学習通信071129
◎「私の要求」運動……

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生活苦などの自殺急増
京丹後で命救う行動へ

 京都府北部の京丹後市や宮津市で、生活苦や健康問題などで自殺者が激増している問題で、府北部の生活と健康を守る会は二十六日夜、京丹後市で、これ以上の犠牲者を出さないため何ができるか≠ニ集まり、年内に生活保護などの相談会を実施するなど「いのちを救う丹後いっせい行動」を決めました。よびかけに応え、地域の労組や自治労連、民商が参加しました。

 京丹後市では、今年の自殺者が三十七人(二十五日現在)にのぼり、昨年の年間二十二人を大きく上回っています。

 府北部の九つの生健会でつくる北部協議会責任者の村山君美子氏が、「多くのみなさんと、知恵と力を集めて共同で取り組みたい」とあいさつ。

 網野生健会事務局長の森勝氏(日本共産党京丹後市議)は、「マスコミが特集した十四年前は、自殺者のほとんどが織物業者だったが、今年は無職や高齢者も多いなど様変わりしている」と指摘し、背景の一つに、京丹後市で、国保税の七割減免世帯が加入世帯の35%を占めるなど、府平均よりも低い所得の実態や深刻な地域経済の落ち込みについて報告。「異常な貧困の事態にあるが、誤解や偏見なども強く生活保護の受給率は低い」と話しました。

 京生連の高橋瞬作事務局長が提案を行い、「自殺者のなかには、生活保護の申請で救われた人がいたのではないか。生活保護は権利であることを地域に定着させよう」などと述べました。
(「赤旗」20071128)

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シンポジューム
貧困を断つ連帯、政治の責任

第1発言者
生存権を守るたたかいで、
ナショナルミニマムの確立を  辻 清二
  全国生活と健康を守る会
  連合会事務局長

【生活保護制度の改悪】

 北九州における餓死事件もあり、貧困と格差の問題をめぐって、生活保護の問題が大きな焦点となっています。いま生活保護をめぐっては三つの問題があります。一つは、いわゆる「しめつけ」、二つめは基準の切り下げ、三つめはこれから予想される法律改悪をともなう抜本的改悪です。

 まず、しめつけの問題です。北九州市では三年連続して餓死事件が起こりました。いずれも役所が「働けるから」などの理由で生活保護の申請を拒否したり、却下したことによって起きた痛ましい事件です。今年七月の同市小倉北区の男性が餓死した事件は、生活保護の「辞退届」を強要されたことによるものでした。八月六日、私たちが厚生労働省と交渉したさい、そういう事態が全国各地で起きている実態を明らかにしました。横浜市で「辞退届」を書かされる寸前で何とかくいとめた事例がありました。そもそも「辞退届」そのものは法律にはないものです。ヤミの北九州方式≠ニよばれるように北九州市はひどいしめつけをしていますが、しかし程度の差はあれ、全国的に同じようなことがすすめられているのが現状です。

 私たち全生連(全国生活と健康を守る会連合会)は、一つは申請権を保障すること、具体的には生活保護申請書を行政の窓口に置いて無条件に申請を認めること、二つめは「辞退届」を完全に廃止することを求めていきたいと思います。私たちが取り組んでいる一二月中央行動にむけて、全国約四二〇ある「生活と健康を守る会」すべてで、この二点を中心に各自治体に申し入れを行おうといま相談しています。

 次に、基準切り下げの問題です。自民・公明政権は二〇〇六年「骨太方針」で「生活保護基準引き下げ」を打ちだし、すでに老齢加算、母子加算の削減・廃止を強行しました。

 これは戦後、現行の生活保護法が一九五〇年(昭和二五年)に制定されて以来、初めての本格的な生活保護基準の切り下げです。これにたいし、老齢加算、母子加算の削減・廃止を許さない裁判や行政不服審査請求などのたたかいが広がっています。老齢加算の場合は、私たちの会員で約六〇〇人、母子加算では一四五人が、全国の各都道府県知事にむけて、削減取り消しを求める審査請求を起こしました。そして、いま裁判が京都を皮切りに秋田、広島、新潟、北九州市、東京、青森、兵庫のハヵ所で、原告一一三人、弁護団約八〇人でたたかわれています。「生存権」を争う裁判として、広範な人たちの期待と共感を集めていますが、これからそれぞれのたたかいがますます広がっていくと思います。

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*老齢加算
 七〇歳以上の高齢者世帯に一九六〇年から支給されてきた「老齢者ゆえの特別な生活支出をまかなう」ための生活扶助費の加算。二〇〇三年の小泉内閣「骨太方針」に基づき、二〇〇四 年度から減額、〇六年度末で廃止。

*母子加算
 生活保護を利用しているひとり親の世帯が子どもを育てるために追加的な費用が必要だとして旧生活保護法下の一九四九年に創設。子どもが一六歳以上〜一八歳までは二〇〇七年度に廃止。一五歳以下は二〇〇七年度は三分の一が削減された。
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 この審査請求、裁判のたたかいによって、生活保護を受ける人自身が自分の権利を訴え、不当なことに対してもの申すことができました。そのことが最大のポイントだと私自身、感じています。いままで不当なことや人権侵害的なことを役所からいわれても、自分の権利を主張することがなかなかできなかったわけです。しかしそこが一つ打ち破れたという思いを強くしています。

 北九州市の問題を考えてみると、北九州市は一九七〇年代から私たち全生連が始めた「私の要求」運動の発祥の地です。「私の要求」運動は、生活保護などでの人権侵害が起きるなか、一人ひとりの会員が自分の要求や人権侵害されたことを書き、役所へ要請し、要求を実現する運動です。その始まりの地で、そういうたたかいを大きく起こすことが問題解決の力になると思っています。

 三つめの制度の抜本改悪についてです。政府の生活保護改悪と連動して、実施主体である全国知事会・全国市長会は、「新たなセーフティネット」として、生活保護を抜本改悪する提案をしました。@高齢者のための新たな制度として、六五歳以上の高齢者を生活保護から切り離し、救貧的な救済制度にする、A有期保護制度として最大五年間とする。一八歳から六四歳までの稼働世帯に就労支援し、一年間で生活保護から脱却すれば残り四年分を再び貧困に陥ったときに利用する、Bボーダーライン層対策として、生活保護と同程度にある人が生活保護に移行することを防止する就労支援制度をつくり、期間は一年間とするという内容です。

 つまり、期限を設けて稼働年齢層といわれる一八歳上八四歳までの人を五年ぐらいで生活保護から排除する。高齢者は生活保護制度とは別建ての保障制度をつくることで基本的に現金給付のみで福祉事務所のケースワーク的な仕事はなしにして基準を切り下げることです。いまの高齢者への生活保護基準を老齢基礎年金に合わせるというわけです。老齢基礎年金の受給者の平均額は月四万六〇〇〇円にすぎません。多くて年間八〇万円になり、東京では毎月四〜五万円の基準の切り下げになります。

 有期保護の問題でいえば、すでに「辞退届」という形の「有期保護」が横行しています。また、「自立更生計画書」といって、この期間までに働き、保護を受けなくてもすむようにします≠ニいう計画書を出させて生活保護を無理やり辞退させる不当なことが行われているのです。それが法律となり、公然と行われることになります。これは、憲法や生活保護法の中心的な原理である「無差別平等の原則」が完全に投げ捨てられ、生活保護制度を本当の一部の働けない生活困窮者に限定し、「お恵み」的な制度に変質させることになり、国民の最低限度の生活水準の切り下げにつながっていきます。全国知事会・市長会が提案していますから、地方自治体にむけて提案の撤回を求める取り組みを強めていきたいと考えています。

【ナショナルミニマム確立、その底上げを】

 いま生存権を守るたたかいは重要です。生存権、セーフティーネットを守っていくうえで、国の政治を転換させていくことが大きなポイントです。いずれにしても、二〇〇〇年から地方分権の時代と、自治体が自主的に自らの判断で行政を行えると盛んにいわれました。しかし現実の進行はそうなっていません。最近では、逆に、自治体が国の下請け機関になっている状況が強まっています。生活保護の問題でいえば、国がいまの生活保護基準は高いといったら、自治体も右へならえで同じことをいう状況です。各市区町村でのたたかいを土台に、国の行政・政治を変えるのが大事です。

 私がいま重視する必要があると感じているのが、いわゆる「滞納バッシング」にどう対応するのかという問題です。最近は保育料の滞納が報じられ(厚労省全国調査で全国認可保育所保育料を〇六年度に滞納した保護者約八万六〇〇〇人、滞納額は約八三億七〇〇〇万円と公表)、後で述べる国民健康保険や学校給食費もそうですが、滞納者と支払っている人を対立させるやり方が強まっています。見せしめ的な形で滞納処分、電話や給料など一連のものを差し押さえることが全国的に強まっています。

 その分断、いわゆる「滞納バッシング」を克服していくうえで、滞納している人たちの生活実態を明らかにして、この制度の貧困さを告発していぐことが一番大事です。そして、なぜ滞納したのかを滞納者自身が社会に語れるかどうかが運動上のポイントになります。

国民を分断するやり方は、そのことを通して国民生活全体の水準を引き下げていくことが狙いです。年金よりも生活保護が高い≠ニ生活保護が下げられ、年金も下げられ、賃金も抑え込まれる。こうなっていくわけですから、生活保護や年金で暮らしている人もふくめ、広く多くの国民的な共同によって、ナショナルミニマム(国が保障する最低限度の生活)の土台をきちんと確立する。そういう意味で、国民生活の土台をきちんと底上げさせていくたたかいが、これからさらに必要になると思います。
(「前衛」2007年11月号 日本共産党中央委員会 p28-32)

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◎「国民を分断するやり方は、そのことを通して国民生活全体の水準を引き下げていくことが狙い……年金よりも生活保護が高い≠ニ生活保護が下げられ、年金も下げられ、賃金も抑え込まれる。こうなっていくわけです」と。