学習通信061024
◎成果主義賃金の最大の欠陥……

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 つぎにわれわれは、賃金の引上げをくわだてたり、賃金の切下げを阻止したりしようとする主要なばあいを、慎重に考察してみよう。

 一。すでにのべたように、労働力の価値、あるいはもっと通俗的な言いかたをすれば労働の価値は、生活必需品の価値、すなわち生活必需品を生産するのに必要な労働量によってきめられる。

そこで、もしある国において、労働者の一日平均の生活必需品の価値が、三シリングで表現される六時間の労働をあらわすとしたら、労働者は彼の毎日の生活資料にたいする等価物を生産するために、毎日六時間働かなければならないであろう。

全労働日が一二時間であっても、資本家は、労働者に三シリング支払うことによって、彼の労働の価値を支払うことになるであろう。労働日の半分は不払労働であり、利潤率は一〇〇%になるであろう。

ところでいま、生産性が低下した結果、たとえば同じ量の農産物を生産するのに、まえよりも多くの労働が必要となり、そのため一日平均の生活必需品の価格が三シリングから四シリングに上がったと仮定しよう。

このばあいには、労働の価値は三分の一すなわち三三1/3%だけ高くなるであろう。

労働者が以前の生活水準におうじた毎日の生活資料にたいする等価物を生産するためには、労働日のうち八時間が必要とされるであろう。

したがって剰余労働は六時間から四時間にへり、利潤率は一〇〇%から五〇%に下がるであろう。

だが労働者が賃金の引上げを要求したとしても、彼はただ、彼の労働の増加した価値を得ることを要求しているだけであって、それは、他の商品の売手がだれでも、彼の商品の費用が増加したばあいには、その増加した価値を支払ってもらおうとするのと同じことである。

もし賃金が上がらないならば、または生活必需品の増大した価値をつぐなうのに十分なだけ上がらないならば、労働の価格は労働の価値以下に下がり、労働者の生活水準は悪化するであろう。

 しかし、これと反対の方向に変化がおこることもあろう。

労働の生産性が上昇したおかげで、一日平均の生活必需品の同じ量が三シリングからニシリングに下がるかもしれない。

つまり毎日の生活必需品の価値にたいする等価物を再生産するためには、労働日のうち六時間でなく四時間だけしか必要としないかもしれない。

このばあいには、労働者は以前に三シリングで買ったのと同じ量の生活必需品をニシリングで買うことができるであろう。

なるほど労働の価値は下がりはしたが、しかしその減少した価値は以前と同じ量の商品を支配するであろう。

このばあいには、利潤は三シリングから四シリングに上がり、利潤率は一〇〇%から二〇〇%に上がるであろう。

労働者の絶対的な生活水準はあいかわらず同じであっても、彼の相対的賃金、したがってまた資本家の社会的地位と比較した彼の相対的な社会的地位は低下したことになる。

たとえ労働者がこの相対的賃金の切下げに抵抗するとしても、彼はただ、自分自身の労働の増加した生産諸力からいくらかの分け前を得て、社会的等級のなかで占める自分の以前の相対的な地位を維持しようとしているにすぎないのである。
(マルクス著「賃金、価格および利潤」新日本出版社 p164-166)

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 成果主義賃金の狙いは人件費の大幅削減
 日本大学教授(社会政策論)牧野富夫さん

 成果主義賃金は、賃金を労働の「成果」で測ろうという賃金制度で、1990年代半ばに、バブルの崩壊とグローバル化(多国籍企業化)の中で、日本の大企業が一斉に採用しました。

 それまでの賃金制度は、年齢を重ねるほど賃金が上がっていく年功賃金・終身雇用でした。能力で賃金を決める職能給もありましたが、これは動続年数を「能力」と読み替えた事実上の年功賃金でした。

 成果主義賃金の導入からざっと10年がたち、いまではずいぶん問題点が露呈しています。

 その第1は、「成果」をあげれば賃金が上がるという表向きの宣伝とは遂に、本当の狙いが人件費の大幅削減だということです。

 導人当初から私はこれを指摘してきましたが、いまでは、経営者も「高コスト構造を是正するために導人する」とはっきりいうようになりました。年功賃金では、年齢が増えるにしたがって賃金が右肩上がりになりますが、成果主義賃金では、例えば35歳で賃金の上昇が止まり、下がることもあります。

 第2は「働く意欲」を引き出すという名目で、個々人に「成果」を競わせるので、職場のチームワークや労働者の団結を破壊することです。

 例えば、先輩が後輩に仕事を教えなくなったり、職場の助け合いがなくなったりして、欠陥商品の生産や押し付け販売が横行するなど、モラルの崩壊を招きます。

 第3は、成果主義賃金導人を打ち出した95年の財界の報告「新時代の日本的経営」が「労働力の流動化」をうたっていたように、労働者を出し入れ自由≠ノする土台をつくることです。

 年功賃金だと、賃金の高い中高年をやめさせにくいし、外からも雇い入れにくい。賃金を年齢や勤続年数と無関係にすれば、労働者を安い賃金でどんどん入れ替え、リストラしやすくなります。

 しかし、成果主義賃金の最大の欠陥は、労働者の生計費の保障をまったく考えていないことです。人間らしく生きていける賃金≠要求していく運動が、この賃金制度の最大の狙いである人件費削減を撤回させる道だと思います。

 賃金差の根拠とされる評価や賃金分布を開示させることも効果的です。そうすれば、だれもがおかしいぞと気付くような不合理な制度なのです。
(2006年5月21日号 日曜版)
(職場ルポ「成果主義を追って」日本共産党中央員会出版局 p68-69)
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◎「労働力の価値、あるいはもっと通俗的な言いかたをすれば労働の価値は、生活必需品の価値、すなわち生活必需品を生産するのに必要な労働量によってきめられる」と。