学習通信060606
◎顔つきが変わるほどの自信……

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破壊されゆく遊び場

 ここ数年来、子どもたちが遊びを知らなくなった、遊びによわくなった事実が多くの教育関係者から指摘され、憂慮されています。たとえば、教師が苦心してひろびろとした野原につれだしてやっても、昔のように歓声をあげ、すぐ集団的にそれぞれのグループをつくって時間のたつのも忘れて熱中するというのではなく、しばしとまどったようにぼんやりしてしまったり、はなはだしいばあいには坐りこんでトランプをやったり、トランジスターラジオをききながら寝ころんでいる、といった現象が報告されています。

 これらの事実は、いかにいまの子どもたちが子どもの成長に絶対不可欠な遊びを奪われているかを深刻に語っていると思います。そして、遊びを知らなくなった、よわくなった責任も子どもにではなく、社会とおとなの方にあるのです。

  第一に、子どもたちは自然の遊び場所を徹底的に奪われつつあります。夢中になって昆虫を追いまわしたり、探険に出かけられる未知の自然が、十年〜二十年前にはまだありました。現在では、公害、「地域開発」や宅地造成の美名のもとに、全国いたる所で自然が破壊されています。

 第二に、「交通戦争」や誘拐といった社会的要因が子どもたちの遊びを規制し、萎縮させています。わざわざ山野に出かけなくても、以前は路地や空地で遊べました。いまはそこらへんが危険に満ちています。また最近の統計によると、東京都民ひとり当たりの公園などの面積は〇・九平方メートルだそうです。これでは立っているだけといえましょう。

 第三に、テレビや受験競争のもとでのつめこみ・しめつけ教育の影響も見のがせません。心とからだをぞんぶんに使って集団的・創造的に遊びまわるのではなく、受身でひっそり、ひとりで遊ぶ傾向が助長されています。親の方でも、つい「遊んでばかりいないで勉強して」といいがちです。

 このように、子どもたちの遊びを奪ってしまう状況が加速度的に進んでいますが、それでも子どもたちは遊んでいます。それは、遊びが子どもにとって水や空気のように絶対必要だからです。遊びが必要な時期に遊べないでは、将来、どんな人間が育ってしまうか恐ろしい気がします。ある専門家の実験によると、遊ぶ場所と時間、適切な遊具と指導・助言があれば、子どもたちは無限に遊びを生みだし、発展させるそうです。

 遊び場をかえせ、遊び時間と機会を保証しろ、と親子が手をつないで、デモにでも立ちあがらなければならない時期にきているのではないでしょうか。
(近藤・好永・橋本・天野「子どものしつけ百話」新日本新書 p82-83)

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社会で生身の体験をしよう

 授業をしている神戸の大学の近所のスーパーに行くと、やけに若い店員さんが「いらっしゃいませー」と声をはりあげていた。「サンダルは売っていますか?」ときくと、「えーと、ちょっとお待ちください」と言いながら一生懸命考えて、「あ、こちらです!」と元気に案内してくれた。

 実は、この新人店員さん≠ヘ、中学生。
 神戸市など兵庫県の中学二年生たちは、商店、農家、大学などさまざまなところに行って、一週間、仕事や作業、講義などを体験する。名づけて、「トライやる・ウィーク」。「地域の人たちにふれあいながら、社会で生身の体験をしよう」というのが、目的。だから、町のあちこちに中学生店員≠竍中学生実習助手≠ェ見られるのだ。

 私は大学の授業があるときしか神戸に行かないんだけれど、そこに住む知人は言っていた。
 「うちの近所の魚屋さんにも、中学生が来てたの。初日の朝見たときは暗い顔をしながら魚をはかったりしていて、かわいそうだなーと思った。でも、次の日の夕方には顔つきがすっかり明るくなっていて、おとなの店員さんと同じように、いらっしゃいー≠ネんて言ってるのよ。仕事に慣れて自信がつくだけで、顔ってあんなに変わるのねぇ」

 なるほどなあ、と私は思った。私はゲーム大好き、テレビや漫画大好きなので、「みんなすぐ、生身の体験が大切って言うけれど、ゲームなどのバーチャル体験だっていいじゃないか」と考えている。

 外でサッカーするのは苦手とか場所がない、という人だって、たくさんいるはず。そういう人でも、ゲームの中で思いきりサッカーのプレーをすれば、気持ちがすっきり、はればれする。「そんなの、本当のサッカーじゃないんだから、意味ないよ」と思うのは、間違い。ゲームだってちゃんと心のおそうじ≠ノ役立っているのだ。

 でもたしかに、「そうだ、私だってやればできるんだ」という自信は、ゲームじゃなかなか身につかないかな。もし「魚屋さんゲーム」をしただけだったら、顔つきが変わるほどの自信は手に入れられなかったかもしれない。

 もしみんなが、「これから一週間、学校を出て、町の中でなにかをしてください」と言われたら、なにを選ぶ? なんの仕事を覚えたら、「私にもこれができるんだ」って自信がわいてくると思う?

 私が中学生だったら、プロレス会場の場内整理とかやってみたいな。場外乱闘になったときに、お客さんを「お下がりください!」と誘導したりする係。でも自分のほうが夢中になってプロレス見ちゃってお客さんの誘導を忘れ、一日でクビになっちゃう可能性大だ。

□社会体験を一週間するとしたら、なにをしてみたいですか
□では、一ヵ月の体験だとしたら、なにを選びますか
□だれかの役に立ちたい、と思いますか
(香山リカ著「10代のうちに考えておくこと」岩波ジュニア新書 p15-17)

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◎「子どもの成長に絶対不可欠な遊びを奪われているかを深刻に語っている」と。