学習通信071018
◎あり地獄のような状態……

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日雇い派遣、実態は漂流生活
「仕事+宿」にはまる若者

 「魅カ的な仕事を級介、宿泊施設も提供します」。こんなうたい文句で若者を集める人材派遣会社などが目立っている。仕事は主に日雇い。フリーターなど若者が利用し、宿泊施設に長く住み続ける人も少なくない。企業側は「求職者支援」などとPRするものの、一度立ち入るとその生活を抜け出すのは難しい。日雇い派遣を固定化する仕組みとの批判もある。

 「明日で宿の契約が切れる。どうするか」。フリーターの田上愛子さん(仮名、23)は、今の生活を続けるか迷っている。

 住まいは派遣会社が都心の繁華街に設けた宿泊施設で、一ヵ月契約の八人部屋。格安で仕事も紹介してもらえると聞き、定職を得るまでのつなぎとして、関西の実家を出て以来住んでいる。仕事は飲食店の夜間業務。一日五千円もらえるが交通費や食費、宿泊費で手先にはほとんど残らない。仕事を失えば「友達の家に泊まるか、ネットカフェに行くしかない」

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 労働者の宿泊施設といえば、寮や工事現場の作業員宿舎などを思い浮かべる。しかし「最近は日雇い派遣向けの似たような施設が目立つ」と、特定非営利活動法人(NPO法人)「自立生活サポートセンター・もやい」東京・新宿)の湯浅誠事務局長は指摘する。

 以前から派遣会社は専門職の人材に勤務先近くのホテルなどを提供することがあったが、最近の施設は収容人数を優先。生活環境も良好とは言い難いという。

 背景には日雇い派遣の需要の増加がある。引っ越しや倉庫作業、小売店の販売支援……。企業の要請に応えるため、派遣会社は「フリーター・求職者支援」をうたい、宿泊施設を用意。働き手の確保を狙う。そして、田上さんのような若者が気軽に利用する。

 「実態は日雇い派遣を固定化する仕組み」(湯浅さん)との見方もある。

 マンションの一室には三段ベッドがずらり。日雇い派遣で生計をたてる沼畑悟さん(仮名、33)はその一段で一年以上暮らしていた。「フリーター支援」をうたう建設請負会社エム・クルー(東京・豊島)が経営する宿泊施設。一泊約千八百円で寝床を提供する。

 職場は毎日変わる。ベッドもカーテンで仕切られ、同室の人と交流することもない。長居するつもりはなかったが、「宿泊施設に入り、履歴書に書ける住所がなくなったので、安定した仕事に応募したくてもできなかった」(沼畑さん)。

 一般に派遣で働く若者への視線は厳しい。「なぜ定職に就かない」。自己責任という見方も否定できないが、一度陥ると抜け出すのが難しい構造もある。

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 複雑なのは「漂流」する本人たちが意外なほど淡々としていることだ。

 沼畑さんは。「その日暮らしに慣れた。自分の責任だし………」と苦笑する。アルバイトをしながら、寮を転々として十年になる植田亮さん(仮名、37)は、「生活は不安定。でも年をとったらその時はその時。何とかなる」と、あっさり話す。

 厚生労働省の調査でも短期派遣の労働者の約半数が「現在の働き方のままでよい」と回答。ネットカフェで寝泊まりする労働者の約六割が「住居を確保したいが、貯蓄などの努力はしていない」と回答した。

 しかし、「それを本音として受け取ってはいけない」と、若者の労働問題に詳しい東京大学大学院の本田由紀准教授(教育社会学)は強調する。「望む仕事や生活は得られないと絶望し、思考を停止させている」と内面を推測。「何とかなると言うのは、彼らの最後のプライド」とみる。

 国も手をこまぬいているわけではない。日雇い派遣の増加を受け条件付きで失業手当の給付を認めるなど安全網整備に動き始めた。

 「中には高額の寮費を給与から天引きする悪質なケースもある」と話すのは首都圏青年ユニオン(東京・豊島)の河添誠書記長。不透明な宿泊施設付き派遣の実態把握も必要だろう。

 「漂流する若者が今の生活を抜け出せるよう支援する寛容さを社会が持つことが必要」と本田さんは指摘している。

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一人で放置せず生活の場提供を

 「現代の貧困」などの著書があるい日本女子大学岩田正美教授の話
 ネットカフェ難民を含め、職場や住まいを漂流する若者が増える背景には、孤立がある。彼らの多くは家族や学校、会社など帰属する場所を明確に持たない。しかし、働かなければ生きていけない。パソコンで仕事を探せるネットカフェや人材派遣会社の宿泊施設は、彼らにとって都合の良い仕組みになっている。

 問題は一度そのような場所で過ごし始めると、その生活に慣れ、家を借り元の生活に戻る意欲を失う傾向があることだ。疲らを放置すれば、いずれ生活困難に陥る。それは社会全休を不安定にさせる可能性も高い。

 彼らを一人にしてはいけない。もちろん、ネットカフェや宿泊施設を用意する企業を排除することは難しいだろう。彼ら自身の努力はもちろんだが、若者の就業環境の改善や生活全般の相談を受けられるような仕組み作り、若者が暮らしやすい住宅政策などが必要だ。帰属できる場所や普通の暮らしに戻れるルート作りが、求められている。

(「日経」夕刊 20071012)

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●貧困ビジネスにだまされるな

雨宮……湯浅さんは「貧困ビジネス」という言葉を使ってますね。敷金・礼金なしのアパート物件の話も聞きたいんです。お金がないためにそういう物件に入ってしまいますね。

湯浅……金城さんはそうでしたね、レオパレス21。東京だとスマイルサービスというところもハデに宣伝してますね。どピンクの看板にゼロが3つ並んでいて、それは敷金O、礼金O、仲介手数料Oということなんですけど、ああいうところは入る敷居を低くしてるんです。敷金・礼金とってたら貧困者を取り込めないからです。

低くした分、滞納リスクが高まります。滞納リスクが高まるので、追い出しやすくしているんです。

金城さんたちがそうですけど、レオパレス21は会員になった人だけが利用できる「部屋利用契約」を結ぶわけです。スマイルサービスも同じで、施設利用契約を結ぶ。「賃貸借契約ではないよ」と主張してるわけです。

賃貸借契約だと借地借家法という法律が立派にあって、4ヵ月から6ヵ月滞納しないと貸し主との信頼関係が壊れたとは認められない。だから勝手に追い出しちゃいけませんということになっている。だけど施設だから1日遅れただけで1万5000円取ってもいいと、スマイルサービスやレオパレス21は言っているわけです。

 これはマンションバブルの問題とも関わっていて、今マンションを建てる業者にとって重要なのは入居率なんです。今の土地投機は土地にマンションという上物を建てて、人居者の賃料を利息として受け取ることで不動産投資が成り立っている。ということは人居率が高くないといけない。入りやすくしなければ入居率は高くならない。しかも滞納率が高まったときには、出しやすくしないと回転していかない。そういうふうにして新しいシステムを作ることで不動産投資を呼び込む。

レオパレス21はその典型で、全国に38万戸の賃貸アパートを作り上げた。これは、住宅市場のダンピングなんです。中野麻美さんという弁護士の本に『労働ダンピング』があります。いかに労働が切り刻まれ、商取引化され、ダンピングされてきたかを告発した本です。ただ、ダンピングされているのは労働だけじゃない、住宅も福祉もそうなんです。

公機関がきちんと公的保証をするんじゃなくて、地域住民にお互いに見守らせようということが着々と進んでいるんです。

 そういうふうにダンピングが進む中で、その受け皿として貧困ビジネスがあって、例えばフルキャストがローン組んでます。うちで働いている人はこういうローンが組めますよとやっている。あるいはエム・クルーというところは、うちで泊まれるし、仕事もできるよと、飯場みたいなシステム(レストボックス)をやってます。みんな多角経営化してきている。そうやって貧困ビジネスネットワークを組んでいるわけです。

錦糸町に行ってみると、南口に場外馬券売り場がドーンとあって、その前にサラ金ビルが建ち並んでいます。サラ金ビルが建ち並んでいる駅前には、街金の看板を持った人たちがいます。サラ金でさえ借りられない人はうちにどうぞ、というわけです。その看板を持っている人たちは野宿者です。1日2000円とかそういう金額を小遣いとして渡されて。それも貧困ビジネスネットワークです。

それが公的セーフティネットの代わりに機能し始めている。行政は公的セーフティネットをやらないと言ってるんです。特に若い人、働ける人に向けては。その代わりに待ち受けているのが貧困ビジネスネットワーク。それに一度ハマったら、なかなか抜け出せない。

雨宮……そうなんです、フリーターはそこから抜け出そうと思っても、いろんなところに絡め取られてしまうんですよね。あり地獄のような状態になっていて。
(「雨宮処凜のオールニートニッポン」祥伝社新書 p95-98)

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主張
労働者派遣法
抜本改正は「待ったなし」だ

 今国会の審議を通じて、いくら働いても生活保護水準以下の生活から抜け出せないワーキングプアなど不安定で極めて低い賃金を強いられている非正規雇用の広がりが、改めてクローズアップされました。とりわけ携帯やメールで日給仕事を得る「日雇い派遣」など、派遣労働者の実態は深刻です。

 非正規雇用を野放しにしている労働法制の規制緩和路線から転換し、登録派遣や日雇い派遣の禁止をはじめ派遣労働の規制を強化することは「待ったなし」です。

原因は労働法制の改悪

 この五年間で、従業員の賃金(従業員給与と福利厚生費)は五十二兆円から四十八兆円へと四兆円も減少しています。逆に資本金十億円以上の大企業の経常利益は一九九七年度から二〇〇六年度までの九年間で、十五兆一千億円から二・二倍の三十二兆八千億円に膨らんでいます。

 大企業の大もうけと、労働者全体の労働条件の悪化・賃金減をもたらしているのが非正規雇用の野放しです。非正規で働いている人は千七百三十一万人で、全労働者の三人に一人(33・2%)です。とくに若者の二人に一人は非正規です。年収二百万円に届かない人が一千万人を超え、派遣社員では49・6%、契約社員・嘱託でも44・8%を占めています。

 労賃のピンハネで稼ぐ労働者供給(派遣)業は戦前、「口入れ稼業」などと呼ばれ、労働者を低賃金で無権利の過酷な労働に追い立てました。このため戦後は、こうした間接雇用である労働者供給業は原則禁止されました。ところが政府は、財界・大企業の要請に応じて、まず一九八五年に十六の専門業種に限定する形で労働者派遣を認めました。十一年後の九六年に派遣対象を二十六業種に広げ、九九年には対象業種の規制さえやめて原則自由化しました。二〇〇四年からは製造業への派遣も解禁し、正社員から派遣社員への置き換えが大規模にすすみました。

 日本共産党の志位和夫委員長、市田忠義書記局長がそれぞれ衆・参両院の代表質問で、また佐々木憲昭衆院議員が予算委員会で取り上げたように、その背景にはリストラで正規雇用を減らしながら派遣、請負、パートなど非正規雇用に次々と置き換えていった大企業の労務政策と、それを促進してきた労働法制の規制緩和路線があります。

 労働法制の規制緩和路線からの転換を求める声が高まっており、四日には日本共産党、民主党、社民党、国民新党の代表と全労連や連合などに加盟する労働組合が国会内で一堂に会し、派遣法の抜本改正をめざしてシンポジウムが開かれました。

 労働者派遣は臨時・一時的な場合に限定し、正規雇用の代替にしないという原則にたちもどり、派遣労働者に直接雇用、正社員への道を開くべきです。賃金はヨーロッパのように同じ仕事なら待遇も同じにするべきです。とりわけ日雇い派遣は政治の力で直ちになくすべきです。

首相は自らの言葉に責任を

 日本共産党の志位委員長の質問にたいし、福田康夫首相は、「政府としても派遣法見直しの検討を始めており、その結果をみて適切に対応する」と答えました。しかし、舛添要一厚労相は佐々木議員の質問に、「企業のニーズもある」などとあいまいな態度をとっています。

 非正規労働者の低賃金と過酷な労働を大企業の空前の利益の源泉にすることは、これ以上許されません。労働者派遣法の抜本改正へ、いま世論と運動が重要です。
(「赤旗」20071013)

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◎「非正規雇用を野放しにしている労働法制の規制緩和路線から転換し、登録派遣や日雇い派遣の禁止をはじめ派遣労働の規制を強化することは「待ったなし」」と。