学習通信080317
◎七十五歳以上が切り捨てられる……

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《潮流》

家族いっしょに暮らしていた母屋からむりやり離れに移すようなものだ。うちの家計は苦しいからと、お年寄りのための支出から削る家庭がどこにある?

▼小池晃参院議員が、福田首相らを問い詰めました。七十五歳になったとたん、いま入っている医療保険から脱退させられ、別のしくみに囲い込まれる「後期高齢者医療制度」。連れあいや子どもの扶養家族の人も、扶養からはずされます

▼民法は、一人で生計をたてられない人を家族が扶養する義務を定めています。一人で暮らしていけなくなって生活保護を受けようとする人に、行政が「きょうだいに面倒をみてもらえ」と突き放す場合もあります。ところが、です

▼「後期高齢者医療制度」は、医療保険にかんしては扶養しなくていい、というわけです。いや、法律で強制するのですから、扶養するなと命じるに等しい。高齢者本人が、「捨てられる」という思いに陥っても当然でしょう

▼では、国が責任をもって扶養するのか。違います。わずかな年金から保険料を天引きする。医療費の方も、七十五歳以上向けは削り込む……。なぜ七十五歳からなのか。小池議員に、舛添厚労相がいいわけしました。「(終末をむかえる)一人ひとり、きめ細かく手当てしたい」。だったら年齢は関係ありません。誰にもあてはまります

▼小さいころ、悪さをすると祖母にしかられました。「ばちがあたる」。戦禍にあい、国の復興につくし、次の世代を育てた人々に、報わない国の品格のなさときたら……。
(「赤旗」20080315)

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後期高齢者医療制度
「うばすて山」の批判も

 七十五歳以上を対象にした後期高齢者医療制度が四月に始まる。収入がない人や扶養家族として免除されてきた人も含め、全員が保険料を支払わなければならない。月一万五千円以上の年金があれば天引きされる。滞納者には罰則もある。

 高齢者に厳しい制度になるとみて、与党主導で扶養家族だった人への徴収が先延ばしされた。与党側が次の衆院選などへの影響を恐れたためだ。しかし、はじめから完全に施行できないような制度なら、内容をいま一度見直すべきではないか。

 新制度には七十五歳以上全員と六十五歳以上の寝たきりの人などが入る。もともと医療費のかかる人だけで構成される社会保険だ。財政面では九割を公費と現役世代の支援金が支える。

 保険料の全国平均は月約五千八百円。介護保険料と合わせると、平均で月一万円近い。保険料は都道府県ごとに決まるが、医療費が増えれば保険料も上がる。新制度のままでは、現役世代の人口が減っても引き上げられるため、保険料は上がり続ける見通しだ。

 一年以上保険料を滞納すれば、保険証を取り上げる罰則も導入される。代わりに交付される資格証明書を使うと、窓口でいったん医療費全額を支払わなければならない。

 負担を避けようと医者にかかるのを我慢する人も出てくるだろう。その結果、病状の悪化や死亡など最悪の事態にもなりかねない。

 受ける医療の質の低下も心配だ。慢性疾患の外来診療で、医療機関への報酬が一定となる仕組みが導入されるためだ。これまでと同じ検査や治療が受けられなくなる恐れがある。

 医療費を押し上げる高齢者を集め、医療機関への支払いを定額制にして、医療費を圧縮する。一部で「うばすて山制度」と批判されるのはこうした仕祖みにある。

 中央社会保障推進協議会のまとめによると、すでに全国の五百以上の地方議会などが、制度の中止や凍結、見直しを求める意見書を採択した。

 多くは「保険料負担の軽減」や「資格証明書交付の取りやめ」、「若い世代と異なる差別医療にしない」などの要望だ。

 民主党など野党四党も負担が大きいとして同制度の廃止法案を先月、国会に提出した。

 だが、政府が決めた負担軽減策は被扶養者の保険料徴収の半年凍結とその後半年の九割減額などに限られている。

 厚生労働省は、新制度で、担当医を決め、薬の重複をなくし、在宅でのみとりを増やす方針だ。避けられない死を前にした「高齢期にふさわしい医療」と説明する。

 しかし、七十五歳になって七十四歳の時と医療制度が変わり、そこで「あなたは年だから、治療や検査はここまでにしましょう」と言われたとしたら、納得できるだろうか。若い時と同じように、最後まで最大限の医療を受けたいと望んで当然だ。年齢で受ける医療に差をつけるようなことがあってはならない。

 七十五歳以上は、生きていくために医療の助けを最も必要とする時だ。人生の最後に命や生活が粗末にされないよう、十分な配慮と不安のない制度の再構築を求めたい。
 (共同通信社会保障室記者 尾原佐和子)
(「京都」20080313)

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医療制度は
こう変わる
75歳以上は負担増も

 四月から医療制度が変わる。七十五歳以上の国民が加入する新たな公的医療保険が始まるほか、若い世代にもかかわる医療の値段なども見直される。ただ準備に余裕がないことや、制度が複雑なことから、周知や理解は進んでいない。そこで二回にわたってポイントを紹介する。まずは高齢者医療。大変革だけに、当初は混乱もありそうだ。

保険料──
 平均年7万2000円

主治医制度──
 健康を総合管理

 「加入手続きはどうすればよいのか」「保険料はどうなるのか」「受けられる医療に制限はあるのか」

 東京都板橋区は今年一月、四月から始まる「後期高齢者医療制度」について、区内各所で計二十回の説明会を開いた。高齢住民やその家族の関心は高く、来場者は合計で千二百人を超えた。高齢者には重要な制度だが、「ほとんど知らない」という人も多く、基本的な質間が相次いだ。

 そんな状況の中で全国の七十五歳以上の人に対し、三月中には新制度の「被保険者証」が郵送される。対象者は加入していた国民健康保険や企業の健康保険組合などから抜け、新制度に自動的に加入することになる。四月からはこの保険証を持って病院や診療所に行く。保険証には氏名や住所、一部負担金の割合などが記入されている。

 一部負担金とは医者にかかった時に患者が窓口で支払う額のこと。七十五歳以上なら通常はかかった医療費の一割。課税所得が百四十五万円以上などで「現役並み所得がある」と判定された人は三割負担となる。保険証は重要なものだけに、送られてきたらその内容をよく確認したい。

 年金から天引きに

 七十五歳になれば新制度には自動的に加入するとして、次に気になるのは保険料。保険料は国が示した方式に基づいて都道府県ごとに決める。高齢者が使う医療費や高齢者の所得水準などにより、それぞれの都道府県で保険料の水準は異なってくる。厚生労働省によると、全国平均では一人当たり年七万二千円(月六千円)程度。一人ひとりの徴収額は四月以降、お知らせが送られてくるはずだ。

 高齢者の場合、これまで市町村の国民健康保険に加入していた人が多い。新制度の保険料が増えるか減るかは、自治体の国保保険料計算方式や所得などによって一概には言えない。例えば東京二十三区では、所得が低めの層は負担が増え、高めの層(年金収人なら約四百四十万円超)は負担減の傾向にあるという。

 三重県に暮らす田中孝夫さん(仮名、75)は年金収入が三百万円以上ある。新制度で保険料がどの程度になるか役所に聞いてみたところ、年約十九万円という。六十代の妻の国民健康保険料と合わせると、従来に比べ年四万〜五万円の負担増になる見込み。負担が増えたことに戸惑う高齢者も出てきそうだ。

 保険料の徴収方法は年金からの天引きが中心になる。四月から天引きを始める自治体もあれば、天引き開始は十月でそれまでは納付書を送り、それを使い納めてもらう形を取る自治体もある。

 従来、会社員の子供の扶養家族となっていた高齢者は、子供の健康保険などに保険料を負担せずに加入していた。新制度ではこのような人も保険料を負担することになるが、制度加人から二年間は半額に抑えられる。さらに二〇〇八年度の前半は保険料を徴収せず、後半も九割減額する特例が導入される。

 医療内容変わらず 後期高齢者医療制度について概要がわかったところで、最後に気になるのがどういう医療を受けられるか。この点については当面、従来と大きく変わらない。新しい保険証を持って、どの病院、診療所でも受診できる。

 新しい試みも始まる。あちこちの医療機関で受診して重複する検査や投薬を受けたりしないよう、一カ所の診療所(開業医)の医師が「主治医」となり、高齢者の健康を総合的に管理する取り組みだ。

 この取り組みに沿って診療する場合、医師は最初に患者の同意を得たうえで三ヵ月から一年程度の「診療計画書」をつくり、患者に渡すことになる。この計画書には持病とその治療方針、いつごろどんな検査をするかなどを書き込む。主治医以外に受診できないわけではなく、必要があれば入院もできる。このような診療をするかどうかは医師と患者の判断に任されており、高齢者がすべて計画書をつくってもらうわけではない。

 現場の医師の評判は芳しくない。このスタイルの診療をすると、医師は一人の患者につき毎月ヽ「後期高齢者診療料」として一定(六千円)の収入を得られるのだが、この費用の中に基本的な検査や処置の費用がすべて含まれてしまうためだ。「状態が安定している高血圧症で月一回受診すれば十分といった患者ならいいが、糖尿病で毎月、血液検査をするなど様々な検査・処置が必要な患者だとこの費用では赤字になる」(都内の診療所の医師)という。定着するかどうかは不透明だ。

 新制度は七十五歳以上という高齢者が対象にもかかわらず、わかりにくい。疑問があれば、保険料のことなら役所に、診療内容であれば医師によく聞きたい。

「切り捨て?」将来に不安

 後期高齢者医療制度が始まると聞いて、東京都で暮らす七十八歳の女性は「受けられる医療が制限されて、七十五歳以上が切り捨てられるのではないかと思った」という。新制度に対して不安を抱える高齢者は多いようだ。

 確かになぜ七十五歳で区切って別の制度をつくるのか、誰もが納得できるような説明は見当たらない。政府は「現役世代と高齢者の負担を明確にし国民全体で支え、高齢者の特性に応じた医療を提供するため」と説明するが、従来の制度でも高齢者医療は現役世代からの支援金や税金で支えられてきたし、高齢者に応じた治療ができないということもなかった。

 今はよくても将来は医療の内容などが厳しくなると予想するのも無理はない。政府は不安を解消するため、将来にわたってどのような医療を提供するのか、わかりやすく示す必要がありそうだ。同時に、そのためにはどれだけの費用が必要で、それをどんな形で賄うのかという議論も欠かせない。(編集委員 山口聡)
(「日経」20080316)

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◎「戦禍にあい、国の復興につくし、次の世代を育てた人々に、報わない国の品格のなさ」と。