学習通信060622
◎似てない者さがし……

■━━━━━

悪いことははっきりしかる

 子どもはあんまり小言をいわずに、自由にのびのびと育てた方がいい、とよくいわれますが、それを自己流にうけとめているおかあさんをしばしばみかけます。電車内など公共施設で人の迷惑も考えずにふるまう子のことはよく話題になります。

 あるときも団地内で公共の植え込みやゴミ焼き場などで遊んで木を痛めつけたり、ちらかしたりするのをみかけてそのことについて話しあったところ、「うちの子は自然のなかで自由に遊ばさせていますので……」と答えたおかあさんがいました。団結と協力を軽視し、妨げる考え方がまきちらされているいまの社会では、隣近所とつきあうのがわずらわしい、とばかりに共同生活を忘れてまったくの利己主義におちいり、他人の生活に干渉しない個人主義と他人の生活を考えない利己主義を混同しがちです。

 このような考えが育児にもあらわれて、子どもによいことと悪いことのけじめをはっきりさせる基準を失って野放図な自由主義を強調する人が出てきます。小さい子どもには、よくないことははっきり「いけない」としかるべきです。

 私は、子どもをできるだけしからず、話してきかせてわからせたり、いけないことは手でおさえてやめさせるという方法をとってきましたが、いつまでもわからないので、あるとき、大きな声を出して本気でおこりました。子どもは、ピリッとして私の顔を見て考えていました、以来「してはいけないこと」についての態度が変わりました。子どもにたいしては、話しあってわかることと、その年齢からして子どもの理解できにくい公共のルール(これを教えるのが広い意味での教育のひとつでしょうが)がありますので、緊張させてはっきりいけない、ということがひじょうに大切です。

 あまりしかるといじけてしまうから、とか子どものよさがうしなわれるからといって、目にあまるいたずらや他人に迷惑をかけることも平気でみている親が多くなりました。「個性をのばす」ということは、他人の個性をみとめ、自分の立場を確立させることが出発点です。

 ただし、やたらに禁止事項をこしらえるのはよくありません。木のぼりで木が折れたり、芝生にはいって芝が枯れたりするのをみても、植木や花に興味のない人の価値観では「子どもの自由をしばらない方がいい」と思うでしょうし、むずかしいことですが時と場所によってその判断は変わります。親の社会観や生活をどう考えるかという考え方がそれをきめます。「子どものしつけは、親の人生観に左右される」といわれるゆえんです。
(近藤・好永・橋本・天野「子どものしつけ百話」新日本新書 p96-97)

■━━━━━

似てない者さがし

 私が新しい大学で授業をすることになって、一年生といっしょに説明会に出たとき、二〇歳のときに日本にきてからもう三五年、というアメリカ人教師、ジェフリー・バークランド先生が講演をした。

 「みんな、今となりにはだれが座ってる? 同じ高校や地元から来た友だちと並んで座ってない? 先生たちはどう? 先生どうしで座ってませんか?」

 私は、大学で顔見知りになった女性の先生のとなりの席があいているのを見つけて、そこに座っていた。先生のスピーチは続く。

 「となりに知っている人、自分と似た人が座っていると、ほっとしますよね。知っている人はラクだから」

 まさに、私の心境だ。まだ慣れていない大学の説明会に出て緊張していた私は、知ってる先生のとなりで「あー、よかった」とほっとしていたのだ。

 「でも、自分と同じような人とばかりいっしょにいても、ラクなだけでなにも変わりません。世界は広がらない。みなさん、大学生になったんだから、これからは自分と違う人、知らない人ともどんどんつきあってください。年齢の違う人、国やことばの違う人、あるいは病気や障害を持っている人とコミュニヶーションしてください」

 私は、「あちゃー、耳が痛い」と恥ずかしくなった。大学の新入生ならともかく、社会人生活二〇年近くの私が、「顔見知りの女性の先生のとなりがいいな」と自分となるべく同じ人をさがして座っていたなんて。

 よく考えると、私はこれまで学校でも職場でも、ずっと似た者さがし≠してきたかもしれない。毎週、診療に行っている病院でも、つい同じような年齢の女性看護師さんにばかり話しかけてしまう。同じような年代や職業の人だと、多くを語らなくてもなんとなく話が通じてラクだからだ。

 でも、たしかにそればかりじゃ、「そうそう」と確認しあうだけで、コミュニヶーションにはなってないんだよなぁ……。

 みんなはどう? 新学期でクラスが変わったときなど、どうしても前のクラスでいっしょだった友だちとばかり話してない? ここはちょっと勇気を出して、「知らない人だから、話してみよう」と考え方を変えてみない? 私もこれから、そうするつもり。今日も大学の会議があるんだけど、まだ一度も話したことがない先生の横に、「こんにちはー」と座ってみるぞ!

 私の新しい目標は、「似てない者さがし」。さてうまくいくかな?

□新しい人に会うと緊張しますか
□話しかけるのと話しかけられるの、どちらが好きですか
□会った瞬間に「友だちになれそう」と思うことはありますか
(香山リカ著「10代のうちに考えておくこと」岩波ジュニア新書 p83-85)

〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓
◎「団結と協力を軽視し、妨げる考え方がまきちらされているいまの社会では、隣近所とつきあうのがわずらわしい、とばかりに共同生活を忘れてまったくの利己主義におちいり、他人の生活に干渉しない個人主義と他人の生活を考えない利己主義を混同」と。