学習通信080327
◎睡眠不足で肥満……

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4月から始まるメタボ健診ってなあに?
腹囲より怖いメチャド・リスク
 石川・城北病院健康支援センター金沢
  服部 真さんに聞く

 4月からのメタボ健診=i特定健診・特定保健指導)を前に戦々恐々とする太めさん≠烽「るのではないでしょうか。城北病院健康支援センター金沢の服部真さんによると、怖いのは腹囲よりメチャド・リスク=iめっちゃ、どえりゃ−危険という意味の造語)だそうですが……。

──4月から40〜74歳の人すべてにメタボ健診≠ェはじまります。いったい何がどう変わるのでしょうか。

 服部……メタボ健診≠ニは、メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の人を見つけて指導するとされている特定健診・特定保健指導のことです。

 メタボリックシンドロームというのは内臓脂肪が蓄積して腹部肥満になり、血圧・脂質・血糖のうち2つ以上が基準値をはずれている状態です。メタボの人は心筋梗塞など心臓や血管の病気になりやすいとされています。
 健診の主体者が自治体から保険者に移されたことにより、近年急増している保険未加入者は事実上健診を受けられなくなり、保険料滞納者は健診の自己負担が増やされるところも出てきています。

 これまで健診の目的は、さまざまな病気を早期に見つけ、早治療することにありました。しかし、今回の特定健診はメタボとその予備群を早期にみつけ、保健指導をすることにのみ重点をおいているのが特徴です。保健予防の専門家からは、日本は心臓病や血管の病気が世界一少ない国なのに、健診をメタボ対策に特化するのはおかしいという批判が相次いでいます。

 職場で健診を受けている労働者の場合は、これまでの健診項目(総コレステロールがLDL=悪玉=コレステロールに変更)に腹囲測定が加わります。

健診が大きく変わる人は

 大きく変わるのは、これまで自治体健診(基本健診)を受けていた人たちです。中小企業などの政管健保や会社などの健康保険本人を除いて、40歳以上の健康保険加入者とその扶養者には4月以降、保険者から健康受診券と受診できる健診機関の一覧や費用などの説明が送られてくることになっています。

 健診項目の追加や一部負担金の額は保険者の自由に決められるので、保険者による格差が出てきます。健診項目は腹囲測定(おへその上ぐらいの位置)とLDLコレステロールが追加される一方、総コレステロール値や胸部X線検査が必須ではなくなりました。心電図や眼底検査も、前年度の健診で血圧・脂質・血糖・肥満のすべてが基準値を超えた人で医師が必要と認めた方のみで、貧血検査も既往や疑いのある方に限られます。

 腹囲測定のメタボ判定値は、今のところ男性が腹囲85a以上、女性が90a以上となっています。それに、脂質、高血圧、血糖のうち2つ以上が基準を上まわると「メタボリックシンドローム該当者」に、―つだけ上まわる場合は「予備群」に該当します。検査結果には、これまでの判定に加え、「メタボリックシンドローム」の判定(「基準該当」「予備群該当」「該当せず」)のいずれかが書き込まれます。

──腹囲はどうやって測るのでしょうか。

 服部……看護師がメジャーで測ることになると思うのですが、いやだといわれたら実際には測れないことも起きてくると思います。もし腹囲測定に科学的な意味があるのなら、私も嫌がる人を説得しようと思うのですが、腹囲を測定することが体重測定以上に意味があるとはいえません。病気になる可能性については体重と腹囲のどちらで判断しても大差がないからです。ましてや男性腹囲85a以上、女性腹囲90a以上という基準に科学的な根拠は何もありません。

 内臓肥満がどの程度日本人の健康に悪さをしているのか、減らせば良くなるのかについても実はあいまいです。内臓脂肪の蓄積が狭心症や心筋梗塞など冠動脈の病気を引き起こすといわれていますが、日本はその死亡率が世界一低い国なんですね。逆に、日本を除いて平均寿命の長い国をみると、スイス、スウェーデン……など、すべて肥満者の多い国です。やせているから健康、太っているから不健康≠セとはまったくいえないということです。あくまで一人ひとりをトータルで判断していかなくてはいけないと思います。

日本人は小太りの方がいい?

 日本人の場合は、BMI(体格指数)が25前後の小太りの方が長生きで、やせは早死にという信頼できる調査結果もあります。やせていても血圧・脂質・血糖の異常が重なっている人はメタボよりもっと危険だ。たばこや間接喫煙によるがんや心臓病、慢性の肺疾患などの方が問題だ、貧困や社会格差と過重労働やストレスが不健康の大本だという指摘があります。

──メタボの「該当者」「予備軍」への特定保健指導は、どんなことをやるのですか。

 服部……特定健診・特定保健指導で「予備軍」になった人には「動機づけ支援」が、「該当者」には「積極的支援」がおこなわれます。

 「動機づけ支援」では、最初に指導者との1人20分以上の面接(個別支援)、もしくは8人以下で80分以上の集団支援によって、メタボや生活習慣が体に及ぼす影響などを説明し、食事や運動などの生活指導をおこないます。その結果を6ヵ月後に確認します。

 「積極的支援」では、「動機づけ支援」にプラスして3ヵ月以上継続して生活改善の支援を面接や電話、メールなどでおこなうとしています。

 増える!? メタボ難民

 しかし、現実には厚労省の調査でも40歳以上の男性の半数以上がメタボ該当者や予備群であることが明らかになっています。今の体制では膨大な対象者に特定保健指導をすることは不可能です。そこで厚労省は対象を減らそうと、脳血管疾患や虚血性心疾患など動脈硬化による疾患の既応者や、高血圧、高脂血症、糖尿病の服薬中の患者を対象からはずし、65歳以上の人については「積極的支援」という診断が出ても「動機づけ支援」にとどめることを決めました。さらに保険者が保健指導の効果が出やすい対象者にしぼりこむことができるようにしました。そのため、金沢市でも6千人の指導対象見込み数にたいして、指導予定数はたったの600人分しかありません。それでも保健指導者1人あたり150人にもなります。

 特定保健指導者には、指導した対象者の半数以上が翌年の健診でメタボ判定ランクを改善することが求められます。そのため、保健指導の対象に選ばれるのは、少しの指導で改善が見込まれる人が優先されます。高度肥満の方や検査値がいくつも異常だという方は逆に指導対象からはずされるおそれがあります。本来は、そうした方ほど保健指導を受けることが必要なはずです。それなのに放置されてしまう……。メタボ≠ニ診断されても保健指導が受けられないメタボ難民≠ェ増えるのではないかと危惧しています。

──スポーツクラブと法人会員契約した保険者もあるそうですが、こうしたことにも、新しい健診と関係あるのでしょうか。

 服部……確かに大企業の組合健保などでは特定保健指導を健康産業に丸投げしたところもあるようですが、中小企業の政管健保や国保の多くは対象を厳選して自前で実施するようです。日本総合研究所は、2010年の予測として健康産業の産業規模が8兆円増えるとしており、特定健診・特定保健指導だけでは1500億円以上(日本政策投資銀行)という試算がでていますが、来年は当初見積もられたよりもはるかに少ない額になるでしょう。今後拡大されるかもしれませんが、私の本も含めてメタボ対策批判の論調も多くなっているので、思うようにはいかないのではないでしょうか(笑い)。

 保健指導の外部委託がなぜ悪いのかといいますと、減量や運動がその人に本当に必要なのかを決めるための精密検査や医師の判断を経ずに、医療機関以外で乱暴な指導が実施される可能性があるからです。一律に減量のための食事制限や無理な運動指導がおこなわれる可能性も否定できず、メタボ侍≠ニよばれた三重県伊勢市職員が減量のためのジョギング中に急死したようなケースが相次いでおこりかねません。

 本当に危険なのは、太っているかどうか、腹囲が大きいか小さいかではなく、体重の変動が大きいかどうかなのです。減量することによって健康を損ねる人もいることを忘れてはなりません。

 不健康にさせているのは……

──先生はメタボ¢ホ策よりメチャ・ド・リスク¢ホ策と本に書かれていますね。

 服部……自殺や「うつ」病の増加をふくめ、日本の中高年の健康を脅かしている背景には、不安定雇用やワーキングプア、過重労働や深夜労働、過大な職場ストレスがあります。忙しすぎて運動する時間もない、夜遅くまで仕事をして夜遅く夕食をとってすぐ寝てしまう。睡眠時間も少ないし、家事や育児をする時間もない……。こういう生活をしている人の多くがメタボ≠ナあることはデータでも明らかになっています。私はこうした人々をメタボ≠謔闃険なメチャ・ド・リスク、略してメチャド≠ニよんで対策を呼びかけています。今、政府がやらなければならないことはメタボ′註fではなく、不健康にさせている社会的要因を取り除く努力をすることだと思います。

──メタボの特定健診・特定保健指導と後期高齢者医療制度の関係はどうなっているでしょうか。

 服部……2012年の健診受診率や指導実績に加えて、健診結果を2008年の健診結果とくらべて良いか悪いかで、保険者が後期高齢者医療制度に拠出している支援金の2013年の加算減算(十−10%)が決められることになっています。結果がおもわしくなく、加算になったところでは、保険料が上がります。

 今回の特定健診・特定保健指導で支援金を減らせるのは大企業の組合健保のみではないかと思います。日本経団連が厚労省に要求していた大企業からの支援金減額がこの制度でちゃっかり実現してしまいます。また、政府は保険者に保健分野で競わせることで医療の支出を減らさざるを得ない状況をつくり、医療費にたいする公的負担も削減しようとしているのです。

 75歳以上の後期高齢者にも都道府県の広域連合が特定健診を実施しますが、項目や一部負担などの詳細は広域連合に任されています。

──読者へのアドバイスはありますか。

 服部……とにかく健康でなきゃいけない≠ニばかり、人生の目的が健康になってしまっている人を見かけます。でも、健康というのは人生の目的ではなくて、人生の目的のための手段です。また、まわりはともかく自分だけは健康になりたいと思う人もいますが、個人の健康は職場や地域の環境や状況、周りの人たちの生活習慣など、社会の健康度から大きな影響を受けます。

 特定健診の結果に踊らされることなく、医者からやせるようにいわれている人の場合でも1カ月に1キロぐらいのペースにしてくださいね。運動のための運動ではなく、家事や育児、日常生活の中で体を動かすことがおすすめで、その方が長続きします。家の窓ふきや風呂掃除も実はすごくいい運動なんです!(笑い)。何よりも、自分の周りの社会全体を健康にするための仲間づくりが、自分も健康になるもっとも良い方法です。
(「女性のひろば」08年4月号 日本共産党中央委員会 p60-65)

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《潮流》

睡眠が五時間に足りない人は、肥満になりやすい。こんな調査結果がでました。読者のみなさんは、身に覚えがあるでしょうか

▼日本大講師の兼板佳孝さんによると、睡眠時間が五時間未満の人は五時間以上の人より、肥満になる危険がほぼ一・四倍大きい。糖尿病にもなりやすいそうです。男性二万二千人分の職場健診の資料をもとに調べた、といいます

▼以前から、予想する説はありました。睡眠時間が短いと血中「グレリン」という食欲を増進させる物質がふえる──。大勢の健康診断から裏づけられたかっこうです。偶然でしょうが、結果が発表された日、「グレリン」を発見した国立循環器病センター研究所長、寒川賢治さんの学士院賞の受賞も決まりました

▼仕事の時間が長すぎる日本の企業社会。睡眠不足で肥満になると生活習慣病にかかりやすい。医療費がかかり、社会的な費用がよけいにいります。しかし、大企業を頂点に、きょうも残業、残業です

▼いま、春闘の季節。二兆円もの利益をえているトヨタは、月千五百円の賃上げ要求に対し、昨年と同じ千円の回答です。相場を左右するトヨタにならえ。ほかの大企業も、一部をのぞいて軒並み低い。映画一本もみられない千円アップでは、物の値段が続々あがる今年、家計は縮こまります。「景気を冷やす渋い賃上げ」。日経新聞の社説の見出しです

▼人々の健康より自社のもうけ。日本の景気より自社のもうけ。大企業の図体は太っても社会が元気をだせない、日本の病は重い。
(「赤旗」20080314)

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◎「やらなければならないことはメタボ′註fではなく、不健康にさせている社会的要因を取り除く努力をすること」と。