学習通信060721
◎支配階級は少数者にもかかわらず……
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執行部と組合活動家の役割
労働組合は組合員すべてのものであるから、みんなが力をあわせて組合活動をすることがいちばん大切なことであるが、その場合組合の執行部はどんな役割をはたさなければならないだろうか?
労働組合が闘争する相手方である資本家の側には、本社があり、工場には工場長がおり、労務課があって、組織的に労務対策をうちだしてくる。そのうえに産業別の資本家団体や日経連のような独占資本の共同の作戦本部を持っている。労働省や労政事務所もあって、これらが互いに連絡し、協力しながら労働者にたいして攻撃をしかけてくる。労働組合が資本家とたたかって勝利するためには、敵側のこうした組織に十分対抗できるだけの組織が組合の側にもどうしても必要になってくる。
前に私は、芝浦の組合で職場幹事を月当番制にしてよい成果を収めたことを書いた。だがそれだけですべてではないのである。職場で日々おこる問題を処理するだけならこの方法で十分な成果はあがるけれど、十いくつもある工場全体のことは職場幹事にはよくわからない。まして日本の景気の動向や政府と資本家の産業・経済政策や労働対策、日本と世界の労働運動の情勢や経験というようなことは月交替の職場幹事には十分につかむことはできない。しかも、こうしたことがらを十分に知って、闘争をすすめなければ、労働組合は敗北する。
だからどうしても、労働者階級全体の利益の立場に立って、二十四時間、労働組合と組合員の利益のためにだけ思いをめぐらし、活動する、理論と経験のゆたかな指導者が必要になってくるのである。芝浦の組合でも分会の執行委員会は、そのような、なかば職業的な労働組合活動家によって構成されていた。労働組合の執行部というものはそうした大切な役割を持つものであるから、この選出はきわめて大切なものである。執行部が良ければ組合は発展するし、執行部が弱ければ組合も発展をさまたげられる。
執行部の大切な役割の一つは、組合員の要求を正しく組織することである。そのためには、組合の民主主義的な運営を徹底しておこない、組合員の不満や要求を十分に引き出し、これを吟味して、要求の性質に応じた闘争を準備することが必要である。
たとえば、機械の具合が悪い、手袋を支給せよ、などのように現場の主任や工場長を相手にして解決できる要求もあるし、賃金の引上げ、労働時間の短縮などのように本社を相手にしなければ解決できない要求もある。また賃金引上げの要求にしても中小企業の場合では会社の実情からみて、すぐには実現できない条件のある場合もある。そういう場合には、他の中小企業の組合との共同闘争や大企業の労働組合と共同してたたかわなければならないことにもなる。賃金の引上げとか臨時工を本工にせよという要求は個々の経営においても労資間の力関係に応じて実現されるが、最低賃金制の制定とか臨時工制度の撤廃というような要求は、反動政府もふくめて、資本家階級全体を相手とする階級対階級の大闘争をおこなわなければ実現することはできない。
組合の幹部は、このような要求の性質をよくみきわめて、それがどこで解決できるものか、そのためにはどれだけの力が必要かということをはっきりと組合員に知らせ、組織的にも、精神的にもこの闘争にたえうる準備をととのえていくことが必要である。
もう一つの大切な任務は、執行部が組合運動の経験を裏づけとして、組合員をたえず階級的に教育していくことである。この教育は、要求の討議や闘争の経験を通じても直接にできることであるし、組合が機関紙や教育集会を組織してもおこなうことができる。こうして、労働者が資本主義社会のからくりや搾取される労働者の運命を自覚し、資本家や政府との敵対関係を理解することが深まれば深まるだけ、労働組合活動にたいする積極性が増し、組合は強化される。この中から組合活動家が大量に養成されてくる。
このように、組合の民主的運営と執行部の指導的役割とが統一的に理解されないと、執行部が指導性のない小使のような存在になってしまったり、逆に「執行部になんでもまかせろ」式の請負主義、官僚主義になってしまって、組合を弱めるような結果を招く。
執行部の指導的役割はこのように大切なものであるが、組合運動を推進するうえで欠くことのできないもう一つの要素は職場における熱心な組合活動家の役割である。労働組合の力の根元は職場にある。職場に組合員がいて、組合の実体をかたちづくり、執行部をささえている。労働者は職場でじかに資本家と対決している。だから資本家も職場にたいして攻撃を集中してくる。
この場合、職場に階級的に自覚した活動家がいて、資本家の側から流れてくる思想宣伝を粉砕し、職場における労働者の毎日の生活と利益を守ってたたかうだけでなく、労働者の要求を結集して組合の執行部に集中したり、また組合の方針や内外の政治情勢や労働者階級の闘争の状況を労働者に説明して、組合員の意志と行動の統一をはかり、組合員を毎日の生活の中で階級的に教育していくならば、労働組合は磐石の基礎の上に立つことができるであろう。
職場活動家が多いほど組合は強くなる。職場活動家が個々バラバラで活動するより、活動家集団として組織的に学習し、討議し、行動を統一すればいっそうその力を発揮することができる。職場活動家は労働組合運動の推進力である。
(春日正一著「労働運動入門」新日本出版社 p40-43)
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少数者が多数者を支配する条件
日本の議院内閣制のもとでは、政治的執行権力である内閣(政府)は議会における多数者による選出という形式をとり、議会の多数党が内閣を支配する。しかし、支配階級は、被支配階級である労働者階級より数のうえでは圧倒的少数であるのだから、労働者階級が敵対的生産関係における本当の現実的利益に目覚めたならば、ブルジョア民主主義を前提とする選挙制度にもとづくかぎり、少数者である支配階級は選挙で敗北し、政治的執行権力を被支配階級の代表である政党に渡さなければならない。
そこで、少数者である支配階級が多数者に選挙で勝つためには、資本主義的生産関係のうえに打ち立てられた社会的制度・機構・組織、さらに政治システム、イデオロギー、経済機構・組織などの全体が少数者を執行権力の位置に座らせるように機能しなければならない。少数者が多数者を支配する条件の主要なものは以下のものである。
第一に、生産関係の敵対性は、資本と賃労働の関係がその関係の全側面において一方的に相互に排斥しあう関係にあることを意味しない。資本と賃労働の関係は相互前提の関係にある、と同時に相互に排斥する関係にあるから矛盾である。自由競争段階の資本主義、上昇期の資本主義においては、生産力の発展が資本主義的生産関係の内部で根本的な桎桔に転化していないのだから、矛盾する関係のなかでの相互前提の関係が前面に出て労働者階級のイデオロギーをとらえる。
帝国主義段階の資本主義、すなわち衰退し、腐朽しつつある資本主義においては、資本主義的生産関係は生産力の発展にとっての桎枯に転化しているのだから、矛盾する関係のなかでの相互に排斥する関係が前面に出て労働者階級のイデオロギーをとらえるという傾向が基調となって事態は推移する。
しかし、こうなったからといって、一直線に労働者階級のイデオロギーが資本主義的イデオロギーから離れるわけではない。支配階級は支配の維持のために、資本主義的イデオロギーを労働者階級のなかに注入する努力をする。また、帝国主義段階においても、矛盾関係のなかにおける相互前提関係が排除されるわけではない。
この段階でも、相対的に生産力が上昇する局面──戦後日本の高度成長期──では、労働者階級は生産力的側面において現実的に物質的利益を与えられるから、資本と賃労働の相互前提関係だけを強調する資本主義的イデオロギーが、一時的にせよ、労働者階級の意識をとらえる。
この資本と賃労働の相互前提関係──関係の全体をおおうものではないが──が労働者階級のイデオロギーを支配階級のイデオロギーと同一のものにする一つの条件であり、労働者階級の個々の成員が支配階級を選挙において支持する一つの現実的な基礎である。短期的、個別的見地からみた場合に、支配階級のさまざまの政策、方針、策動によってこの傾向はいっそう強められる。
第二に、支配階級が多数党を形成するために次のような多様な形態での集票活動が支配階級の総力をあげておこなわれる。すなわち、さまざまの形態での利益誘導や補助金による支持の獲得活動をはじめとする官僚機構を使った組織的な選挙活動、業界組織や会社ぐるみの選挙、農民団体や農協などを媒介とする集票活動、被支配階級の経済的貧困や社会的地位の低さなどにつけいって目先の現実的利益と引き替えに票をもらう議員活動と選挙地盤の形成、さらに、選挙における公然たる被支配階級の構成員の買収等々である。
第三に、ブルジョア民主主義の原理に反するさまざまの選挙制度上の制約、民意を民主主義の原理に従って反映しない議員定数の問題も支配階級に有利に作用する。
第四に、支配階級による被支配階級抑圧のための物質的装置である警察機構を用いた組織的な弾圧が被支配階級を代表する政党、労働組合、民主的諸団体等々にたいして日常的におこなわれている。また、裁判機構は、法それ自体がブルジョア民主主義的制限性をもっていることとあわせて、支配階級に有利に作用する。
第五は、支配階級を代表する政党と被支配階級を代表する政党との間に存在する中間政党の存在である。それは、資本主義の発達とともに増加する膨大な小ブルジョア階級の存在と労働組合(運動)を一つの基盤として発生し、支配階級の側からのさまざまな手段による働きかけによって、多かれ少なかれ支配階級の利益を擁護する役割をはたす。
資本主義の発達とともに労働者階級の一定部分は労働組合に組織されていくが、資本の側からの働きかけによって資本と賃労働の相互前提関係──関係の一側面にしかすぎない──に立脚し、したがって資本から独立していない右翼的な労働組合と労働組合運動の流れが恒常的に存在するようになり、支配階級は資本主義的利潤と社会的地位の保証をとくにこうした組合と運動を主導する幹部──これらの幹部は公然と資本の側からも送り出される──に与えながら、右翼的な傾向を強めようとする。
労働組合と労働運動を基盤として形成される中間政党が右翼的になればなるほど、この中間政党は、資本にたいする幻想をふりまき支配階級の擁護者の役割をますますはたすようになり、労働者階級の階級としての成熟をおしとどめる。体制の安全弁としての中間政党の育成は、支配階級がその支配を維持するための決定的な条件である。
第六に、教会や寺院の存在が宗教的イデオロギーを生むように、支配階級が支配する社会的制度・機構・組織、政治的機構・組織、経済的機構・組織、イデオロギー機構・組織などの存在が支配的イデオロギーをたえず生み出し、そうした支配的イデオロギーを労働者・国民はその生活過程のなかで、また生育過程のなかで身につけていく。
人々が民族的伝統や習慣をその生活と生育過程のなかでイデオロギーとして身につけていくのと同じことがこの支配的イデオロギーについてもいえるのである。
と同時に、支配階級はとくに発達したマスメディアを利用しながらさまざまな形態の支配的イデオロギー、意識してつくられた支配的イデオロギー──天皇制イデオロギーや反共イデオロギーに代表的にみられる──を労働者・国民に注入する。被支配階級は支配階級のイデオロギーを外的に注入されるのだが、この場合に、人々がイデオロギーの地盤のうえに生育し、教育され、生活し、労働することが、被支配階級が支配階級のイデオロギーを受け入れることのひとつの条件となっていることに注意しなければならない。
以上のような大きくいって六つの理由から、支配階級は少数者にもかかわらず国民の多数を獲得し政治的執行権力をその手中に握るのである。
(上野俊樹著「現代資本主義国家の一般論」上野俊樹著作集C 文理閣 p79-81)
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◎「労働者が資本主義社会のからくりや搾取される労働者の運命を自覚し、資本家や政府との敵対関係を理解することが深まれば深まるだけ、労働組合活動にたいする積極性が増し、組合は強化され……この中から組合活動家が大量に養成されてくる」と。