学習通信060704
◎需要側の……とすれば
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〔2〕
なにによって商品の価格はきめられるか?
買手と売手とのあいだの競争によって、需要の供給にたいする、欲求の提供にたいする関係によってである。商品の価格をきめる競争には、三つの側面がある。
同じ商品が種々の売手たちによって提供される。同じ品質の商品をもっとも安く売るものは、確実に、その他の売手たちを競争の場から駆逐して、最大の販路を確保することができる。こうして、売手たちはたがいに販路を、市場を争う。彼らのだれもが、売りたい、できるだけ多く売りたいと思い、できれば他の売手たちを除外して、一人で売りたい、と思う。したがって、一方が他方よりも安く売る。こうして、売手たちのあいだに競争が生まれ、これが彼らによって提供された商品の価格を引き下げる。
しかし、買手たちのあいだにも競争が生まれ、この競争のほうは、提供された商品の価格を高くする。
最後に、買手たちと売手たちとのあいだに競争がおこる。一方はできるだけ安く買おうとし、他方はできるだけ高く売ろうとする。買手たちと売手たちとのあいだのこの競争の結果は、前にのべた競争の両方の側面がどのような関係にあるかということに、すなわち買手たちの隊内の競争と売手たちの隊内の競争とのどちらが強いかということに、依存する。産業は対立しあう二つの大軍を戦場に引きいれ、その各々の大軍が、さらに自分の隊列のなかで、自分の部隊のあいだで戦闘をする。部隊内に生ずる格闘がいちばん少ない大軍が、対立している大軍にたいして勝利をおさめるのである。
市場に綿花一〇〇俵があり、同時に綿花一〇〇〇俵にたいする買手たちがあるものと仮定しよう。だから、このばあいには、需要は供給よりも一〇倍も多い。こうして、買手たちのあいだの競争は非常にはげしいであろう。彼らのだれもが一俵を、できれば一〇〇俵すべてを自分のものにしようとするであろう。この例は、けっして任意の想定ではない。われわれは、商業史で綿花の不作の時期を経験したが、そのときにはたがいに連合した数人の資本家が、一〇〇俵どころか、世界の綿花の全在荷を買い占めようとしたのである。
だから、上述のばあいには、一人の買手が綿花の俵にたいして比較的に高い価格をつけることによって、他の買手たちを駆逐しようとするであろう。綿花の売手たちは、敵軍の部隊がたがいにきわめてはげしくたたかっているのを見ており、また彼らのもっている一〇〇俵全部が売れることは完全に確実なので、彼らは、敵がたがいに競争して綿花の価格を高くつりあげている瞬間に、自分たちがたがいにつかみあいをはじめて綿花の価格をおし下げてはならぬと用心するであろう。
こうして、売手たちの大軍内ににわかに平和がやってくる。売手たちは一人の人間のように買手たちにたちむかい、冷然と手をこまねいている。そして、どんなに熱心に買いたがっているものでさえ、そのつけ値に非常にはっきりした限度があるということがないとしたら、売手たちの要求は限度を知らないことになるであろう。
(マルクス著「賃労働と資本」新日本出版社 p38-41)
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需要供給の法則
経済学に法則なるもの数々あれど、これぞ知名度ナンバー1。かつまた誤解度、誤用度もナンバー1。と言われると、皆さんに反発あるべし。「私の知ってる唯一のものが、誤解かも? そりゃ、ないよ」と。では、証拠を見せましょう。
一部で人気沸騰中の論があります。「東京、横浜などの大都会に農地不要。宅地に変えてしまえ。さすれば宅地価格は激落し、サラリーマン諸氏は大いに楽になるであろう」というもの。あるテレビ番組に出たとき、経営評論家という肩書きの人がとうとうとそれを主張するので、私は「そんなことをしても、価格は下がりませんよ」と反論しました。彼氏が憤然として、「供給が増えるのに価格が下がらないなんて、需要供給の法則を知らんのか。あんたそれでも経済学者か」とどなりだしたのには、面くらいましたねえ。
ある商品の供給量が増えると、その価格は下がる。逆なら逆。これが需要供給の法則だと信じたりするのは大間違いです。正しくはどう言うべきか。「ある商品の供給量が増えるときに、需要側の状況に変化が起きないとすれば、その価格は下がる。逆は逆」──これです。この「需要側の……とすれば」の条件を忘れたら、この「法則」なるものは無意味、何も言ってないと同じになります。なぜなら、この条件を外せば、いろんなケースがありうるからです。
供給量が増えることで価格が上がることもあり、供給量が減って価格も下がることもあるのです。意外ですか。でも、これらがありうることをふくむのが、需要供給の法則なのです。それは、どういう条件のときにはどういうケースが起きるかを明らかにしようとするものなのです。いろんなケースがありうるのに、それを単純化して、供給量が増えたら無条件で価格が下がるなどと、アホなことを言うのではないのです。
供給量が増えても、それにたいする需要の反応のしかたによっては、価格が上がります。たとえば、供給量を増やそうとする企業は、その単価を前よりも若干下げるかもしれません。そのことによって需要が刺激されて、その需要増で価格が上がるということがありえます。その商品の単価が下がったということは、他の商品の価格(が変わらないとして、それ)にくらべて、その商品が有利になったわけで、いままで他の商品に向かっていた需要までひきつけて、需要が大きく増えることがありえます。
土地は単品性が強烈です。銀座四丁目の土地はそこにしかない。だから、供給を増やすということは他の商品とちがってかなりむずかしい。わりに選択範囲が広い住宅地のばあいも、まわりがすでに坪二百万円していれば、それ以下で供給する人はいないでしょう。
(岸本重陳著「新版 経済のしくみ100話」岩波ジュニア新書 p92-93)
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◎「どんなに熱心に買いたがっているものでさえ、そのつけ値に非常にはっきりした限度があるということがないとしたら、売手たちの要求は限度を知らないことになるであろう」と。