学習通信061004
◎人件費の増大に「抵抗」している……

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 おそらく、つぎのような異議がとなえられるであろう。

──資本家は彼の生産物を他の資本家たちと有利に交換することにより、彼の商品にたいする需要の増大──新市場の開発の結果であれ、旧市場での一時的な需要の増大などの結果であれ──により、利益を得ることができる。

だから、資本家の利潤は、第三の資本家をだますことによって、労賃、すなわち労働力の交換価値の上昇および下落とは無関係に、増大することができる、と。あるいは、資本家の利潤は、労働用具の改良、自然力の新しい利用によっても、増加しうるであろう、と。

 まず第一に、逆の道を通って来たものではあっても、結果はやはり同じである、ということを認めなければならないであろう。なるほど、労賃が下落したから利潤が増大したというわけではない。しかし、利潤が増加したから労賃が下落したのである。

資本家は、以前と同額の他人の労働で、以前よりも多額の交換価値を買ったのであるが、だからといって労働に以前よりも高く支払う必要はなかった。すなわち、労働は、それが資本家にもたらす純益にくらべて、以前よりも低く支払われるのである。

 さらに、われわれは、商品価格が変動しても、各商品の平均価格、各商品が他の諸商品と交換される比率は、その生産費によって規定される、ということを思いだす。

したがって、資本家階級内部での瞞着(まんちゃく)は、必然的に相殺されるのである。

機械の改良、生産のための自然力の新しい利用は、あたえられた労働時間内に、以前と同量の労働と資本とでいっそう多量の生産物をつくりだすことを可能にするが、以前よりも多量の交換価値をつくりだすことはけっしてできないのである。

もし、私が紡績機械を利用して、一時間にその発明前の二倍の糸を──たとえば五〇ポンドのかわりに一〇〇ポンドを──供給することができるとしても、この一〇〇ポンドと交換に、以前五〇ポンドで交換したよりも多量の商品を長期にわたってうけとるわけにはいかない。なぜならば、生産費が半分に減少しており、私は以前と同じ費用で二倍の生産物を供給できるからである。

 最後に、一国のであれ、全世界市場のであれ、資本家階級、ブルジョアジーが、生産の純益を彼らのあいだで、どのような比率で分配しようとも、この純益の総額は、つねに、たくわえられた労働が、大体において、直接的な労働によって増加されただけの額にすぎない。

だから、この総額は、労働が資本を増加させるのに比例して、すなわち労賃に対抗して利潤が増大するのに比例して、増加するのである。

 そこで、つぎのようになる。われわれが資本と賃労働の関係の内部にとどまっている場合でさえ、資本の利害と賃労働の利害とは正反対に対立するのである、と。
(マルクス著「賃労働と資本」新日本出版社 p63-65)

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日銀9月短観
実感伴わない景気拡大
戦後最長記録は確実も……
賃金、消費に及ばず


 日銀が二日発表した九月の企業短期経済観測調査(短観)は、大企業の業況判断指数が改善し、原油高や米国経済の減速といった不安要因を抱えながらも、経営者の景況感が力強いことを裏付けた。二〇〇二年二月から続く景気拡大は十月には五十八ヵ月に達し、戦後最長の「いざなぎ景気」を抜くのは確実だ。


 短観では、景気拡大を映して企業の人手不足感が強まっていることが鮮明になったが、賃金の上昇や消費拡大の力は鈍く、個人にとっては「実感」が伴わない景気拡大となっている。リストラで収益力を回復させた企業部門の勢いが、家計にどう波及してくるかが、今後の景気持続力を左右することになる。

 九月短観では、雇用が「過剰」と答えた企業から「不足」の割合を引いた指数が、全規模・全産業でマイナス八と、一九九二年八月(マイナス一二)以来のマイナス幅。先行きも人手不足感が強まる傾向にある。

 しかし「消費を支える賃金の上昇にはなかなか結び付かない」と日銀幹部は話す。国税庁によると、民間企業に動める人の平均給与は昨年までで八年連続下落。バブル期と異なり、厳しいリストラを経験した企業はコスト意識が強く、賃金の低いパートタイマーら非正社員を増やすなどして、人件費の増大に「抵抗」していることが要因だ。

 企業業績は二〇〇六年三月期決算で、経常利益の伸びが四年連続二けたとなるなど好調だが、賃金は増えず、慎重な消費姿勢が続く。内開府の八月の消費動向調査は三カ月連続で基調判断を「弱含み」とした。追加利上げを模索する日銀は、企業から家計へ景気拡大の恩恵が円滑に移行するか、慎重に見極める方針だ。
(京都新聞 2006.10.3)

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◎「われわれが資本と賃労働の関係の内部にとどまっている場合でさえ、資本の利害と賃労働の利害とは正反対に対立するのである」と。