学習通信060920
◎最近の子育て事情……

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親に言われた傷つくことば

 みんな、親に対して「くやしい」と思ったことある?

 どうしてそんなことを聞くのかと言えば、最近クリニックに相談に来る若い人たちから「親にこんなひどいことを言われました。くやしくてくやしくて許せない」「できれば復しゅうしたい」といったことばを聞いて、ドキリとすることが多いからだ。

 たしかに、とくに親に言われたことばに「どうしてそんなひどいこと、平気で言うの?」と思うことは私にもよくあった。というか、実は今でもときどきある。このあいだ実家に寄ったときも母親を喜ばせようと思って、「今度、この町に近いところに講演に来るんだよ」と教えたら、「こんな地方に来るなんて、東京で仕事がなくなったの?」と言われて、カチンときた。

 でも、そのすぐあと、母親は自分の言ったこともすっかり忘れたように「じゃ、そのときはまたうちに来るわね? なにが食べたい?」などときげんよく言い出したのだ。いつまでたっても「自分の子どもだから、冗談半分にちょっとからかってもいい」と思ってるんだね。私も今さらくやしがる年でもないし、「あーあ、またか」と聞き流せるようになったけれど、もう少し若かったら「ひどい! じゃ、そのときは絶対、うちなんか寄らないよ!」とどなったと思う。

 でも、これは私だけじゃないみたいで、三〇代、四〇代の友だちと集まると、ときどき「どうしても昔、親に言われたあのひとことは許せない」という話によくなる。中には今になって「お母さん、私が小学生のころ、どうしてお兄ちゃんはおりこうなのに、あんたはだれに似てデキが悪いのかねえ≠ネんて言ったの?」と勇気を出して問いただす人もいる。ところが、ほとんどの場合、親は「えー、そんなこと言ったっけ? ぜんぜん覚えてない」とか「お兄ちゃんよりあなたのほうが成績もいいし、いい子だなとずっと思ってたのよ」とか言われ、「私の長いあいだのくやしさ≠ヘなんだったの?」と逆にがっくりきたりするらしい。

 子どもはなんでも本気に取るんだから、親とはいえ、冗談半分で傷つくようなことは言わないでほしい。私は元子ども≠ニしてそう思う。でも、おとなの立場としては子どもたちにも、「親って子どもにはつい気を許して、ほかの人には言わないようなことも言っちゃうイキモノなんだよね。だから、あまり深刻に受け止めないで」と言いたい。

 もちろん、おとなに言われたことを「くやしい!」と思ったり、「今に見てろ!」と思ったりすることも、人間の成長には必要なことだ。だからといって、何十年も「親は許せない」と思い続けたり、「復しゅうしてやる」と自分が傷つくようなことをしたりするのは、損というもの。「ひどーい!」と怒りながらも、「あー、また言ってるよ」と余裕の態度で接するのも上手な親とのつきあい方≠ネのかもしれない。

□親や先生に言われてくやしかった「忘れられないひとこと」はありますか
□親や先生に言われてうれしかった「忘れられないひとこと」はありますか
□あなたがおとなになったら、子どもや若者にどんなことばをかけてあげたいですか
(香山リカ著「10代のうちに考えておくこと」岩波ジュニア新書 p74-76)

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生活 ファミリー
つめかむ 指しゃぶり
子どもの癖 放っておけない親

指をしゃぶる。つめをかむ。子どもには色々なくせがある。たいていは自然に卒業≠キるが、親が口や手を出さずに放っておくことが大切だという。ところが最近の子育て事情は、最短距離で「いい子」を育てるムードが強い感もある。子どもをうまく放っておくのも努力を要するようだ。

 手首の内側を鼻に近づけてクンクン。娘(8)のしぐさに安田祐子さん(仮名、41)が「くせかな」と気づいたのは今から三年前。運動会のビデオで大写しになった娘が、手首のにおいをかいでいた。見ていると一時間に一回はかいでいる。

 やめるように言ったらかえってひどくなった。一年ほどでやらなくなったが、今は鼻の下を伸ばす。勉強に集中した時など、スーッと伸ばすことで緊張を発散させているようだという。本人も気にし始め、最近は隠れてするようになった。

 くせは本人にやっている意識がなく、指摘されて初めて気づくもの。言われてやめられるならくせではない、ともいわれる。子どもに多いのは指しゃぶりやつめかみ、耳を触る、性器を触る、へそをいじる、鼻に指を入れる、髪の毛を抜く──などだ。

 「人間にはいろんなくせがある。異常や病気と考えないで」と話すのは、東京・渋谷で五十年近く小児科を開業し「たぬき先生」と親しまれる毛利子来(たねき)医師(77)。くせは生物として当然の体の動きで、不安や緊張、寂しさなどを解消する働きがある。大人の場合も貧乏揺すりや髪に手をやるなど「なくて七癖」は同じ。それなのに、子どもの場合は親が「やめなさい」と注意しがちだ。

 親が気にするきっかけの一つが、幼稚園や小学校など集団生活に入るときだ。世間の目が気になることもあり、子ども自身は何とも思っていないが、親が「恥ずかしい」とやめさせたくなる。指しゃぶりをしないようにばんそうこうを張ったり、手袋をはめさせたりする親もいる。

 確かに原因が病気である場合もある。代表的なのが、まばたきや口をゆがめる、肩を小刻みに揺らす、声を発するなど「チック」と呼ばれる動きや音声のくせ。軽いものなら一過性で消失するが一年以上の慢性的なものは「トゥレット症候群」と呼ばれ、薬で治療するケースもある。

 息子二人が同症候群である特定非営利活動法人、日本トゥレット協会(東京・中央)理事の高木洋子さんは「育て方が原因と言われることがあるが、神経疾患の一つだ」と話す。治療を視野に親が目を行き届かせつ必要もあるだろう。

 こうした病気でない限り、本来、子どものくせを親が心配する必要はない。熱やだるさ、痛みなどの症状がなく、くせだけならば「放っておいて」と毛利医師はアドバイスしている。世間体からやめさせられたら子どもはいい迷惑で「子どもの恥をしのぶのが親の務め」と若い親に話をすることもあるそうだ。

「育児にも成果主義」

 一口に世間体を気にするといっても、親の心情は様々だ。 ある小学生の母親は、くせやおねしょなどの悩みについての親同士の相談は、幼稚園時代はできたが今はしにくいという。子どもが大きくなるにつれ「ほかの子に克服できて自分の子にできないことが気になってくる」からだ。親として落第点をつけられた思いがしてしまうという。

 しかし、くせは無理やりやめさせようとするなど、親が必要以上に干渉すると、ストレスから余計にエスカレートすることがある。子どもが自尊心を損ねたり罪悪感を覚えるなどの弊害も指摘されている。

 「熱血パパ」台頭も、くせをはじめとする個性の芽摘んでいると見る向きがある。父親の育児を後押しする雑誌ブームの一翼を担うプレジデント社の「プレージデントファミリー」編集長、鈴木勝彦さんは「自分の子育てに自信が持てず、よそのお宅はどうなっているのか比較したい読者が多い』と話す。ここでも「ほかの子にできて」という親の心情が見え隠れする。 安田教育研究所代表の安田理さんはこう疑問を投げかける。「父親の育児は歓迎すべきだが、仕事と同様、成果にこだわるあまり、くせを含めて子どもが自分の力で育っていくプロセスを黙って見守れなくなっているのでは」
(日経新聞 2006.09.14)

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くらし 彩々
見直してみませんか
親子の関係
おしつけず、命令せず、支配せず
原宿カウンセリングセンター所長(臨床心理士)
信田さよ子さんに聞く

 子どもが親を傷つけたり、殺したりする事件が相次いでいます。今改めて、親子の関係を見直してみませんか。家族の中で起こるさまざまな問題についてカウンセリングを続けている、原宿カウンセリングセンター所長・信田さよ子さん(臨床心理士)に聞きました。〈平川由美記者〉


 親への暴力、薬物依存、過食・拒食症、不登校、引きこもりなど、本人や親のカウンセリングを通して私が実感しているのは、子どもの問題は、その家族が抱えている問題と無関係ではないということです。

同じ平面で

 夫婦や親子でちゃんと相手の言葉を聞き、押しつけず、命令せず、支配せず、同じ平面で語り合えているでしょうか。家族の楽しい時間があって、気持ちが通じ合ったという感覚が持てているでしょうか。

 外ではちゃんと仕事をしている父親が、家庭では妻や子どもと情緒的交流を持たず、自分の意に沿わないと暴力を振るうケースがしばしばあります。

 お父さん。自分のプライドのために、子どもに過大な期待を強制していませんか? 期待に適合しないと、「この子はだめだ」とすぐにあきらめ、切り捨てていませんか? 子どもの問題を妻にまかせっきりにしていませんか?

 夫の愚痴や生活の不満を子どもに垂れ流し続ける母親が、たくさんいます。

 お母さん。子どもに寄りかかって慰めを求めていませんか? 自己実現の道具にしていませんか?

 子どもは生存をかけて親を理解し、その期待に沿おうとしている存在です。そうしなければ、その家庭で生きていけないため必死なのです。「お父さんはなぜ不機嫌なんだろう」「お母さんはなぜ悲しそうなんだろう」「お父さんとお母さんはなぜ結婚して、あんなふうになってるんだろう」としょっちゅう考え、親を支えようとしています。

 そんな子どもの気持ちにつけこんで、親はしたい放題、言いたい放題のときがあるのではないでしょうか。

 親は自分の幸せを、子どもとは別のところで、自身の責任でつくる努力をしなければなりません。

 私は、子どもの問題で相談に来る母親に「これからは、あなたがどう生きたいのか考えましょう」と言います。母親が明るく元気になれば、子どもも驚くほど元気になります。

寄り添う心

 子どもに何か問題が起こっている場合、その子をどこかに入れてしまおう、だれかに説得してもらおう、診断名をつけて有効な薬を飲ませようなど、子どもの方を変えようとすると、ますます追い詰め、極端な場合、殺人に向かわせることにもなります。

 これは、自分たち親は正しくて、子どもが間違っていると責める態度なのです。そこには苦しみに寄り添う姿勢が感じられません。

 親自身がどう変わったらいいのか、夫婦そろって努力することが大切です。親の対応を変えるのです。

 親が相談機関に出向いて、家族以外の第三者を介入させることで、家族に風穴をあけることが必要です。

 日ごろから、自分たち家族が多様性を認めているか、違いを認めているか、心がけてください。自分と違う意見を家族が言うのを、認めることです。子どもが期待通りになっていなくても、その子を認めてあげましょう。親の期待は痛いほどわかっているのに、どうしてもそうなれないと苦しんでいるのですから。

 子どもが突っかかってきたとき、「あなたはそう思ってるのね。話してくれてありがとう」と相手の言葉をまず受け止めましょう。次に「私の話も聞いてくれる?」と対話を繰り返していくことが必要です。

 このとき、子どもは自分の所有物ではないという距離感と、伝え方が大切になってきます。どういう言葉をどういう口調で語りかけるか、何を言ってはいけないか。子どもの「基本的人権」を尊重する姿勢を持つことです。

 対話といっても、親の主張を押しつけるだけの場合がしばしばあります。親に本当に聞く気持ち、変わる準備があって、初めて対話が成り立つのです。

 子どもをもっと肯定して褒めようではありませんか。甘やかすのではないかと恐れる必要はありません。子どもに苦労させないようにと親が先取りすることこそ、甘やかしなのですから。
(しんぶん赤旗日曜版 2006.9.17)

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◎「子どもは生存をかけて親を理解し、その期待に沿おうとしている存在……そうしなければ、その家庭で生きていけないため必死なの」だと。