学習通信071220
◎およそ中身のない法律……

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 長らく先送りされてきた労働契約法案がようやく成立した。しかし、この具体的な内容は、就業規則の取り扱いが若干明確化されただけで、およそ中身のない法律である。

 終身雇用以外の多様な働き方が増えるなかで、労働組合の関与しない個別紛争が増えている。しかし、現行の労働基準法は、賃金や労働時間の最低基準を罰則で担保するのみであり、それ以上の労働契約には効果が及ばない。

 このため多くの労働紛争の決着には判例法が大きな役割を果たしているが、これは裁判宮次第で予見可能性が低い。また、裁判に訴える資力を持つ大企業の労働組合は、過大な保護を得られる半面、そうでない中小企業の労働者は泣き寝入りの場合も多い。

 このため、採用から昇進、解雇に至る雇用契約全般についての明確な基準を定める包括的な労働契約法が、長らく求められていた。だが、今度成立した労働契約法は、肝心の解雇ルールに関して、単にこれまでのあいまいな判例法を法定化したのみで、何の役にも立っていない。

 これは法律の原案を作成した厚生労働省の審議会では、大企業の経営者とその労働者の代表との間の利害対立が激しく、現状を改革する意欲が見られなかったためだ。これは雇用機会の拡大を求める潜在的な労働者利益の代表者が欠けていたためである。

 正社員を解雇する場合には、一定の手続きに基づく補償が当然必要だが、それが現行の大企業のように厳格すぎると、新規の雇用機会が減ってしまう。これは組織されていない労働者の犠牲で、既に雇用されている労働者利益を守るものだ。労働者全体の二割弱しか代表しない労働組合と、労働者一般との利害相反が、全く無視されている。

 解雇の際に、解雇手当だけでなく、一定の金銭賠償のルールを法律で定めることは、中小企業の労働者にとっては福音となる。しかし、倒産のおそれがない大企業の労働組合は金銭解決を望まないし、解雇コストの増大を恐れる経営者側も消極的である。

 日本経済が九〇年代初めからの長期停滞から脱するためには、産業や企業間の労働移動が円滑に行われる労働市場が不可欠である。また、転職の自由度が高まることは、労働者の企業に対する交渉力を高めることにもなる。このための真の労働契約法の速やかな実現に、政府を挙げて取り組むべきである。(吾妻橋)
(「日経」20071220)

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労働契約法案ここが問題
就業規則で労働条件改悪
労使合意のルールに背く

 採用から出向、解雇など雇用のルールを定める労働契約法案が、最低賃金法改正案とともに、二十七日の参院厚生労働委員会で採決される予定です。労働基準法などとは異なって罰則もなく、本当に労働者保護に役立つものかどうか──審議などで浮かび上がった問題点を検証してみると──。

 最大の焦点は、使用者が定める「就業規則」によって、労働者が反対しても、賃下げなど労働条件を一方的に切り下げることができる条項です。

 法案では、「労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働条件を不利益に変更することはできない」(九条)とした上で、労働条件の変更が「合理的」なものであれば、就業規則で変更できるとしています(一〇条)。

 「合理的」と判断する基準として、@労働者の不利益変更の程度A労働条件の変更の必要性B変更後の就業規則の内容の相当性C労働組合との交渉の状況その他──の四点を掲げています。

 一方的に変更へ

 労働契約は労使が合意して決めた約束事であり、使用者が一方的に変更できるものではありません。変更するには改めて合意が必要だという「合意」原則を明記するのは当然のことです。

 就業規則は、労働者の意見を聞くだけで合意がなくても定めることができるものです。それを使って一方的な変更を認めることは、「契約法として特異であり、契約原理にもとるもの」(労働契約法に関する三十五人の労働法学者の声明)と批判されてきました。

 この問題について青木豊労働基準局長は、就業規則で変更することが多いとし、労使合意の原則の上に「判例法理」(判決で確立したルール)にそって認めるもので「合意原則とそごはない」と答弁しています。

 しかし、就業規則が一方的につくられ、多くの労働者が見ることもできないのが実態です。

 意見聞かず作成 労働政策研究・研修機構の実態調査では、就業規則で労働条件を変更した企業は69・8%あり、20・5%は定められた労働組合などからの意見聴取も行われていません。入社時に説明している企業は53・4%、労働者が自由に見られるのは
わずか34・2%でした。

 東映では、法律で義務付けられた六十歳以後の雇用延長・再雇用について、退職金の大幅カットを条件にすることを、就業規則の一方的変更で実施しました。映演労連の組合員が撤回を求めて裁判に訴えています。

 東武スポーツは、就業規則を変えて正社員を有期雇用にし、賃金などを大幅に引き下げました。そのさい、「認めないと解雇になる」といって労働者に合意させました。一審で労働者の訴えが認められましたが、会社は控訴しています。

 日本共産党の小池晃参院議員は、労働条件の一方的な押し付けを明文で認めることになるものだと批判し、「労使合意といっても絵にかいたもちになるのは間違いない」と批判しました。

 判例よりも後退

 厚労省は、この条項について「判例法理を足しもせず引きもせずにそのまま法律にした」(青木局長)と説明します。

 しかし、就業規則による不利益変更をどう扱うのかは諸説に分かれており、変更を認めた最高裁判例でも納得できる論理を打ち出せていません。

 五十五歳定年制が争われた秋北バス事件判決で最高裁は一九六八年、不利益変更は原則として許されず、合理性が認められる場合に限って例外的に認めるとしました。

 しかし、なぜ合意がなくても変更を認めるのかまともな説明がなく、いったん確立した契約内容を一方が変更できる道理はない∞合理性というあいまいなものは基準にならない≠ニの反対意見が付けられました。明文化は、この問題ある判例法理を固定化することになりかねません。

 しかも、政府は合理性の判断基準についても、判例で確立したとされる七つを法案では四つに減らしています。

 賃金減額を伴う定年延長が争われた第四銀行事件で最高裁は八五年、法案にある四条件のほかに「代償措置や関連する労働条件の改善状況」「他の労働組合または他の従業員の対応」などを加えた七つを掲げました。政府は「七つの要素は四つに整理できる」(青木局長)と答弁しましたが、判例法理さえ引き下げていることは明らかです。

 参考人質疑で日本経団連の紀陸孝専務理事は、「就業規則による労働条件の不利益変更法理を明らかにした」と高く評価しました。不利益変更にお墨付きを与えかねない危険性を示しています。

 しかも、合理的かどうかは結局、裁判で決着をつけるしかありません。

 参考人質疑で全労連の生熊茂実副議長は、「泣き寝入りする労働者が増え、不正がまかりとおる事態が広がることになりかねない」と指摘し、この条項の削除なしの成立に反対しました。

 労働契約法にはこのほか、非正規労働者への差別的待遇を禁止する「均等待遇」や、有期労働者の「雇い止め」(解雇)防止など当然盛り込むべきルールさえ掲げられていません。労働者の保護を図る(第一条)という目的に照らせば極めて不十分であり、抜本的に見直す以外にありません。(深山直人)
(「赤旗」20071127)

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労働2法案について
小池氏の反対討論 大要
参院厚労委

 最低賃金法改定案と労働契約法案を採決した参院厚生労働委員会で二十七日、日本共産党の小池晃議員が行った反対討論の大要は次の通りです。

 労働契約法案に反対する理由は、労働契約の締結・変更について労使合意を原則と定めながら、使用者が一方的に決める就業規則による労働条件の不利益変更を例外として認めたからです。

 労働条件の変更の七割が就業規則の変更によって行われ、うち二割は労働者との協議がされていません。就業規則を見ることさえできない職場も多く、この実態を是正し真の労使対等を実現することこそ必要です。

 ところが、使用者の横暴を是正するどころか、「合意原則」を踏みにじる手段として利用してきた就業規則による労働条件の不利益変更法理を法律化したのです。しかも、判例の七要件を四要件に後退させています。

 厚生労働省は、合理性がなければ就業規則による労働契約変更は無効としていますが、合理性の有無は裁判で決着をつけるしかありません。裁判は手間と費用と時間がかかり、多くの労働者は泣き寝入りせざるをえません。裁判に勝つまでは労働条件の引き下げを押し付けられ、勝ったとしてても失われた時間は返りません。貧困と格差の拡大が問題となっているときに、労働条件の不利益変更を可能にする法律を作ることは断じて認められません。

 最低賃金法に反対するのは、労働者・国民の切実な願いである現行最低賃金の抜本的引き上げに結びつかないからです。

 現在の最低賃金は、年収二百万円にもならない低水準の上、四十七都道府県ばらばらで大きな地域格差があります。法案には生活保護水準との整合性が盛り込まれましたが、大幅引き上げや格差解消には不十分です。

 事業者の支払い能力を最低賃金決定の際に考慮に入れている国はOECD三十カ国中メキシコと日本だけです。支払い能力基準を削除し、最低賃金が憲法二五条の生存権保障であることを明確にする必要があります。

 法案によって地域別最低賃金は必ず定めるものとされました。地域別最低賃金を導入しているのは、世界でわずか九カ国で、圧倒的多数は全国一律最低賃金です。深刻化する地域格差を解消し、すべての労働者の賃金引上げを実現するためにも、地域別最低賃金を必須のものとせず、中小企業支援の抜本的な強化とあわせて、全国一律最低賃金の導入こそが必要です。

 物価や生計費の違いは全国一律最低賃金に上乗せして地域別最低賃金を定めればよく、全国一律最低賃金を導入しない理由にはなりません。
(「赤旗」20071129)

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労働契約法

第1章 総則

(目的)
第1条 この法律は、労働者及び使用者の自主的な交渉の下で、労働契約が合意により成立し、又は変更されるという合意の原則その他労働契約に関する基本的事項を定めることにより、合理的な労働条件の決定又は変更が円滑に行われるようにすることを通じて、労働者の保護を図りつつ、個別の労働関係の安定に資することを目的とする。 

(定義)
第2条 この法律において「労働者」とは、使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者をいう。 

2項 この法律において「使用者」とは、その使用する労働者に対して賃金を支払う者をいう。 

(労働契約の原則)
第3条 労働契約は、労働者及び使用者が対等の立場における合意に基づいて締結し、又は変更すべきものとする。 

2項 労働契約は、労働者及び使用者が、就業の実態に応じて、均衡を考慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする。 

3項 労働契約は、労働者及び使用者が仕事と生活の調和にも配慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする。 

4項 労働者及び使用者は、労働契約を遵守するとともに、信義に従い誠実に、権利を行使し、及び義務を履行しなければならない。 

5項 労働者及び使用者は、労働契約に基づく権利の行使に当たっては、それを濫用することがあってはならない。 

(労働契約の内容の理解の促進)
第4条 使用者は、労働者に提示する労働条件及び労働契約の内容について、労働者の理解を深めるようにするものとする。 

2項 労働者及び使用者は、労働契約の内容(期間の定めのある労働契約に関する事項を含む。)について、できる限り書面により確認するものとする。 

(労働者の安全への配慮)
第5条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。 
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第2章 労働契約の成立及び変更

(労働契約の成立)
第6条 労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。 
第7条 労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分については、第十二条に該当する場合を除き、この限りでない。 

(労働契約の内容の変更)
第8条 労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。 

(就業規則による労働契約の内容の変更)
第9条 使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。 

第10条 使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、第十二条に該当する場合を除き、この限りでない。 

(就業規則の変更に係る手続)
第11条 就業規則の変更の手続に関しては、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第八十九条及び第九十条の定めるところによる。 

(就業規則違反の労働契約)
第12条 就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による。 

(法令及び労働協約と就業規則との関係)
第13条 就業規則が法令又は労働協約に反する場合には、当該反する部分については、第七条、第十条及び前条の規定は、当該法令又は労働協約の適用を受ける労働者との間の労働契約については、適用しない。 

第3章 労働契約の継続及び終了

(出向)
第14条 使用者が労働者に出向を命ずることができる場合において、当該出向の命令が、その必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合には、当該命令は、無効とする。 

(懲戒)
第15条 使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。 

(解雇)
第16条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。 

第4章 期間の定めのある労働契約

第17条 使用者は、期間の定めのある労働契約について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。 

2項 使用者は、期間の定めのある労働契約について、その労働契約により労働者を使用する目的に照らして、必要以上に短い期間を定めることにより、その労働契約を反復して更新することのないよう配慮しなければならない。 

第5章 雑則

(船員に関する特例)
第18条 第十二条及び前条の規定は、船員法(昭和二十二年法律第百号)の適用を受ける船員(次項において「船員」という。)に関しては、適用しない。 

2項 船員に関しては、第七条中「第十二条」とあるのは「船員法(昭和二十二年法律第百号)第百条」と、第十条中「第十二条」とあるのは「船員法第百条」と、第十一条中「労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第八十九条及び第九十条」とあるのは「船員法第九十七条及び第九十八条」と、第十三条中「前条」とあるのは「船員法第百条」とする。 

(適用除外)
第19条 この法律は、国家公務員及び地方公務員については、適用しない。
2項 この法律は、使用者が同居の親族のみを使用する場合の労働契約については、適用しない。 

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◎「貧困と格差の拡大が問題となっているときに、労働条件の不利益変更を可能にする法律を作ることは断じて認められません」と。

◎労働契約法と改正最低賃金法12月5日に公布されました。
 労働契約法の施行日は「公布の日から起算して3カ月以内、改正最低賃金法は公布の日から起算して1年以内の政令で定める日とされています。ということは、労働契約法の施行日は、遅くとも08年3月4日(WEB情報)