学習通信050428
◎「世界でも例のない事態」……。

■━━━━━

1952年4月28日
サンフランシスコ講和条約が発効した。

 前年九月に調印された講和条約がこの日発効して、占領時代が終りを告げた。しかし多くの国民は独立を心から祝う気分にもなれず、街はひっそりとしていた。というのも、占領軍総司令部の看板が在日米軍司令部とかえられただけで、アメリカ軍の基地は安保条約によってそのまま残されたから、独立の実感がわかなかったのである。またこの条約には、中華人民共和国・ソ連・インドの不参加や、アメリカによる沖縄・小笠原の統治と、日本の領土である千島列島の放棄が決められていたことなども、国民に不安感をあたえた。
(永原慶二著「カレンダー日本史」岩波ジュニア新書 p67)

■━━━━━

米軍再編のなか、きょう
日米安保53周年

 鋭い眼光で威嚇する憲兵、張り巡らされた鉄条網と監視カメラ、「立ち入り禁止 日本国法律により罰せられる」と書かれた看板……。外側から垣間見ることのできる在日米軍基地の風景です。
「米軍再編」で揺れる中、この風景の出発点であるサンフランシスコ条約・旧日米安保条約発効から二十八日で五十三年目を迎えます。(竹下岳)

占領の継続
「異常」と元自衛隊幹部

 「戦後六十年も外国軍隊がいることは異常なことなんだ」。自衛隊元幹部がこう明かします。
 日本には、主権の及ばない米軍基地がいまだ八十八ヵ所(総面積三万一千二百十九ヘクタール)あり、米兵五万八千人(米海軍第七艦隊合む)が駐留しています。「米国が海外に(部隊を)派遣している国の中ではイラクを除いては一番多い数」(在日米軍司令部)です。

 首都圏に広大な基地があり、人口密集地で米軍機が爆音公害をもたらしているのは世界でも例のない事態です。沖縄では本島の約二割の面積を米軍基地が占め、昨年のヘリ墜落など事件・事故が絶えません。

 サンフランシスコ条約は、米軍が住民から士地を取り上げ強大な軍事基地の島にした沖縄を日本本士と分離。本士にも外国軍の駐留を認めました。さらに旧安保条約で米軍が占領中につくった基地を確保し、自由使用を可能にしたのです。まさに占領の継続です。

 米軍に基地として提供する地域を限定しない「全士基地方式」と呼ばれるもので、これは現行の安保条約にも引き継がれています。

共同基地化
25年で7倍近くに増加

 自衛隊基地の米軍基地化も進みました。
 日米地位協定二条4項bに基づいて米軍が使用する自衛隊などの基地は一九八〇年には七ヵ所(総面積一万四千八百七十四ヘクタール)でしたが、二〇〇五年には四十七ヵ所(同六万九千九百十七ヘクタール)に増加。米軍基地と合わせれば全部で百三十五ヵ所にのぼります。

 沖縄の海兵砲兵部隊による155_りゅう弾砲実弾演習の移転先となった陸上自衛隊の東富士・北富士(静岡、山梨)、矢口別(北海道)、王城寺原(宮城)、日出生台(大分)の各演習場では、宿舎など米軍専用施設も建設されています。

米戦略拠点
日米同盟の侵略強化

 米国はソ連崩壊後、欧州の米兵数を劇的に減らしました。現在進めている米軍再編ではさらに、約四万人の部隊を米本国に引き揚げる方針です。
 ところが日本では、ソ連崩壊後も兵力数を基本的に維持した上、@米軍と自衛隊のいっそうの一体化A米軍基地の司令部機能、機動性の強化──が進められようとしています。
 イフク戦争のような米国の先制攻撃の戦争に米軍と自衛隊が共同で世界のどこへでも参戦していく態勢づくり=「日米同盟」の侵略的な強化が狙いです。

 具体的には、米軍と自衛隊との基地の共同使用の拡大、演習と運用の一体化を推進。キャンプ座間での米陸軍戦闘司令部の新設、横須賀への原子力空母の配備、岩国への空母艦載機部隊の配備など基地の強化・恒久化計画が検討されています。

 こうした動きが進んでいるのは、日本が一貫して米軍事戦略の前進拠点とされ、今回の米軍再編の中でも海外最重要拠点に位置付けられているからです。
 沖縄・岩国の海兵遠征軍、横須賀・厚木の空母打撃群、三沢・横田などの航空宇宙遠征軍、佐世保の遠征打撃群……。地球規模で出撃する米四軍の遠征部隊がそろうのは日本だけです。日本の基地がなくなれば 「地球の半分を管轄する米太平洋軍の能力の八割ぐらいが喪失する」皇軍評論家)という指摘もあります。

 日本政府による財政支援も、米軍が基地を手放さず強化を拒う根拠になっています。
 一九七八年度に日本政府が「思いやりの気持ちを持って」(金丸信防衛庁長官=当時)と始めた在日米軍への「思いやり」予算──。労務費の負担から始まり、施設建設費、水光熱費、訓練移転費へと拡大の一途をたどり、○五年度までに総額四兆七千百二十八億円に達しています。
 米国防総省の「基地構造報告」によると、在外基地の資産価値上位三位までを在日米軍基地が占めています。

軍事同盟解消が世界の流れ

 軍事同盟は前世紀が残した遺物になりつつあり、国連憲章に基づく平和秩序を目指す動き、仮想敵を持たない地域的な平和共同体の流れが世界の一大潮流になっています。基地を抱える地方自治体の基地返還要求もかつてなく強まっています。

 日本政府が通告するだけで、安保条約は終了します。「日米軍事同盟解消、独立・中立日本への転換こそ、世界史の大道」日本共産党第三回中夫委員会決定)です。
(しんぶん赤旗 2005.04.28)

■━━━━━

 サンフランシスコ体制の成立

 一九四五年(昭和二十)八月十五日、日本帝国主義、天皇制軍国主義の敗北によって、「満州事変」──日中戦争──太平洋戦争と足かけ十五年間つづいた侵略戦争が終わった。日本は、アメリカ、イギリス、ソ連、中華民国が共同で作成した「ポツダム宣言」を無条件受諾して降伏し、民主国家・平和国家として再生することを世界に誓約した。それを監視するために連合国軍隊が日本を占領することになったが、ダグラス・マッカーサー元帥を総司令官とする連合国軍の共同占領≠フ実態は、アメリカ軍による単独占領であった。そこで占領政策は、ポツダム宣言に制約されつつも、アジアに覇権を確立する帝国主義的野望と「反共主義」との本質をもっていた。

 戦前の天皇主権を基本とする大日本帝国憲法に代えて、国民主権を宣言した新しい日本国憲法が起草された時、マッカーサー司令官は次のような規定が盛りこまれるよう提案した。事実上の指示である。

「国家の主権〔行使〕としての戦争は廃棄される。日本は、紛争解決の手段として、また自国の安全維持の手段としてさえも、これを放棄する。日本はその防衛と保全のためには、現在世界を動かしている高い理想に依存する。
 日本の陸軍、海軍、空軍は許さず、交戦権は日本のいかなる戦力に対しても与えられない。」

 一九四六年十一月三日に公布され、翌四七年五月三日に施行された日本国憲法は、周知のように第九条に次のように規定した。

「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。」

 その後、資本主義と社会主義との二つの世界≠フ対立を軸とする戦後史の展開のなかで、この憲法第九条は日本の進路にとってきわめて重い意味をもつことになった。しかし、いくらも日の経たぬうちに、アメリカの支配層はこれを日米関係の障害物と感じるようになり、日本の支配層もこれを実質的にも形式的にも取り除くことを強く望むようになった。

 一九五〇年(昭和二十五)六月二十五日に朝鮮戦争がおこり、二つの世界≠フ冷たい戦争≠ヘ極東の一角で熱い戦争となって火を吹いた。朝鮮半島では、韓国軍とそれをひきいるアメリカ軍を主体とする「国連軍」に対し、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の軍隊とそれを支援する中国人民解放軍義勇軍とのあいだで死闘がつづけられた。アメリカは対日講和を急いだ。

 その前年一九四九年十月一日に、中華人民共和国が建国を宣言し、アジア情勢は大きく変動していた。一九五一年九月四日(日本時問では五日)からサンフランシスコのオペラ・ハウスで、日本の吉田茂首相以下の全権代表団をふくめて五十二ヵ国の代表が参加して、対日講和会議がひらかれた。アメリカ大統領トルーマンは、「対日講和は過去でなく将来に目をむけている和解の条約」であって、「最大の関心事は日本を侵略から保護するとともに、日本が他国の安全を害さないことである」と演説した。

 ソ連のグロムイコ全権は、中華人民共和国を招請するよう要求したが、アチソン議長(アメリカ)はこれを取りあげなかった。アメリカのダレス全権(このとき大統領特使、一九五三〜五九年国務長官)が説明にあたった講和条約草案には、次のような内容がふくまれていた。

「日本は国際連合憲章第五十一条にかかげる個別的または集団的自衛の固有の権利を持ち、集団的安全保障のとりきめを自発的に結ぶことができる。」

「占領軍は、講和条約の発効後なるべく速かに日本から撤退する。ただし、日本と連合国(一国または数国)とのあいだに結ばれた協定によって外国の軍隊が日本の領土に駐留することができる。」

「日本は琉球諸島・小笠原諸島を、アメリカを唯一の施政権者とする信託統治のもとにおくアメリカの案に同意する。」

 日本からアメリカ軍が撤退すると、その空白状態につけこんでソ連・中国の共産主義勢力が侵略してくる、というのがダレスの持論の「真空理論」であり、強盗の侵入を防ぐためには「戸締り」が必要であると指摘して、彼は日本へのアメリカ軍の駐留継続を主張していた。

 グロムイコ全権は、「この草案は、日本帝国主義再生の道をひらくのに熱心であり、日本をふたたび侵略と軍事冒険の道に追いやろうとするのに熱心だ」と批判して、軍備の制限、アメリカ軍の撤退、日本の中立化など十三項目の修正を提案したが、無視された。

 日本首席全権吉田茂は、示された講和条約は「和解と信頼の文書」であり、「日本全権は、この公平寛大なる平和条約を欣然受諾する」と宣言し、「わが国の独立は自力をもって保護する覚悟である」が、当分「アメリカ軍の駐留を求めざるを得ない」と表明した。

 九月八日、調印式が行なわれたが、ソ連、ポーランド、チェコスロバキアの社会主義三国はこれをボイコットし、講和条約に調印したのは、日本をふくめて四十九ヵ国であった。

 この日の午後、日米安全保障条約の調印式が、日・米両国代表によって、サンフランシスコの第六軍司令部の下士官集会室で行なわれた。実はダレス大統領特使と吉田首相とのあいだの秘密交渉の結果、一九五一年二月九日、日米安保条約原案が極秘裡に仮調印されていたのだが、吉田首席全権を除く他の日本側全権は、この時はじめて日米安保条約の条文を目にしたのである。

この条約には日本側からは吉田茂だけが署名した。この結果、日本には「極東における国際の平和と安全の維持に寄与」するため、今後もアメリカ軍が駐留することになった。講和条約と安保条約の両条約は、合わせて一体をなすものであった。その〔旧〕安保条約の内容は以下のとおりである。


日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約

 日本国は、本日連合国との平和条約に署名した。日本国は、武装を解除されているので、平和条約の効力発生の時において固有の自衛権を行使する有効な手段をもたない。
 無責任な軍国主義がまだ世界から駆逐されていないので、前記の状態にある日本国には危険がある。よって、日本国は、平和条約が日本国とアメリカ合衆国の間に効力を生ずるのと同時に効力を生ずべきアメリカ合衆国との安全保障条約を希望する。

 平和条約は、日本国が主権国として集団的安全保障取極を締結する権利を有することを承認し、さらに、国際連合憲章は、すべての国が個別的及び集団的自衛の固有の権利を有することを承認している。
 これらの権利の行使として、日本国は、その防衛のための暫定措置として、日本国に対する武力攻撃を阻止するため日本国内及びその附近にアメリカ合衆国がその軍隊を維持することを希望する。

 アメリカ合衆国は、平和と安全のために、現在、若千の自国軍隊を日本国内及びその附近に維持する意思がある。但し、アメリカ合衆国は、日本国が、攻撃的な脅威となり又は国際連合憲章の目的及び原則に従って平和と安全を増進すること以外に用いられうべき軍備をもつことを常に避けつつ、直接及び間接の侵略に対する自国の防衛のため漸増的に自ら責任を負うことを期待する。

 よって、両国は、次のとおり協定した。
 第一条 平和条約及びこの条約の効力発生と同時に、アメリカ合衆国の陸軍、空軍及び海軍を日本国内及びその附近に配備する権利を、日本国は、許与し、アメリカ合衆国は、これを受諾する。この軍隊は、極東における国際の平和と安全の維持に寄与し、並びに、一又は二以上の外部の国による教唆又は干渉によって引き起された日本国における大規模の内乱及び騒じょうを鎮圧するため日本国政府の明示の要請に応じて与えられる援助を含めて、外部からの武力攻撃に対する日本国の安全に寄与するために使用することができる。

 第二条 第一条に掲げる権利が行使される間は、日本国は、アメリカ合衆国の事前の同意なくして、基地、基地における若しくは基地に関する権利、権力若しくは権能、駐兵若しくは演習の権利又は陸軍、空軍若しくは海軍の通過の権利を第三国に許与しない。

 第三条 アメリカ合衆国の軍隊の日本国内及びその附近における配備を規律する条件は、両政府間の行政協定で決定する。

 第四条 この条約は、国際連合又はその他による日本区城における国際の平和と安全の維持のため充分な定をする国際連合の措置又はこれに代る個別的若しくは集団的の安全保障措置が効力を生じたと日本国及びアメリカ合衆国の政府が認めた時はいつでも効力を失うものとする。

 第五条 この条約は、日本国及びアメリカ合衆国によって批准されなければならない。この条約は、批准書が両国によってワシントンで交換された時に効力を生ずる。

 以上の証拠として、下名の全権委員は、この条約に署名した。
 千九百五十一年九月八日にサン・フランシスコ市で、日本語及び英語により、本書二連を作成した。

日本国のために
 吉田  茂

アメリカ合衆国のために
 ディーン・アチソン
 ジョーン・フォスター・ダレス
 アレキサンダー・ワイリー
 スタイルス・ブリッジス

(塩田庄兵衛著「実録 六〇年安保闘争」新日本出版社 p27-33)

〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓
◎「まさに占領の継続です」……。