学習通信0601017
◎アメリカには労働時間を制限する法律が……

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三。われわれはこれまで、労働日には一定の限界があると仮定してきた。しかし労働日それじたいに不変の限界があるわけではない。

労働日を肉体的に可能な最大限の長さまでひきのばそうとすること、これが資本の不断の傾向である。

というのは、この延長と同じ程度に剰余労働が、したがってそこから生じる利潤がふえるからである。資本が労働日をひきのばすことに成功すればするほど、資本が領有する他人労働の量はますます多くなるであろう。

一七世紀のあいだ、また一八世紀のはじめの三分の二のあいだにおいてさえ、一〇時間労働日がイギリス全土での標準労働日であった。

反ジャコバン戦争──それはじつは、イギリスの労働者大衆にたいしてイギリスの貴族たちがしかけた戦争であった──のあいだ、資本は飲めや歌えの大さわぎをして、労働日を一〇時間から一二時間、一四時間、一八時間にひきのばした。

マルサスは、涙もろい感傷的な人物などではけっしてないけれども、彼は、一八一五年ごろに公けにされたパンフレットのなかで、もしこうした事態がつづいたら、国民の生命の源泉そのものが脅かされるであろうと、言明した。

新発明の機械が一般に採用されるようになった数年前、一七六五年ごろに、『工業にかんする一論』と題するパンフレットがイギリスで出た。公然と労働者階級の敵であると名のり出たその匿名の著者は、労働日の限界をひろげる必要があると熱弁をふるっている。

彼は、この目的のために、とりわけ救貧院を設けることを提案しているが、彼の言うところによると、それは「恐怖の家」たるべきものである。では、彼がこの「恐怖の家」のために定めた労働日の長さはどれだけであるか?

 一二時間である。すなわち、一八三二年に資本家や経済学者や大臣たちが、一二歳未満の子供にとっての現行の労働時間であるだけでなく必要な労働時間であると宣言したのと、それはまさに同じ時間なのである。

 労働者は自分の労働カを売ることによって──現在の制度のもとでは彼はそうせざるをえない──その労働力の消費を資本家にゆずりわたすのであるが、しかしそれは一定の合理的な限界内でのことである。

彼が自分の労働力を売るのは、その自然的な消耗はべつとして、それを維持するためであって、破壊するためではない。

自分の労働力をその一日分または一週間分の価値で売るばあいには、一日または一週間のうちに、その労働力が二日分または二週間分の摩損または消耗をうけないものと了解されているのである。

一〇〇〇ポンドに値する機械をとってみよう。もしそれが一〇年間でつかいはたされるとしたら、それは、そのたすけをかりて生産される商品の価値に毎年一〇〇ポンドつけくわえることになろう。

もしそれが五年でつかいはたされるとしたら、それは毎年二〇〇ポンドつけくわえることになろう。すなわちその年々の消耗の価値はそれが消費される時間に反比例する。

だが労働者が機械と異なるのはまさにこの点である。機械は、それが使用されるのと正確に同じ比率では消耗しない。これに反して人間は、仕事のたんなる数字的加算から考えられるよりもずっと大きな比率で衰えるのである。

 労働者が労働日をもとの合理的な範囲にまで短縮しようとくわだてるのは、あるいは彼らが法律による標準労働日の制定を強制することができないばあいに賃金の引上げ──たんに強制された剰余時間に比例するだけでなく、それよりも大きな比率での賃金の引上げ──によって過度労働を阻止しようとくわだてるのは、彼ら自身と彼らの種族にたいする義務をはたすだけのことである。

労働者は資本の暴虐な強奪を制限するだけである。

時間は人間の発達の場である。思うままに処分できる自由な時間をもたない人間、睡眠や食事などによるたんなる生理的な中断をのぞけば、その全生涯を資本家のために労働によって奪われる人間は、牛馬にもおとるものである。

彼は、他人の富を生産するたんなる機械にすぎず、からだはこわされ、心はけだもののようになる。

しかも近代産業の全歴史がしめしているように、資本は、もしそれをおさえるものがなければ、むちやくちやに情容赦もなくふるまって、全労働者階級をこの極度の退廃状態におとしいれることをやるであろう。

 労働時間を延長するばあい、資本家は、前よりも高い賃金を支払いながら、しかも労働の価値を低くすることができる。

賃金の引上げが、しぼりとられる労働量の増大と、そのために生じる労働力のいっそう急速な衰退とに照応しないばあいには、そうなる。

このことは、別の方法でもおこなえる。たとえば、中産階級的〔ブルジョア的〕統計家たちは、ランカシアの職工家族の平均賃金は上がった、と諸君につげるであろう。

彼らは、世帯主である男子の労働のかわりに、いまでは彼の妻とおそらく三、四人の子供たちまでが資本のジャガノートの車の下に投げこまれているということ、また賃金総額の増加は、この家族から搾取される剰余労働の総額には及ばないということを、忘れているのである。

 今日、工場法の適用されるすべての産業部門では労働日に一定の制限が設けられているが、そうした制限があるばあいさえ、労働の価値のこれまでの水準を維持していくためにだけでも、賃金の引上げが必要となることがある。

労働の強度を増大させることによって、以前には二時間で費やしたのと同じ生命力を一時間で費やさせることができるかもしれない、こうしたことは、工場法が適用されている事業において、機械の運転速度の増大や、一人の人がいまやうけもたなければならない作業機械台数の増加によって、すでにある程度まで実行されている。

もし労働の強度の増大、すなわち一時間以内に費やされる労働量の増加が、労働日の長さの短縮とほぼ適当な比例をたもつならば、労働者はなお得るところがあろう。

もしこの限度をこえるならば、労働者は一方で得たものを他方で失うのであり、そうなれば一〇時間の労働は以前の一二時間労働と同じくらいに有害となるであろう。

労働者が労働の強度の増大に見分うだけの賃金の引上げを要求する闘争をおこない、資本のこうした傾向をおさえるのは、自分の労働の減価と自分の種族の退廃とに抵抗しているにすぎないのである。
(マルクス著「賃金、価格および利潤」新日本出版社 p168-171)

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サービス残業 是正 05年度
1524社で233億円支払い

 厚生労働省は二日、過労死や過重労働の温床となっているサービス残業(ただ働き)について、二〇〇五年度の調査結果を発表しました。

 労働基準監督署から是正指導を受け、百万円以上の残業代を支払った企業は千五百二十四社、総額は二百三十二億九千五百万円にのぼり、いずれも前年度より増加しました。対象労働者は十六万七千九百五十八人でした(前年度比千百五十人減)。

 企業数は調査を開始した〇一年度以来最高。労働者の告発や日本共産党の追及を反映すると同時に、サービス残業の実態も「高水準のまま」(同省労働基準局監督課)となっていることが浮き彫りになりました。

 一社平均の支払い額は千五百二十九万円、労働者一人あたり十四万円。

 五社に一社は一千万円以上を支払っており、最高額は二十二億九千七百万円(製造業)。次いで二十一億四千万円(金融・広告業)、八億二千四百九十六万円(建設業)となっています。

 日本共産党や労働者の追及を受けて労働時間の厳格な把握を企業に課した同省通達(〇一年度)以降では累計で、五千百六十一社、対象労働者六十六万七千人、支払い総額八百五十一億六千万円にのぼっています。

解説
実態まだ高水準 監督の強化必要

 サービス残業は、割増賃金支払い義務を課した労基法に違反する、れっきとした企業犯罪です。

 サービス残業をなくせば百六十万人の雇用が創出できるという試算もあります。非正規雇用の増大に歯止めをかけ、健康をむしばむ長時間労働をなくすためにも監督指導の強化が求められます。

 ところが、労働基準監督官の数が少なく、監督官が毎日一カ所に行っても全事業所を回るのに数年もかかる状態です。

 厚労省が裁量労働制といういくら働いても残業代を払わずにすむ制度を広げてきたことも温床になっています。さらにホワイトカラー(事務系)労働者を労働時間の法規制から外す制度(自律的労働時間制度)を審議会に提案しています。ただ働きと過労死をいっそう深刻にするものです。

 ホワイトカラーの適用除外は、財界の意向を受けたものです。サービス残業の是正指導を受けた財界は「国際競争力の維持・強化の阻害要因となりかねない」(日本経団連経営労働政策委員会報告〇五年版)として、年収四百万円以上の労働者を労働時間の規制から外すよう求めてきました。

 財界の横暴を許さず、労働時間の規制緩和に反対するたたかいが重要になっています。(深山直人)
(「赤旗」20061003)

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日本共産党 Q&A 知りたい・聞きたい
ホワイトカラー・エグゼンプションって?
〈問い〉 財界がねらっているホワイトカラー・エグゼンプションって何のことですか? (大阪・一読者)

 〈答え〉 残業代を払わずに何時間でも労働者を働かせたいと財界・大企業は考えています。しかし、いまは労働基準法があってできません。平日の残業や休日出勤をさせたら25%以上、深夜業の場合は50%増の割増賃金を払わなければなりません。

 そこで出てきたのが、ホワイトカラー・エグゼンプション(事務労働者・除外)です。

 財界の総本山・日本経団連が六月に「提言」を出しました。労働基準法に、「ホワイトカラーは労働時間規定の適用を除外する」という項目を設け、「一定の要件=年収400万円以上」の事務労働者は「地位、権限、責任、部下人数等とは無関係」に、労働時間規制の対象外にするという中身です。

 これでは、定刻になっても帰れず、夜なべしても残業代なし、過労死しても「自己責任」―こんな働き方になるということです。

 この制度は、アメリカが本家です。アメリカには労働時間を制限する法律がなく、公正労働基準法で、労働時間が週40時間を超えたら1・5倍の割増賃金を払うという条項があるだけです。この条項を除外するというのがホワイトカラー・エグゼンプションです。アメリカの場合には、まだ管理、運営、専門職に限定する要件があるのに、日本経団連の「提言」は、それさえないひどい内容です。

 01年に小泉内閣が財界代表を中心に発足させた「総合規制改革会議」で初提起され、02年3月の「規制改革推進三カ年計画」に盛り込まれて閣議決定。今年4月に有識者による研究会が発足。年内に報告をまとめ、来年の国会に法案を提出しようという早いテンポです。

 日本共産党は1976年以来、ただ働きを是正するよう、国会で240回余も主張してきました。その結果、厚生労働省が01年4月6日付でサービス残業根絶の通達(4・6通達)を出し、これを力に労働者の申告が相次ぎ、トヨタなど主要企業が不払い残業代を支払わされました。このため、財界はこの通達を敵視し、直後から反撃の動きを開始。「総合規制改革会議」がホワイトカラー・エグゼンプションを「早急に検討着手」としたのです。(弘)
(「赤旗」20050917)

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◎「延長と同じ程度に剰余労働が、したがってそこから生じる利潤がふえるからである」と。

◎「時間は人間の発達の場である……思うままに処分できる自由な時間をもたない人間、睡眠や食事などによるたんなる生理的な中断をのぞけば、その全生涯を資本家のために労働によって奪われる人間は、牛馬にもおとるものである」と。