学習通信080221
◎絵に描いたようにあてはまる日本の現実……

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キャノン、トヨタ、松下……
違法派遣の横行なぜ
 脇田 滋

働く人の保護規定をもった抜本的で具体的な法改正を

 違法派遣を繰り返していたとして、二〇〇七年八月のフルキャストに続き、二〇〇八年二月、グッドウィルと、日雇い派遣大手二社が事業停止命令を受けました。

 日雇い労働は、翌日に仕事があるかさえ不確実な窮極の不安定雇用です。それに営利業者が介人する最悪の形態が「日雇い派遣」です。また、製造業務での派遣解禁以降、違法に偽装請負を利用していたとしてキャノン、トヨタ、松下など世界的企業を含む多くの企業が労働局から是正指導を受けました。

労働法氷点下
労働者の世界

 こうした違法派遣の横行は、雇用責任を逃れようとする企業のモラル破壊が生みだしたものです。偽装請負や日雇い派遣は、必要なときに必要なだけ労働力を受け入れる一方、公正な賃金や待遇を保障せず、格段に少ない人件費で済ませることが可能な手段として経営者にとっては便利この上ない労働力利用形式です。とくに日本の派遣労働は、EU諸国等とは違って、労働条件の企業間格差や、正社員の夫や父親の収入を前提にした「家計補助的な低賃金」利用など、受入企業には正社員雇用に比べて格段に大きなメリットがあります。

 企業に好都合であるのとは裏腹に、労働者にとっては派遣労働や偽装請負は過酷極まりない働き方です。@いつ雇用を失うかも知れない不安定雇用、A正社員より格段に低い差別待遇、B派遣先での孤立・労組加入困難、C社会保険不加人・労基法上の権利さえ行使困難、D自立できない家計補助的収入(年百万〜二百万円)など、労働者は、いわば「労働法氷点下の世界」で働いているとさえ言えます。

財界・政府が
規制緩和推進

 この二十年間以上、財界は派遣労働や有期雇用など多様な非正規雇用を拡大し続けてきました。一九九五年には日経連「新時代の『日本的経営』」で、正社員雇用に代わって非正規雇用積極活用を提言しました。政府も、一九八五年制定の労働者派悪法を始め、労働法規制緩和を推進してきたのです。一九九九年には、労働団体の一致した反対を押し切って、派遣業務を原則自由化する派遣法改正を強行しました。以前は約百万人であった派遣労働者が、七年後の二〇〇六年には三百万人を超えています。

 現在では、派遣労働拡大で雇用社会そのものが大きく変化しました。単純な業務にも派遣が広がり、一九九四年から十年間の「就職氷河期」には、従来なら正社員になっていた若年者の多くが、低賃金で不安定なフルタイム非正規労働者(フリーター)となりました。大幅な規制緩和によって、利益本位の悪質業者が多数参入するとともに、人件費削減で利用企業は莫大(ばくだい)な収益をあげました。しかし、それを支える若年労働者がワーキングプア化したり、ネットカフエ難民と呼ばれる過酷な状況に追いやられ、それが「格差社会」化を端的に示す事実として、ようやく注目されることになったのです。

見直しを迫る
志位質間の力

 当面、現行労働法令を順守させることが必要ですが、さらに立法的改善が緊急に必要です。EU諸国では、派遣はあくまで常用雇用の例外ですが、さらに、@一時的な利用、A同一労働同一待遇、B派遣終了後の正社員化などの独自の派遣労働者保護を定めています。ところが、日本法にはEU水準の保護規定がありません。

 昨年夏以降、野党を中心に、労働者保護を強化する方向での派遣法改正論議が活発に行われています。とくに、八日の衆院予算委員会での志位和夫・日本共産党委員長の質問は、日雇い派遣や偽装請負を中心に現行派遣法の不備を具体的調査・数字を示して追及する、きわめて説得的なものでした。そのため首相や厚労相も、企業の法順守責任とともに、制度見直しの必要性を示唆せざるを得なくなりました。

 法改正では、「日雇い派遣」や「登録型派遣」は廃止し、九九年改正以前に戻って、派遣を例外化する規制が必要です。国会内外の取り組みで、抜本的で具体的な保護規定を盛り込んだ派遣法改正をぜひとも実現させなければなりません。
(「赤旗」20080221)

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労働ビッグバンの攻撃を許してはならない

 ──にもかかわらず、自公政権は民主党と一緒に、労働条件の一方的切り下げ法≠ニもいうべき労働契約法を新たに制定するなど、戦後の労働法制の民主的原則を解体する新たな攻撃、労働ビッグバンを進めようとしています。

市田……
 弱肉強食の「構造改革」路線にもとづいて労働ビッグバン(規制緩和・撤廃のいっそうの推進)を掲げた安倍前首相は参議院選挙大敗のショックで退陣し、福田首相が登場しました。しかし、福田首相は、所信表明演説で、「改革の方向は変えない」とのべているように、労働ビッグバンを引き続き進めようとしています。そのことを証明するように、〇七年秋の国会では、労働契約法案を、民主党と一緒になって強行しました。労働契約法は、一言でいえば、使用者が勝手に定めて勝手に変更することのできる就業規則によって、その職場で働く労働者の労働条件を一方的に引き下げられるようにするものです。この法案は、労働ビッグバンの一環に位置づけられています。

 労働ビッグバンの具体化として準備が進んでいる法案の一つに、今回は見送られましたが、解雇の金銭解決法案があります。この法案は、使用者が気に食わないと考えた労働者をいつでも解雇できるようにするものです。現在は、使用者が不当な理由で労働者を解雇すれば、裁判で負けてしまい、労働者を職場復帰させなければなりません。十分ではないにしろ、使用者が勝手気ままに解雇することができないような判例の積み重ねがあるからです。

しかし、この法案が通ると、状況は一変します。不当な理由で解雇して、使用者が裁判で負けても、わずかな解決金を支払えばゝ解雇が可能になります。使用者は、リストラ解雇計画を立て、解雇のための予算を組んで、その計画通りに解雇を進めることができるようにさえなるのです。まさに、究極の首切り自由法案≠ニでもいうべきものです。そうして正規労働者の首を切り、無権利・低賃金の非正規労働者を雇えるようにして、大企業はいっそうの大もうけを続けようとしているのです。

 労働ビッグバンによって、労働条件の一方的切り下げと解雇の金銭解決が実現したら、職場はどうなるでしょう。使用者が一方的に労働条件を改悪します。労働者が、それを不満として使用者と交渉することを要求しようものなら、使用者はいつでもその労働者を解雇できるのです。考えただけでも恐ろしくなります。使用者の思い通りに過酷な労働者支配ができるようになります。

 もう一つの労働ビッグバンの具体化である残業代ゼロ法案=<zワイトカラーエグゼンプションは、日本経団連がたとえばといって示した年収四〇〇万円以上の企画・開発、営業、事務などのホワイトカラー労働者の残業代を取り上げ、いっそうの長時間労働に追い込むことを目的としたものです。

 これらの法案をみても明らかなように、労働ビッグバンの目的は、使用者が自由に労働条件を切り下げることができるようにするとともに、残業代を取り上げ、正規・非正規労働者を間わず、労働者を企業の都合でいつでも解雇でき、同時にいつでも雇うことができるような労働力の流動化をはかることにあります。企業が労働者を勝手気ままに搾取できる労働市場をつくる、それが労働ビッグパンのねらいです。

 もちろん、福田自公政権は、これまで進めてきた「構造改革」のなかで貧困と格差に対する国民の批判がかつてない高まりを示している状況のもとで、ホワイトカラーエグゼンプションの導入を一時見送らざるをえなくなったように、そのねらいをむき出しにして労働ビッグバンを進めようとしているわけではありません。

 仕事と生活の調和をうたったワークライフバランス§_をふりまき、日本の長時問労働を規制するような装いをしつつ、労働ビッグバンを進めようとしています。そのことは、労働ビッグバンを進める先頭に立っている経済財政諮間会議・労働市場改革調査会の動向によく示されています。同諮間会議は、労働時間短縮の数値目標を掲げた「働き方を変える、日本を変える──《ワークライフバランス憲章の策定》」という第一次報告をまとめました。このなかでは、完全週休二日制の一〇〇%実施、年次有給休暇の一〇〇%取得、長時間労働の削減による残業時間の半減などの数値目標が掲げられています。

しかし、この目標を実現する気がさらさらないことは、報告をまとめた中心人物のハ代尚宏労働市場改革調査会会長が、この数値目標の実現については「行動指針のような形で提言する」とのべていることからも明らかです。数値目標実現の「行動指針」をつくったからといって、その目標が実現できるものではありません。「行動指針」には、何の法的拘束力もないからです。たとえば、政府は年間労働時間の上限の「限度基準」を三六〇時間にしています。しかし、大企業はこの「限度基準」を守ろうとしていません。「指針」はこの「限度基準」よりも強制力の弱い行政上の指針にすぎませんから、企業が守らなくても何の痛痒も感じないということになります。

 その一方で、ハ代会長はこうものべています。「非常に政治的な問題からの制約があるので、ホワイトカラーエグゼンプションの問題は第一次報告に入れなかった。やはり長労働時間の現状を放置したままでエグゼンプションを導入することに対してかなりの抵抗があったことを教訓として、ホワイトカラーエグゼンプションを正しい形で導入するための一つのステップとして、まず労働時間の問題を取り上げた。報告書で取り上げる順序の問題はあるが、エグゼンプションは重要な問題である」。

 要するに、何の実効性もない労働時間の「短縮」目標を掲げて、労働ビッグバンは労働者の利益にかなうものであるかのように装って、それをステップにホワイトカラーエグゼンプションを導入しようというわけです。自公政権のふりまくワークライフバランス§_は、こうしたねらいをもっています。その危険なねらいも明らかにしながら、労働ビッグバン阻止の取り組みをすすめることが求められています。

労働ビッグバンの危険な背景

──自公政権は、労働ビッグバンの推進になぜ固執するのでしょうか。

市田……
 福田自公政権は、弱肉強食の「構造改革」にたいする国民・労働者の批判の高まりを十分承知しています。労働ビッグバンを推進すれば、火に油を注ぐように、その怒りが燃え上がりかねないこともわかっているでしょう。だから、ワークライフバランス§_などもふりまいているのです。しかし、労働ビッグバンの推進は、自公政権にとってどうしてもやりぬかねばならない課題になっています。

 というのも、労働ビッグバンは、日本の財界の要求であり、アメリカの財界の要求でもあるからです。日本の財界・大企業は、この間の連続した労働法制の改悪によって、日本の労働市場の中に、膨大な失業者・非正規労働者群をつくりあげました。いまでは、三人に一人、女性や若者では二人に一人が非正規労働者で、完全失業者は二七五万人にものぼります。

低賃金で無権利の労働者が増えれば増えるほど、労働条件は引き下げられます。二〇〇一年から〇六年までの五年間を見ても、年間平均賃金は四五四万円から四三四・九万円ヘ一九・一万円下がりました。パートタイム労働者を除いた一般労働者の年間労働時間の平均は一九九〇時間から二〇二四時間に三四時間増えています。非正規労働者の実態については先にのべたとおりです。賃金は減り、労働時間は長くなる、働いてもまともな生活のできない「ワーキンダプア」や「ネットカフエ難民」など以前は考えられなかったことが普通になるという異常な事態が進行しています。

 その一方で、大企業の経常利益は、一五・三兆円から三二・八兆円へと五年で倍以上になっています。大企業の内部留保も、一七一・四兆円からニー七・八兆円へと四六・四兆円も積み増ししています。大企業の役員給与は、一四二四万円から二八一〇万円に倍加、配当金も三・一兆円から一一・九兆円へ四倍になっています。

 「一方の極における富の集積は、他方の極における貧困の蓄積」というマルクスの指摘が、絵に描いたようにあてはまる日本の現実です。

 日本の財界・大企業の利潤第一主義は、こうした現実に満足するものではありません。これまで以上に、労働者を犠牲にしていっそうの大もうけをしようとしています。その背景には、外国資本による日本企業への出資や買収などの対日直接投資が急増しているという事情があります。アメリカやヨーロッパなどでは、日本の大企業のように膨大な内部留保をため込むようなことはしていません。その分、株主配当を増やしているのです。ですから、外国資本が日本に進出してくる中で、株主配当をもっと増やせという要求が高まることになります。「株主資本主義」の上陸です。

 日本の大企業は、こうした外国資本の要求にこたえなければならなくなっています。一九九八年に、東燃石油の社長が解任されるという事件≠ェ起きました。内部留保ばかりため込んで、株主配当を重視しないという日本型経営への不満が高じて、外資が中心になって日本人社長の首を切ったのです。外国資本の日本進出にしたがって、株主配当が増えてきた背景には、こうした事情があります。

 ところが、日本の大企業は、労働者・下請中小企業に犠牲を転嫁しながら、膨大な内部留保をためこみ、それを活用して金融資産への投資や海外進出に回して、いっそうの利潤を得るという、これまでのスタンスは改めようとしません。これまでと同じように、内部留保は内部留保で積み増ししながら、株主配当も増やしていくというのですから、労働者・中小企業にたいして、いっそう過酷な犠牲を押し付けることが必要になってきたのです。そのための手段として労働ビッグバンが準備されているのです。

 アメリカの財界も、対日直接投資をして、大もうけしようとしていますから、日本の財界の要求は、アメリカの財界の要求と共通することになります。労働ビッグバンの内容である解雇の金銭解決制度の導入、ホワイトカラーエグゼンプションの導入を、アメリカ政府は日本政府に公式に要求しています。

 労働ビッグバンは、日本とアメリカの財界の要求にもとづいてすすめられているものなのです。大企業べったり、アメリカ追随を基本路線とする自公政権は、日本とアメリカの財界の要求を無視することはできません。この点では民主党も同じです。ここに労働ビッグバンの危険な本質があることを見る必要があります。
(市田忠義監修「これが人間らしい働き方のルール」新日本出版社 p19-24)

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◎「労働者は、いわば「労働法氷点下の世界」で働いている」と。