学習通信080313
◎響き合い……
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一目均衡
特別編集顧問
末村 篤
経済政策を「改革」する時
米国の信用力の低い個人向け住宅融資(サプブライムローン)問題に端を発した金融市場の混乱は、実体経済への深刻な影響が避けられない情勢となった。
新興国の経済成長が緩衝装置となる「デカップリング(非連動)論」の急速な後退は、国際通貨基金(IMF)の購買力平価統計の変更で中国、インドなどの経済規模の過大評価が修正されたためと言われる。海外依存を与件にして、グローバル化する経済への対応に終始してきた政策論議の軌道修正の機は熟した。
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再考すべきは二〇〇二年以降の景気拡大の内容だ。
米国の住宅バブル(資産効果)による消費主導の成長と、中国など新興国の投資主導の成長による世界経済の需要拡大で潤ったのは外需の恩恵を直接受ける大企業・製造業だ。鉄鋼、自動車などの輸出産業は高度成長期以来のニケタ近い売上高の伸びを続け、設備投資を増やしながら労働分配率を大幅に引き下げて、空前の利益を上げた。
対照的なのは内需型産業の中小企業・非製造業だ。この間、売上高は横ばいで雇用と賃金を圧迫され続け、設備投資を抑制しながら労働分配率は高止まりし、利益の改善もない。間題は大企業・製造業の雇用は全体の一割にも満たず、中小企業・非製造業が雇用の六割を占めることだ。
グローバル化の明暗と言われるが、極端なコントラストの背景には政策運営がある。財政支出は縮小、増税や社会保険料の引き上げで国民負担は増大、超低金利で資本の海外逃避を促し、利子所得は目減りしたまま……。円安と一次産品値上がりが追い打ちをかけ、購買力が海外流出する実質的な増税効果が加わる。
国内需要、とりわけ個人消費を圧迫する悪条件がこれだけ重なれば、経済が拡大せず、サービス産業へのシフトが進まず、中小企業・非製造業の生産性が向上しないのは当然だろう。
米国の景気後退、世界経済の成長鈍化というトレンド変化は振れすぎた振り子が戻る経済の自動調整メカニズムの面があり、悪いことばかりではない。一次産品価格の騰勢が一服し、円安修正(円高)の有効活用により交易条件悪化のマイナス要因を緩和できる。
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しかし、日本の大企業・製造業の競争力は強化されたが、需要と価格(為替)両面で厳しい局面を迎える。そこで大事なのは輸出産業にとって母国市場の重要性だ。世界最強の製造業と言われるトヨタ自動車でも、国内では利益がほとんど出ていないと言われる原因の一つに国内市場の疲弊があるのではないか。
内需拡大の処方せんは金利上昇と円高を受け入れ、政府に代わる需要を引き出すことに尽きる。起点は家計部門であり、個人消費と住宅に代表される実物投資を促す税制・金融面での対応がテーマになる。改革論議の視点を変え、大企業から家計へ経済政策の軸足を移せば、海外からの投資もついてくる。今こぞ積年の課題に挑戦する時だ。
(「日経」20080219)
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「幹部会への志位委員長の報告」から
マクロ経済政策でも、「綱領と情勢の響き合い」が
つぎにマクロ経済政策についてのべます。
わが党は、「企業が栄えれば、めぐりめぐって家計に波及し、国民生活がよくなる」という、大企業中心の「成長」シナリオを強く批判し、この路線では、国民のなかに貧困と格差を広げるだけでなく、日本経済の前途も立ち行かなくなると警告し、「大企業から家計・国民に経済政策の軸足を移せ」と主張してきました。この論戦は一定の決着がつきました。この間、政府も、「企業の体質は格段に強化された」が、「家計への波及が遅れている」と、とうとう大企業中心の「成長」シナリオの破綻を事実上認めるにいたりました。
大企業中心、外需頼み、家計置き去りでは、日本経済に先がないということは、いまや広く常識になりつつあります。日本経済新聞の経済コラム「一目均衡」では、「経済政策を『改革』する時」と題して、輸出から内需――家計部門と個人消費に目を向ける重要性を強調し、「大企業から家計へ経済政策の軸足を移せ」と説きました。言葉づかいまで、わが党と「響き合う」論説が出ました。
少し前までは、政府は、「国際競争力」論などをもちだし、大企業応援政治を合理化してきました。しかしいまや、それは簡単には通用しなくなりつつあります。「大企業は社会的責任を果たすべき」という声が、当たり前の声になりつつあります。ここにも「綱領と情勢の響き合い」がおこっています。
(「赤旗」20080306)
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◎「改革論議の視点を変え、大企業から家計へ経済政策の軸足を移せば、海外からの投資も……今こぞ積年の課題に挑戦する時だ」と。