学習通信071023
◎急激な変化……

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《潮流》

「存在が目障りだ。……お願いだから消えてくれ」「おまえは会社を食いものにしている、給料泥棒だ」。四年前、製薬会社の営業マンを自殺に追いやった、上司の暴言です

▼東京地裁は、自殺を労災と認めました。職権をかさにきた嫌がらせ(パワーハラスメント)で発症した、うつ病が原因だから、と。おとな社会、企業社会に広がるいじめのありさまが、裁判で明るみにでました

▼おとなのいじめは将来もっとひどくなるのではないか。そんな不安を抱かせるのが、いまの子ども世代のネットいじめです。携帯電話やパソコンのインターネットを利用する、言葉の暴力です

▼「死ね」「学校にくるな」「うざい」など、やはり人格や存在そのものを否定する書き込みが多い。七月に神戸の学校で飛び降り自殺した高校生は、むりやり撮られた裸の写真がネット上に載せられていました

▼だれが書き込んでいるのか分からない。事実無根の中傷がたちまち広く知られ、ほかのだれかも便乗し攻撃してくる。本人が知らない間に自己紹介ページがつくられ、悪用される。被害者は人間不信に陥り、逃げ場を失います。軽い気もちでいじめに加わる人も、人格をゆがめていきます

▼欧米も同様です。イギリスでは十二歳から十五歳の子どもの34%が、なんらかのネットいじめにあっていました。政府が撲滅をよびかけています。まずは、学校に担当者をおいたり、証拠を保存し報告するなど。効果のほどはともかく、危機感の大きさが伝わってきます。
(「赤旗」20071018)

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変化≠フ時代

 多くの人たちが、「今、職場が変わりはじめて、確実に人間関係も変わってきている」ことを実感している。いや、「今の職場は変わらなければならない」もしくは「変わるべき」と考えている人も多い。

 その一方で、何がどのように変わるのがいいのかについては、様々に見解が分かれている。そして、この変化がどこに行こうとしているのか、またどこに行けばいいのかについては、誰もがまだ明快な解答を待っていないようにも見える。

職場が変わる

 これまでも、団塊の世代がサラリーマンとして大量に流れ込んだ時や、旧世代の人たちと新人類と言われる人たちとの意識の違いなどが、その都度大きく注目されてきた。その理由は、職場を大きく変化させるのではないかという期待や、受け入れる側としての職場の戸惑いからだった。しかし、その話題性や注目度の高さはありながらも、職場の制度の根幹を揺るがしたり、企業風土を変えることにはならなかった。

 今起きている変化は、これまでのものとは違って、職場のシステムを根本から変えようとしているようにも見える。それは、意識変化などというつかみどころのないものだけではなく、いくつかの制度の変更をともなっているからである。

 具体的には、これまでは確固として揺るがないものと信じられていた年功序列や終身雇用という雇用制度が、いとも簡単に投げ捨てられようとしている事実がある。また、成果主義という得体の知れない制度の導入も、予想を遥かに超える急テンポで進められている。

 そして、何よりも大きな変化は、働き方が変わりはじめてきたことである。正社員中心の雇用形態が、契約社員、パート、フリーター、アルバイト、派遣、下請けなどという非正規労働者に取って代わるようになってきた。多様化する雇用形態は、そこで働く人たちの意識を確実に変えはじめている。

 その一方で、平成不況が職場を襲い、経営の立て直しのためにという急場しのぎで、未曾有ともいえるリストラ旋風が職場を席巻した。そして、このリストラ旋風が一段落した今、職場には、その悪夢のような混乱の後遺症として苛立ちだけが残された。

 このリストラの後遺症として残された職場の苛立ちは、一過性のものと思われていたが、その後の大きな職場の変化を巻き込んで、徐々に大きなうねりとなってきているようだ。それは、依然として迫られる変化にどのように対応したらいいのか、どこに向かえばいいのかが見えてこない苛立ちと共振し、増幅しはじめている。

 その苛立ちは、「パワーハラスメント」と命名されることで、その不気味な正体を現しはじめてきたかのようである。パワーハラスメントがまさに今日的なテーマとしてクローズアップされてきたことの理由は、職場の環境が変わり、組織が変わり、そこでの人間関係の変化が背景となっている。

パワハラは世界的な動き

 二〇〇二年に、ILO(国際労働機関)、ICN(国際看護師協会)、WHO(世界保健機関)、PSI(国際公務労連)の四者によって、いわゆる「職場暴カガイドライン」が作成されて話題となった。

 こうした動きなどを見る限り、今や職場の暴力やいじめは日本だけの問題ということでなく、国際的なテーマとなっていることが分かる。それは、まさに時代変化の波が国際規模で起きており、それぞれの国で、その変化の波が職場を揺り動かしはじめているということに他ならない。

 現に、そのガイドラインは、そうした職場における暴力の国際的な広がりが深刻なものになりはじめていることについて、次のように指摘し警告している。

 「職場で起きる暴力は、身体的なものであれ心理的なものであれ、国境・職場・職業集団の違いを超えた世界的な問題となってきている。長らく「無視されて」きたこの問題は、近年、劇的に脚光を浴び、いまや先進工業国、発展途上国に共通した重要関心事となっている。

 職場で起こる暴力は世界中の多くの人々の尊厳を傷つけている。職場における不平等、差別、不当な決めつけや衝突事件の主要因となっており、さらには人権に関わる重要問題となってきている。同時に、この問題は、保健医療諸機関の効率と成功を脅かす深刻な、そして時には致命的な脅威となりつつある。暴力は、対人関係、労働組織そして労働環境全体に即時的に、時として長期的な混乱を引き起こす」(『職場暴力ガイドライン』全国医療発行)

 すでに触れてきたように、最近になりパワーハラスメントが日本でにわかに社会問題化する傾向をみせているが、このガイドラインが指摘するように、今や世界的な規模でも職場のいじめが問題になっている。

 英国安全評議会発行の『SAFETY MANAGEMENTJ(二〇〇四年三月号)によると、二〇〇二から〇三年度における職場暴力事件の総数は、年間八四万九〇〇〇件で、被害者数は、三七万六〇〇〇人と推定されている。

 フランスではモラルハラスメント、イギリスではモビング、アメリカではスピッティングなどという呼び名で、職場でのいじめが同様に社会問題化している。こうした動きが共通に抱えている背景は、変化≠ニいうキーワードである。時代のキーワードとして変化≠ェ浮上していながら、その変化を遂げられない苛立たしさが企業に蔓延している時代背景の中でパワハラが起きているということだ。

 国際化時代の中、グローバルスタンダードが声高に叫ばれ、新たなスタンダードの確立に向けて各国がしのぎを削っている。まさに、それぞれの国が、その国のこれまでのスタンダードの抱える問題点や限界を克服して、新たな価値観を確立していくことが求められている時代である。

 前述した「職場暴力ガイドライン」をはじめとする各種の報告書などからも、そんな国際化の流れを受けて、各国とも、これまでの慣れ親しんだやり方の見直しや価値観の変更にもがき苦しんでいることが浮かび上がってくる。

 つまり、どこの国でも企業を取り巻く環境が大きく変化しながらも、その変化を受け止められない職場の苛立ちが取りざたされている。そして、その苛立ちが暴力やいじめとして噴出しているように見える。

 大きな変化が求められているにもかかわらず、その変化を遂げることができない苛立たしさや、古い体質と新しいものへの変化のためのよじれが企業内の確執として吹き出しはじめているということである。

 こうしたパワーハラスメントが国際的な話題になるにつれ、諸外国の取り組みや対応も紹介されるようになっている。その対応を見てみると、それぞれの国の制度や仕組みや人間関係の特質が様々に議論されながら進められているのが特徴となっている。

 こうした流れから、パワハラの実態は、それぞれのお国柄があり、日本のいじめについても、やはり日本的な特異性があることを教えている。そこで、日本的なパワーハラスメントにおける組織や人間関係の特性がどのようによじれを起こしているのかについて考えてみよう。

日本的なパワハラ

 日本的な職場の特質を考える場合に、これまでの日本企業の良好なパフォーマンスを支えてきた年功序列型の賃金体系や終身雇用と、それを支える集団主義的な人間関係の変化を技きにしては考えられない。

 周知のように、近年、こうした日本的労務管理の弊害が声高に言われるようになった。その理由は色々とあるが、ひとことで言えば経営環境の変化にともない、これまでのやり方が通用しなくなったり、むしろ弊害をもたらすようなことが起こるようになってきたからである。

 これまでは長所としてもてはやされてきたことが、逆に短所となりはじめてきているということである。具体的な例を挙げるなら、経済のソフト化や、国際社会化、情報社会化と言われる時代変化の中で、消費者の意識が変わり、そのニーズも大きく変化しはじめていることである。

 そこでは、これまでのような、消費者の画一的な嗜好による画一的な商品提供というシステムでは対応できなくなっている。これまでのように消費ニーズが画一化されていた時代には、画一的な商品を大量に生産していればよかった。

 そして、そうした時代には、定型的でまとまりのよい集団が、その威力を発揮してきた。しかし、ニーズが多様化して、それに応じた多種類の少量生産という小回りのきく生産体制には、集団主義的な行動様式はマイナスに働くことになる。

 これまでの会社システムの基本的な原理は、一人一人の個人では実現不可能な問題も集団で行えば達成可能となるというものである。しかし、今日求められていることは、集団でどのように行動するかではなく、個人個人がそれぞれの能力や特性を発揮し、その総合力をどのように発揮していくのか、ということである。

 こうした企業を取り巻く環境の変化は、当然に職場環境の変化を求めることになる。いわば、こうした企業を取り巻く環境の急激な変化にともなう職場環境の変化がこれまでの制度や意識との間に大きな軋みを生み出しているのである。

 つまり、日本企業の特質とされてきたものが、今後どのように変化すべきかということが問われているということである。それは、見方を変えれば、新旧の価値観の衝突ととらえることもできる。

 今日、職場環境に一番大きな影響を及ぼしている要素は、終身雇用という雇用システムと年功序列型賃金体系の否定である。そして、それに代わって成果主義の導入に見られる個人主義、能力主義への急激な転換である。人間関係で言えば集団主義の否定から個人主義への急激なシフトであり、その急激な変化が生み出しているひずみとも言うべきものである。
(金子雅臣著「職場いじめ」平凡社新書 p70-78)

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◎「おとなのいじめは将来もっとひどくなるのではないか」と