学習通信070912
◎常備軍そのものが先制攻撃の原因となる……

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《日本共産党Q&A》

■戦争違法化に向けた国際法の発展とは?

〈問い〉先日の本欄「パール判事とは」の中に「戦争違法化に向けた国際法の発展」という言葉に出合いましたが、どういう意味ですか?(東京・一読者)

〈答え〉憲法や条約に戦争の制限が規定されるようになっていくのは、非戦闘員をまきこむ大量殺りくとなった近現代の戦争を通じてです。

 「侵略戦争の禁止規定」の端緒は、フランス革命直後の1791年に制定されたフランス91年憲法の「征服をおこなう目的でいかなる戦争を企図することも放棄」という規定です。同じころ、カントは『永遠平和のために』(1795年)で、常備軍の撤廃を唱えました。

 『戦争と平和』の著者トルストイも参加したクリミア戦争(1854〜56年)などの悲劇を経て、赤十字が生まれ、戦争をすぐにはなくせなくても、非人道的な武器使用などを規制しようという動きがまず生まれます。最初の政府間の国際平和会議となったハーグ平和会議(第1回・1899年、第2回・1907年)がそれで、常設国際仲裁裁判所(現在の国際司法裁判所)、ハーグ陸戦法規、毒ガスやダムダム弾の使用禁止などが合意されます。ハーグ陸戦法規は、略奪・私有財産没収・非武装都市の攻撃の禁止など、今日にも生きている規定です。

 飛行機や戦車など近代兵器の使用による国家総力戦となって1千万人以上ともいわれる戦死者をだした第1次世界大戦を通じて、戦争を許さないルールをつくろうという動きは格段に強くなります。「無賠償・無併合」の即時戦争終結を主張したレーニン指導下のソビエト政府によって「平和についての布告」(17年)がだされ、それに対応して米大統領ウィルソンの「民族自決権確立、戦争による領土獲得禁止、国際組織の創設」などの14カ条提案(18年)がおこなわれました。

 そして、20年には国際連盟がつくられます。国際連盟規約は前文で締約国が「戦争に訴えざるの義務を受諾」するとしています。しかし、国際連盟規約は抜け道が多く、本格的な戦争の違法化の画期となるのはその後のパリ不戦条約(28年)です。

 同条約第1条は「締約国は国際紛争の解決のため、戦争に訴えることを非とし、かつその相互関係において、国家の政策の手段としての戦争を放棄することを、その各自の人民の名において厳粛に宣言する」と明確にうたいました。

 人類史上かつてない5千5百万人といわれる犠牲者をだした第2次世界大戦にたって、国際社会は戦争を許さない決意のもとに国際連合をつくりました。

 国連憲章は、すべての加盟国は「国際紛争を平和的手段によって国際の平和及び安全並びに正義を危うくしないように解決しなければならない」(第2条3項)「武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならない」(同4項)と規定、これが現在の国際的なルールの基本です。

 “戦争放棄と武力不行使、さらに、戦力不保持、交戦権を認めず”とした日本国憲法第9条の精神は、これと合致し、さらに徹底させたものです。(喜)
(「赤旗」20070912)

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カントの永遠平和論

永遠平和論公刊二百年

 カント(1724ー1804)の永遠平和論の執筆・公刊(一七九五年)は、晩年になされている。カントは周知のごとくドイツ観念論哲学の泰斗であり、その主著である三批判書(『純粋理性批判』、「実践理性批判』、および『判断力批判』)は、夙に有名である。しかしカントが永遠の大哲学者として評価される所以は、本書「永遠平和のために」で@各国の完全軍縮の要請とA国際社会における平和機構の樹立を提唱したことに依拠すると考えられる。

 本書執筆の直接の動機となったのは、一七九五年四月、革命後のフランスとプロイセンとの間にかわされた平和条約に対する不信であったと言われているが、彼の平和論は、単に理想論にとどまっているのではなく、用意周到かつ具体的な提言になっている。この事については、彼自身も「真の永遠平和は、決して空虚な理念ではなくて、われわれに課せられた課題である」との確信にもとづいて執筆しているのである。思うに彼の平和論がますます輝きをもって登場している所以は、核の時代に相応しい内容を持っていると考えられるからである。核戦争の時代は、まさに人類が滅びるか、それとも人類が平和的共生を可能にする国際社会を構築できるかにかかっている時代なのである。

本書の構成と内容

 本書は、二つの章と二つの補説と二つの付録から構成されている。しかし最初の二つの章の内容がもっとも重要な特色を持っている、と言えよう。
(1)第一章は、真に平和な国際社会を構築するための基礎的条件、カントはこの条件を【予備条項】と呼んでいるが、六項目提案している。ここでは第一と第三項目について視てみよう。第一項目では国家間の平和関係を構築するために平和条約を結ぶ場合があるが、カントはその場合の平和条約の内容に厳しく注文をつけているのである。つまりうわべだけの、将来の戦争の種を蔵しているような平和条約は決して真の平和条約ではないと喝破しているのである。現代、各国家間で結ばれている平和条約を分析・批判する場合の鋭い視点の提起でもある。

 第三項目は、第一章のなかでも最も評価されている条項である。常備軍の全廃を主張しているからである。通常、国家が常備軍を維持するということは、無際限な軍拡競争に陥る。この事理はまさに法則的に言える事だとカントは考えるのである。そして更に悪いことには、「常備軍そのものが先制攻撃の原因となるのである」と、常備軍を維持することがいかなる観点からも平和を創造することに帰結しないことを明らかにしているのである。

 他方、カントは、何故常備軍を全廃しなければならないかについて、軍備を持ち戦争に訴えることは、実は人間の尊厳を否定することになると考えるのである。この点は、天野和夫教授によって「カントにとって、人間の尊厳こそ平和への基点にほかならなかった」と指摘されているところである。そして、このカントの常備軍全廃の思想は、日本の内村鑑三の「戦争廃止論」・「内村鑑三全集』所収(一九〇三年)に継承されていると考えられるが、それ以上に有益なのは、日本国憲法第九条が戦争絶対否定の平和条項を確立していることにある、と考えられる事である。まさにカントのパシフィズムは、彼の『永遠平和のために』が書かれて、百五十年後に日本の憲法に開花したと言えるであろう。

(2)第二章は、三つの確定条項から構成されている。この確定条項の意味は、国際平和を確立するために、国内的及び国際的にいかなる体制を確立すべきかを問うているものであり、もう一つは世界市民法の確立を強調しているものである。カントは、自然状態を戦争状態とみて、この状態を平和状態へ移行しなければならないと考える。この移行とは市民的・法的体制の確立にある。そして第一確定条項では「各国家における市民体制は、共和的でなければならない」と言う。しかしここでカントが言う「共和的」とは、自由と平等が尊重される市民体制の事であり、この体制でなければ永遠平和へと導くことは不可能と考えるのである。現代風に言えば、民主主義体制の確立ということである。

 第二の確定条項では、戦争の違法化を前提とした国際的な平和連合、すなわち国際連合の組織化を提言している。しかもこの平和連合は、「すべての戦争が永遠に終結するのをめざすことにある」と主張している。人類は、第一次世界大戦のあと国際平和組織としての国際連盟を、第二次世界大戦の終結にさいして国際連合を組織したが、十八世紀末にカントが国際平和組織としてのいわゆる国際連合の結成を提言した歴史の洞察力には驚かされる。第三の確定条項では、「人類に共通に属している地表の権利」すなわち訪問権の確立を提言している。このような権利の保障が永遠平和の達成に寄与するとする確信にもとづいている。

(3)カントは、本書の第一、第二章ではどちらかと言えば、永遠平和を形成する条件、権利、法的体制について述べているが、第一補説では自然が永遠平和を保障している事を論証している。すなわち自然こそ平和の保障を必然的なものにしている、と言うのである。カントは以上に述べたごとく、永遠平和の達成ということについて、法的な視点と社会の歴史的発展の見地から総合的に平和論を展開している、と言えよう。また第二補説では、国家は哲学者たちに戦争遂行と平和の樹立に関する普遍的確率について自由に発言させ、教えを乞うことを説いている。

 なお、付録一では、永遠平和という見地から見た道徳と政治の不一致の問題について、政治家はすべからく道徳的な政治家でなければならないことを強調している。何故なら道徳的な政治家でなければ、「理性の理念のうちに模範として示されている自然法に適合するような」政治は行えないからである。道徳を重んじるカントならではの政治家論と言えよう。付録二では、公表性の先験的原理について述べている。

カントの永遠平和論と国連憲章改正への示唆

 カントの平和論は二百年前に公刊された。そして五十年前に「われらの一生のうちに二度まで言語に絶する悲哀を人類に与えた戦争の惨害から将来の世代」を救うために、国連が創設された。しかしこの五十年間、世界の永遠平和達成の為に、国連が果してきた役割や実績についてみると必ずしも大きな評価を与えることはできないのである。従って国際間の永遠平和を確立するために、国連憲章を大改革する必要がある。カントの永遠平和論は憲章改革の重要な指針を提供していると言えよう。〔上田勝美〕
(田畑忍編著「近現代世界の平和思想」ミネルヴァ書房 p49-52)

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国連憲章は、「国際紛争を平和的手段によって国際の平和及び安全並びに正義を危うくしないように解決しなければならない」「武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならない」と規定、これが現在の国際的なルールの基本。