学習通信070214
◎生めよ殖やせよ国のため……
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柳沢発言
かばう政府・与党の異常
「済んだ話」
「言葉狩り」
「峠越える」
国会正常化をうけて、衆院予算委員会の総括質疑が九日に始まりました。与党からは自民四人、公明二人が質問に立ちました。ところが、柳沢伯夫厚生労働相の「産む機械」発言を問題にする質問は皆無。責任が同相だけでなく、これをかばい擁護する政府、与党全体にあることが鮮明になりました。
柳沢厚労相発言に関しては、すでに八日に、自民党各派閥領袖から耳を疑うような発言が相次いでいました。
「もう済んだ話だ。(発言への批判は)安倍晋三首相のイメージをひたすら落としたいという目的以外のなにものでもない」(町村信孝前外相)、 「言葉狩りに精を出すのはやめるべきだ」(高村正彦元外相)、「(厚労相問題は)峠を越えるだろう」(山崎拓前副総裁)
まさに、いいたい放題。発言を問題にするほうが問題だといわんばかりです。
罷免の意思なし
与党の厚労相擁護の姿勢は、七日に衆院予算委員会でおこなわれた補正予算の補充質疑でも同様でした。前少子化担当相である自民党の猪口邦子議員でさえ、「改めて謝罪していただきたいとは非常に申し上げにくい」としたうえ、「大臣は戦後、時代を切り開く努力をされてきた世代」などと持ち上げ、責任を完全に不問に付しました。
安倍首相にしてもそうです。八日、日本共産党の佐々木憲昭衆院議員が補充質疑で「発言の何が不適切だったのか」と追及しました。首相は、それに答えないばかりか、「厚生労働行政の責任者として職責を果たしていただきたい」と、まったく罷免の意思がないことを改めて表明しました。
政府・与党の態度は異常としかいいようがありません。
柳沢厚労相の「産む機械」発言は女性の人格と尊厳を根本から否定したうえ、「一人頭でがんばってもらうしかない」とまでいいました。これは、戦前の「産めよ増やせよ」と同じ発想であり、だからこそ、六日には、二人以上の子どもを持ちたいという若者は「きわめて健全」と、まるでノルマ≠課すような発言までおこなったのです。
本来、安心して結婚し、子どもを産み育てられる環境づくりが最大の使命である厚労相の立場と、女性を人口を増やす道具として扱い、少子化の責任が女性にあるかのようにみなす柳沢氏の思想と発言が両立するわけがありません。
内閣に問題あり
佐々木議員が八日の質問で、母子家庭にたいする児童扶養手当削減を見直すよう再三、要求したのにたいし、安倍首相も柳沢厚労相もこれを拒否しました。
「産む機械」発言をめぐる柳沢厚労相の居直り、政府・与党の言いたい放題と、少子化対策でまともな対応がなされないどころか、逆行する事態まで生まれています。
「柳沢大臣の発言の問題は、個人の問題ではなく内閣全体の問題。内閣自身に根本的な問題があると言わざるを得ない」(佐々木議員)ものです。(小泉大介)
(「赤旗」20070210)
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私論公論
「女性は生む機械」発言
人権侵す「富国強兵」の影
京都橘大名誉教授 鎌田 明子氏
柳沢伯夫厚生労働大臣が「女性は産む機械・装置」と発言し、女性は怒りを通りこして呆れはてている。この発言の根底に重大な問題が潜んでいることをわたしたちは決して見逃してはいけない。
数年前、森喜朗元首相が「子どもを産まなかった女性が年金を受け取るのはおかしい」という意味の発言をした。日本の社会でまっとうに税金を納めてきた女性でも、子どもを産まない人は肩身の狭い思いをせよとは何たることか、と多くの女性は憤慨した。
二人の発言の根幹をなしているのは「女性の天命は生殖と子育て」という観念で、人々の心の中に、硬直化した性別役割分担の意識を深く根付かせている。だから、時代の諸相に目を凝らし、絶えずみずからの思考を間い質(ただ)していない人は、あのような本音を吐くこととなり、世間の非難を浴びても運悪く地雷を踏んだようだと嘆くだけであろう。
政治家のこのような発言から考えるべきことは、国家の人口政策と個人の関係である。国を統治する者は軍事的・経済的要因や、労働力・食糧間題などを考慮しながら現在と将来を考え、時には強圧的人口政策をとることがある。二十世紀前半に勃発した二つの世界大戦は、多くの国に「富国強兵」の一環として人口増加政策をとらさせた。日本も例外ではなかった。国を強力にするために兵力となる若者が大量に必要とされ、まさに「女性は子産み機械」という認識が国民に強要された。優生思想に基づいたいわゆる「優秀な」子どもの出産が奨励され、避妊の知識は国民に知らされず、妊娠中絶は法律によって厳しく禁じられた。そういう事態が、個人の生殖に関する権利、特に女性の人権をどのように侵害し、身体をどのように痛めつけたかをわたしたちは忘れてはならない。
「子どもと若者が増えないと国力が衰える」という考えが強くなるにつれて、少子化現象は国の将来を危うくするといった不安や脅威が国民を覆うようになっていく。その結果、人口増加のためには国家の法的規制もやむをえないとの世論が作り上げられるようになれば、生殖に関する個人の私的権利を踏みにじった過去の悪夢がよみがえることは確実だ。
若い人たちが家庭を作り、子どもも数人産んで育てたいと思えるような社会が今の日本にあるのか、政治家はよく考えるべきである。そもそも男女ともに、結婚生活を営むに足る収入が得られない不安を抱え、子どもには高額の養育費と教育費が必要で、子育て支援の社会体制が貧困なことは、よく知っているのだ。
子育ては男女両性の仕事である、と明確に認識できない男性が多ければ、そして何よりも、日々の世情に不安を実感させられているならば、産まない選択をする人が多くなるのは必定である。
「社会がよくなると子どもの数が増える」ことは、政治いかんによる。スウェーデンの合計特殊出生率(一人の女性が生涯に産む子どもの数)が一・七を超えている(日本は一・二前後)のは、育児休業制度、両親保険、育児・養育給付などの子育て支援政策が充実しているからである。近年フランスで出生率が上昇したのは、非婚化か進んで婚姻制度抜きで子どもを持つ人が増えたからでもある。両国でどのような家族と親子のきずなが結ばれ、多様化した家族形態に政治はどのように対応しているか。日本の政治家は深く注意を払うべきだろう。
日本が、そのような新しい家族のあり方までをも視野に入れた政治へと進み、子どもを産み育てる気持ちがわいてくるような社会に変わっていかなければ、少子化をくい止める手段はない。
(「京都新聞」20070209)
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ついに本音が出たのでしょう
法政大学教授
(日本近世文化)
田中優子さん
本人と自民党の本音が出たと思いました。常にこう思っているのでしょう。
本来の少子化対策は、産みたい人は安心して産めるし、産みたくない人は産まないという一人ひとりの選択を保障するものです。そう思っていたら、「女は機械」なんていう言葉は絶対、口から出てこないでしょう。こういう方に、厚生労働大臣としての資格はないと思います。
この間の動き、防衛省に昇格させ、憲法を変えて、美しい日本、それを支える日本人の数を増やす…まるでいつか来た道。
「産めよ増やせよ」という発想ですね。
(「赤旗 日曜版」20070204)
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五 戦争と女性
総力戦体制と女性
総力戦とは、国民のあらゆる力を戦いに注ぐことである。つまり国民のすべてが、戦争に積極的に協力し、参加しなければ、その戦いを勝利に導くことはできないとの考え方である。
第一次世界大戦の経験は、この体制の強化を促した。
したがって、全国民の日常生活までも組み込んだ戦時体制を、どのように構築するかが重要な課題となる。日本の場合も同様に、国民の総力の引き出しをはかり、この体制にそぐわない社会主義者、自由主義者はもちろん、非協力的であるとみなされた者たちをも排除する政策をとった。一九三一年(昭和六)の満州事変に始まり四五年の敗戦にいたる長期戦は、一九三七年の日中戦争、一九四一年の太平洋戦争の勃発を経て次第に泥沼化し結末を迎えるのであるが、それにつれて総力戦体制はより徹底され、国内のすみずみにまで及ぶこととなった。女性も国民の一半を構成する者として、この体制に組み込まれた。
女性を総力戦に引き込む手本となったのは、満州事変の翌年に成立したドイツのヒトラーの率いるナチス政権である。日・独・伊の枢軸国の協力が強まる過程で、多くの諸メディアを通じて紹介された。ゲルマン民族の礼讃、その継承のための結婚と多産の奨励、母子救護事業、女子勤労奉仕団などが参考とされ、政策に取り入れられている。
昭和ひとけたの時期には、昭和恐慌の荒れ狂う農村がある一方で、都会ではまだ大正デモクラシーや婦人解放の風潮が残り、一見平穏な市民の女たちの姿が見られた。しがし、暫時後退し、逆に戦争協力派は積極的な評価を受け、著名な婦人たちも発言の場を与えられて抱きこまれていく。
婦選運動の中心的人物であった市川房枝は、日中戦争勃発直後に次のように言う。「然し、ここまで来てしまつた以上、最早行くところまで行くより外あるまい。(中略)悲しみ、苦しみを噛みしめて、婦人の護るべき部署に就かう」。当時の体制にそった中央協力会議などに加わる婦人の運動家・作家・評論家・教育者たちにもそれは共通であり「国策の線上に婦人が招かれたことはこの国の女性文化の一つの飛躍である」(村岡花子)ととらえており、「家族的国家は世界の家庭の模範」(羽仁もと子)と国策に添った意欲にもえた主張を展開している。
その周辺には戦争讃美の文学があり、戦争映画があり、ラジオから流れ出る戦意高揚の国民歌謡がある。挙国一致・王道楽土・昭和維新・尽忠報国・八紘一宇の流行語のほかに、「パーマネントはやめましょう」「生めよ殖やせよ国のため」「贅沢は敵だ」「欲しがりません勝つまでは」などの具体的な婦人向けの目標がかかげられ、戦争遂行の体制がつくりあげられたのである。
(総合女性史研究会編「日本女性の歴史」角川選書 p223-224)
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◎「この間の動き、防衛省に昇格させ、憲法を変えて、美しい日本、それを支える日本人の数を増やす…まるでいつか来た道。「産めよ増やせよ」という発想ですね。」と。