学習通信060729
◎国際公約を投げ捨て……

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米下院外交委員会
「従軍慰安婦」問題での決議(全文)

 米下院外交委員会は二十六日、旧日本軍の「従軍慰安婦」問題で日本政府に公式な謝罪を求める決議を圧倒的多数で採択しました。決議全文は次の通りです。

 一九三〇年代から第二次世界大戦を通じたアジアおよび太平洋諸島の植民地支配と戦時占領の期間、日本政府が公式に、その帝国軍隊に対する性的強制労働を唯一の目的として若い女性の獲得を委託し、これらの人々は「イアンフ」あるいは「comfort women」として世界に知られるようになったのであり、

 日本政府による強制的な軍の売春である「慰安婦」制度は、二十世紀における最大の人身取引事件の一つであり、身体損傷や死、自殺をもたらした集団強姦(ごうかん)、強制中絶、屈辱、性的暴力など、その残酷さと規模において未曽有のものとみなされ、

 日本の学校で使用されるいくつかの新しい教科書は、「慰安婦」の悲劇や第二次世界大戦における他の日本の戦争犯罪を軽視しようとしており、

 日本の官民の関係者は最近、彼女たちの苦難に対して政府の真剣な謝罪と反省を表明した一九九三年の河野洋平内閣官房長官の「慰安婦」に関する声明を薄め、あるいは無効にしようとする願望を示しており、

 日本政府は、一九二一年の「婦人及び児童の売買禁止に関する国際条約」に署名し、武力紛争が女性に与える特別の影響を認識した二〇〇〇年の「女性と平和・安全保障に関する国連安全保障理事会決議一三二五」を支持しているのであり、

 下院は、人間の安全保障、人権、民主主義的価値および法の支配を促進する日本の努力と、安保理決議一三二五の支持者となっていることを称賛し、

 米日同盟はアジア・太平洋地域における米国の安全保障利益の礎であり、地域の安定と繁栄の基礎であり、

 冷戦後の戦略環境における変化にもかかわらず、米日同盟は、アジア・太平洋地域において、政治・経済的な自由の保持と促進、人権と民主的制度への支援、両国民と国際社会の繁栄の確保をはじめとした、共通の死活的に重要な利益と価値に立脚し続けており、

 下院は、一九九五年の日本における民間の「アジア女性基金」の設立に結びついた日本の官民の関係者の懸命の努力と思いやりを称賛し、

 「アジア女性基金」は日本国民からの「償い」を慰安婦に提供するために五百七十万ドルを集め、さらに、

 「慰安婦」の虐待および被害の償いのための計画と事業の実施を目的とし、政府が主導し、資金の大部分を政府が提供した民間基金である「アジア女性基金」の任務は二〇〇七年三月三十一日に終了し、基金はこの日付で解散されることになっている。

 このため、以下が下院の意思であることを決議する。

 日本政府は、

(1)一九三〇年代から第二次世界大戦中を通じたアジアおよび太平洋諸島の植民地支配と戦時占領の期間、日本帝国軍隊が若い女性を「慰安婦」として世界に知られる性的奴隷となるよう強制したことを、明瞭(めいりょう)であいまいさのないやり方で、公式に認め、謝罪し、歴史的責任を受け入れるべきである。

(2)日本国首相が公的な資格での公的な声明として、このような謝罪をするなら、誠実さと、これまでの声明〔注=河野談話のこと〕の地位をめぐって繰り返されてきた疑問を解くことに貢献するだろう。

(3)日本帝国軍のための「慰安婦」の性奴隷化や人身取引などはなかったといういかなる主張に対しても、明確に公式に反ばくすべきである。そして、

(4)「慰安婦」に関する国際社会の提案に従うとともに、この恐るべき犯罪について現在と将来の世代を教育すべきである。
(「赤旗」2007629)

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「従軍慰安婦」問題──日本政府は国際公約を投げ捨てた

 しかも、これにつけくわえなければならないのは、植民地支配下の朝鮮のその後の説明のなかで、国際的にもいま大間題になっている「従軍慰安婦」について、記述しないままですませていることです。

 「従軍慰安婦」とは、日本軍が、戦地にある将兵の性的欲求を満足させるために、各所に「慰安所」を設け、日本の国内からも、さらには、朝鮮、中国、東南アジア諸国など、日本が植民地支配をしき、あるいは占領していた国ぐにから、多くの女性を動員して「慰安婦」にした、というものです。

 国連人権委員会のクマラスワミ報告(一九九六年一月採択)およびマクドゥーガル報告(一九九八年八月、差別防止・少数者保護小委員会で採択)が、日本軍による「従軍慰安婦」の問題を取り上げ、詳細な調査のうえにたって、これを、女性にたいする「性奴隷制」あるいは「軍事的性奴隷制」と規定しました。そして、これは、あの時代においてもすでに確立していた国際法に反するものであり、絶対に許されない戦争犯罪の行為であると、きびしく告発しました。

 この問題が明るみに出て以後、日本政府は、最初の段階では、慰安婦の募集と慰安所設置などの仕事にあたったのは民間人であって、軍も政府も関与していなかったとか、慰安婦は自発的に参加したもので、強制連行はなかったとか、さまざまな弁明の言葉をならべてきましたが、日本軍が直接関与していたことも、強制連行をはじめ、仕事の内容を偽って女性を募集するなどのやり方が広くあったことも、いまでは、無数の文書と証言で証明され、日本政府自身も、そのことを認めざるをえなくなりました。

 政府は、一九九三年八月四日に内閣官房長官談話を発表し、一九九一年十二月からおこなってきた調査の結論だとして、次の諸事実を認めました。

イ、長期に、かつ広範な地域にわたって慰安所が設置され、数多くの慰安婦が存在したこと。

ロ、慰安所は、当時の軍当局の要請によって設営されたものであり、慰安所の設置、管理および慰安婦の移送については、旧日本軍が直接あるいは間接にこれに関与したこと。

ハ、慰安婦の募集については、軍の要請を受けた業者が主としてこれに当たったが、その場合も、甘言、強圧による等、本人たちの意思に反して集められた事例が数多くあり、さらに、官憲が直接これに加担したこともあったこと。

ニ、慰安所における生活は、強制的な状況のもとでの痛ましいものであったこと。

ホ、戦地に移送された慰安婦の出身地については、日本を別とすれば、朝鮮半島が大きな比重を占めていたが、当時の朝鮮半島は我が国の統治下にあり、その募集、移送、管理等も、甘言、強圧による等、総じて本人たちの意思に反しておこなわれたこと。

 この談話は、歴史上のこの犯罪について、「お詫びと反省の気持ち」を述べていました。しかし、実際にはこの言葉だけですませ、日本政府が、その後もそれにふさわしい対応の措置をとろうとしないことが、国際的に大きな政治問題になっています。

 さきほど紹介した国連人権委員会のクマラスワミ報告は、一九九三年の官房長官談話やその後の日本政府の対応を吟味したうえで、「日本政府は以下を行うべきである」として、次の六点を呼びかけています。

イ、第二次大戦中に日本軍によって設置された慰安所制度が、国際法の義務に違反したことを認め、その法的責任を受諾すること。

ロ、日本軍性奴隷制の被害者一人ひとりに賠償を支払うこと。多くの被害者がきわめて高齢なので、特別の行政的審査会を短期間内に設置すること。

ハ、日本軍の慰安所とこれに関連する活動について、日本政府が持っているすべての文書・資料を完全に開示すること。

ニ、名乗り出て、日本軍性奴隷制の被害者であることが立証される女性の一人ひとりにたいし、書面による公的な謝罪をおこなうこと。

ホ、歴史的事実を反映するように教育内容をあらため、この問題にたいする意識を高めること。

へ、第二次大戦中に、慰安所への募集・収容に関与した犯行者をできるかぎり特定し、処罰すること。

 しかし、この「勧告」が出されて現在までの五年間に、日本政府は、それにこたえる措置をなに一つとってきませんでした。

 ここで、私がとくに注意を呼びたいのは、この「勧告」でも重視している「教育」の間題です。この点では、官房長官談話も、この過ちを繰り返さないために「歴史教育」が大事だということを、強調していました。


「われわれはこのような歴史の真実を回避することなく、むしろこれを歴史の教訓として直視していきたい。われわれは、歴史研究、歴史教育を通じて、このような間題を永く記憶にとどめ、同じ過ちを決して繰り返さないという固い決意を改めて表明する」

 これは、国の内外にむかって表明した日本政府の公式の約束であるはずです。

 『歴史教科書』の執筆者たちの言動を見ていると、「従軍慰安婦」間題を落としたのは、たまたまの欠落ではなく、確信犯的な行動であることは明らかです。しかし、日本政府の立場は違うはずです。日本政府は、一九九三年に、これだけの事実と問題の重要性を認め、その反省を「歴史教育」を通じて将来世代にも徹底させることを、内外に誓ったのです。その政府が、この事実に一言も触れない『歴史教科書』を認めたということは、日本政府が自身の国際公約を投げ捨てた、ということにほかなりません。

 韓国政府は、その修正要求のなかで、『歴史教科書』が「従軍慰安婦」間題を脱落させたことについて、次のようなきびしい態度を示しています。

 「〔軍隊慰安婦〕日本軍によりほしいままにされた過酷な行為の象徴である軍隊慰安婦間題を故意に脱落させ、残酷な行為の実態を隠蔽。
 最近国連人権委員会で報告されたクマラスワミ『戦時軍性奴隷間題に関する特別報告書』及びマクドゥーガル『戦時の組織的強姦、性奴隷、奴隷的取扱いの慣行に関する特別報告書』でも、軍隊慰安婦を反人倫的戦争犯罪行為として糾弾。

 日本政府も93年8月に軍隊慰安婦関連の『官房長官談話』で日本軍が慰安所設置と運営に直・間接的に関与したことと募集・移送・管理が甘言、強圧等により総体的に本人らの意思に反して行われたことを認定」

 「従軍慰安婦」問題をあえて脱落させた『歴史教科書』の姿勢と、これを容認した日本政府の態度は、朝鮮半島で日本がおこなった植民地支配にたいする歴史認識の共通の誤りを、端的に表現したものと言わなければなりません。

植民地支配の正当化論に傾いた『歴史教科書』の危険性

 いま、『歴史教科書』が、朝鮮の植民地支配の歴史をゆがめた三つの角度を見てきました。全体に共通していることは、

──植民地支配の犯罪性について反省する立場がどこにもないこと、

──さらに歴史の叙述そのものが、武カによる併合と支配の過程をできるだけ平和的に描きだしていること、

──日本側の「善意」の側面を押し出すことで、植民地支配の正当化論に大きく傾いていること、です。

 日本の将来をになう世代が、日本と韓国・朝鮮との歴史的な関係、とくに三十五年にわたる植民地支配とそれにいたる抑圧の歴史について、どういう見方を身につけるか──これは、日本と隣国である韓国・朝鮮との将来にとって、ほとんど決定的な意味をもつ問題です。三つの角度で歴史をゆがめ、植民地支配の正当化論に大きく傾いた『歴史教科書』が、この点でも危険な役割をはたすことを、きびしく指摘せざるをえません。
(不破哲三著「歴史教科書と日本の戦争」2002年 小学館 p101-107)

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◎「「従軍慰安婦」問題をあえて脱落させた『歴史教科書』の姿勢と、これを容認した日本政府の態度は、朝鮮半島で日本がおこなった植民地支配にたいする歴史認識の共通の誤りを、端的に表現したもの」と。