学習通信061208
◎気休めにはなっても……

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不安につけこむ
電話占い 悪徳業者
覚えない未払い金払え

 「占いの電話相談を利用したら高額な金額を請求された」。友人がこんな被害にあったという女性から編集局に訴えがありました。誰もが生活や将来に不安を抱える社会。テレビや雑誌でも占いは花盛り…。それに付けこむ悪徳業者がいます。

「恋や仕事の悩みを払しょくします」「もっと幸せになりたいあなたに」…。女性雑誌におどる電話占いの広告文です。電話占いは、占い師が電話での相談に有料で応じるというものです。

 本紙に情報を寄せたのは、東京在住の三十代の君島里子さん(仮名)。飲食店に勤める友人(三六)が被害にあいました。

 友人が電話占いを利用したのは今年三月。雑誌に載っていたフリーダイヤルにかけるとオペレーターが出てきました。自分の電話番号を伝え、電話をきった友人。すぐに占い師から友人へ着信者負担の「コレクトコール」という形で電話がかかってきました。占い料は、一分二百十円。

 仕事はうまくいくか、恋愛は…。一時間半近くの話を終え、口頭で伝えられた約二万円をすぐに指定の口座に振り込みました。

さらに3万

 一カ月夜。占い料の料金回収を専門に行っているという回収会社の若い男性から電話が。「占い料の未払い金がある」と、さらに三万円以上を払うように要求されました。

 友人から相談を受けた君島さんが、業者との交渉にのりだしました。「全額払った。納得できない」とはねつけましたが、男性は「使ったのだから払う義務がある」の一点張り。その口調は、テレビで聞いた闇金融の取り立てのように威圧的なものだったといいます。

 その後も男性は、しつこく友人に電話をかけてきます。そのつど押し問答に。君島さんと業者のやりとりは今も続いています。

相談が増加

 国民生活センターに聞くと、この場合「支払う義務はないのだから、無視を貫く」「住所や電話番号などの個人情報は相手に知らせない」とアドバイスします。

 同センターには、電話占いの利用者から「初めの説明と違い高額な料金を請求された」「余談を長々とされ、請求がかさみ納得いかない」などの苦情が寄せられているといいます。

 いまや市場規模一兆円ともいわれるほど拡大した占い産業=B占いや運命鑑定などの「祈とうサービス」に関する相談は年々増加し、この四年間で倍に。二〇〇五年度だけで約千六百件の相談が寄せられています。

■生き方見据え
逃げないこと
安斎育郎
立命館大学教授の話

 人は、事がうまくいかないと、「何か」のせいにしたがる。占いはその「何か」を悪霊(あくりょう)や六曜(ろくよう、=大安、仏滅など)のせいにしたりする。

 確かに、人生は、能力や努力だけでなく、差別や格差などの社会的不条理や、事故や災害などの偶発的な出来事にも左右される。しかし、能力を磨いたり不条理を取り除くのは簡単ではないし、災害は運・不運の問題だ──そう感じる人々は、自分で対処できる「何か」のせいにする。悪霊ならおはらいで取り除けるし、日柄なら大安を選べばいい。占い師が見立てる不幸の原因を除去し、「これでよし!」と新規まき直しができる。

 だが、それは原因を正面から見据えていないから、気休めにはなっても本質的な解決にはならない。やはり、安易に占いに走って霊感商法の深みにはまるようなことを避け、生き方を見据えることから逃げないことが大切だろう。
(しんぶん赤旗 20061123)

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血液型性格占い

 日本には、「(ABO型の)血液型」と「性格」の間に何らかの関係があるという信念がかなり広く行き渡っているようです。カラオケ・スナックにも、岡本圭司作詞、ベートーベン・鈴木作曲の『演歌・血液ガッタガタ』という歌まであります。

 しかし、血液型研究には、人種差別や軍事研究とかかわった暗い歴史的事実があることはあまり知られていません。

 一八九四年の日清戦争後、ドイツ皇帝ヴィルヘルムニ世は、「黄禍論(こうかろん)」を背景に、ヨーロッパ諸国が黄色人種を抑えるべきことを主張しました。二〇世紀の初め、オーストリアのラントシュタイナーによってABO式の血液型が発見されましたが、それは直ちにヨーロッパ人種がアジア人種より優れていることを主張する尺度として応用されました。当時、ヨーロッパ人種はアジア人種にくらべて相対的にA型が多く、アジア人種はヨーロッパ人種にくらべて相対的にB型が多いとされていましたが、進化した動物ほどA型が多いという主張もなされました。

これは、ヨーロッパ人種の方がアジア人種よりも進化論的に優れていることを主張するには好都合でした。こうした差別的人種観は、やがて一九二〇年代〜二〇年代、アドルフ・ヒトラーによって極限にまで拡大されました。ヒトラーは「人間には『生きる価値のある人間』と『生きる価値のない人間』とがある」と考え、「生きる価値のない人間」とされたユダヤ人たちは、大量に虐殺されていったのです。

 血液型研究は、日本でも陰惨な様相を呈しました。一九二〇年代の世界は、二〇〇〇万人の犠牲者を出した第一次世界大戦の反省の上に、平和と軍縮の気運が優越していました。しかし、日本は、一九一七年のロシア革命の混乱に乗じてシベリアに出兵し、対外拡大政策を推進していました。のちに自民党総裁となった石橋湛山氏も、経済ジャーナリストとしてシベリア出兵を批判し、植民地政策の放棄を主張していました。さすがの政府もシベリアから兵を引かなければならなくなりましたが、その結果、日本では軍が精彩を欠き、世をはかなんで自殺する軍人も出るに至りました。

陸軍の士気が著しく低下したことを重くみた陸軍上層部は、血液型によって軍人としての適性を判断する可能性を探るため、軍医に研究を命じました。さっそく血液型と軍歴の関係に関する連隊ごとの調査が行われた結果、ヨーロッパとは違って、B型が優秀という結論が導かれました。やがて、血液型を指標に強い軍隊を編成する構想も提起されるに至りましたが、一九三一年に起こった「満州事変」を契機に事態は緊迫の度を加え、それどころではなくなりました。

 その頃、古川竹二という教育学者が三省堂書店から『血液型と気質』という本を著し、職業や結婚相手の選択にも血液型が役に立つという迷信を振りまきました。古川氏が発表した論文では、「A型とAB型は消極的」、「B型とO型は積極的」などとされており、民族の積極性を血液型で判定する「民族性係数」を定義して「ドイツ民族は積極的・進取的」などとしたため、ヒトラー政権下のドイツでも高く評価されました。

しかし、科学的には問題だらけで、当時の朝日新聞の「天声人語」は、「血液型と性格の関係は学問的価値が全くないのに、それを結婚や就職に使うなどは、丙午が迷信どころではない」と厳しく批判しました。やがて、「外交官にはO型が向く」という外務省嘱託医の建白書が出されるに至り、霞ヶ関の一課長が自分がO型でないのを苦に辞表を提出する事件まで起こりました。

 すでに述べたように、血液型はABO式だけでなく、E式、S式、Q式、Rh式、白血球の血液型など、おびただしい種類があることが知られています。すべての血液型が完全に一致する確率は、六〇〇〇億分の一よりも小さいということですから、自分と血液型が一致する人など金輪際いないと考えた方がいいのでしょう。学問的に根拠がないことが知られているにもかかわらず、近年、保育園のクラス分けに血液型を用いたり、企業の人事政策に特定の血液型を採用したりする例が見られるのはどうしたことでしょうか。

 血液型と性格の間に関係があると考えている学生は、人種差別・民族差別意識が強い傾向があるという調査結果もあります。その人物の実体を見ないで、血液型というレッテルで人物を決めつける考え方が、「朝鮮人だから」とか「黒人だから」という決めつけに通じるのかも知れません。

 読者の皆さんも、外国人にやたらに血液型を問うようなことはしない方がいいでしょう。「プライバシー情報に無神経な人だ」と思われるのが関の山ですし、だいたい外国人は日本人ほど自分の血液型を知らないでしょう。私が立命館大学で教えたオーストラリアの女子留学生も、日本人の友人に血液型を聞かれるのでとてもびっくりしたと語っていました。

 どこかの市に頼まれて講演に赴き、血液型と性格の関係について講演して控えの間に戻ったら、市の関係者に「ところで先生、血液型は何型ですか?」などと聞かれて驚かされることがあります。いったい何を聞いていたのでしょうか。仕方なく「B型です」と答えたら、「ああ、やっぱりねぇ」などと言われるに至っては、もう何をか言わんやです。

企業経営者が「うちの営業部はB型の人しか採用しない」と言い出したり、血液型でクラス分けする保育園があったりすることは見過ごせない問題でしょう。「A型だから優柔不断」「B型だから大胆不敵」などと、人間の実体を見ないで血液型というレッテルによって決めつける人間観は、「朝鮮人だから」とか「黒人だから」といったステレオタイプな人間観を増長するものであり、反人権的でさえあります。
(安斎育郎著「科学と非科学の間(はざま)」ちくま文庫 p50-54)

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◎「その人物の実体を見ないで、血液型というレッテルで人物を決めつける考え方が、「朝鮮人だから」とか「黒人だから」という決めつけに通じるのかも」と。