学習通信070228
◎リプロダクティブ・ヘルス/ライツ……

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性的自己決定権とリプロダクティブ・ヘルス/ライツ

 性的自己決定(権)は、フェミニズム・女性運勤において、子どもを産む・産まないという選択にかかわる女性の権利の確立という点で、長らく重要な課題であったし、現在もそうである。それは、女性が自らのからだを知り、性関係や生殖に主体的になること、自分のことを自ら決定する主体者となる、ということである。

 そして、女性の健康運動の中から、リプロダクティブ・ヘルスという概念が生まれてきた。一九九四年にカイロ国際人口・開発会議で採択された行動計画で、リプロダクティブ・ヘルスの権利保障の重要性が国際社会に提起された。この行勤計画では、リプロダクティブ・ヘルスとは「人間の生殖システムの機能と(活動)過程のすべての側面において、単に疾病、障害がないというばかりでなく、身体的、精神的、社会的に完全に良好な状態」であり、「生殖と性に関する健康とは人々が満足した安全な性生活を営み、生殖力をもち、子どもを産むかどうか、いつ何人産むかの自由を意味する」と定義されている。

 リプロダクティブ・ヘルスを得る権利がリプロダクティブ・ライツであり、そのためには、@差別、強制、暴力を受けることなく人びとが自己決定でき、それが尊重されること、A自己決定のために必要な情報と手段が適切に提供されること、が不可欠であるとされている。ちなみに、リプロダクティブ・ヘルス/ライツの日本語の訳語には、当初、限定的に「妊娠と出産に関する健康と権利」があてられようとして、女性運動の側から訂正が求められ「性と生殖に関する健康/権利」と訳しなおされた経緯があるが、現在では、カタカナ表記そのままで浸透しつつある。

 カイロ国際会議での定義はやや生殖の側面に限定したものだったが、北京の第四回世界女性会議で採択された行勤綱領の「女性と健康」の項では、それまでの女性運動で培われた女性のセクシュアリティ全般にわたる包括的な議論をふまえて、「個人の生と個人的人間関係の高揚を目的とする性に関する健康」(セクシュアル・ヘルス)を含む概念として提起されている。そして、「自らのセクシュアリティに関する事柄を管理し、それらについて自由かつ責任ある決定を行う」ことは、女性の権利であると明記している。

 このようにして、セクシュアル・ヘルスおよびリプロダクティブ・ヘルスは、保障されるべき人権として取り上げられた。その実現には「教育」「学習」が不可欠である。そして、自己決定するために必要な情報が提供される場の一つとして、学校での性教育が位置づけられるということも理解できよう。

 では、こうした性的自己決定に関する議論は、買売春をはじめとする「性の商品化」の問題では、どのように展開されているのだろうか。
(天野正子 木村涼子編「ジェンダーで学ぶ教育」政界思想社 p202-203)

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あまりにひどい!
柳沢厚労相の人権感覚

女性に産むことを強要
世界の流れに反する

自己決定権は国際的な合意
 日本共産党参議院議員
  吉川 春子さんに聞く

 女性を「産む機械」に例えた柳沢伯夫厚生労働相の発言は、国際的に合意された基本原則に反したもの──。女性の地位向上をすすめる世界女性会議に参加してきた日本共産党の吉川春子参院議員に聞きました。 (江刺 尚子)

 柳沢大臣の発言はあまりにひどい人権感覚です。さらに結果として、女性に産むことを強要するような発言をしたことは、世界の流れに反するものです。そういう発言を大臣がすることの意味を柳沢氏はまったく理解していません。柳沢氏をかばい、罷免しない安倍首相も同罪です。

 すべての個人と
 カップルの自由

 一九九四年の国際人口開発会議の「カイロ宣言」は、「リプロダクティブヘルス/ライツ=性と生殖に関する健康と権利」を規定しました。子どもをいつ産むか、どんな間隔で何人産むか、産むか産まないか、それはすべてのカップルと個人が自由に決めるのが基本的権利だというものです。

 自己決定権というこの考え方は、翌九五年に北京で開かれた世界女性会議でも国際的な合意として確認されました。会議とNGOフォーラムには世界中から百九十カ国、五万人が集いました。日本からも二十五人の国会議員を含め、約六千人が参加しました。私も参加者の一人です。

 最も議論が難航したのが、性と生殖に関する権利を含むセクシャルライツ(性に問する権利)でした。会議は長時間に及び、行動綱領の採択までに予定を一日延長した。それぐらい大問題だったのです。大議論の末、中絶を認めないローマ・カトリックなどの国は「女性と健康」の節を全部保留することになりました。しかし、国際社会全体としては、差別や強制を受けずに産むかどうかを自由に決めることは女性の権利であることが合意されました。

 女性が苦しんで
 きた長い歴史が

 産む性として女性たちが苦しんできた長い歴史があります。日本では、江戸時代は、「女三界に家なし」「嫁して三年子なしは去る」「石女(うまずめ)」などという言葉までありました。子どもを産まない女は価値がないというふうにいわれてきました。

 「兵隊さんがね、私のおなかに最敬礼するのよ」。第二次大戦後になって、母が弟を身ごもっていたときのことを苦笑しながら話してくれました。戦中は、男児を産んで戦場に送り出せといわれ、戦死しても泣くことさえ禁じられました。産めば産んだで悲しい思いをし、産まなければ産まないで離縁されてもいいという扱いを受けました。

 それは世界中同じ。女性は人口政策の対象となり、肌の色も言葉も違う女性たちが産む性として同じ苦しみを味わってきました。そうした時代を過去のものにしようという運動が、カイロ宣言を生み出しました。十三年前です。

 この人が少子化担当責任者では日本政府も、「リプロダクティブヘルス/ライツ」は確認していますから、いろんな施策を講じるときの前提となる原則となっています。現在の「男女共同参画基本計画」にも明記してあります。少子化問題を考えるときは、とりわけ大事です。

 柳沢大臣は、こんな経過も到達点も、何も踏まえていません。日本政府も確認した、国際的な大原則に反する考え方を改められない人が、少子化担当の責任者ということでは、まともな施策を講じることはできません。
■柳沢厚労相の「産む機械」発言
【「これからの年金・福祉・医療の展望について」と題した講演(松江市、一月二十七日)】

 特に、今度われわれが考えている二〇三〇年ということになりますと、二〇三〇年に、例えば二十歳になる人を考えると、今いくつ? もう七、八歳になってなきゃいけないということだから、生まれちゃってるんですよ、もう。三〇年に二十歳でがんばって産むぞってやってくれる人は。
 そういうようなことで、後は産む機械っちゃあなんだけども、装置が、もう数が決まっちやったと。機械の数、機械っちゃなんだかもしれないけども、そういうのが決まっちゃったということになると、あとは一つの、ま、機械って言ってごめんなさいね。別にその、産む役目の人が、一人頭でがんばってもらうしかないんですよ、みなさん。

(「赤旗」20070227)

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■リプロダクティブ・ヘルス/ライツ
reproductive health/rights
性と生殖に関する健康と権利。

1994年9月にカイロで開催された国際人口・開発会議で、この「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」を含む、今後20年間の指針となる人口問題解決への行動計画が採択された。この計画書の趣旨のなかには女性の生涯にわたる包括的な性と健康と、これらの問題について十分な情報を得て自己決定する権利が含まれている。たとえば女性は避妊の情報や手段を十分に得て、子供をいつ何人産むかの選択権を行使できる、とされる。日本では96年6月に「優生保護法」(48年制定)が改正され「母体保護法」として成立したが、同法はリプロダクティブ・ヘルス/ライツの主旨が生かされていないなどと指摘されている。99年2月にはオランダのハーグで、カイロ国際人口・開発会議の「行動計画」を見直す国際会議「ハーグ国際フォーラム」が開催された。この会議では、カイロ計画を実現させていくための環境の創出、リプロダクティブ・ヘルス/ライツ、ジェンダー問題および女性のエンパワーメントなど五つのテーマが討議され、採択報告書がまとめられた。(スーパー・ニッポニカ2001)

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◎「子どもをいつ産むか、どんな間隔で何人産むか、産むか産まないか、それはすべてのカップルと個人が自由に決めるのが基本的権利だ」と。