学習通信070219
◎労働組合の役割……

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37万部突破
 城繁幸著
若者なぜ3年で辞めるのか?
 年功序列が奪う日本の未来
    光文社新書

40歳以上の
男性正社員へ
  城 繁幸

失われた10年≠フ間、企業は利益を確保するために、さまざまなコストをカットし続けてきた。人件費も例外ではない。だが、日本では人件費カットは長らくタブーとされてきた。誰もが永遠に続く成長だけを信じ、人の意識も法令も、すべてはその幻想に基づいていたからだ。その結果、既得権は保護され、ツケは未来へと回された。派遣社員やフリーターの増加は、いわば既存の雇用を守るための人柱だ。

 にもかかわら式業績が回復し、採用数も増えるなかで、彼ら就職氷河期世代は見捨てられようとしている。なぜか? それは、日本企業が「新卒の男子」以外に興味がないからだ。「労働力不足を解消するために、移民を入れろ」と叫ぶ経営者もいる。だが、本当に労働者は不足しているのか?

 そうではないだろう。先の氷河期世代はもちろん、不況の底で一度はリストラされた中高年、そして長く採用差別されてきた女性たち……、まだまだ日本には潜在的な労働力があふれている。変わるのは国の形ではなく、企業の、そして社会の価値観なのだ。

 ところが、本来、こういった弱者の側に立つはずの自称労働者政党≠ヘ、時代遅れの価値観に蝕まれ、骨の髄まで腐りきっている。彼らは「格差反対」は口にしても、格差の本丸である正社員の既得権≠ノはけっして切り込まない。彼らは選挙の票のみを追いかけ、いまや「正社員の労働組合」という特権階級≠フ代弁者になり果てたのだ。

 格差問題の本質は、「世代間格差」にある。そして、それを生むものの正体は年功序列制度だ。人の価値が年齢で決まる世界。一度上がった賃金は下がらない、既得権者のみが優遇されるルール。抜本的な対策は、年功序列の打破以外にはありえない。

 「能力差がある以上、格差は当然だ」という人は、一度会社を辞めてみるといい。自分の能力に自信があるなら、再びレールに戻れるはずだ。

 同様に「少子化は当事者たちの責任だ」と考えている人間は、パート労働をこなしつつ、家族が養えるかどうか試してみるべきだ。

 真の改革なら、必ず誰かが血を流す。だが、既得権にメスを入れることを拒めば、問題は先送りにされ、血を流すのは次の世代、ということになる。

 「3年で辞める若者が悪い」という40歳以上の人間には、本書を読むことを強く勧める。失われた10年の間に、若者の流した血がいかに多かったか。まずはそれを知ることこそ、真の改革への第一歩となるはずだ。
 いまや、年功序列制度は不幸の生産装置でしかない。

〈じょう・しげゆうき〉
1973年生まれの33歳。東大法学部卒業後、富士通に入社。人事部勤務。2004年、同社退社後に出版した「内側から見た富士通「成果主義」の崩壊』では、成果主義のさまざまな問題点を指摘し、大ベストセラーになる。本書では、20代、30代の若者が日々の仕事の中でうすうす気づいている「閉塞感の正体」を、若者の視点であぶり出す。ブログ「Joe’s Labo」主宰。
(「日経」20070214 広告から)

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社説
春闘本格化
組合力が問われている

 二〇〇七年春闘は相場形成のリード役の大手自動車各労組が一斉に要求書を提出したことで、交渉が本格化した。労組側が待遇改善や格差是正などにどう取り組むか。組合の力量が問われている。

 この一カ月間の春闘情勢をみると労働側にプラス材料が目立つ。為替相場は円安傾向が続いており自動車や電機など好業績の輸出企業に一層の増益をもたらす見込みだ。株価も景気持続への期待から高値が続いている。

 政界からは年初の安倍晋三首相に続き、賃上げ論が再び噴出した。自民党執行部は日本経団連幹部との懇談会で「景気回復が家計部門に波及し実感できるようにしてほしい」と要請した。統一地方選や七月の参院選を意識しての発言だ。たしかに賃上げは直接的な利益還元である。

 総務省が発表した〇六年の家計調査は、全世帯一カ月平均の実質消費支出は前年比3・5%減と過去最大の下げ幅となった。今年は定率減税が全廃される。消費支出を回復させるには賃上げがカギを握る。

 こうした情勢から連合は今春闘を「反転、転機の年」と位置づけ各産業別組合や中小企業、パートタイム労働者らとの共闘態勢を強化する方針だ。電力や通信業界の数年ぶりの賃上げ要求や自動車などの昨年を上回る要求額などから、高木剛会長は「総がかり態勢でハイレベルでの要求実現を目指す」と意気軒高だ。

 積極姿勢は評価できる。賃上げだけでなく、視野を広げて非組合員であるパート労働者の均等待遇実現にも全力を注いでもらいたい。

 国民は今春闘に強い関心を持っている。それはここ数年で顕在化し拡大してきた労働者間・世代間・地域間の格差問題の是正や少子化対策、長時間労働・残業の是正など働き方の見直しといった重要課題に対して、組合がどのような解決策を打ち出すか期待しているからだ。

 格差問題は今国会での重要テーマだ。政府は成長路線を推進しつつ雇用法制見直しや地域活性化、再チャレンジ支援策などを準備している。一方、野党・労働側は正社員の採用拡大を進めるとともにパートなど非正社員の正社員化と待遇を一層改善するなど、労働者や職場実態に配慮したきめ細かな法整備や施策が必要とする。

 一九五〇年代半ばに始まった春闘はバブル崩壊後の長期不況期に事実上消滅した。一時期は“談合春闘”などとささやかれるほど低迷した。組合組織率は依然として低落しているが、今春闘では久しぶりに国民レベルの視線に沿った闘いができる。連合の指導力に期待したい。
(「東京新聞」20070215)

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社説
春闘始まる
追い風は労組の正念場 

 「いざなぎ超え」の好景気の中、自動車と電機の大手労組が春闘要求を提出した。

 “パイの分け前”の重点はベースアップ(賃上げ)志向のようだが、経営側は国際競争力への設備投資、企業業績のばらつきなどをあげて、横並びの一律賃上げを拒んでいる。

 今春闘は政府・与党側が、所得増による国内の消費刺激や参院選対策もからんで、異例の賃上げ発言をする。

 労働側には追い風だが、成果が不満足だと、組合離れを加速させる逆風にもなりかねない。

 労使双方の正念場、大手の集中回答日は三月十四日だ。後の中小などの組合の賃上げ交渉の行方を占うことになる。

 春闘けん引役のトヨタ自動車労組は定期昇給以外の賃上げとボーナス要求額を満額獲得の昨年よりさらに上積みした。

 賃上げでは、昨年より五百円積んで千五百円を求めた。電機大手の労組は二千円の賃上げで、NTT、電力各社の労組も久々の賃上げとなる。

 賃上げ志向になったのは大手企業の三月期決算の経常利益が四年連続で過去最高を更新する見通しだからだ。

 バブル崩壊で危機に陥った経営の建て直しや人員整理で、労働条件の悪化に耐えてきた労組の協力が高収益につながっていることを再認識させる狙いだ。

 だがトヨタ自動車の三月期連結決算は約一兆五千五百億円の利益予想だ。賃上げの満額総額は十億円あまりとされる。

 企業事情もあるのだろうが、これでは遠慮しすぎではないだろうか。

 企業利益のうち人件費に回される労働分配率は、企業の業績が回復しても低下し続けている。労働者のがまんに経営側はきちんと報いるべきだ。

 それなのに昨年は賃上げに一定の理解も示した経営側なのに、今年は「一律賃上げは応じられない」「業績配分は一時金・賞与で」と厳しい対応だ。

 国際的産業再編への対抗や、業績不振企業への波及懸念をいうが、一律賃上げの流れを現実的でないとして断ち切ってしまおうとの狙いもありそうだ。

 だが、設備投資や株主配当にばかり注意がいっている企業には、労組側の強い反発がありそうだ。

 労働側にとって今春闘は組合離れに歯止めをかける好機でもある。

 厚生労働省調査では組合組織率は二割を切った。非正社員は労働者三人に一人で、労組の存在価値が問われている。

 連合はパート労働者と共闘で、時給十五円アップか、時給千円達成に取り組むが、具体的行動が何より必要だ。

 企業が適正な賃金、労働条件整備に取り組めば、団塊世代退職で生じる人材不足解消にもいい効果を及ぼすし、ワーキングプアなど現在の労働形態が生むひずみの解消にもつながる。その目標に向けて労働側が非正社員の立場にも立ち、同一労働同一賃金を掲げて共にたたかえるかが問われている。
(「京都新聞」20070217)

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社説
賃上げ交渉
「非正規」への目配りを

 自動車メーカー各社の労働組合が賃上げの要求を提出し、春闘の労使交渉がスタートした。

 トヨタは02年、「国際競争に勝つため」として労組のベースアップ要求をけったことがある。主要企業が賃上げ相場をつくり、中小企業に波及させる「春闘方式」は終わったといわれた。

 グローバル化の風にさらされ、企業の競争力には差がついている。増益に沸く自動車産業の回答ぶりは注目の的だが、業種ごとに横並びの賃上げという時代が過ぎ去ったのは確かだ。

 それでも私たちは、経営者は利益を従業員に手厚く分配すべきだと考える。

 企業の多くが80年代のバブル景気のなかで従業員を増やし、賃金を上げた。バブルが崩壊してからの長い低迷期には、これが重荷となった。経営者らはその苦い体験を繰り返したくない。

 会社と持ちつ持たれつの労組も賃上げは遠慮した。そのため4年続きの増益といいながら賃金が抑えられてきた。

 しかし、こうした状態が続けば、長い目で見て競争力を失うことにつながらないか。少子高齢社会に突入したうえ国際競争はさらに激しくなっている。人材を育て、付加価値の高い商品を生み出さないことには企業の将来は暗い。賃上げを人材投資の一環ととらえたい。

 持続的な経済成長を実現するうえからも、国民の所得水準の向上は欠かせない。消費の落ち込みが景気の足を引っ張っているが、その一因は1人あたりの収入が伸びない点にある。

 労使に望みたいのは、実りある賃金交渉にとどまらない。長い不況期にできあがった従業員間の格差や働き方のゆがみをただすことも急がれる。

 90年代から各社は正社員の採用を抑え、派遣やパートの労働者で補ってきた。コストの安い「非正規」の労働力を調整弁に使う傾向は、景気が回復した後も続いている。

 正社員と同じ仕事をしながら賃金は低い状態が固定化してしまえば、企業内にとどまらず社会全体の分裂を招きかねない。また、不況期に採用数を絞ったあおりで個々の仕事量が増え、サービス残業などに追い立てられる社員も多い。

 労働・雇用が直面する問題は、国会でも論点のひとつだ。残業代の割り増しや、パート社員の正社員並み待遇を実現する法改正案が提出されている。

 だが、政府による規制を待つのではなく、進んで職場のゆがみを直し、公正な働き方を実現するのが、社会的な責任を自覚する労使の役割のはずだ。

 日本経団連は、仕事と家庭生活を調和させる「ワーク・ライフ・バランス」を掲げている。ならば、まず自らの足元にある矛盾の解消に取り組むべきだ。

 労組側も意識改革が迫られる。同じ仕事には同じ賃金という原則で非正規社員を処遇するには、正社員が当たり前と考えてきた既得権にもメスが入ることは避けられないからだ。
(「朝日」20070215)

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こんにち話
 熊沢 誠さん 甲南大名誉教授

格差招いた「選別」受容
労組の責任

 階層や格差はいつの時代にもありますが、ワーキングプアの増加など多くの人がしんどい思いをするようになった起点は、労働の在り方にあるわけですよ。私は労働者の発言力を重視しています。労働組合の役割を問う意識が、世の中に薄くなっているのは心配です。

〈約四十年の学究生活では「ふつうの働き手たち」との対話を基軸に、日本の労使関係の在り方を問い掛けてきた〉

 ホワイトカラー・エグゼンプションのように、企業経営者が居丈高に自らの追求する政策を提起できるようになったのも、労組の姿勢のためです。平成不況の時に、聖域だった正社員の賃金水準を引き下げ、リストラをしても組合は抵抗しないということが経営者側に分かったわけです。

 助け合いと平等な扱いを通じて仲間すべての生活を向上させるという労働祖合の理念ではなく、競争、選別を勝ち抜くのが日本の労働者の生きざまになってしまった。「連帯」がないことに労働者も突然気が付きました。組合が守ってくれるという信頼がないから、それこそ「強制された自発性」で希望退職は満たされました。

 どちりかといえば組合幹部は正社員の「勝ち組」。選別やむなしという共通の価値観が経営者、精鋭正社員、組合リーダーを貫く共通の企業文化になった。社内多数であるノンエリートが「こんなんいやや」と思っても、オピニオンリーダーにはなりえません。「労使自治」という言葉は美しいが、経営者がそこに頼るのは、企業別組合の幹部なら抑え込めると自信を持っているからです。

〈派遣、請負、パートなど千六百万人を超える大量の非正規社員の存在。日本の雇用は大きく変わった。正社員は「目標」「予算」と名前を変えたノルマで、フリーターは重労働で責められる時代だ。状況は「ニートまで地続き」と指摘する〉

 フリーターは、どこにも「となり」を持たない孤独な稼ぎ人です。インターネットカフェに宿泊し、携帯で日雇い仕事の連絡を待っている。あらゆる制度、システムとの究極の関係喪失といえます。こういう浮遊する人間が増えれば国民的統合は緩む。だからこそ愛国心の鼓吹が行われていると、わたしはみています。

 ではどこに労働者の希望があるのか、一つ挙げればワークシェアリングですね。週四十八時間以上は働かないのが世界の常識なのに、日本は週五十時間以上働く人が28%を占めています。年千八百時間ぐらいに労働時間を減らし、それに応じて男子正社員の収入滅を認めるべきだと思います。その上で、均等待遇などの条件を満たした個人選択型のパートタイム労働を認めればよい。こういうワークライフバランスがあって初めて、多くの人が無理なく働けるし、少子・高齢化の解決策ではないでしょうか。

 また、日本では「コミュニティー(地域)ユニオン」という形で弱々しく存在しているだけですが、精鋭正社員とも、高い職能の労働者とも異なる、ありとあらゆる流動的な労働者が参加できる一般労組も大事です。

 フリーターなどが「地域ユニオン」に駆け込み、雇用は継続できなくても企業から補償を獲得し、圧迫を排除するなど一定の成果を上げています。

 規制改革と称して、少数派組合の団交権を認めないようにする動きがありますが、これをやれば地域ユニオンの交渉権は奪われると心配しています。

 聞き手は共同通信編集委員・龍野建一
(「京都新聞」 20070212)

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主張

国民春闘
労働組合の組織力の発揮を

 賃下げと長時間労働、雇用破壊、増税と社会保障改悪―大企業の横暴とそれを支援する自民党政治によって、貧困と格差がかつてなく広がる一方、労働法制と憲法の改悪が争点となっています。ことしの春闘では労働組合がその組織力を発揮して、国民的たたかいの先頭に立つことが期待されています。

貧困と格差拡大の元凶
 財界・大企業は「国際競争力の強化」を理由に賃上げを拒否し非正規労働者の拡大を正当化しています。貧困と格差拡大の元凶です。

 一九九五年からの十年間で、労働者の給与総額は二兆八千九百五十五億円も減少しました。成果主義による賃下げと非正規労働者、失業者の増大によるものです。これが個人消費を冷え込ませ、自民党政治の悪政と結びついて、国民のすべての階層で、らせん階段を転げ落ちるように貧困と格差が拡大しています。

 同じ十年間に、資本金十億円以上の大企業の経常利益は二倍以上伸びて、二十九兆四千三百二十六億円にもなっています。まさに労働者を踏み台にし、ワーキングプアをつくりだしての、企業体力の強化です。

 ぼろもうけをため込みながら、労働者にはびた一文まわさない姿勢には、労資協調主義の組合もたまりかねて、協調主義の原点である「生産性三原則」の「生産性向上の成果の公正な分配」を持ち出し、賃上げを要求しています。協調主義的要求さえも否定し、切り捨てるほど、いまの財界・大企業の姿勢は異常なものです。

 労働組合が正面きって賃上げを要求しているのは当然であり、すべての労働者の賃上げの実現は、貧困と格差の拡大にストップをかけ、日本経済を健全に発展させる大きな力となるでしょう。全労連と連合が共通して非正規労働者の賃上げをかかげ、最低賃金闘争を重視していることは、大きな意義をもっています。

 同時に、労働組合が、非正規という不安定な雇用形態自体の改善に本格的に取り組むことが、なんとしても求められています。各地で非正規雇用の青年たちを中心に、労働組合を結成し、あるいは加入して立ち上がっています。請負労働者の直接雇用への道を切り開いたり、雇い止めを撤回させたり、残業代を払わせたりという成果を勝ち取りはじめていることは、労働組合の力と役割をあらためて示した経験として重要です。

 安倍内閣がねらう労働法制の大改悪は、その労働組合の力をそぎ、労働条件の切り下げをやりやすくし、非正規の拡大を促進するものです。

 日本共産党は、「憲法二五条に保障された生存権を守る国民的大運動」を提起し、庶民増税・大企業減税という逆立ち税制をただすたたかいと、労働法制改悪に反対し人間らしい労働のルールを求めるたたかいを二つの熱い焦点として呼びかけています。いずれも、財界・大企業とのたたかいが、同時に政治闘争としてたたかわれる性格をもっています。

 それは憲法九条改悪反対の闘争にも直結します。憲法闘争は、全労連を中心に憲法改悪反対勢力が労働戦線の多数派を形成する大きな可能性をはらんでいます。

いまこそ共同を広げて
 経済闘争と政治闘争とが結びついたとき、労働者はより大きなエネルギーを発揮します。しかも二つの全国選挙は国民を政治的に活性化します。教育基本法改悪反対闘争で国民的立ち上がりをつくりだした経験を生かし、共同を大きく広げ文字どおりの国民春闘にしていきましょう。
(「赤旗」20070130)

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◎「春闘では労働組合がその組織力を発揮して、国民的たたかいの先頭に立つことが期待」と。