学習通信070215
◎われらが楽しみ(利潤)を増すがゆえに……

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『不都合な真実』……いま直視すべき衝撃の真実

 アル・ゴア著『不都合な真実』(ランダムハウス講談社・二八〇〇円)が売れています。危機的な地球環境の現状と対策を呼びかけた映画の書籍版。いま直視すべき「真実」を伝える、大判カラーの重く衝撃的な本です。

 「世界中の山岳氷河はほぼ例外なく、溶けつつある。しかも、その多くが急速な勢いで」 数十年前の写真と現状を次々と比較し、「温暖化」が明白であるという「不都合な真実」を暴き出します。

 「明らかに、私たちのまわりの世界に、ものすごい変化が起きている」というのは多くの人の共通認識でしょう。「京都議定書」への参加を拒んできたブッシュ政権でさえ、環境問題への対策を掲げざるを得ない状況です。

 「将来を守るため、私たちはもう一度立ち上がらなければならない」というのはもっともな主張です。ただし、個人の「節約」だけでは根本的な解決には程遠いようにも思えます。最大の環境破壊である戦争への追及が甘いところも物足りなさが残ります。ともあれ日本でも、環境問題は国をあげてとりくみ「政治問題化」すべきテーマです。

 なお、映画では結末近くで「共産主義」がファシズムや人種差別と同列に人類が「克服」してきた事例として例示されていましたが、書籍版ではカットされています。(金)
(「赤旗」20070211)

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いわゆる「市場の失敗」について──近代経済学の立場からの論点

 近代経済学は、基本的には市場メカニズム(価格メカニズム)によって、経済的な資源のもっとも効率的な配分が実現できるし、そのことによって生産者も消費者も最大の効用が得られるという考え方に立っていた。しかし、こうした考え方にたいしては、近代経済学の内部からも「市場は必ずしも万能ではない」ということが指摘されてきた。それは理論史的にみると、つぎのような四段階でおこなわれてきた。

第一段階──ピグーなどの厚生経済学の理論
 ▼市場経済は、所得の不平等からくる貧困や社会問題を解決できないので、政策的な是正を国家の福祉政策でおこなうことが必要であるという主張。

第二段階──ケインズの不完全雇用の理論
 ▼市場経済は、完全雇用を達成できない。市場にまかせておくと、総需要が不足して、失業が発生するので国家が公共事業などをおこなう必要があるという主張。

第三段階──一九六〇年代以降に言われるようになった「市場の失敗」論
 ▼市場経済は、環境破壊・公害などの外部不経済、都市間題など公共的インフラの不足、公共的消費財の不足、所得の不平等化などの弊害が避けられないという主張。

第四段階──一九八〇年代以降に言われるようになった「情報の非対称性」論
 ▼市場経済は、情報の対称性を前提としているが、現実の市場では、必ずしもそうした条件にはない。「情報の非対称性」のために、取引の歪み(不均衡)が生まれるという主張。

 こうした経過で「市場経済は必ずしも万能ではない」ことは、近代経済学内部でも理論的には確認されてきたと言ってもよいだろう。
 そこで、問題を資本主義的市場経済の場合に限定して、近代経済学の立場から間題にされている「市場経済の限界」の諸現象を整理すると、つぎのようになる。

@所得の不平等こ貧困
A失業(不完全雇用)
B交通・電力などインフラ不足
C公共的消費財部門の不足
D環境・公害間題(いわゆる「外部不経済」)
E一方での人口過密・他方での人口過疎
F一方での商品の過剰生産・他方での過少生産(不足)
(友寄英隆著「新自由主義とは何か」新日本出版社 p184-186)

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「赤旗」主張 国連・温暖化報告
経済社会のあり方が問われる

 地球温暖化の観測と予測についての国連の新しい報告書が六年ぶりにまとまりました。世界の科学者たちの知識と見識を集積した「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」第四次評価報告書第一作業部会の報告書です。

 報告書の特徴は、二十世紀半ば以降の温暖化の原因を「人為起源の温室効果ガスの増加」とほぼ断定したことです。二〇〇一年の第三次評価報告書では、「可能性が高い」としていましたが、今回の第四次評価報告書では、「可能性がかなり高い」と踏み込んだ表現になっています。

鍵を握る人間の活動

 温暖化が「人為起源」、つまり人間の営みによるものだということは、裏返せば、温暖化防止の鍵を握るのは人間の行動です。

 報告書は、大気中の二酸化炭素の量が、工業化以前の約0・0280%から二〇〇五年には0・0379%に増加しているとのべています。大気の構成は、酸素が約五分の一、窒素が約五分の四を占めており、人間が生きていくのにほどよい気候や気温を保障しています。それが、ここ半世紀ほどの人間の経済活動によって、二酸化炭素の増加の方向に大きく変化しつつあり、このまま放置すれば人類と地球の共存を危うくしかねない事態を招いています。

 その点で報告書が、今後の経済活動のあり方によって二十一世紀末の平均上昇気温に違いが出ると予測していることは重要です。

 「環境の保全と経済の発展が地球規模で両立する社会においては約一・八度(一・一―二・九度)である」一方、「化石エネルギー源を重視しつつ高い経済成長を実現する社会では約四・〇度(二・四―六・四度)」と予測しています。ただ、二〇三〇年までは、経済活動と社会のあり方にかかわらず、十年当たり〇・二度の気温上昇があるとしています。

 第三次評価報告書では、今後の社会のあり方による区別はせずに、二十一世紀末の気温上昇を一・四―五・八度としていました。今回の報告書は、温暖化の加速を明らかにするとともに、温暖化を抑制するために経済と社会のあり方が問われていることを浮き彫りにしています。

 すでに過去百年間に気温が〇・七四度上昇し、集中豪雨、干ばつなどの異常気象や海面上昇を引き起こしています。加速する温暖化の実態を直視し、十八世紀の工業化以降の、経済活動のあり方への警告として、真剣に受け止める必要があります。

 国際社会は温暖化防止の一歩として、工業国に温室効果ガスの削減を義務付けた京都議定書を米国の離脱という困難をのりこえて〇五年二月に発効させ約束を果たすための行動を進めています。日本では京都議定書で決められた削減目標実現のめどがたっていないばかりか、むしろ増加しています。排出量の八割を占める事業所や官庁の責任は重大です。

科学者の国民への訴え

 第四次報告書の公表を受けて、日本の科学者たちが、「気候の安定化に向けて直ちに行動を!」という、国民への緊急メッセージを発表しました。産業界にたいし、「重要な社会的使命」として温室効果ガスの低減とそのための投資を求めています。政府や自治体の積極的な行動を求めるとともに、国民にたいし、産業界や政府を動かし日本を「低炭素社会」に変えていくための行動に立ち上がるよう訴えています。

 今回の報告書を、利潤第一主義の資本主義の社会のあり方を見直す契機としたいものです。
(「赤旗」20070210)

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 経験が資本家一般に示すものは、絶えざる過剰人口、すなわち資本の当面の増殖欲に比較しての過剰人口であるとはいえ、この過剰人口の流れは、発育不全な、短命な、急速に交替する、いわば未熟のうちに摘み取られる代々の人間から形成されているのではあるが。

もちろん、経験は、他面では、歴史的に言えばやっときのう始まったばかりの資本主義的生産が、いかに急速にかつ深く人民の力の生命源をおかしてしまったか、産業人口の退化が、もっぱら農村から絶えず自然発生的な生命要素を吸収することによっていかに緩慢にされるか、また農村労働者さえも、自由な空気にめぐまれ、彼らのあいだで実に全能の力をもって支配している自然陶汰の原理≠ノより最強個体のみが成長させられているにもかかわらず、すでにいかに衰弱しはじめているか、を賢明な観察者に示している。

自分を取り巻いている労働者世代の苦悩を否認する実に「十分な理由」をもつ資本は、その実際の運動において、人類の将来の退化や結局は食い止めることのできない人口の減少という予想によっては少しも左右されないのであって、それは地球が太陽に墜落するかもしれないということによって少しも左右されないのと同じことである。

どんな株式思惑においても、いつかは雷が落ちるに違いないということはだれでも知っているが、自分自身が黄金の雨を受け集め安全な場所に運んだあとで、隣人の頭に雷が命中することをだれもが望むのである。

大洪水よ、わが亡きあとに来たれ!≠アれがすべての資本家およびすべての資本家国民のスローガンである。

それゆえ、資本は、社会によって強制されるのでなければ、労働者の健康と寿命にたいし、なんらの顧慮も払わない。

肉体的、精神的萎縮、早死、過度労働の拷問にかんする苦情に答えて資本は言う──われらが楽しみ(利潤)を増すがゆえに、われら、かの艱苦(かんく)に悩むべきなのか? と。

しかし、全体として見れば、このこともまた、個々の資本家の善意または悪意に依存するものではない。

自由競争は、資本主義的生産の内在的な諸法則を、個々の資本家にたいして外的な強制法則として通させるのである。
(マルクス著「資本論」新日本新書A p463-464)

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◎「温暖化が「人為起源」、つまり人間の営みによるものだということは、裏返せば、温暖化防止の鍵を握るのは人間の行動です」と。