学習通信070614
◎果たしてそう……

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ニュース 入門
失業率、9年ぶり低水準

 失業率が低下していると聞きました。どうして下がっているのですか。これからもっと低下するでしょうか。日本経済全体にはどんな影響かありそうですか。

ステップ1・そもそも
景気回復を示す

 五月二十九日に総務省が発表した四月の完全失業率(季節調整値)は三・八%と、三月より〇・二ポイント下がりました。四%を下回ったのは一九九八年三月以来、九年一ヵ月ぶりです。

 まず、失業率とは何かをおさらいしましょう。一言でいえば「労働力人口に占める失業者の比率」です。

 労働力人口とは、学生や病弱者、仕事を探していない人などを除いた満十五歳以上の人口のことです。現在、約六千七百万人です。一方、失業者(完全失業者)とは@仕事をしておらず、A仕事があればすぐ仕事することができ、B仕事を探している──という三つの条件をすべて満たす人で、二百六十八万人います。

 景気が悪いときには、企業は雇う人を減らすし、倒産する企業も増えるので、失業者は増えます。逆に景気が良くなると、企業は生産・営業活動を強化するために雇う人を増やすので、失業者が減ります。

 ただし、景気が良くなっても企業はすぐには人を増やしにくいし、景気が悪くなったからといってすぐに人減らしするのも困難です。だから、失業率は景気の動きにやや遅れて変化する傾向があります。

 日本では九〇年代後半から企業の人減らしが本格的に始まり、二〇〇二年半ばから○三年にかけて失業率は五・五%まで上昇しました。その後の緩やかな景気回復で失業率も下がり始めました。四%を下回ったことは、日本の景気回復が進んだことを示しています。

ステップ2・どのように
輸出産業が貢献

 最近の失業率低下にはいくつかの特徴があります。一つには、自動車をはじめとする輸出産業が業績好調で雇用を増やしていることが挙げられます。

 失業率を地域別に見ると、業績の良い自動車関連産業がたくさん集まっている愛知県や静岡県、三重県などは全国平均より低くなっています。一方、経済に占める公共事業の比重が高い北海道や青森県などは失業率が依然として五%を上回っています。雇用をめぐる地域間の格差は広がる傾向にあります。

 業種による差も大きくなっています。小売業やサービス業などが雇用を増やしている半面、建設業の雇用者数は減少傾向が続いています。

 女性や若者の雇用が増えていることも四月の大きな特徴です。

 失業率は景気回復が続いていた昨年後半から今年三月の間も四・一〜四・〇%で足踏みしていました。これは「景気が回復するのにともなって新たに仕事を探し始める女性が多く、失業者としてカウントされる人数が増えた」(厚生労働省)のが原因でした。こうした女性たちが働き口を見つけ、失業率が下がったと考えられます。

ステップ3・これから
賃金上昇がカギ

 失業率が下がる(失業者が減る)と、企業は欲しい人材を雇ったり必要な人手を集めたりすることが難しくなります。そこで賃金水準を引き上げて人を確保しようとします。

 賃金が上がれば人々は支出(消費)を増やし、それが物価の上昇にもつながります。消費が増えて物価が上がれば、日本経済のデフレ脱却が確かなものになり、景気拡大がさらに続くという好循環になります。

 しかし実際には、統計上は賃金はほとんど上がっていません。むしろ、ここ数カ月は前年実績を割り込んでいます。

 失業率が下がっても賃金が上がらない原因の一つは、正社員より一般に賃金が低いパートや派遣労働者など非正社員の比率が高くなったことです。

 また、企業のグローバル競争の影響もあります。雇用のリード役である自動車などの輸出産業は海外企業と国際競争を繰り広げています。中国や東南アジアの賃金の安さなども考えれば、国内の雇用情勢だけを理由に賃上げするのは難しいのです。

 日本銀行の福井俊彦総裁は昨年十月の記者会見で「失業率が四%から三%台に入ると賃金上昇に加速力がつく」との見方を示していました。雇用情勢の改善が今後、賃金や物価の上昇につながるかどうかが焦点になりそうです。(宮田佳幸)
(「日経」20070610)

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底流 本流
失業率低下が示す課題

 総務省が五月二十九日発表した完全失業串は3・8%となり、一九九八年以来九年ぶりに3%台にまで改善しました。これをうけて厚生労働省は、雇用情勢について「改善が見られる」と判断、柳沢伯夫厚労相は、「大変明るい話題」と語ったと報じられています。果たしてそうでしょうか。

狭い失業統計

 マスメディアも、「雇用の内実には課題が多い」(「朝日」五月二十九日夕刊)と指摘しているように、完全失業率の低下がただちに雇用状況の改善につながるものになっていないところに、今日の雇用情勢の深刻さがあります。

 日本の失業統計は、欧米と比べても、失業者の範囲がきわめてせまくとらえられています。

 失業者の調査期間(総務省「労働力調査」)は、毎月の末日に終わる一週間とされています。この調査期間中に一時間でも収入のともなう仕事をすれば失業者になりません。また、調査期間中にたまたま求職活動をしなければ、非労働力としで扱われ、失業統計の対象になりません。

 このために、フリーターやネットカフエ難民が社会問題化していますが、これらの人たちは当然のことながら、失業者にカウントされません。

 労働政策研究・研修機構「日本人の働き方総合調査」(二〇〇六年三月)によれば、「ここ五年間における就業状況の変化があった者の割合」は、パートタイマーでは「休業期間あり」が32・7%、「失業期間あり」が10・〇%、登録型派遣ではそれぞれ41・2%、22・5%、常用型派遣28・8%、30・O%、請負会社社員30・5%、25・4%となっています。

 派遣・請負では、ここ五年間「ずーっと仕事」をしているものの割合はいずれも50%未満です。

 以前と違って、非正規労働者の間で、フリーターやネットカフエ難民のように非正規雇用と失業の間をいったりきたりしている労働者が急増しているのが実態です。

流動的労働者

 完全失業者と非正規雇用労働者を、仮に、流動的労働者群とみると、一九九六年は千二百十一万人だったのが、二〇〇六年には千九百五十二万人と、実に一・六倍、七百四十万人以上も増えています。

 日本の雇用労働者と失業者の合計は、五千三百六十三万人ですから、その比率は36・3%になります。その圧倒的多数が、年収三百万円以下であることは、国税庁「民間給与の実態調査」からも明らかです。同調査では、年収三百万円以下の比率は37・6%と流動的労働者群の比率とほぼ一致するからです。

 今日の失業問題は、総務庁の統計だけから見ることはできません。貧困と格差の広がりのなかでとらえる必要があります。貧困と格差を打開する取り組みのなかでこそ、失業問題の解決の展望を切り開くことができます。
(「赤旗」20070601)

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◎「以前と違って、非正規労働者の間で、フリーターやネットカフエ難民のように非正規雇用と失業の間をいったりきたりしている労働者が急増しているのが実態」と。