学習通信070904
◎実際の会話の中で……

■━━━━━

上ル下ル
言葉を磨く

 「コウインヤノゴトシでした」。取材で知り合ったフィンランド人留学生か帰国することになり、送別の食事会に出かけた。留学の感想を尋ねると、思わぬ表現が飛び出した。店内で隣の席にいた若い日本人女性客が会話に入ってきた。「それって英語?どういう意味です?」。アンバランスなやリ取りに苦笑した。

 現在、府内には約五万五千人の外国人が住んでおり、年間の観光客は八十万人と、この十年で倍増した。日本語を学ぶ外国人や留学生の友人と話をすると、母国語の言語文化の違いについて考えさせられる。

 「『ムカつく』『ビミョー』を英訳すると?」「『〜っすか?』って、目上の人にも使える敬語?」。若者言葉までにも関心を示す外国人に解説を求められ、答えに悩むこともある。

 元防衛相発言の「しょうがない」は、欧米の報道は「Can 't be helped」などと表現したが、前後の状況次第で意味が変わり、直訳はしにくい。ことわざも勉強して日本文化の研究者を目指すフィンランド人学生は「自分や他人とうまく折り合いをつける日本人らしい言葉」と分析し、「あいまいだけど、思いはしっかりと隠されていて、実際の会話の中でしか覚えられない表現が多い。でも、それが日本語の魅力」と話した。

 ブラジルから出稼ぎに来た女性は言う。小学生の長男は家でポルトガル語を、学校では日本語を使う。どちらも母語として中途半端になりかねない。

 「若い世代の将来が心配。アイデンティティの間題だ。年齢を重ねるほど言葉は大切だと実感する」。身に染みているからこそ、日本語教室に熱心に通う。

 コミュニケーションのために自分の言葉を磨くことの大切さ。外国語として日本語を真剣に学ぶ人たちに教えられている。(佐久間卓也)
(「京都新聞」20070904)

■━━━━━

女のことば

 「はんなり ほっこり」って何だろうとお思いの読者がかなりおいでではないでしょうか。これはとても楽しいことばなのです。とりわけ「はんなり」はもうかなり有名です。もともとはこの語は「しみ」から「しんみり」が出来たように「花」という語から出来たことばでして、花が匂い出るような美しさという感じなのです。それもぎらぎらしたぴかぴかのきらびやかさではなく、愛らしくどこかちょっと押さえてうすあかりがさすようなきれいさです。

 具体的に説明すると、たとえばやや地味めな着物の八掛にあたたかみのある小豆色風の色合いを使うようなとき、はんなりした色やなあという風にいうのです。やさしく品のいいことばです。

 「ほっこり」はおもしろいことばです。これは関西でも一筋縄ではゆかぬことばでして、私のゼミでも一度扱ってみておどろきました。大阪の学生にはあまり通ぜず、正解は京都の学生から出ました。いったいに、この語は京都でよく使います。掃除などをして、「あ、ほっこりしたなァ、お茶でものもか」というような場合です。疲れたとしても、ドタッと倒れこむような大疲労ではなく、いってみればこころよい疲れです。お茶とお菓子とを準備して豊かな気持で家族一同にっこり顔を合わせて番茶と回転焼でも食べようかという感じなのです。

 言ってみれば二つとも愛のあることばです。人と人とふれあって、いとなみとでも名づけたいそんなくらしの中に生まれることば──そしてこれはとりわけ女のことばではないでしょうか。

 美しいものを求め、家族とのくらしに心づかいしてゆく女のくらしに花咲くことば。女のことばと言っても、「どうせ女だもの」式のいやなつまらぬのもありますが、「はんなり」や「ほっこり」には、女のくらしの光がきらめいているようで私は大好きです。

 亡くなった私の母もよく使いました。二つのことばがとてもよく似合う人でした。
(寿岳章子著「はんなり ほっこり」新日本出版社 p20-21)

〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓
◎「はんなり ほっこり」「人と人とふれあって、いとなみとでも名づけたいそんなくらしの中に生まれることば──そしてこれはとりわけ女のことば」と。