は六〇%、みなし労働も八%の労働者に適用される一方、有休取得率は五割を切るという状況です。こういう状況の下で、長時間労働や過重負担による過労死、過労自殺が増えています。二〇〇二年度では、過労による労災申請が八一九人で認定が一六四人、自殺(未遂を含む)が三四一人の申請で認定が一〇〇人となっています。
 
 賃金ですが、五年聞達続で減少しています。賃下げの悪循環が起きています。民間が賃下げし、マイナスの人事院勧告になり、また民間が賃下げをする連続的な賃下げが行われています。今年の春闘では、定昇見直しや廃止するという流れが強くなり、さらに大幅な賃下げが始まっています。
 
全国中小企業団体中央会の二〇〇二年調査では、賃上げは二六%しかなく、賃上げなし六二%、賃下げ一〇%となっています。中小企業では定昇のないところがほとんどですし、賃下げも約二万円という大きな額になっています。
 
 そして最低賃金は凍結。その最低賃金は生活保護基準を大幅に下回るという状況です。ここに最大の問題があります。パートの時給は最低賃金に張り付いているのですが、パートの時給は今平均で八九〇円です。こうして、先ほどのお話のように、年収二〇〇万円以下とか、最低賃金以下の労働者が増えている。
 
追い打ちをかけるように社会保障、年金、医療、福祉が削減され、高負担になるということで、生活の悪化が激しくなってきています。消費・内需は低迷し、景気悪化の悪循環が引き起こされているのです。
 
 さらにいま、政府と財界は 「世帯賃金から個人賃金へ」と賃金や税制を変えて、さらに賃下げを行おうとしています。そしてパートに対しては、社会保険料も取るし、税金も取るという大収奪を強める方向が出ていることは重大です。
(月刊:経済 2003年10月号 p22-23) 不況と関係ありや、年間自殺者2万9300人
 
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○自殺者の数は、2001年で2万9300人。
 
交通事故の死者が1万人近いのと比較すると、その3倍にのほることになる。
 自殺者の数というと、不景気やリストラ、失業といった、暗い世相と関係がありそうだが、その相関関係はわからない。1998年に年間の自殺者が3万1000人と過去最悪を記録して、3年連続して3万人台をつづけたけれど、2001年には900人あまり減少しているのだ。
 
 また、厚生労働省が2002年4〜9月までの半年間、過労による労災認定件数が急増していることを公表した。なかでも過労自殺が20件で、過去最悪の数字となっていた。ここでは「リストラの影響で、1人の仕事量が増えているのが一因」としている。2001年1年間で、労災とみとめられた自殺が31件だったから、2002年は確実に増えている。
 
 それにしても、自殺の原因となると様々だ。失業の不安からだったり、多重債務者だったり、病気が引きがねをひいたり、犯罪の容疑者とされたり…。厚生労働省ではこうした自殺者を深刻な問題として、「自殺防止対策有識者懇談会」 に検討を求めていた。この懇談会が出した提言によれば(2002年8月)、うつ病対策を国民、職場などに普及、啓発させていくとしている。自殺の防止のためには、早期発見、対応が重要で、そのためのマニュアルをつくり、産業医などと連携してあたるというのだ。約3万人の自殺者のなかには、中高年が増えているというから、失業率のアップなどが引きがねを引いているのかもしれない。(p66)
 
○痛ましい児童虐待2万3274件
 
 なんとも痛ましいことだけれど、児童虐待が増えている。2001年に全国の児童相談所が処理した児童虐待の件数は、前年より1・3倍も増えて2万3274件にのぼり、過去最多になっている。なかでも、殴る、蹴るなどの身体的虐待が46%をしめていた。
 
 厚生労働省のまとめによれば、1994年には1961件だったものが、年毎に増加、95年に2722件、96年に4102件、97年に5352件と急激な増え方をしている。それまで発見できなかった、といった理由もあるかもしれないが、子供を身体的に虐待したり、心理的に虐待する例が大幅に増えているのだ。
 
なかでも児童に対する性的虐待が、かなりな比率で発見されているのはショックだ。警視庁生活安全局が公表した数字では、こうした虐待が、刑事事件にまでなり、検挙された件数は189件、216人が逮捕されている。被害児童数は194人、死亡した児童の数は61名にのぼっている。加害者が母親、父親のような肉親であることが多いだけになんとも痛ましい。
 
 たとえば、2000年に愛知県内であった児童虐待事件では、3歳の女児が自宅でダンボールに閉じ込められて餓死。23歳の父親と母親が逮捕され、「未必の故意」が問われて殺人罪で起訴された。その後の裁判でも、殺人罪で母親、父親にそれぞれ懲役7年の判決が下されたのだった。
 
判決によれば、両被告は女児をみて「そろそろやばいんじゃないの」などと話しながら放置したという。育児放棄、怠慢に殺人罪が適用されたのは異例だった。親たちの人間的未熟さに原因があったとしても、こうした児童虐待がu増えつづけるのはおぞましい限りだ。(p75)
 
○自己破産21万件、多重債務者は急増中
 
 個人の自己破産が急増している。2001年は16万件だったが、2002年には20万件を突破して、24万件あまりに上るという。借金でクビの回らなくなった多重債務者がふえているからだ。
 
 もともと、破産は借り手である債務者が、借金・債務を支払えなくなった時に、自分の財産を貸し手である債権者に公平に配分するための手続きのこと。債務者自身が裁判所にその手続きを申し立てて、破産手続きをする場合を自己破産という。
 
 この自己破産はバブル崩壊後から、すこしづつ増えはじめた。当初は独身女性などの若者のケースが多かったけれど、景気低迷がつづくようになって、中高年の男性や一家の主などが多くなっているという。消費者金融の金利は下がったものの、090金融などの闇金融が蚊屈して、多重債務者が急増している。トイチ、トサンなどという超高利の業者が暗躍しているのだ。
 
 さて、その自己破産はふつう専門の弁護士に依頼する。そして弁護士に代理で裁判所に申請してもらう仕組みで、以前より短期間に破産手続きができるようになったという。その結果、破産宣告がされ、免責決定がされると、それまで支払えなかった債務、借金が免除される。
 
 最近では、この自己破産を専門にあつかう弁護士が増えていて、大忙しだという。30万円程度の費用はかかるが、何百万、何千万の借金から開放されれば、債務者も生き返る思いだろう。もちろん、自己破産すると、あらたなローンを組めないなどの制限はあるが、これは当然だ。(p125)
(青木まもる著「数字が語るニッポンの「素顔」」恒友出版)
 
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 これらの事実は、実際、すべての人びとに、ブルジョアにさ、え、こういう状態の結果について熟考させ、反省させるのに、十分すぎるほどである。
 
もし、さらに二〇年間、堕落と犯罪が同じ割合で増加するとするなら──もしこの二〇年間にイギリスの工業がこれまでほどの成功をおさめなければ、犯罪の増加はもっと速まるに違いない──その結果はどうなるであろうか。われわれはすでに社会が完全に解体しつつあるのを見ている。
 
どんな新聞を手にとってみても、きわめてはっきりとした事実のうちに、あらゆる社会のつながりがゆるんできていることを、読みとらないわけにはいかない。目の前にあるイギリスの新聞のなかから、手あたりしだいにとりだしてみよう。
 
『マンチェスター・ガーディアン』紙(一八四四年一〇月三〇日付)は三日間のことを報道しているが、マンチェスターについて正確な報道をするという努力をせずに、興味本位の報道、たとえばある工場では労働者がもっと高い賃金をえようとしてストライキをやったが、治安判事によってふたたび就業するように強制されたとか、ソールフォードでは二、三人の少年が泥棒をしたとか、破産したある商人が債権者をだまそうとしたとか、そういう報道しかしていない。
 
周辺地域からの報道はもっと詳しい。アシュトンでは窃盗罪が二件、強盗が一件、自殺が一件、ペリでは窃盗が一件、ボールトンでは窃盗が二件、消費税の脱税が一件、リーでは窃盗が一件、オールダムでは賃上げストライキが一件、窃盗が一件、アイルランド人女性のけんかが一件、労働組合に加入していない帽子職人にたいする組合員による暴行が一件、息子による母親殴打が一件、ロッテデールではけんかが数件、警官襲撃が一件、聖遺物窃盗が一件、ストックポートでは賃金についての労働者の不満と窃盗が一件、詐欺一件、けんか、妻にたいする夫の暴力が一件、ウォリントンでは窃盗が一件とけんかが一件、ウィガンでは窃盗が一件と聖遺物窃盗が一件あった。
 
ロンドンの新聞の報道はもっとひどい。詐欺、窃盗、強盗、家庭内の争いが目白おしにならんでいる。ちょうど『タイムズ』紙(一八四四年九月一二日付)が手にはいった。これは一日の出来事だけを報道しているのだが、窃盗一件、警官襲撃一件、私生児の父にたいする養育費支払いを命ずる判決が一件、両親による子どもの遺棄と妻による夫の毒殺を報道している。
 
同じようなことはイギリスのすべての新聞で見られる。この国では完全に社会戦争が勃発している。みんなが自分のことだけを考え、自分のためにほかのすべての人とたたかっている。公然と自分に敵対している他人すべてに、害を加えるかどうかは、自分にとってなにがもっとも有利かという利己的な計算だけできめられる。
 
平和的な方法で隣人と理解しあおうとすることは、もう誰も考えていない。意見の違いはすべて、脅迫、自己防衛、あるいは裁判によって解決される。ようするに、誰もが他人を排除すべき敵と見るか、あるいはせいぜい、自分の目的に利用する手段と見ているのである。
 
そしてこの戦争は、犯罪表がしめしているように、年々ますますはげしくなり、激情的になって、和解しがたくなっている。敵対的関係はしだいにたがいに争いあう二大陣営に、すなわち、一方はブルジョアジー、他方はプロレタリアートに、分裂する。
 
すべての人とすべての人とのこの戦争、ブルジョアジーにたいするプロレタリアートのこの戦争は、なにもおどろくべきことではない。なぜなら、それは、すでに自由競争のなかにふくまれていた原理がおしすすめられた結果にすぎないのだから。
 
むしろおどろくべきことは、ブルジョアジーが、彼らにむかって毎日毎日鳴りひびく雷雲がおしよせているのに、平静に、落ちついていられるということである。
 
彼らは毎日これらの出来事を新聞で読んでいながら、社会状態について憤激しないまでも、その結果にたいする恐怖や、犯罪という形で個々にあらわれているものが全般的に爆発することへの恐怖を、感じていないのだ。しかしそれこそブルジョアジーなのであって、彼らの立場からは事実も見えず、ましてそこから生ずる結果は見えないのである。
 
ただ驚嘆すべきことは、階級的偏見や、たたきこまれた先入観とが、人間の一つの階級全体を、これほどひどく、狂気の沙汰といいたいほど、盲目にできるのか、ということである。
 
しかし、ブルジョアジーが見る目を持つか、持たないかにかかわりなく、国民の発展はその道をすすんでいくのであって、ある晴れた朝、有産階級は彼らの知恵では夢にも思わなかったことがおこって、びっくりすることであろう。
(エンゲルス著「イギリスにおける労働者階級の状態-上-」新日本出版 p199-201)
 
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◎無関心でいれば、どういう状態をおいやられるのか。具体的にとらえて仲間にひろげよう。
 
◎「ある晴れた朝、有産階級は彼らの知恵では夢にも思わなかったことがおこって、びっくりすることであろう」と。