学習通信070928
◎父親が仕事を辞めて……

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以前から父に
不満があった
おの切り付けの中3

長野県辰野町で中学三年の少年(一五)が父親(四四)の頭をおので切り付けたとして殺人未遂容疑で逮捕された事件で、少年が岡谷署の調べに対し「以前から父親に不満があった。おのは最近、近くで買った。父親を殺すつもりだった」と話していることが二十六日、分かった。

 学校関係者によると、少年は父親が仕事を辞めて自宅にいることについて不快な様子を家族に見せていたという。岡谷署は父子間でトラブルがあり、少年が前もって犯行を計画していた可能性があるとみて調べている。
(「京都新聞」20070927)

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父親がリストラされたとき

 若い知人に久しぶりに会ったら、なんだか顔色が悪い。「どうしたの、職場でなにかあったの?」ときくと、「いや、私は変わりないんですけどね」とため息。「うちのお父さん、リストラされちゃったんですよ」。長年、食器の会社につとめていた彼女の父親は、あと二年で定年退職という今になって、「退職金を多めに支払うから、早めに退職してもらえないだろうか」と会社から言われて、そうすることに決めたのだという。

 「ちょっと早めに定年、と思えばいいじゃない」と言うと、親思いの彼女は「母親も私も最初はそう思ったんですよ。でも、いざ父親が会社に行かず家にいる姿を見ると、なんだか不安になってきちゃって……」

 毎日、会社に行くのがお父さん≠ニいうイメージが、家族の中にしみついているのだ。父親自身も、退戦前は「さあ、好きなことをやるぞ」なんて言ってたのに、今はなんとなくぼんやりすごしているだけだという。

 日本の男の人は、とにかく働きすぎ。一日のうちの半分近くを会社ですごし、片道何時間もかけて通勤、家にいる時間のほとんどは睡眠にあてる、という人もめずらしくない。そんな生活を二〇歳すぎから六〇歳くらいまで、毎日続けるなんて……。考えただけでも頭がクラクラしてきちゃう。

 彼女の父親も、そんな生活を何十年も続けているうちに、「会社にいる私」が自分のほとんどすべてになっちゃっていたのだろう。そこでいきなり、「はい、あなたは今日で仕事しなくてもいいですよ。これからは、別の自分として生きてください」と言われても、自分も家族もどうしてよいか、わからない……。ちょっと悲しい話だ。

 私は彼女に言った。「仕事がいきなりなくなってお父さんががっかりしているのはわかるけど、あなたまでしょんぼりしちゃダメじゃない。会社に行かなくたってお父さんなんだから、いつも通り明るく自然に接してあげて。いっしょにお酒でも飲みに出かけてあげたら、喜ぶんじゃないかな?」。すると彼女は、「そうですよね。仕事がなくなっただけで、お父さん自身が変わっちゃうわけじゃないんですよね」とうなずいてくれた。

 それから、二週間。彼女と再び会う機会があった。「お父さん、あれからどうしてる?」とたずねると、今度は笑顔が返ってきた。「今はすっかり元気です。英会話を前から勉強したかったんだって言って、英会話のテープきいたりしてるんですよ。来年は、家族でアメリカにでも旅行してみようか、なんて話も出てるんです」

 そうそう、仕事はとても大切だけれど、仕事だけが人生じゃない。忙しい仕事がなくなったんだから、思いきり自分らしい毎日を送ってくれればいいな……。私は彼女のお父さんに会ったことはないのだけれど、心から「楽しい毎日を送ってくださいね!」と言いたい気分になった。

□「おとなって仕事で苦労してるな」と思うことはありますか

□もしあなたが二〇年くらい働いたあとにリストラされたら、どんな気分になるでしょう

□「退職後はこんなことしてみたら?」と親に言うとしたら、なにをすすめますか
(香山リカ著「10代のうちに考えておくこと」岩波新書 p62-64)

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◎「会社に行かなくたってお父さんなんだから」と。