学習通信040216
◎いまはやりの賃金攻撃を見るようです。
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これでもまだ、鉱山の人びとにふりかかる苦しみのすべてではない。ブルジョアジーはこれらの人びとの健康を害し、生命を絶えず危険にさらし、教育の機会をすべて奪って、それでもなお満足せず、さらにもっとも恥知らずな方法で彼らを搾取するのである。
現物給与制はここでは例外ではなく、ふつうのことであり、もっとも露骨に、もっとも直接的な方法でおこなわれている。小屋制度も同じように一般的であり、ここではたいてい必要なものであるが、しかしここではまた、労働者をいっそう上手に搾取するためにも用いられている。
そのほかにもさまざまなごまかしの方法がある。石炭は目方で売られるが、労働者にたいしては、たいてい一箱いくらで賃金が計算される。そして箱を完全に一杯にしていなければ、賃金はまったくもらえないが、超過した分については一銭ももらえない。
もし箱の中に一定量以上の粉炭がはいっていると、これは労働者のせいというよりも炭層の状態のためであるのに、賃金全部が没収されるだけでなく、罰金までかけられる。
鉱山では一般に罰金制度がたいへん発達していて、ときには、まる一週間働いて、自分の賃金をうけとりにいくと、監督から──監督はまったく勝手に罰金をかけ、労働者を呼びだしもしないので──お前は賃金をもらえると思うな、それどころか、これこれの罰金を払いもどせ、といわれるあわれなやつもいる! 監督は一般に賃金については絶対的な権限をもっており、おこなわれた仕事の量を記録し、労働者にたいして思いのままに賃金を払うのだが、労働者は監督を信用せざるをえないのである。
賃金を石炭の目方に応じて支払っているいくつかの鉱山では、ごまかしのある十進法天秤が使われていて、その分銅は役所の検査をうける必要がないのである。
ある鉱山では、不正なはかりについて訴えたい労働者はすべて、三週間前に監督にそのことを届けなければならないという規則さえあった! 多くの地方、とくに北部イングランドでは、労働者は一年契約で雇用されるという慣習がある。
その期間中、労働者はほかで働かないという義務を負うが、鉱山所有者は労働者に仕事を与えるという義務をまったく負わず、そのため労働者はしばしば何ヵ月も失業することがあり、そのため、ほかで仕事をさがすと、職務怠慢として六週間の踏み車の刑を科せられるのである。
別の契約では、人びとに一四日ごとに二六シリングまでの仕事が保証はされているが、しかし実際には与えられていない。
ほかの地方では鉱山所有者は労働者にあとで返済するという約束でわずかな金を貸してやり、それで彼らをしばるのである。北部では、労働者をしばりつけておくために、いつも賃金を一週間遅れで支払うのが、一般的な慣習である。
そしてこのように隷属させられている労働者の奴隷状態を完全に仕上げるために、炭鉱地帯の治安判事はほとんどすべて、鉱山所有者自身であるか、またはその親戚や友人で、ほとんど新開もないような──あったとしてもそれも支配階級に奉仕している──、また政治的な煽動もほとんどないような、文明化の遅れた貧しい地域で、ほとんど無制限の権力を握っている。
これらの貧しい鉱山労働者が、自分の訴訟事件に自分で判決をくだす治安判事によって、どんなに搾取され、しいたげられているかは、ほとんど想像もできないくらいである。
長いあいだ、こういう状態がつづいていた。労働者は、死ぬほど酷使されるために生きていく以外に、もっとましな生き方を知らなかった。
しかし、徐々に彼らのあいだにも、とくに工場地帯で知的レベルの高い工場労働者と接触してその影響をどうしてもうけるようになったところでは、「石炭王」の恥知らずな抑圧にたいする反抗の精神があらわれてきた。彼らは組合をつくり、ときどきストライキをするようになった。
比較的すすんだ地方では、彼らは身も心もチャーテイストにうちこむようにさえなった。
しかし、イングランド北部の大炭鉱地帯は、工業との交流がいっさいなかったので、やはり遅れていたが、ついに一八四三年に、一部はチャーテイストたちの、一部は知的レベルの高い炭鉱夫自身の、多くのこころみと努力によって、ここでもまたひろく抵抗の精神が目ざめた。
ノーサンバランドとグラムの労働者がこの運動にかかわり、全国の鉱山労働者の全体的な組織の先頭に立ち、すでにそれ以前のチャーテイスト裁判で注目されていたブリストルの弁護士W・P・ロバーツを、自分たちの「検察長官」に任命した。
この「組合」は間もなく大多数の地方にひろがった。いたるところで代議員を任命し、集会をひらき、組合員を募集した。一八四四年一月のマンチェスターにおける第一回代表者会議のときに、組合員は六万人をこえ、半年後のグラスゴウの第二回代表者会議のときには、すでに一〇万人をこえた。
この会議で鉱山労働者のあらゆる問題が討議され、より大規模なストライキについての決議がおこなわれた。いくつかの雑誌、とくにニューカスル・アポン・タインで月刊誌『マイナーズ・アドヴォケート』が創刊され、それによって鉱山労働者の権利を主張した。
一八四四年三月三一日にノーサンバランドとグラムの炭鉱労働者全体の雇用契約が満期となった。彼らはロバーツに新しい契約を起草してもらった。そこで彼らは次のように要求した。
(一)箱単位ではなく重量によって支払うこと、(二)重量は国の検査官が検査したふつうの天秤と分銅ではかること、(三)雇用期間を半年とすること、(四)罰金制度を廃止し、実際の労働量に応じて支払うこと、(五)鉱山所有者にたいし、もっぱらそこで働いている労働者には少なくとも週四日は仕事につかせるか、あるいは四日分の賃金を保証するよう義務づけること。
この契約は石炭王たちのところへ送られ、彼らと交渉するための代表団が任命された。しかし彼らは、われわれにとっては「組合」は存在しないし、個々の労働者とだけは交渉するが、組合はけっしてみとめないと答えた。
また彼らは別の契約を提出したが、これは以上の項目をまったく無視したもので、当然、労働者たちはこれを拒否した。こうして宣戦が布告された。一八四四年三月三一日、四万人の鉱夫はつるはしを放棄し、両州の全炭鉱はからっぽになった。
組合の基金はかなり豊富だったので、数カ月にわたってすべての家族に週二シリング半の救援金を保証することができた。
このように雇主たちがどのぐらいもちこたえられるかを労働者がためしているあいだに、ロバーツはくらべるものもないほど根気よく、ストライキと煽動を組織し、集会をひらかせ、イギリス全土を駆けまわり、ストライキ中の労働者のために救援金をあつめ、平静さをたもち法律を守るようにと説き、同時に、専制的な治安判事と現物給与をつづけている雇主にたいして、イギリス史上空前のたたかいをくりひろげた。
彼はすでにこの年のはじめにたたかいをはじめていた。
鉱夫の誰かが治安判事から有罪の判決をうけると、彼は女王座裁判所で人身保護令状を入手し、訴訟をおこした人をロンドンへつれていって、いつも無罪判決をかちとった。
たとえば女王座裁判所のウィリアムズ判事は一月一三日に、ビルストン(南スタフォードシァ)の治安判事によって有罪判決をうけた三人の鉱夫を釈放した。
これらの鉱夫の犯罪というのは、落盤の恐れがあるところで働くことを拒否したというものであった。
そこは彼らが帰る前に実際に落盤してしまったのだ! それ以前のときにも、パティソン判事は六人の労働者を釈放しており、こうしてロバーツという名前は、鉱山を所有している治安判事たちに、しだいに恐れられはじめていた。
プレストンにも同じく彼に訴訟を依頼した人が刑務所に四人いた。彼はこの事件を現地で調査するために二月の第一週に出発したが、彼が到着してみると、有罪判決をうけた人たちは刑期満了以前にすでに釈放されているのが分かった。マンチェスターでは七人が刑務所にいた。
ロバーツは人身保護令状を手にいれ、ワイトマン判事から完全な無罪判決をかちとった。プレスコットでは九人の鉱夫が入獄していた。彼らはセント・ヘレンズ(南ランカシァ)で騒動をおこしたという表向きの理由で有罪とされ、判決を待っているところであったが、ロバーツがやってくるとすぐに釈放された。
これらのことはすべて、二月の前半のことである。四月にロバーツは同じやり方でダービーの刑務所から一人、ウエータフィールド(ヨークシァ)から四人、レスターから四人の鉱夫を釈放させた。こういう状態がしばらくつづき、シェイクスピアの『からさわぎ』のなかの有名な人物の名をとって「ドッグベリたち」と呼ばれていたこういう治安判事たちも、すこしおとなしくなった。
現物給与制度についても同じようなことがおこった。ロバーツはこれらの恥知らずの鉱山所有者を次つぎと法廷へひっぱりだし、いやがる治安判事を強制して、彼らに不利な判決をださせた。
この検察長官は風のように飛びまわり、同時にいたるところにあらわれるように思われたので、鉱山所有者たちのあいだには彼にたいする恐怖感がひろがり、たとえばダービー近郊のベルパーでは、現物給与制度をとっていたある会社は、ロバーツがやってきたとき、次のような掲示をださせた。
「告示。ペントリッチ炭鉱」
「ハズラム社は(あらゆる誤解を避けるために)、この炭鉱で働いているすべての人びとは、賃金全額を現金で支払われ、各人が望む場所で望むとおりに、それを使うことができるということを、公示する必要があると考える。
──彼らはハズラム社の店で商品を買うときには、従来どおり、卸値で買うことができるが、そこで買うように期待されているわけではない。その店で買おうと、ほかのどこかの店で買おうと、彼らには同じ仕事と同じ賃金が与えられるであろう」。
(エンゲルス著「イギリスにおける労働者階級の状態 -下-」97-100)
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Cくん──
私はパソコンショップQで働いています。先日店の近くにパソコンショップZが開店しました。Zはオープン記念セールなとを実施しておりそのためにQの今月の売上げは著しく落ちたそうです。経営者は大変だろうなとは思っていましたが、私たちアルバイトにはあまり関係のないことだと思っていました。
ところが、今月の給料がどう考えても少ないのです。事情を確かめようとしたら、あっさり謝って「これで我慢してくれ」と店に置いてあるプリンタをくれました。
それは三万円程度するまずまずの性能のもので給料の不足分は一万円くらいですから、それは良いのですけれど、プリンタを持っている私には、もう一台あっても仕方ないのです。現金で払ってほしいのですが、とうすればいいですか?
経営者の方はどのような説明をしたのですか。
Cくん──ひたすら謝る一方です。「今月は売上げがまったくなくて、給料を払える状況じゃないから、今月だけは我慢してくれ」とだけしか言われていません。
そうですか。いずれにしても、その経営者の行為は違法ですね。あなたの場合のように賃金が現物で支払われたり、あるいは全額支払われなかったりすると、労働者の生活の安定が確保できませんから、労働基準法二四条では、使用者の賃金の支払方法について次の四つの原則を定めています。
@通貨払いの原則、A直接払いの原則、B全額払いの原則、C毎月一回定期払いの原則です。お話を聞く限りでは、あなたの場合、@とBの原則に違反していますね。
Cくん──その「通貨払いの原則」と「全額払いの原則」とは何ですか?
まず、通貨払いの原則から話しましょう。「賃金は通貨で支払わなければならない」というもので、この「通貨」とは、難しい言葉になりますが、法定通貨である貨幣法上の貨幣、紙幣、銀行券をいいます。要するに、現金で払えということです。
賃金を品物などでもらっても、品物はまず金銭的評価が難しい場合があるし、あなたの場合のように、店頭価格ははっきりしていても、買い手が見つかるかどうかは判らない、誰がいつ買ってくれるかは判らないですから、結局、実質的には賃金を引下げられたのと同様な結果になりかねない。
そういう弊害を招く恐れが大きいので、この弊害を防止して賃金を労働者の手に確実に渡すために、この通貨払いの原則が定められたわけです。通貨による賃金支払いを義務づけ、現物給与を禁じているのですよ。
Cくん──なるほど、そうなんですね。
ただ、例外もありましてね。公益上の必要がある場合や労働者の不利益にならない場合は例外が認められます。二四条は、@法令に別段の定めがある場合、A労働協約に別段の定めがある場合、B銀行口座への振込みのような確実な方法による場合の三つを定めています。
そのうちAは、労働組合が使用者との間で合意した内容を文書にしたものを労働協約というのですが、その労働協約によってその支給が定められたものをいいます。労働組合が組合内部でも充分討議して現物の内容などを検討した上で使用者と合意したものなので、労働者の利益が不当に侵害されることも、また違法な現物給与が定められることもない、つまり弊害の発生する恐れがないと考えられて認められているわけです。
@Aの場合は、通貨以外のものによる賃金の支払いが認められ、現物給与や住宅供与の利益による賃金の支払いも可能ですが、労働協約による場合は、その評価額も労使間であらかじめ定めておかなくてはいけません。これは労基法施行規則二条二項に定められています。あなたのパソコンショップQには、労働組合が締結したそのような労働協約はありますか?
Cくん──そのような話は一度も聞いたことがありません。
話の経過からも推測していたことですが、それではやはり、あなたの場合の現物給与は違法ですね。
Cくん──そうですか。一つ聞きたいのですが、今では銀行口座振込みが当たり前のことのように思えるのですが、それも例外と言ってましたけど、詳しく教えてくれませんか?
労基法施行規則七条の二で、@労働者の同意を得ること、Aその労働者が指定する銀行その他の金融機関の当該労働者名義の預金または貯金口座へ振り込まれること、の要件を充たす場合には、賃金の銀行口座振込みが適法であるとしています。そのような振込みであれば、賃金が確実に労働者の手に入るという理由なのでしょう。
それでも住居の近くや通勤の経路に銀行のATM機がないとか、ATM機の故障で現金引き出しができないといったトラブルもあるので、労働者の同意を必要としているわけです。したがって、この「労働者の同意」とは個々の労働者の同意という意味です。
労働者の過半数を代表する者や労働組合の同意があるからといって、労働者全員に対して銀行口座振込みを実施することができるというわけではありません。
Cくん──もう一つの、全額払いの原則というのは当然のことのようですが、何か特別な意味があるのでしょうか。
全額払いの原則は、使用者は支払い時期にある賃金の全額を労働者に支払わなければならないことを定めるものです。使用者が賃金の一部を控除することを禁止し、賃金が確実に労働者の手に渡るようにするためのものです。労働者の借金などの債務と使用者の賃金支払い債務を相殺することはできない。分かりやすく言うと、使用者は支払うべき賃金の中から労働者に貸している金の返済分を勝手に差し引いたりできないということです。
ただし、所得税、社会保険料の労働者負担のように公益上控除する必要があり、法令に別段の定めがあるものについては、例外が認められています。また、社宅の賃料や社内割引を利用した物品購入代金などのように、控除を認めることが手続きの簡素化になりうるものについては、労働者の過半数を代表するもの、過半数の労働者を組織する労働組合があればその労働組合、ない場合は選挙で選んだ代表者と使用者との書面による協定がある場合に例外が認められます。
結論を言えば、あなたの場合は通貨で支払われていないことは通貨払いの原則に、給料の全額をもらっていないことは全額払いの原則に、それぞれ違反していることになりますね。
Cくん──経営者が法律違反をしているのは分かったのですが、では、どうすれば現金で全額をもらえるのでしょうか?
まずは経営者と話しあってみてください。それでも支払ってもらえないようでしたら、労働基準監督署に行って申告すれば監督官が調査、指導してくれるでしょう。この労基法二四条は罰則規定付きですので、店側も罰金を支払うのはいやでしょうから、監督官の指導なり勧告があれば、賃金を支払ってくれると思いますよ。
Cくん──そうですか。さっそく経営者と話しあってみます。ほんとうにありがとうございました。
(萬井隆令著「バイト・フリーター110番」かもがわブックレット p6-9)
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◎出来高、業績、現物給与制、小屋制度……。
「告示。ペントリッチ炭鉱」
「ハズラム社は(あらゆる誤解を避けるために)、この炭鉱で働いているすべての人びとは、賃金全額を現金で支払われ、各人が望む場所で望むとおりに、それを使うことができるということを、公示する必要があると考える。
──彼らはハズラム社の店で商品を買うときには、従来どおり、卸値で買うことができるが、そこで買うように期待されているわけではない。その店で買おうと、ほかのどこかの店で買おうと、彼らには同じ仕事と同じ賃金が与えられるであろう」。
日本の労働者に告示されても十分通用するかもしれない1840年代……。