学習通信080328
◎月探査機「かぐや」……

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科学トピックス
月探査機「がぐや」打ち上げ迫る
 「赤旗」科学部長 前田利夫

 大型の月探査機「かぐや」が8月に打ち上げられます。「かぐや」の主なねらいは、月の起源と進化の謎をさぐるための種々の観測です。中国、インド、アメリカも今年から来年にかけて月探査機の打ち上げを計画しており、「かぐや」は、新たな月探査時代の先駆けとなります。

●探査開始は1950年代後半から

 月は、地球から最も近い天体で、潮の満ち引きなど、私たちの生活にも大きな影響を及ぼしています。人類が、地球以外に足跡を残した唯一の天体でもあります。

 月を目指す探査機の打ち上げは、旧ソ連とアメリカの宇宙開発競争のなかで1950年代後半から始まりました。59年に、旧ソ連のルナ2号が初めて月面に到達。66年に、ルナ10号が初めて月周回軌道に入リました。アメリカは、月への有人着陸を目指すアポロ計画を推進。69年に、アポロ11号で初めて成功しました。 72年のアポロ17号まで続けられ、6回の着陸に成功し、12人が月面に降り立ちました。含計約400`の月の石を地球に持ち帰リました。

 90年代以降、アメリカが2度、ヨ一ロツパが1度、月周回軌道に探査機を送っています。日本も90年に、「ひてん」(重量19`c)を打ち上げました。「ひてん」は、地球と月を何度も周回し、93年4月に月に衝突し、役目を終えました。「ひてん」からは、子機の「はごろも」(ll`c)を月周回軌道に投入しましたが、短時間で寿命を終えています。「ひてん」の主な目的は、月の科学探査というよりは、探査機を送り込む技術の研究にありました。

●起源・進化の謎解明に期待

 アポロ計画の成果などから、月の誕生が地球の誕生とほぼ同時期の約45億年前であることなどがわかりました。 しかし、月がどのようにして誕生し、現在のような姿になったのかなどの謎は残されたままです。

 「かぐや」は、月表面の元素組成、鉱物組成、地形、表面付近の地下構造、磁気異常、重力の観測を全域にわたって行います。これらの観測によって、月の起源・進化の謎を解く手がかりが得られると期待されています。また、電磁場など、月周辺の空間環境の観測機器も搭載しています。「かぐや」の観測期間は1年間とされています。各国から、アポロ計画以来最大規模の月の探査計画として注目を集めています。

 「かぐや|は、主機と2機の子機で構成されます。主機は、マイクロバスくらいの大きさがあり、重量が約3dあります。打ち上げ後、地球を2周半してから、月の近くで2機の子機を分離します。主機は最終的に、高度100`bの円軌道に投入されます。約2時間で月のまわりを1周します。

 子機の重さは45`c。 1機は、月面からの最遠距離が2400`bの楕円軌道に、もう1機は最遠距離が800`bの楕円軌道に投入されます。2機の子機は、月の重力分布を精密に測定するために使われます。主機が地球から見て月の裏側に位置するときに、外側を回る子機を介して地球とデータのやりとりが行われます。月の重力分布を精密に測定することによって、月の内部構造を推定でき、月の進化を知る手がかりとなります。

●各国が月探査を計画

 中国も今年、月周回機「チャンア1号」の打ち上げを予定しています。将来的には月着陸機や、月の試料を持ち帰る計画もあります。

 インドは来年、月周回機「チャンドラヤーン1号」を打ち上げる計画です。搭載する観測機器を国際的に公募し、ヨーロッパやアメリカが開発した観測機が搭載されます。インドも将来的に、月着陸機を計画しています。

 アメリカは、再び月へ人類を送り込む計画を進めています。アポロ計画では、旧ソ連との宇宙開発競争のなかで、人を月へ運び、無事帰ってくる技術を持っていることを示すことが大きな目的でした。今回は、月の資源利用や、月での人の生活の可能性を探ること、さらには火星への有人探査のための訓練などを掲げています。そのための準備として、月周回機「ルナ・リコネサンス・オービター」、「エルクロス」の打ち上げを来年に予定しています。水などの資源の分布や着陸適地を調べるのが目的です。

 月などの天体の探査にかんしては、1984年に発効した「月協定」(月その他の天体における国家活動を律する協定)があります。この協定では、軍事利用や領有の禁止を定めています。

 しかし、この協定の締約国は少なく、日本やアメリカなど宇宙開発を進めている主だった国が批准していません。月探査が新たな段階を迎えるにあたって月協定を生かすことが求められます。(まえだとしお)
(「月刊学習 07年8月」日本共産党中央委員会 p110-111)

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宇宙科学の成果と危険な影

 字宙科学の分野で、日本は世界から注目される重要な成果を次々あげている。

 月探査機「かぐや」は、これまで知られていなかった月面の鮮明な画像撮影に成功するとともに、一五種類の観測機器を駆使して月の謎解きに挑んでいる。太陽観測衛星「ひので」は、数百万度という超高温の大陽大気「コロナ」の謎解きに挑み、多くの成果をあげている。〇五年に小惑星への着陸・離陸に成功した探査機「はやぶさ」は、いくつものトラブルと遭遇しながら地球への帰還をめざしている。赤外線観測衛星「あかり」やX線観測衛星「すざく」も宇宙の謎解明に活躍している。

 世界に誇れる数々の成果は、日本国憲法の精神にのっとって一九六九年に国会で採択された「宇宙の平和利用決議」のもとで進められてきた。この決議を無力化する目的で、自民・公明両党は昨年、「宇宙基本法案」を国会に提出、継続審議となり今国会にかかっている。軍事利用する人工衛星をおおっぴらに打ち上げられるようにすることがねらいで、背景には軍事衛星の製作・打ち土げでもうけようと企てる宇宙産業など財界の強い要求がある。

 「平和利用決議」が無力化されれば、研究者・技術者の多くが軍事利用に携わることになる。軍事機密の網が研究者・技術者にかぶさってくる。膨大な予算が軍事のために費やされる。「宇宙基本法案」の危険性と重大性を広く知らせていくことが求められる。(利)
(「経済 08年4月号」新日本出版社 p5)

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我が国における宇宙の開発及び利用の基本に関する決議
(1969年5月9日衆議院本会議)

 我が国における地球上の大気圏の主要部分を越える宇宙に打ち上げられる物体及びその打ち上げロケットの開発及び利用は、平和の目的に限り、学術の進歩、国民生活の向上及び人類社会の福祉を図り、あわせて産業技術の発展に寄与すると共に、進んで国際協力に資するためにこれを行うものとする。

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Q&A
日本共産党 知りたい 聞きたい

宇宙基本法案 どこが問題?

 〈問い〉 自民、公明両党が先の国会に提出した「宇宙基本法案」には、どんな問題がありますか?(岡山・一読者)

 〈答え〉 日本の宇宙開発とその利用は、1969年5月、衆院本会議で採択された「わが国における宇宙の開発及び利用の基本に関する決議」(通称、「宇宙の平和利用決議」)にのっとって進められています。日本の宇宙開発は平和の目的に限って進めるという内容で、平和の目的とは、「非軍事」(=軍事に利用しない)という解釈がとられています。

 宇宙基本法案は、宇宙の平和利用決議を無力化し、宇宙開発を軍事利用できるようにしようというものです。先の通常国会に自民・公明両党が共同で提案し、継続審議になっています。

 自民党は、昨年来、自民党政務調査会(政調)・宇宙開発特別委員会で国防族議員を中心に議論を重ね、「新たな宇宙開発利用制度の構築に向けて」という名の宇宙政策の論点整理を行いました。これが法案の骨子となっています。

 この中で、わが国の宇宙開発は技術開発に重点が置かれ、宇宙技術の利活用を発展させる道が閉ざされたこと。そのため、防衛庁(現・防衛省)が衛星の保有・運用を行うことができないこと。現在の自衛隊の活動に照らすと、宇宙の平和利用を目的とした国会決議(宇宙の平和利用決議)が足かせになっていること。その決議を無力化するには、新たな法律を制定することが必要であること、などを主張しています。同じ内容の要求は自民党が論点整理をする以前から、経団連や、宇宙産業の業界団体である日本航空宇宙工業会から何回も出されていました。法案の基本に、経団連や業界団体の強い要求があることは明らかです。

 宇宙産業の主要企業の多くは、同時に自衛隊の戦闘機や戦車などの武器を製造しているように、宇宙開発と軍需産業は表裏一体の関係にあります。しかし、日本の宇宙開発は、憲法の平和主義と宇宙の平和利用決議によって、軍事と一線を画して発展をとげ、世界的にも高い評価と信用をかちとってきたものです。

 宇宙産業は日米で共同開発を進めているMD(ミサイル防衛)の受注により、市場拡大をねらっているといわれています。宇宙の平和利用という「足かせ」がなくなれば、ミサイル発射の赤外線を宇宙空間から感知する早期警戒衛星、高性能の偵察衛星、自衛隊独自の通信衛星や通信傍受衛星などの開発や保有が可能となります。宇宙における軍拡基本法案ともいえます。(直)
(「赤旗」20070808)

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◎「「平和利用決議」が無力化されれば、研究者・技術者の多くが軍事利用に携わることになる」と。