学習通信041021
◎「労資協調主義組合を育成し、取り込むために使ってきた」……。

■━━━━━

春闘 労働組合運動の新たな転機

はじめに

 多国籍企業化の推進と高利潤体制の構築という財界戦略にもとづくリストラ攻撃は、労働者の状態をこれまでになく悪化させています。完全失業率5%前後、失業者三百万人台という深刻な事態が四年も続いています。現金給与総額は三年連続マイナス、勤労者世帯の消費支出は六年連続のマイナスです。

 リストラによる労働者構成のゆがみと成果主義賃金による競争の激化が、なかでも三十代男性労働者にしわよせされ、この層のほぼ半数が週四十九時間以上働き、四分の一が六十時間以上(土曜も含めて毎日十時間以上)も働いています。うつ病、過労死・過労自殺、さらには「少子化」の原因としても社会問題になりつつあります。

 財界戦略と小泉「構造改革」による中小企業の倒産も、昨年一年間で一万六千二百五十五件という深刻さです。重要なことは、近年、中小企業の絶対数が減少していることです。

 今年の三月期決算では上場企業の二割が過去最高益を記録すると見られていますが、急速な「V字型回復」を遂げても首切り・賃下げ攻撃の手を緩めようとしません。

 大企業の雇用・労務管理が、リストラを利潤拡大の主要な手段にするという新たな段階に入っているからです。そのため労働組合運動も新たな転機をむかえています。

一 「パイの理論」の破たんと労働組合運動

1、「パイの理論」の破たん

 人減らしと不安定雇用への置き換え、定昇廃止と成果主義賃金の導入というリストラ攻撃は、財界・大企業と労資協調主義組合によるイデオロギー攻撃の主柱であった「パイの理論」が破たんしたことを示しています。
 「パイの理論」とは、賃金は生計費ではなく「生産の分け前」だからパイすなわち生産自体を大きくしなければならないというもので、「生産性向上」に協力させながら、わずかの「分け前」の範囲に賃上げを抑制しようとするものでした。いまでは、年金・社会保障費の企業負担分もふくむ総額人件費の削減が、企業収益改善・利潤創出の最大の柱と位置づけられ、わずかの「分け前」すらださなくしようとしています。

 製造大企業六百三十六社の九月中間決算では、売上高は2・1%の伸びにとどまっているのに、営業利益は13・1%、経常利益は22・0%も伸びています。売り上げの伸びはもっぱら輸出によるものですが、それを上回る営業利益の伸びは、「リストラ効果」すなわち下請けいじめと人件費削減によるものです。

 全労連の分析によれば、巨大企業二十社の内部留保(ため込み利益)は、二〇〇二年の二十五兆八千百五億円から〇三年の二十七兆九千五百十八億円へと二兆千四百十三億円も増加したのに対し、従業員数は五十七万七千二百五十人から五十三万六千七百三人へと四万五百四十七人も減っています。

 財界・大企業が労資協調主義組合を育成し、取り込むために使ってきた「パイの理論」が破たんし、それに代えて導入してきている成果主義によるイデオロギー攻撃も矛盾をあらわにしているもとで、いま、日本の労働組合運動は新たな転機にたっています。

 一つは、イデオロギー攻撃の破たんを労働組合の新たな「変質」によってとりつくろおうとする動きです。もう一つは、労働組合運動の原点があらためて問われる事態が広がり、労働組合運動前進の条件が成熟しつつあることです。

2、労働組合への新たな「変質」策動とその矛盾

 「パイの理論」も投げ捨てた財界戦略によるリストラ、雇用・労務管理の新たな展開と強化が、労働者の抵抗を増大させることは明らかです。
 そこで財界・大企業は、労働組合への新たな「変質」策動によってそれを抑えつけようとしています。
 一つは、多様な形態の不安定雇用労働者を労働組合によって管理させようとするものです。

 「就労形態の多様化により、長期勤続を前提とせず、企業への帰属度の高くない従業員の比率が高まるなかで、企業内の新たな労使関係のあり方も労使で模索されなければならない」(日本経団連「経労委報告」)。「労働組合は、経営側の幅広い提案を受け、多様化する職場の意見を集約し、それをもとに労使の話し合いによって決定し、実行に移していくという本来の役割に徹するべきである」(日本経団連「新ビジョン」)。労資協調主義的労働組合を労務管理機構へと「変質」させる動きです。

 もう一つは、さらにすすんで労働組合を生産活動の補完物へと「変質」させる動きです。

 「今後は、個別企業が生き残りをかけ、労使一体となって生産性向上に取り組む」(「経労委報告」)。「全ての従業員が生きがいを持って働き、充足感を味わえる企業を実現するためには、労働組合も変革を迫られる」(「新ビジョン」)。つまり労働組合は、労働条件と権利の守り手でなく、働き方の面で職場のまとめ役になれというのです。

 すでにトヨタ労組は、賃金をはじめとする「基本的労働条件の向上」を求める方向から、「働きがい・やりがい」を高める方向に活動を転換する方針を決めています。これは労働組合がQC(品質管理)など小集団活動の主体になる道です。

 こうした方向は、必然的に、財界が主張する「春闘」の終えんと、企業の競争力強化の方策を討議・検討する「春討」「春季労使協議」への転換と結びつきます。団交権の否認、労働組合の否認です。

 しかし、この策動も、搾取と抑圧の強化による労働者の状態の悪化、労働者の抵抗の増大、企業活動の阻害という矛盾を拡大するだけです。小集団活動など「職場活動の強化」(トヨタ労組)を重視すればするほど、職場から「労働者のための労働組合を」求める新たなたたかいに結びつく条件が生まれます。

 トヨタでは、技能職に成果主義をもちこむ新賃金体系で一般職の年功的昇給を三十八歳までに抑えようとしましたが、労働組合との交渉で四十八歳までとなりました。職場の労働者の抵抗の反映です。典型的な労資協調主義組合である金属労協のある幹部は「集団でものをつくりあげる製造現場に、人の失敗を喜ぶような成果主義を持ち込んでもうまくいくものか」といっています。

 「変質」策動も、職場では大きな矛盾と弱点をもっています。

 いま問われているのは、団結して労働者の生活と権利を守るという労働組合存立の原点です。

 組合員の要求や意見が反映する労働組合をとりもどすため、〇四春闘のなかで職場から組合民主主義を確立していくことが「要」になっています。組合民主主義、それは労働組合の「命」ともいうべきものです。
(2004年2月13日(金)「しんぶん赤旗」)

■━━━━━

 われわれは、今日の職場活動でぶつかるさまざまな困難の一部は、強行的な資本蓄積の過程そのものによってつくりだされることをあきらかにし、その蓄積の進行自体は、それらの諸困難を克服する前提を、不可避的につくりだしていることを見とどけてきた。

 そこで今度は、労働者の合法則的、必然的な決起のまえにたちふさがる、労働組合主義の諸潮流、とくに、現代の右翼日和見主義潮流の核心をなす、会社派幹部と、付随的には「左翼」的冒険主義の「組織と戦術」を、どのようにして克服するかを問題にしなければならない。この克服こそ、労働者階級の、職場におけるたたかうための結集=階級的結集と、戦術展開にとって、決定的な問題なのである。

(1)政策的同一性は日和見主義の破綻を約束する

 まず第一に政策的同一性。
 われわれがすでに見てきたように、資本蓄積の進行は、資本の利害と労働者の利害の対立をますますふかめ、だれの目にもあきらかなものとして、その姿をあらわにするのだが、このような過程が進行するなかで、右翼日和見主義は、独占資本の政策との合体化を強めているのだから、結局のところ、右翼日和見主義的指導部は、大衆のさしせまった切実な要求から、ますますとおざかっていくほかはないのである。

そして、この点に、労働組合を現に弱体化させているこのような指導が、大衆の利益との不一致をあきらかにするようになる、という点に、われわれのやり方次第では、労働組合を大衆的に強化することができるような、現実的な可能性がふくまれる。

たとえば、右翼日和見主義の看板政策ともいうべき長期賃金計画をとってみても、それが実際に、長期にわたって労働者を引きつけるということは、まずもってできない相談だと考えてよい。

前出のJC系労働組合の労働者は、春闘にあたって、会社派幹部が「長賃、良賃」と自画自賛するのに反発し、「だけど、その後の物価の上り方はムチャクチゃだ。計画、計画っていうけれど、それにあまりこだわらないで、生活実態から、これだけはいるんだという要求にしたらどうですか」などとくいついている。これはまさに、右翼日和見主義の無力化をあらわしている。右翼日和見主義は、強化されるにしたがって無力化の道をあゆむ、というわけである。

 それだけではない。右翼日和見主義の政策が進行していく過程では、会社派幹部の社会的基盤をなしている、わが国で生まれたばかりの、ホヤホヤの「労働貴族」までが、大衆的に広範に動揺するのである。

つまり、独占資本は、せっかくの苦心の作である労働者の階層分割を、みずからの手でくずしてしまうほどの強い蓄積衝動に駆りたてられており、右翼日和見主義も、この独占資本とむすびついているかぎり、自分自身の社会的基礎との対立をふかめてしまうのである。

鉄鋼産業労働者に強要されている四直三交代制度には、八幡製鉄の例で見ると、残業収入の減少で最大の打撃をうけるのは、工長クラスであると言われており、この層をふくめて広範な労働者が収入の低下に不満をもったのである。これが一つの要因ともなって労働組合本部も簡単に妥結するわけにはいかなかったということである。

こうしたことが原因になって、新日本製鉄労働組合が結成される際に、各地方支部の右派幹部のなかには、企業連単一化に不満をもち、連合体にすることをのぞむ者もでていると言われている。その主要な言い分は「本部の言うとおりには地方の仲間をまるくおさめるわけにはいかない」というわけだ。
(吉井清文「職場の団結を基礎とする闘争組織と戦術展開の諸問題」『労働組合運動の理論』第6巻 大月書店1970年発行 p102-104)

〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓
◎「独占資本は、せっかくの苦心の作である労働者の階層分割を、みずからの手でくずしてしまうほどの強い蓄積衝動に駆りたてられて」……新しい転機……条件が目の前にある。

ただもんだい≠ネのは自然成長的にわれわれに転げ込んではこないことなのだ。