学習通信070926
◎女がやって見えてくる部分……

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キラリ
放送ウーマン
NHKディレクター
板垣淑子さん

「ワーキングプア」を担当して

現場に正直に、裏切れません

 ギャラクシー賞大賞、放送文化基金賞優秀賞、新聞協会賞を受賞。昨年、大きな話題を呼んだNHKスペシャル「ワーキングプア」を担当した板垣淑子ディレクター(37)は、物腰の柔らかな女性です。

 番組は、2ケタの視聴率を獲得し、反響も1500通を超えました。
 「思ってもみない反響でした。ぎりぎりのところで踏ん張っている人たちは、私が感じている以上に多いと思いました」

居酒屋談議から

 番組のきっかけはスタッフたちの居酒屋談議。2年前の秋、「クローズアップ現代」で、働きたくても働けない地方の若者を取材した板垣さんたちは憤りを胸にプロデューサーに向き合います。

 誠実で労働力として価値が高い若者たちがコスト削減や合理化で社会から排除されていること。どんなに働いても報われない地方の現実。即座に企画化が決まりました。チームで議論を重ね、生存権をうたった日本国憲法を指針にすることを確認します。

 板垣さんは、両親の故郷でもあり、平均所得などの数値が全国で最下位を争う秋田県に密着。秋田県生活と健康を守る会遠音会を訪ね、税金を払いたくても払えない人たちの集団申告の現場を取材します。仕事をやめて生活保護を受けた方が……と思えるような生活実態。でも仕事を手放したいという人はいませんでした。

 農家とは4ヵ月、日常を共にしました。早朝5時、日の出とともに田畑に出かけ、夜は内職の繰り返し。ジレンマを感じたのは、救う手だてが見つからないことでした。

 構造改革で崩壊

 ITで日本にも億万長者が生まれたと騒がれていました。一方、朝5時から夜12時まで額に汗して働いている人が生活の維持すら難しい。景気回復の恩恵を受けている人は、どれほどいるのでしょうか。このまま労働市場の構造改革やマネー資本主義が加速したら日本の土台が崩壊する、と危機感を覚えました」

 放送後、視聴者から寄付の申し出がありましたが、当事者の意向で断りました。番組は第3弾を予定。日本はどこに軸足を置き、どんな未来を選択するのか。解決の方向を模索中です。

 1994年、NHKに入局。意外にもジャーナリスト志望ではなかったといいます。編集作業に入ると一週間は職場に缶詰めで同業者の夫ともすれ違い。しかし気がつけば次の企画を探している自分がいると話します。

 「自分の憤りや小さな思いが発端となって、何十万、何百万の人にメッセージを送ることができる。中毒になりますね」
 心がけているのは「現場に正直であること」。「貧しさをカメラの前で語ることは簡単ではありません。借金までさらけだしてくださった方たちを裏切ってはならない」

 10月中旬放送のコメをテーマにした番組も手がけます。 (板倉三枝)
(「赤旗」20070926)

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女、本を書く

 つづけて三冊、女性が書いた本を読んでまことに多くのことを考え、そして学んだ。

 「私は女」「きのこ学騒動記」「旭川」がこの三冊である。それぞれに個性ゆたかな「目」のある本だ。「私は女」、切ない本である。障害ある女たちが、生理に悩む、性の問題をまっこうからみつめる、子宮をとるかどうかに苦悶する。そして判断し、決意し、血がにじみ出て車椅子にべったりついても、女であることを棄てないみごとさ。凄絶とでも言うべきすごい覚悟を語る女性たちの心情を集めた本で、こちらの姿勢がただされるようだった。

 「きのこ……」、大した本である。主婦である女のくらしに、きのこに心ひかれての堂々たる研究生活を重ね、女の目、女の心という黄金の糸で綴じた、嘆息するようなあざやかな内容の本。ユーモアたっぷりでもあって、私は何べんも吹きだしてしまった。

 「旭川」は、おだやかに百三十年前の祖父の暮らしから説きおこし、ゆらめくように品よくやさしい女の生涯を語ってゆく、その筆つきの優雅さ。書名が物語るように岡山の女人のかきあらわしたもの。

 女の内部にぐっとふんごむような本、いきいきした女の感性を軸に、縦横無尽に女の暮らしをのべた本、しあわせな老女がかぼそくうたう美しい歌のような本。

 偶然三冊をつづけて読んで、三冊とも決して男には書けないということを思うにつけても、女が物をいうことの大切さをあらためて感じさせられた。

女は本を読まないでいい、ましてや書くなんて、そんな発想はもののみごとに打ちくだかれる。

女だから書いた本なのだ。

この世の中、男にだけ物書きをまかしておかれるものではない、書けよ世の女たち、私は天に向かって叫びたいような心持ちであった。

何だって女もやりましょう。女がやって見えてくる部分がこの世の中、何と多いことか。かくてこそ女に生まれたれ、ビバ女!
(寿岳章子著「はんなり ほっこり」新日本出版社 p36-37)

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◎「女が物をいうことの大切さをあらためて」と。