学習通信060525
◎自分の身の回りと比べ……

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貧困は現在の社会制度の必然的な結果であり、それ以外のことには、貧困のあらわれ方や様式の原因をもとめることはできても、貧困それ自体の原因をもとめることはできない。
(エンゲルス著「イギリスにおける労働者階級の状態 下」新日本出版社 p124)

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「格差社会」は成長の証し

 「格差社会」という言葉が小泉政権批判のキーワードとなり、次期総裁選も絡んで話題となっている。「行き過ぎた市場原理主義の弊害」という表現が使われることもある。

 時代の変化に適応した成長企業や一部の成功者の話を聞いて、自分の身の回りと比べ、また人口の高齢化による介護の増大などを考え併せて、格差は拡大しているかもしれないと思う人が多いのは自然である。

 しかし、日本の所得分配の不平等が拡大しているという確たるデータは存在しない。

 「格差社会」や「市場原理主義」の「行き過ぎ」などは、定義や具体的内容になるとあいまいで、単なる政治的スローガンである。世界的に見て、日本が世界で最も格差の少ない平等な社会を実現していることはよく知られている。

 日本の課題の多くは、過去十年以上に及ぶ経済成長率の長期停滞と高齢化に由来している。税収の低下と誤った景気対策による財政危機を背景に、小さな政府を目指す財政支出の削減や規制緩和などが、既得権を持つ側からの批判対象となる。

 課題の解決には、成長率の回復しかないし、そのためにはより一層の規制緩和とリスクヘの挑戦を促す経済の活性化策が必要である。

 成長が加速すると、常にその波に乗れた人とそうでない人との格差は拡大し、その後、時間を経て成長の恩恵が全経済に及ぶ。格差の解決は、成長に貢献する意欲と能力を持った人材をいかに組織的に育成するかにかかっている。

 要は、成功者を見て、自分にもチャンスがあると考えるか、自分にはまねができないとあきらめるか、どちらの人が多いかである。その意味で、IT(情報技術)教育の充実や、高齢者の労働市場確保などを通じて、可能性に挑戦するための機会を拡大することは重要な課題である。また、高齢者は資産を有効に活用して、若者の起業・成長を支援し、その配当を得ることもできる。千五百兆円に及ぶ個人資産を有効に活用できていない、金融システムの効率化も必要である。

 長期不況後の成長は始まったばかりである。格差社会ヘの批判が出ることは成長が始まった証しでもある。より多くの人が成長の実感と、将来への明るい期待を持つようになれば、単なる政治的スローガンは力を失う。次期総裁選ではこのような政策論争が望まれる。(桃李)
(「日経新聞」2006.5.24)

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◎「貧困は現在の社会制度の必然的な結果」と。