学習通信080305
◎あたらしい軍隊……

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軍隊

 国家の武装力で,警察・監獄などとともに国家の公的強制力をなす.軍隊は総じて対外的な戦闘行動につかわれるが,国内の治安維持にもつかわれる.

軍隊は,国家権力の性格や国の歴史的・経済的条件のちがいによってその機能がちがってくる.階級対立の社会において,軍隊は支配階級の利益と意思にしたがって,人民抑圧と対外侵略の道具としてつかわれる.
(「新編 社会科学事典」新日本出版社 p97-98)

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主張

衝突事故1週間
真相究明に集中審議は不可欠

 海上自衛隊の最新鋭イージス艦「あたご」が、マグロはえ縄漁船「清徳丸」に衝突、沈没させた事故から、二十六日で一週間を迎えます。行方不明になった二人の乗組員の捜索は難航し、なぜ衝突したのか、原因の究明もすすんでいません。一日でも、一時間でも早い救援とともに、原因の徹底究明が求められます。

 「清徳丸」とともに漁場に向かっていた僚船の証言や伝えられる海上保安庁の捜査で、イージス艦が注意義務、衝突回避義務を怠ったことは明白です。真相究明のためには、海上保安庁の捜査とともに、予算委員会での集中審議など、最優先の課題としての国会での追及が不可欠です。

捜査中は理由にならない

 ことは国民の税金で建造され、国民を守ることをうたい文句にした自衛艦が、民間の漁船に衝突して沈没させ、二人の乗組員が行方不明になって一週間を迎えるという事態です。防衛省・自衛隊が、何はさしおいても捜索と救援にあたり、経過と原因を国民に説明するのは当然です。

 これまで防衛省・自衛隊が明らかにしたのは、事故当日発表した「あたご」の見張り員は衝突二分前に漁船らしい船の緑灯を見て一分前に後進をかけたなどという断片的な情報だけです。それもすぐあとには十二分前には漁船らしい船の赤灯を見ていたと訂正する二転三転ぶりです。

 石破茂防衛相は「海上保安庁が捜査中で、捜査に支障を与えるような発表はできない」としきりに言い訳していますが、衝突事故を起こした当事者として、国民に明らかにしなければならないことは山ほどあります。事故直前の見張りの体制はどうなっていたのか、混雑する東京湾に近づきながら直前まで自動操舵(そうだ)にしていたのはなぜなのか、「あたご」の艦長は事故当時何をしていたのかなど、防衛省・自衛隊は国民に説明すべきです。

 だいたい、防衛省・自衛隊は「海保が捜査中」などといいながら、いの一番に、衝突二分前には緑灯を見ていたなどと発表しました。緑灯は船の右舷にあり、海上衝突予防法では左舷の赤灯を見た船に回避義務があります。防衛省・自衛隊はその後しぶしぶ、十二分前には赤灯を見ていたと訂正しましたが、これでは「捜査中」というのはまったくの口実で、自分に都合のよいことは説明するが、都合の悪いことは説明しないだけのことになります。

 衝突された漁船の所属した漁協の関係者からも、全国の国民からも、防衛省・自衛隊は「情報隠し、情報操作をやめよ」というきびしい声が上がっています。先週末までに防衛省に寄せられた抗議の電話は千本を超すといわれます。衝突事故で国民の生命・財産に損害を与えた上、事実をゆがめて責任を逃れようなどというのは断じて容認されません。

絶えず国民の監視下に

 今回の事件では、「あたご」から海上保安庁への連絡が遅れただけでなく、自衛隊から石破防衛相や福田康夫首相への報告も遅かったことが問題になりました。巨大な武装組織である自衛隊にその力を誤って行使させないため、もっとも大切なのは、その行動が絶えず国民の監視下に置かれることです。国民の前と国会で説明すべき政府の責任は重大です。

 野党は衆院予算委での集中審議を要求しています。審議中の来年度予算案にはイージス艦を使ったミサイル防衛のための予算も計上されています。事故の真相究明に全力を挙げることを前提に、そんな予算が必要なのかもぜひ議論すべきです。
(「赤旗」20080226)

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 最初の目的−国内鎮圧

 どうして日本は近代社会の諸条件も整わないうちに常備軍をもとうとし、しかもそれを驚くほど早急に決定したのであろうか?

 当時の日本は、まず国内を安定させなければならなかった。一八七一(明治四)年、岩倉使節団の陸軍理事官として米欧の視察に出かけた山田顕義は、各国の兵制をつぶさに調査研究し、一八七三(明治六)年、軍制についての『建白書』を書いているが、そこでも「土官兵卒ノ備モ亦国内ノ警備二充ルヲ以テ限トスベシ」とされている。

 この『建白書』が書かれたのは、すでに徴兵令が発令された後であるが、そこに書かれたことを見ると、日本には軍事制度を設けるにしても、他にも選択肢があったことを思わせる。『建白書』は当時としては異例なほど自由主義的な思想にもとづいており、なぜ国家にとって軍隊が必要かから論じはじめ、軍事力は軍備のみならず、国民の啓蒙教育の程度にもよると主張する。

 山田は徴兵に反対しているわけではないが、それは民衆が兵役の義務を負う理由を了解してから施行すべきもので、今は時期尚早としている。まず土官、下士官を養成し、それによって兵の教練が可能になる。だから少なくとも八年から一〇年は先送りにし、それまで国内の警備は下士官学校の人員で行い、文部教育が一般に広まって、壮丁が読み書き計算ができるようになったところで徴兵を行うべきである、と述べている。彼は封建制度を脱した日本が近代化する方法を慎重に考慮していた。近代国家は徴兵による軍隊を必要とするが、それ以前になすべきことは啓蒙であるという考え方を彼がしていたことが推測できる。

 徴兵制のひとつの狙いは、不平を抱く士族が復活を目指すことを抑えることにあった。武力としての旧土族を壊滅させることは、封建制を打破した新政権の目標であった。すでに幕末に長州の奇兵隊という先例があった。武士、浪人、農兵を集め、洋式の装備、訓練によって編成された軍隊の原型である。これを高杉晋作とともに指導者した大村益次郎は、高杉が病に倒れた後、封建武士の特権を無視して国民軍を創設しようとした。彼は外国の軍事実を読むほどの知識人であったが、彼の兵制に特権を奪われると反発した反動武士の凶刃に倒れたので、兵制の確立は大村のあとに残った山県有朋、山田顕義らに引き継がれた。

 山田顕義が外遊中の一八七三(明治五)年一一月、徴兵の詔書が出され、それを受けて同時に、太政官告諭が全国の壮丁に兵役の義務を課する法を設けることを宣告する。そこには、旧封建制度での土族分子が武力を保持して復活することを阻止するという、本来的には近代化であるところの狙いが、封建制度以前のわが国古来の地方制度にもどるのだという復古の修辞を用いて盛りこまれている。それは明治維新が、最初は「尊皇攘夷」から始まり、「王政復古」を宣言するにいたる復古のスローガンをもっていたことを思いださせる。

 今本邦古昔ノ制二基キ海外各国ノ式ヲ斟酌シ、全国募兵ノ法ヲ設ケ国家保護ノ基ヲ立ント欲ス。(「全国募兵ノ詔」)

 翌一八七三(明治六)年には徴兵令が公布され、二〇歳の男子で身体強健なものは常両軍に入ることが定められた。しかし、そこにいたるまでには、国民皆兵論と、徴兵の要なく志願兵で充分とする反対論との抗争があった。反対論は、これまで武事をわきまえたことのない農工商の子弟では役に立たないとするものから、日本は地勢的に欧州大陸の国々と異なってさはどの大兵を備える必要はないとするものまで、さまざまにあった。

だが、自らを守る武力を必要とした新政権は、それをかつての武力保侍者である土族階級に求めることはできなかった。彼らこそ新政権に反対している勢力のひとつだったのである。そこでむしろ平民を中心にした全国民から兵土を調達する必要があった。結局、あらゆる反対論を押し切って国民皆兵論が国策として採用された。

 こうして全国から集められ、銃をもち近代的な訓練をほどこされたあたらしい軍隊が、古い装備(刀)しかもたない士族の叛乱に完璧に勝利したのが西南の役であった。火器、通信、輸送など機動的な手段をもった徴兵軍の方が、西郷隆盛を盟主にかついだかつての武土からなるエりート的な軍団よりも強力であることが実証されたのである。

 早急に徴兵制度を敷いたもうひとつの(より重要な)歴史的な要因は、この時期、頻発していた農民一揆である。農民は維新によってなんの恩恵にもあずからなかったし、封建制の抑圧から逃れうるのではないかという期待も裏切られていた。封建制と異なって土地は私有地となったが、全国的調査が行われるまでいったんは地券制度を地租の基盤とする過程を径て、一八七三(明治六)年に地租改正法が施行されることによって、土地は農民から収奪され、地主階級ヘの集中が促進されることになった。自作小作を問わず、以後、農民の困窮ははなはだしくなる一方であり、当然、小作料、高利貸付、および法外な課税にたいする反発から、反政府的な政治行動が生じた。

 政府は農民一揆を土族の叛乱以上に恐れた。徴兵制度のもうひとつの狙いは、これら農村騒擾を抑えこむことであった。そのために、農村から壮丁を徴兵し、しかも彼らを農村にたいして戦略的な意義をもつ中心としての都市に常備軍として置くことで農民を分裂させ、制圧効果を発揮しようとした。農村が働き手を徴兵されることを好むわけはない。財力のある者や権力に近いものは、あの手この手を使って徴兵を免れようとし、またそれが可能であった。いきおい、徴兵されるのは社会的に無力な農村の壮丁になった。

 こうした農民を使って農民を制する戦略は、農村に何ひとつよいことはもたらさなかったが、一揆の制圧には徐々に成功していった。
(多木浩二著「戦争論」岩波新書 p50-54)

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◎「巨大な武装組織である自衛隊にその力を誤って行使させないため、もっとも大切なのは、その行動が絶えず国民の監視下に置かれること」と。