学習通信080222
◎誰をも憚らない「原始的」な搾取が……

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 波が出て来たらしく、サイドが微かになってきた。船も子守唄程に揺れている。腐った酸漿(ほおずき)のような五燭燈で、ストーヴを囲んでいるお互の、後に落ちている影が色々にもつれて、組合った。──静かな夜だった。ストーヴの口からの赤い火が、膝から下にチラチラと反映していた。不幸だった自分の一生が、ひょいと──まるッきり、ひょいと、しかも一瞬間だけ見返される──不思議に静かな夜だった。

「煙草無えか?」
「無え……。」
「無えか?……。」
「なかったな。」
「糞。」
「おい、ウイスキーをこっちにも廻わせよ、な。」
 相手は角瓶を逆かさに振ってみせた。
 「おッと、勿体ねえことするなよ。」
「ハヽヽヽヽ。」
「飛んでもねえ所さ、然し来たもんだな、俺も……。」その漁夫は芝浦の工場にいたことがあった。そこの話がそれから出た。それは北海道の労働者達には「工場」だとは想像もつかない「立派な処」に思われた。「ここの百に一つ位のことがあったって、あっちじゃストライキだよ。」と云った。

 その事から──そのキッかけで、お互の今迄してきた色々のことが、ひょいひょいと話に出てきた。「国道開たく工事」「灌漑工事」「鉄道敷設」「築港埋立」「新鉱発掘」「開墾」「積取人夫」「鰊取り」──殆んど、そのどれかを皆はしてきていた。

 ──内地では、労働者が「横平」になって無理がきかなくなり、市場も大体開拓されつくして、行詰ってくると、資本家は「北海道・樺太へ! 」鈎爪(かぎづめ)をのばした。其処では、彼等は朝鮮や、台湾の殖民地と同じように、面白い程無茶な「虐使」が出来た。然し、誰も、何んとも云えない事を、資本家はハッキリ呑み込んでいた。「国道開たく」「鉄道敷設」の土工部屋では、虱より無雑作に土方がタタキ殺された。虐使に堪えられなくて逃亡する。それが捕まると、棒杭にしばりつけて置いて、馬の後足で蹴らせたり、裏庭で土佐犬に噛み殺させたりする。それを、しかも皆の眼の前でやってみせるのだ。

肋骨が胸の中で折れるボクッとこもった音をきいて、「人間でない」土方さえ思わず額を抑えるものがいた。気絶をすれば、水をかけて生かし、それを何度も何度も繰りかえした。終いには風呂敷包みのように、土佐犬の強靭な首で振り廻わされて死ぬ。ぐったり広場の隅に投げ出されて、放って置かれてからも、身体の何処かゞ、ピクくと動いていた。焼火箸をいきなり尻にあてることや、六角棒で腰が立たなくなる程なぐりつけることは「毎日」だった。飯を食っていると、急に、裏で鋭い叫び声が起る。すると、人の肉が焼ける生ッ臭い匂いが流れてきた。

 「やめた、やめた。──とても飯なんて、食えたもんじゃねえや。」
 箸を投げる。が、お互暗い顔で見合った。
 脚気では何人も死んだ。無理に働かせるからだった。死んでも「暇がない」ので、そのまま何日も放って置かれた。裏へ出る暗がりに、無雑作にかけてあるムシロの裾から、子供のように妙に小さくなった、黄黒く、艶のない両足だけが見えた。

 「顔に一杯蠅がたかってるんだ。側を通ったとき、一度にワアーンと飛び上るんでないか!」
 額を手でトントン打ちながら入ってくると、そう云う者があった。

 皆は朝は暗いうちに仕事場に出された。そして鶴嘴のさきがチラッ、チラッと青白く光って、手元が見えなくなる迄、働かされた。近所に建っている監獄で働いている囚人の方を、皆はかえって羨やましがった。殊に朝鮮人は親方、棒頭からも、同じ仲間の土方(日本人の)からも、「踏んづける」ような待遇をうけていた。

 其処から四、五里も離れた村に駐在している巡査が、それでも時々手帖をもって、取調べにテクテクやってくる。夕方迄いたり、泊りこんだりした。然し土方達の方へは一度も顔を見せなかった。そして、帰りには真赤な顔をして、歩きながら道の真中を、消防の真似でもしているように、小便を四方にジャジャやりながら、分らない独言を云って帰って行った。

 北海道では、字義通り、どの鉄道の枕木もそれはそのまま一本一本労働者の青むくれた「死骸」だった。築港の埋立には、脚気の土工が生きたまま「人柱」のように埋められた。──北海道の、そういう労働者を「タコ(蛸)」と云っている。蛸は自分が生きて行くためには、自分の手足をも食ってしまう。これこそ、全くそっくりではないか! そこでは誰をも憚らない「原始的」な搾取が出来た。「儲け」がゴゾリ、ゴゾリ掘りかえってきた。しかも、そして、その事を巧みに「国家的」富源の開発ということに結びつけて、マンマと合理化していた。抜目がなかった。「国家」のために、労働者は「腹が減り」「タタキ殺されて」行った。

 「其処から生きて帰れたなんて、神助け事だよ。有難かったな! んでも、この船で殺されてしまったら、同じだべよ。−何アーんでえ!」そして突調子なく大きく笑った。その漁夫は笑ってしまってから、然し眉のあたりをアリくと暗くして、横を向いた。
(小林多喜二「蟹工船・党生活者」新潮文庫 p65-68)

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衆院予算委 志位委員長の質問
人間“使い捨て”では未来ない
派遣法改正し“労働者保護法”に

 日本共産党の志位和夫委員長が八日の衆院予算委員会でおこなった基本的質疑を紹介します。

貧困の根源に人間らしい雇用の破壊
――労働者派遣法改正は緊急の課題 

 志位和夫委員長 日本共産党を代表して、福田総理に質問いたします。派遣労働の問題を中心に、総理の見解をただしたいと思います。

 この間、「構造改革」の名ですすめられた政策のもとで、国民のなかに深刻な貧困と格差が広がり、多くの国民が「暮らしの底が抜けてしまった」ような不安と危機のもとにおかれております。貧困と格差が拡大した原因はさまざまですが、その根源には人間らしい雇用の破壊があります。なかでも派遣労働を合法化し、あいつぐ規制緩和をくりかえしてきたことは、雇用の不安定化、労働条件の劣悪化の中核をなす大問題だと考えます。

 派遣労働者は三百二十一万人に急増し、うち登録型派遣――派遣会社に登録して仕事があるときにのみ雇用されるというきわめて不安定な状態のもとにおかれている労働者が二百三十四万人に達しています。派遣最大手のグッドウィル、フルキャストが違法行為を繰り返し、事業停止処分においこまれるという事態も起こりました。

 あまりに劣悪な現状を打開するために、いま幅広い労働運動、市民運動が、立場の違いをこえて連帯を強め、労働者派遣法の改正を強く求めております。

 ところが政府は、今国会での派遣法改正を見送るという姿勢ですが、そんな先送りの姿勢でいいのでしょうか。私は、派遣法改正は、緊急の大問題だと考えておりますが、総理の見解を求めます。

 舛添要一厚生労働相 いま委員がおっしゃったように、派遣労働をめぐるさまざまな問題が起きてきていることは十分に認識しております。ただ一方で働き方の価値観の多様化というか、そういうフリーターとかいうような働き方もやりたいという方もおられることもこれまたたしかです。しかし、いま大事なのはこの派遣法はじめ基本的な労働法令を重視してもらわないと困るということでありますし、それからやはり、正規労働者になってもらうということで三十五万人の常用雇用化、フリーター常用雇用化プラン等を推進しておりますし、やはり若者は職業能力を開発し、若者だけでなく年長フリーターにもやってもらうということでジョブカード制度など入れまして、鋭意この問題に取り組んでおります。

志位 日雇い派遣を禁止し、安定した仕事を保障せよ
福田首相 日雇いというかたちは決して好ましいものではない
志位 私は、派遣法改正が喫緊の課題ではないかという認識をただしたのですが、お答えはありませんでした。

 具体的に聞いていきたいと思います。

 不安定雇用である派遣労働のなかでも、もっとも不安定・無権利のもとにおかれ、「ワーキングプア」――働く貧困層が拡大する要因ともなっている日雇い派遣の問題について、総理の基本認識をうかがいます。

 この間、私は、全労連、首都圏青年ユニオン、派遣ユニオンなど、派遣労働者の労働条件の改善のためにたたかっている団体、個人から実態をお聞きしました。日雇い派遣について、つぎのような実態にあることが訴えられました。

究極の不安定性、異常な低賃金、危険がともなう

 志位 まず、究極ともいえる不安定性です。派遣会社に登録しますと、携帯電話にメールで集合時間と仕事先が送られてくる。日雇い派遣の契約期間は一日だけです。つぎの日に仕事が得られるかどうかは、わからない。「明日の仕事だけを心配する日々が続いています。半年後、一年後などは見通しがつきません。人生をどうするか、結婚をどうするかなどおよそ考えられません」。これが多くの若者から、いま寄せられている声です。

 また、異常な低賃金も問題です。労働時間は八時間でも、集合から解散までの拘束時間が長い。十二時間拘束というケースも少なくありません。多くは重労働にもかかわらず、一日の手取り額は六千円から七千円前後。政府の調査では、もっぱら日雇い派遣のみで生活している場合、一カ月で働けるのは平均十八日、月収は十三万円から十五万円です。仕事がとれなかったり、体調を崩して仕事を休めば、たちまち収入が途絶えて、アパート代すら払えず、いわゆる「ネットカフェ難民」に落ち込むというぎりぎりの生活を強いられています。

 さらに、危険がともなうということも訴えられました。何の経験もない労働を、何の教育も受けずに、日替わりでさせられるもとで、労働災害が多発しております。倉庫の荷さばきの仕事中、一トンもの荷崩れにまきこまれて大けがを負ったケースもあります。派遣が禁止されている建設の解体作業現場で働かされ、「前が見えなくなるほどの粉じん、アスベストが舞う中で作業をしました。正社員は防じん用のマスクをしていたが、派遣労働者はコンビニで簡単なマスクを買うことを勧められただけでした。中にはタオルを巻いただけで作業をしている人もいました」。ぞっとするような実態が告発されています。

 総理にうかがいます。日雇い派遣に、こういう問題点があるという認識はあるでしょうか。端的にお答えください。

生きるすべが他にない人々を「ニーズがある」とはよべない

 福田康夫首相 日雇い派遣も、それから大きく労働者派遣制度というものにはですね、それがいいという意見もあるし、それはまずいという意見、両方あるんですね。いろんなニーズにこたえてですね、こういう制度は存在したということでございます。労働者の側から考えましての一定のニーズがあるという半面、不安定な働き方であると、そういう見方がありまして、これを見直すべきであるという意見もあるのは承知しております。

 そのためにまずはですね、日雇い派遣の適正化などのためのガイドラインを早急に策定するとともに、登録型派遣の在り方など、制度の根幹にかかわる問題について、今月の十四日に厚生労働省に設置される研究会で、働く人を大切にする視点にたって、検討をすすめると、こういう考え方をしておりますので、いずれにしても問題があるという認識はもっているわけであります。

 志位 不安定な働かせ方で問題があるということを言われましたけれども、「労働者のニーズもある」ということを言われました。しかし、もっぱら日雇い派遣で生活せざるを得ない人々は、ほとんどが望んでその仕事についているわけではありません。正社員の就職ができない、リストラにあった、当座の生活費すらない――そういうさまざまの理由から、日雇い派遣を選ばざるをえないんですよ。生きるすべがほかになく、やむなくこの仕事についている人々を、「ニーズがある」というふうにはよべないんです。「研究会」(を設置する)ということをいわれましたけども、政治がどういう責任を果たすかが、私は問われていると思います。

人間を消耗品のように使い捨てる、究極の非人間的な労働

 志位 私は、この問題には、さらに重大な問題があると思います。日雇い派遣の問題点をずっとお聞きしていて、最も深刻なのは、これは人間を文字通りの消耗品として使い捨てる、究極の非人間的な労働だということであります。

 次のような訴えが寄せられました。「直接雇用の場合は、たとえアルバイトでも明日も来てもらうから、ある程度長持ちするように使うが、日雇い派遣は明日来なくていいから、目いっぱいヘトヘトになるまで使う。人間として気遣われることもない」

 またこういう訴えもありました。「倉庫作業と言われて行ったら冷凍倉庫だった。軍手しか持って行かなかったので、半日で両手とも凍傷になった。それでも日替わりで翌日には別の人が来るから改善がされない」

 さらにこういう訴えもありました。「どんな簡単な労働でも、同じ仕事がつづけられればスキルアップ――技術が向上する喜びがあるのに、それがまったく得られない。いくら働いても手に何もつかない。こんな非人間的な労働はない」

 もちろん違法行為をなくすことは大事です。しかし、日雇い派遣という働かせ方自体が、人間をモノのように使い捨てにし、使い切りにし、人間性を否定する労働だと、こういう認識をもって対すべきだと思うのですが、総理いかがでしょうか。見解をうかがいたい。

 厚労相 いま、委員がご指摘のように、使い捨てというような形で労働者を扱ってはいけないと思います。労働者派遣制度につきましても、その二五条で「労働者の職業生活の全期間にわたるその能力の有効な発揮及びその雇用の安定に資すると認められる雇用慣行を考慮する」というようなことで、さまざまな制限を課し、たとえば、派遣の記録を、誰を何人どういうふうに仕事させたか、これを提出義務を課したり、さまざまな指導をおこなっているところでありますし、さきほど申し上げましたように、二月十四日に厚生労働省に検討会を立ち上げますけど、そこでこの制度の根幹にかかわる問題を、やはりきちんと議論しないといけない。そういう思いで取り組んでまいりたいと思います。

 志位 「研究会」をつくるっていうんですけどね、(制度の)根幹にかかわる問題を議論するっていうんだけども、まったく白紙で丸投げじゃないですか。規制を強化するのか、それとも緩和するのか、その方向性すら出されていない。そこをきちんと出すのが政治の責任だと、私は思います。

「安定」した日雇い派遣はありえない
――厚労省「指針」の空論

 志位 さきほど総理が、日雇い派遣の「雇用の安定」のための「ガイドライン」をつくると、おっしゃいましたね。(厚生労働省が作成した「日雇派遣労働者の雇用の安定等を図るために派遣元事業主及び派遣先が講ずべき措置に関する指針(案)」を示して)このことだと思いますけれども、「日雇い派遣労働者の雇用の安定をはかる」とあるんですけれども、厚生労働省がつくったものですね。私は、これを読んで驚きました。「安定」した日雇い派遣というのはありえないんですよ。日雇い派遣というのはどんな形であれ、究極の不安定労働なんですよ。ですから、こういうものが法律で認められていること自体が、私は問題だと思います。

 この「指針」を読みますと、たとえば労働条件を書面で示すことが、あたかも「雇用の安定」につながるようなことも書いてあります。私は、ここに持ってまいりましたけれど、これは契約書の束です。これは、派遣会社フルキャストから派遣されて、沖電気関係の会社で二年間にわたって日雇い派遣として働かされていた二十六歳の女性に、毎日、毎日、一枚ずつ、一日単位で渡されていた書面での労働契約書です。この契約書のいちばん下には、こう書いてある。「契約更新可能性有り」と。これは、「更新の可能性」ということは、更新されない可能性もあるということですよ。すなわち明日の保障はないということです。毎日、毎日、「明日の仕事は分かりませんよ」というこの紙を渡されている。こういうのを渡しなさいよというのを、この「指針」には書かれているわけですけれども、こんな紙をもらって誰が安心しますか。現にこの女性は、二年間働いたあげく、最後に「もう来なくていい」の一言で「解雇」されております。およそ現実、現状を見ない、机上の空論をやっているのが、私は厚生労働省だと思う。

規制緩和で日雇い派遣という働かせ方が際限なく広がっている

 志位 もう一点、言いたいと思います。今度は総理の認識を聞きます。日雇い派遣労働者が現実におこなっている仕事は、そのほとんどがその日かぎりの業務ではないんですよ。たとえば、物流倉庫での荷さばき、宅配便の荷物の仕分け、ファミリーレストランのウエートレス、製造現場でのライン作業など、そのほとんどが恒常的におこなわれている業務なんです。

 それまでは、正社員など直接雇用によって担われていた仕事が、あいつぐ派遣労働法の規制緩和によって、日雇い派遣によって担われることになりました。とくに一九九九年に派遣労働を原則自由化したことが、登録型派遣とむすびついて、日雇い派遣という働かせ方をつくりだし、それがいま、どんどん広がっているわけです。

 これは総理の認識をうかがいたい。今度は総理が答えてください。日雇い派遣という働かせ方が、あらゆる職種に際限なく広がっていく、そんな社会にしてしまっていいんでしょうか。ここは歯止めをかけるべきではありませんか。総理の見解をうかがいたいと思います。今度は総理が答えてください。

 厚労相 その前に誤解があるといけませんので、はっきり申し上げたい。わが厚生労働省は、労働者を守るために、労働法令に基づいてきちんとしたことをやっております。いま、日雇い派遣指針の概要ということで引用されましたけども、たとえば、できるかぎり長期間の派遣をおこなってくれ、派遣労働者の知識・技能を向上させる訓練をやれ、就業状況をきちんと明示し約束どおりに働かせろと。それからいま、安全でなくて指が凍傷になったとかいろんなことをおっしゃいましたが、それについては雇い入れ時の安全衛生教育、危険有害就業時の安全衛生教育を確実におこなう、情報公開を積極的にみずからおこなう、労働者派遣法、労働基準法等の違反をしない、こういうことを厳しく指導しておりますんで、そのことを申し伝えておきます。

 志位 総理の答弁を求めます。

 首相 私もですね、日雇いというかたちというのは決して好ましいものではないと思っております。

 志位 好ましいものではないということを答弁されました。これは非常に重要な答弁であります。私は、それならば、「研究会」に丸投げということにしないで、好ましくないという方向での法改正にふみきるべきだと思います。労働者派遣法を改正して、日雇い派遣は禁止をすると、そして安定した雇用に転換をはかっていくことを、私たちは強く要求します。そのイニシアチブを、総理にはぜひ発揮していただきたい。
(「赤旗」20080222)

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◎「日雇い派遣という働かせ方自体が、人間をモノのように使い捨てにし、使い切りにし、人間性を否定する労働だ」と。