学習通信070216
◎無抵抗だから……

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加害者救済こそいじめ克服の近道

 文部省は「いじめられている子どもの立場で、親身の指導を」(「いじめの問題に関する総合的な取組について」)と言いますが、被害者救済と、「親身」という表現に見られるような「姿勢」に重きを置いた取り組み方で充分なのでしょうか。もちろん、いじめられている者に寄り添うことが必要であることは言うまでもありません。しかし、被害者の偏にしてみれば、どんなに「親身」になってくれても、目前のいじめが実際に明日にも解消しない限り、何の慰めにもからないことでしょう。

 いじめ克服の実践の視点は、文部省とはまったく反対なのではないでしょうか。いじめの加害者をいじめ行為という人間虐待の非人間的な世界から救済するためにこそ、全力を注ぐべきです。というのも、先に見たように、人間への虐待行為をしているのに加害者がそれを「面白い」と感じるのは、加害者の心の中に何らかのストレスがたまり、人としての感情に何らかの歪みが生じている証拠だからです。

 例えば、表1‐5からも理解できるように、いじめる子の方がモラルや正義感において、いじめられる子よりかなり数値が劣っています。「万引き」や「(家での)飲酒」など非行行為についてさえ、「とても悪い」と正しい価値判断を示す者は、いじめられっ子ではそれぞれ八二・七%、四五・二%。これに対して、「いじめっ子」の方は、それぞれ六五・四%、二一・二%。いずれもいじめられる子と二・〇%前後もの開きがあります。

 このような加害者側の問題の大きさについては、ノルウェーなどの研究でも犯罪者の中にはいじめの加害者が多いことが明らかになっています。国際的にもいじめ克服の視点の最大のポイントは、加害者がいじめをしたくなるストレス源を取り除き、人間的発達を促す教育をいかにできるかに置かれているのです。その意味では、欧米のように加害者側の親の方こそ「いじめ相談」を自ら進んで受けるような変化が生まれてほしいものです。そうなった時にいじめを克服できる気風が日本にもみなぎるはずです。
(尾木直樹著「こどもの危機をどう見るか」岩波新書 p54-56)

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警察庁06年まとめ
子どものいじめ
事件化4割増
 障害などで摘発・補導

 全国の警察が二〇〇六年の一年間に恐喝や傷害容疑などで摘発・補導した小中高生の事件のうち、いじめが関係していたのは前年に比べ41%増の二百三十三件だったことが十五日、警察庁のまとめで分かった。いじめ関連で摘発・補導した人数も前年比41%増の四百六十人。

動機「弱いから」が半数

 統計が残っている一九八四年以降、ピークは八五年の六百三十八件、千九百五十人。事件数、摘発・補導人数とも九十四件、二百二十五人にまで減少した二〇〇二年から四年連続で増加し約二・五─二倍になった。

 警察庁は「各地でいじめ自殺が問題化し、それまで被害を訴えなかった子供たちが積極的に親や学校に相談するようになったのではないか」と分析している。

 まとめによると、摘発・補導人数のうち中学生は三百五十二人と全体の77%を占めた。次いで高校生九十人(20%)、小学生十八人(4%)。

 いじめた動機を複数回答で聞いたところ、「力が弱い・無抵抗だから」が19ポイント増の46%で最多だった。ほかに「いい子ぶる・生意気だから」15%、「態度動作が鈍いから」8%などだった。

 被害を受けた子供が相談した相手(複数回答)は保護者が最も多く57%(前年比15ポイント増)。教師36%(同5ポイント増)、警察などの相談機関31%(同17ポイント増)と続いた。友人は3%にとどまり、「相談しなかった」は14ポイント減ったが、五人に一人に当たる22%だった。

京都も急増
  滋賀は1件増

 京都府警によると、昨年一年間に恐喝や傷害容疑などで摘発・補導した小中学生や高校生の事件のうち、いじめが関係していたのは五件、十七人で、内訳は中学生九人、高校生八人だった。件数、人数ともに前年はゼロだったが、急増した。また、昨年一年間に摘発した児童虐待事件は五件(前年比二件減)で、摘発人数は七人(1人減)だった。内訳は、身体的虐待が四件で、ネグレクトは昨年十月に長岡京市の佐々木拓夢ちゃん(二つ)が餓死した一件だった。

 滋賀県警によると、昨年一年間にいじめ関係で摘発・補導した事件は四件で前年と比べて一件増え、人数は五人で二人増えた。摘発・補導されたのはすべて中学生だった。

 県内の児童虐待事件は五件で前年と比べて二件増え、被害児童も五人と二人増えた。身体的虐待が二件、性的虐待が一件、子育ての怠慢・拒否が二件。昨年七月には高島市の女児=当時(二つ)=が両親からの虐待で死亡している。

日本の子供
「最も孤独」
 先進国の比較調査

【ロンドン15日共同】日本の子供は「先進国の中で最も孤独」―。国連児童基金(ユニセフ)が十四日発表した先進国に住む子供たちの「幸福度」に関する調査報告書で、こんな実態が浮き彫りになった。

 報告書は経済協力開発機構(OECD)加盟国のうち二十五カ国について各種指標を比較。子供の意識に関する項目の中で「孤独を感じる」と答えた日本の十五歳の割合は29・8%で、二位のアイスランド(10・3%)以下、フランス(6・4%)や英国(5・4%)などに比べ飛び抜けて高かった。「自分が気まずく感じる」との回答も、日本が18・1%とトップだった。

 子供の物質的な教育環境面でも、日本は先進国中で平均以下との結果が出た。
(「京都新聞 夕刊」20070215)

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◎「人間への虐待行為をしているのに加害者がそれを「面白い」と感じるのは、加害者の心の中に何らかのストレスがたまり、人としての感情に何らかの歪みが生じている証拠だから」と。