学習通信071113
◎張り合いのある労組……
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徳島発
直接雇用をもとめるたたかい
そのI 光洋シーリングテク
徳島でも
四国・徳島でも偽装請負とのたたかいが始まっていました。
「徳島県で請負労働者が労働組合を結成した」。こんな情報が編集部に飛び込んできたのは、〇四年九月下旬でした。
会社は、徳島市の北隣、吉野川沿いに広がる藍住(あいずむ)町にありました。「光洋シーリングテクノ」。トヨタ自動車の孫会社で、変速機の潤滑油が外に漏れないようにするオイルシールや、油圧をコントロールするピストンシールを生産しています。四百人を超える社員と請負労働者約百人が働いています。請負会社はクリスタルグループのダイテック(その後「コラボレート」となり、〇七年三月から「ハイライン」に社名変更)と地元のマイオールなどです。
このうちの数十人の請負労働者が全国労働組合総連合(全労連)加盟のJMIU(全日本金属情報機器労働組合)徳島地域支部に加人しました。ダイテック分会とマイオール分会があります。全労連で業務請負労働者が組合に加人した最初のケースです。
会ってみると、二十代が中心の若々しい労組でした。中心メンバーの一人、黒坂和也さん(24)は、青い作業服と紺色の帽子をかぶった顔にイチローのようなヒゲをはやしています。労組結成の思いを話してくれました。
「こんな安い時給では、トヨタの部品をつくっていてもトヨタの車が買えないんですよ」
更新20回
黒坂さんらは、金環と呼ばれる丸い金属とゴムをプレス機で接合する仕事をしています。一八〇度の高熱で接合するために、夏の職場は四〇度を超え、体も下着もびちゃびちゃになるといいます。
仕事は二交代制。午前七時から午後二時五十一分までの昼勤、午後二時三十九分から午後十時三十分までの夜勤です。夜勤には三時間の残業があり、仕事が終わるのは深夜の一時三十分という過酷な労働です。
しかも、契約期問はダイテックで三ヵ月。黒坂さんは、すでに契約を二十回更新してきました。
「社員さん(正社員)に負けんように、と仕事にがんばっています。社員さんが『仕事を教えてくれ』といってくるんですから。それくらいがんばっても、時給は千百円です。社員さんの三分の一で、年収は二百数十万円しかありません。五年働いているのに、一円も上がらないんですから」
仲村早途さん(32)は、マイオールに入って一年七ヵ月です。
「一時問でプレスを七回は打つ。一生懸命やらなかったら首を切られる」。青い作業服からのぞくネックレス。たくましい顔にひげ……。
「マイオールから、ネックレス、ひげ面をやめよ、といわれた時にはカーッとなりました。『仕事となんの関係があるんや! いまからそちらへ乗り込むぞ!』といってやったこともあるんです」と笑う仲村さんは、こう付け加えました。「時給千百円で、いつ解雇されるかしれません。こんな不安な状態では、彼女ができても結婚できそうにない」
団結が一番
黒坂さんは、「ダイテックを辞めようと思っていたとき、労組をつくろうと呼びかけられた」といいます。
呼びかけたのは、ダイテックに入って四年余の矢部浩史さん(39)でした。
「同じ仕事をしていても、社員さんは違う世界のように見える。待遇に差がありすぎるんです。インターネットを検索していて全労連を知り、同じ職場に正社員でつくるJMIUの労組があることがわかりました」
正社員でつくる労組がJMIU光洋シーリングテクノ支部です。大西利夫委員長は、「矢部さんら若々しく元気な人たちと共同して、労働条件引き上げに全力をあげたい」と語ります。
徳島労連の森口英昭事務局長は、「『請負労働者では技術の伝承ができない』といわれてきましたが、考えを改めました。矢部さんらのがんばりと技術力はすごい。涙がでてきます。学ばされました」。
労組結成にたいしダイテックは、〇四年十月からの新しい契約書に、「契約期問満了を待たずに解雇することがある」という項目を入れてきました。
仲村さんが「負けません。働きがいのある職場、張り合いのある労組をめざします」といえば、黒坂さんも「みんなで固まって、手をつなぐことや。団結が一番や!」と応じます。みんながうなずいて、「プロ野球労組のように一糸乱れず、たたかおう」。
はじめての春闘
光洋シーリングテクノの請負労働者が労働組合を結成してから六ヵ月。〇五年三月、藍住町を訪れると、川は春の光で輝き、モクレンは満開でした。
「春闘なんて縁遠い世界でした。労組はいいスタートを切りましたよ」
仲村早途さんがうれしそうに話してくれました。パートで働く彼女に「時給二十円上がったよ」と伝えると、「十円上がるのも大麦なのに。がんばったね」と祝福されたそうです。
トヨタの奥田碩会長(日本経団連会長)が世界のトップをめざす八百五十万台生産≠豪語するなかで、この六ヵ月間は、夜勤の残業が五時間というすさまじさでした。
初の春闘で、ダイテック分会は、▽時給を五十〜百円アップせよ▽一時金を支給せよ▽安全靴を支給するか、一部を負担せよ──と要求しました。
団体交渉でダイテックは、人社三年以上の人は時給を三十円、二年以上の人は二十円、一年以上の人は十円、それぞれアップする、と回答しました。
ダイテック分会代表の矢部浩史さんは、「テクノで働いて四年半、これまで一円も上がりませんでした。三十円は、残業手当にもはねかえるから、ぼくの場合で月に七千百円余りのアップになる」と笑顔で語ります。
組合員でもっとも若い大西真一さん(22)には、妻と一歳三ヵ月の赤ちゃんがいます。「五十時間の残業をふくめて手取りはわずか二十万円です。妻が『生活の足しになる』と喜んでくれました」
(注)奥田氏は現在、トヨタ相談役。日本経団連会長は、〇六年五月からキヤノンの御手洗冨士夫会長になりました。
奥田会長に手紙
短期間で、なぜこんなに大きな成果を得たのでしょうか? 仲村さんは、「みんなが一致団結したからや」と語ります。
仲村さんは二十五歳のときマイオールのスタッフに登録。光洋シーリングテクノが四ヵ所目の職場です。
「請負労働者はずっと差別されてきました。それに、どこの職場にも労組はありませんでした。会社にちょっとでも意見をいうと、『あいつの首をすげかえよ』といわれるので、何もいえませんでした」
労組をつくって、「おまえらは社外工(請負労働者)≠ニいう正社員の差別的態度もなくなった」といいます。
黒坂和也さんは、テクノで働いて五年。「労組がなかったら賃上げなんてできなかった!」と確信を込めていいます。
黒坂さんたちの願いは、テクノの正社員になることです。「一年以上勤務する労働者で人社を希望するもの全員を正社員として採用してほしい」と申し入れていますが、テクノは団体交渉を拒否しています。
「ぼくらがつくっている部品がトヨタで使われている。そうしたプライドで仕事しています。正社員になったらもっともっとがんばるのに……」
黒坂さんは、トヨタの奥田会長あてに手紙を書きました。
「ぼくらは請負労働者です。トヨタの部品をつくっても車が買えません。ぼくたちを正社員にしてください」
(「しんぶん赤旗」日曜版取材チーム ワーキングプアと偽装請負」日本共産党中央委員会出版局 p20-24)
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権利闘争の貧困と克服のために
大川真郎 弁護士
直接労働運動に身を置いたわけでなく、主に裁判闘争を通じて、側面から労働運動をみてきた立場だけに、正鵠(せいこく)をえないのではないかという危惧を抱きつつ、率直に感じるところを三点だけ述べる。
第一に、労働運動における権利闘争の貧困である。果たして組合幹部自身がどれほど職場の権利侵害の実態を把握してきたか、どれほど権利についての学習を深め、具体的実践を重ねてきたか、また権利意識を人間の尊厳に根ざした思想としてみずからのものにしてきたか、私ははなはだ疑問に感じている。
ちなみに、労働者全体にかかわる権利をめぐる課題にたいして、労働側から私たち弁護士への働きかけはほとんどなく、むしろ私たちの側から間題を提起し、運動をよびがけ、労働側にたいししかるべきとりくみを要請してきた、といえばいいすぎであろうか。戦後の労働法制がまさに清算されようとしている今日においてさえ、労働側から私たちへのアクションはなんと弱いことであろうか。幹部がこれでは下部の組合員が権利学習をすることなど思いもよらないのではなかろうか。
私はかねがね、みずからの組合の枠を越えて大阪府下、あるいは全国的な権利闘争を視野に入れ情勢を的確にとらえ、必要な間題提起をなし、多くの組合が立ち上がるための行動提起をする組合幹部の出ることを望んでいるが、これはまともなナショナルセンターやローカルセンターが結成されないかぎり、無理な注文なのであろうか。悪法が出されれば、いち早くとりあげ、全国的・全府的に行動をおこすこと、また一つの組合が使用者の権利侵害にさらされているときには府下の労働者を結集して反撃すること、かかる具体的方策を考える人がもっと存在してよいのではなかろうか。
第二に組合幹部の資質と姿勢の問題である。いまほど人間性にあふれ、指導力を備え、学習をおこたらない幹部が求められているときはないであろう。酒を飲んで胸襟をひらき、団結するのも結構であるが、今日の複雑な情勢を把握するにはよほどの学習が必要であろうし、それに加えて幅ひろい教養と社会的常識、マナーを備える日常の努力がなければ、労働組合が社会的評価を高めることができないと考える。
また、資本が優秀な人材を金でかかえ、労働者にたいする「合理的」支配をつねに企てている状況下で、実務能力を高めなければ太刀打ちできそうにない。その一つである書く能力の低さが、どれほど時間を無駄にし、すぐれた活動をひろく知らせずに埋もれさせてきたことであろうか。
第三に、争議組合、とりわけ大企業を相手どって勝利してきた倒産争議組合のたたかいの教訓を学ぶ必要性である。ここには団結を固めるための涙ぐましい努力があり、全員参加のための周到な配慮がみられる。大企業を大衆的に包囲し、孤立させるためにみずからの頭で学び、考え、上部組合に甘えない自主性がある。みずからの要求と大衆的要求を結合させ、地域にあっては地域の諸闘争の中心に座を占めたがんばりがある。そしてなにより、人間の尊厳に根ざし、人の心をうつ運動を展開してきた美しい姿があるからである。
(「わたしたちの選択 あなたの未来」労働旬報社1986 p206-208)
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◎「みずからの要求と大衆的要求を結合させ、地域にあっては地域の諸闘争の中心に座を占めたがんばりがある。そしてなにより、人間の尊厳に根ざし、人の心をうつ運動」と。