学習通信050625
◎灯火管制の遮光幕をとります……

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アンネと再会♀エ動
 いとこ、綾部訪問 像の手を握り

 「アンネの日記」で知られるアンネ・フランクのいとこで、アンネ・フランク財団の会長、ベルント(バディ)・エリアスさん(80)が二十三日、妻のギヤティーさん(72)と綾部市を訪問した。JR綾部駅北広場の「アンネ像」を見た後、市役所で四方八洲男市長と会談した。

 夫妻はスイスのパーゼル市在住で「ホロコースト記念館」(広島県福山市)の開館十周年の記念事業で来日。アンネ・フランクの像があり、同市高槻町の山室建治さん(64)が「アンネのバラ」の普及活動に取り組んでいる縁で、綾部市を訪れた。

 この日、アンネ・フランク像を訪れたバディさんは、花束をささげ、像の両手を握って、「本当のアンネの手を握っているよう」と感動していた。続いて市役所を訪問し、四方市長と同市などが取り組んでいるイスラエルとパレスチナの和平事業などについて話し合った。バディさんは「綾部のような美しいまちから、アンネヘの尊敬や、彼女のメッセージが発信さ
れていることに感謝している」と話していた。
(京都新聞 20050624)

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キティ様 一九四三・八・四(水)

 隠れ家生活を始めてから、もう一年以上になるので、あなたもわたしたちの生活が、いくらかわかってきたでしょうが、説明しにくいこともあります。お話すべきことが多すぎるし、それに、すべて普通の時や普通の人々の生活とはあまりにも違うのです。しかし、あなたにわたしたちの生活をよく見てもらうために、ときどき平凡な日常生活のことをお話するつもりです。今日は夜のことから始めましょう。

 午後九時=隠れ家の就寝準備が始まりますが、これが全くひと仕事なのです。椅子を片づけ、べッドを引きおろし、毛布をひろげ、昼間のままの場所にあるものは一つもなくなります。わたしは長椅子の上に寝ますが、それは一メートル半もないので、椅子を足さなければなりません。わたしの薄い羽根ぶとんの膝掛け、敷布、毛布、枕などは、昼間は全部デュッセルさんのべッドの上に積み重ねておくので、それを持って来ます。隣の部屋でギーギーきしむ音がします。マルゴットが折りたたみ式のべッドを引っ張り出しているのです。これが終わると、毛布や枕などを出す音がします。頭の上では、まるで遠雷のような音がします。ファン・ダーンおばさんのべッドを窓際に引っ張っているのです。これは、ピンクのパジャマを着た%女王陛下≠フいとも優美な鼻孔を、新鮮な空気でくすぐらせるためです!

 ヘーターがすんでから、わたしは浴室へ行って、身体をよく洗って、ざっとおめかしをします(暑いころはよく小さいノミが湯に浮かんでいることがあります)。それから歯を磨き、髪をカールし、マニキュアをして、顔の黒い生毛を目だたなくするためにオキシドールをつけます。これを三十分以内でやります。

 九時半=急いでドレッシング・ガウンを着て、石鹸、湯を入れる容器、ヘアピン、クリップなどを持って浴室を出ますが、たいていは呼び帰されます。というのは、次の人が、金だらいにわたしの髪の毛がついているのを見て、きたながって、掃除しろと言うのです。

 十時=消灯。お休みなさい。消灯してから少なくとも十五分は、ベッドのギーギーきしむ音がしたり、切れたバネのため息≠ェ聞こえたりしますが、それからはしんと静かになります。上の人たちも寝てからはけんかはしないようです。

 十一時半=浴室のドアがギーとあいて、細い光が部屋にさし込みます。靴の音、少し大きすぎる上着を着た人の影!クラーレルさんの事務室で仕事をしていたデュッセルさんが帰って来たのです。十分間ほど部屋の中を行ったり来たりします。ガサガサという紙の音──食物をしまうのです。それから、べッドが作られます。そして、やがて人影が消えます。あとはときどき、便所から変な音が聞こえてくるだけです。

 三時=わたしは起きて、べッドの下に置いてある容器を出して小用をたします。便器が漏るといけないので、下にゴムのマットが敷いてあります。お小水がブリキの容器へはいるときは、まるで山から落ちてくる急流のような音をたてるので、わたしはいつも息を殺します。お小用がすむと、容器をもとの場所にかえし、白いナイト・ガウンをぬいで、またべッドへもぐり込みます。マルゴットはわたしの白いナイト・ガウンが大きらいで、毎晩それを見るたぴに、「まあ、下品なナイト・ガウン」と言います。

 それから十五分間ぐらい、わたしはじっと耳をすまして目をさましています──まず、階下に泥棒がはいってやしないか、次は、みんながよく眠っているかどうかを知るために、隣の部屋、上の部屋、わたしの部屋と順々に耳をすますと、みんなよく眠っているか、ねつかれない人がいるかどうかがわかります。

 ひとがねつかれないでいるのは、見ていて不愉快ですが、デュッセルさんの場合はとくにそうです。彼はまず、魚が息苦しくて喘いでいるように音をたてます。これを十ぺんぐらい繰り返してから、今度はべッドの中で寝返りを打ったり、身体をねじったり、枕をなおしたりしながら、舌打ちをするやら、唇をなめるやら、いやはやえらい騒ぎです。五分問ほど静かにしてしばらく安眠していたと思うと、同じことをまた少なくも三回は繰り返します。

夜中の一時から四時の間に高射砲の鳴ることがあります。こういうときは、わたしは習慣でいつの間にか、無意識にべッドのそばに立っています。ときどきは、フランス語の不規則動詞のことを考えたり、四階の人たちのけんかの夢を見たりして、高射砲が鳴り出してもしばらく気がつかないで、部屋の中でじっとしていることもありますが、たいていは無意識にベッドのそばに立っています。そして、急いでドレッシング・ガウンを着てスリッパをはき、枕とハンカチを持って、お父さんのところへ駆け込みます。マルゴットはこの様子を、誕生日の詩の中で次のように書いています。


真夜中に、最初の高射砲が鳴ります。シーッ ごらんなさい。ドアがギーッという音とともに大きく開き、一人の少女が、枕をしっかりかかえてはいってきます。

 お父さんの大きなベットにはいると、砲撃がひどくならないかぎり、心が落ちつきます。

 六時四十五分=目ざまし時計が鳴ります(鳴ってもらいたくないときに鳴ることもあります)。ファン・ダーンのおばさんがピシャリとそれを止めます。おじさんは起きて、ヤカンをガスにかけ、大急ぎで浴室へ行きます。

 七時十五分=ドアがまたギーッと鳴ります。デュッセルさんが浴室へ行きます。わたしはまたやっと一人になって、灯火管制の遮光幕をとります──かくて隠れ家の新しい一日がまた始まります。
 アンネより
(アンネ・フランク著「アンネの日記」文藝春秋 p102-104)

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◎「高射砲が鳴り出してもしばらく気がつかないで、部屋の中でじっとしていることもありますが、たいていは無意識にベッドのそばに立って」と。