学習通信080128
◎民営化の恐ろしさは責任の所在があいまいになること……

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 コラムDテロより怖い民営化

 二〇〇七年八月。ニューヨークで暴風雨のために地下鉄が浸水するという出来事があった。四〇〇ミリ以上の集中豪雨は劣化した設備を容赦なく襲い、排水作業は間に合わず、大勢の通勤客は何時間にもわたり足止めをされたのだった。「長年のインフラ軽視のツケですよ」と言うのはダウンタウンの証券会社に勤務するデニス・バールだ。「なのに翌日の新聞はとんでもない記事を書いていました。老朽化した地下鉄など売るべきだ、民営化すればすべて解決だとね」。災害を口実に民営化を加速させるというのは、被災後のニューオーリンズに実施されたものと重なり合う手法と言えるだろう。

 「危機のみが真の変化をもたらす」と言ったのは、アメリカの著名な経済学者であるミルトン・フリードマンだという。彼の思想は、小さな政府で、すべてを営利目的で運営すべきだというものだった。九〇年代にアメリカで起きた「企業プランド革命」は、プランドやイメージ作りのみ国内で行い、製造は費用の安い外国に委託するというものだった。これによって企業は空洞化したが、ドナルドニフムズフェルド元国防長官は二〇〇〇年以降、この理論を戦争遂行や軍内部にも応用しようと考えた。

 現在イラクでは、基地建設から兵士たちの食事から健康管理まで、すべて民間企業に外注されている。それどころか兵士そのものまでが傭兵会社に発注され、民間の「社員」が戦闘に従事したとして、戦争請負会社のブラックウォーターUSA社は二〇〇七年一二月現在、イラク政府から業務停止命令を受けている。国家機密機構関連調査員のR・J・ヒルハウスはスパイ活動の民営化を批判、アメリカ国内の諜報活動予算のおよそ七割がアブラクサス、ブーズ・アレン・ハミルトン、ロッキード・マーティン、レイセオンなどの大企業に外注されていると指摘する。アメリカ国内で批判される「拷問」でさえもシリアやヨルダン、エジプトなどの諸外国で、行われているという。

 民営化の恐ろしさは責任の所在があいまいになることだ。さまざまなものが民営化されたこの世界で、たとえばテロ容疑者だとして令状なしで拘留され、さんざん拷問を受けた後で人違いだと判明し釈放されても、委託されたのが民間会社であれば、国家は助けてくれず、その実態も国際社会の目には届かなくなってしまう。

 「地下鉄が浸水した日、ニューヨークではこんなジョークが飛び交いました。テロリストがコストカットをしたければ雨の日のニューヨークを狙うのが一番だ。たった四〇〇ミリの雨でこの国の中心であるマンハッタンの街は機能停止に陥るんだから」
(堤味果「ルポ 貧困大国アメリカ」岩波新書 p189-190)

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日本共産党 知りたい 聞きたい
 Q&A

Questionイラク戦争 民間軍事会社とは?

〈問い〉 イラク戦争に深くかかわっている民間の戦争請負会社とは? 高額の給料にひかれた日本人も犠牲になったとか、40カ国近くの国から加わっていると聞きました。資金がどこからでているのかをふくめて実情を知りたいです。(京都市・一読者)

〈答え〉 民間軍事会社(PMC=プライベート・ミリタリー・カンパニー)とよばれる、軍事分野での民間請負会社の活動は、イラク戦争においても活発で、世界中から4万人以上が警備員などの身分で仕事に就いているといわれています。

 PMCに雇われた要員の数は、イラクに部隊を派遣している米国を除く各国のそれぞれの派兵数をはるかにしのいでおり、民間の請負なしにはイラク占領もありえないという状況になっています。要員は、特殊部隊に所属していた元兵士や、その道の経験がなく訓練もまともにうけていない「まがいもの」まで多種多様といわれています。

 PMCは、イラクを占領している米軍が、国内の「治安維持」活動に専念するため、米大使館員などの警護や、復興事業にかかわる各施設の警備、兵站(へいたん)・補給、輸送など、占領活動の一端を「代行」しています。米英などのPMCは米政府と多額の契約を結び、戦争特需で大もうけしているのです。

 ニューヨーク・タイムズ紙は、過去4年間、米国務省がイラクで活動するPMCに支払った額は、10億ドル(約1150億円)から40億ドル(約4600億円)にはね上がったと報じました。

 イラクでのPMCの存在が世界で知れ渡ったのは、2007年9月16日に17人の死者を出した米ブラック・ウォーター社要員による民間人射殺事件です。米下院政府改革委員会が07年10月にまとめた報告書によると、同社は05年から195件の銃撃事件に関与し、これらのうち実に8割が、同社要員の方から最初に銃を発射していることが判明しています。イラクで問題を起こしているのは同社だけではありません。

 不審者とみなしたら民間人を無差別に殺し、イラク国民から「無法者」とみられているPMC要員ですが、占領直後に発足した暫定行政当局(CPA)は、同要員にたいし政府の訴追を受けない免責特権を与える法規を定めました。現在、イラク政府は、この免責特権をはく奪する法案を議会に送っています。

 PMCの活動は、イラク戦争以前から存在します。とくにソ連崩壊後の90年代、アフリカや旧ユーゴスラビアなど世界各地で起きた紛争で、PMCが戦争コンサルタントとして暗躍したといわれています。

 PMCの増大は、一国の安全保障に大国の民間企業が介入するもので、国家主権をないがしろにしかねない事態を招く危険性をはらんでいます。(遠)
(「赤旗」20071229)

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◎「PMCの増大は、……国家主権をないがしろにしかねない」と。