学習通信080331
◎運転のルールやマナーに関する知識が共有されていない……

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くらし
快適自転車通勤 下
安全対策は万全に
点滅ライトは必需品

 自転車で車道をすいすい走ると気持ちがいい。ところが、いろいろな危険も隠れている。安全走行のための装備や意識は欠かせない。

 神奈川県座間市の会社員、沖本信之さん(44)は、川崎市の会社まで往復四十キロを自転車で通勤している。一番の心配は、車も歩行者も自転車に気付かないことが多いこと。対向する車が急に右折したり、歩行者が不用意に飛び出してきたりする。

 沖本さんは「後部に赤い点滅ライトを四つ付け、交通整理員が付けるような黄色いベストを着ていても、ひやりとすることがある」と訴える。

 体を守るために、ヘルメットと丈夫な素材でできたグローブは必須。バックミラーも効果的だが、取材の足として自転車を使うモータージャーナリストの津々見友彦さん(66)は「ハンドルに付けるタイプは後を確認しづらい。バックミラーを内蔵したヘルメットか、ヘルメットに装着できるタイプの物が使いやすい」とアドバイスする。

 夜間は、赤色の点滅ライトや明るい前照灯に加え、反射素材を身に着けると視認性が増す。津々見さんはドライバーなどに気付いてもらうために、昼間もライトを点灯。「タクシーが目の前で急停止することはしょっちゅう。道路は戦場≠ニ思って万全の対応策を考えてほしい」と話す。

 ルートの選定も重要だ。狭い道は自動車との距離が十分取れず、歩行者と接触する危険性も高まる。通勤や仕事のための移動も愛車のスポーツ自転車を使う経済評論家の勝間和代さん(39)は、できる限り道幅の広い幹線道路を走るという。

 自転車のトラブルも要注意だ。パンクした場合でも、チューブなどの工具や材料、携帯型空気入れを準備しておくと余裕を持って対処できる。走行距離や速度などが確認でき、メンテナンスの時期も判断できる「サイクルコンピューター」があると便利だ。

 和田サイクル(東京都杉並区)経営者の和田良夫さん(56)は「ブレーキやギアに使うワイヤは使用から二年か、一万`走行を目安にして交換する。チェーンは定期的に油を差し、布などできちんとふき取ることも忘れずに」とこまめに手入れをすることを強調した。
(「京都」20080328)

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インタビュー
領空侵犯
「共生社会」に自転車活用を
野村総合研究所理事長
村上 輝康氏

マナー向上 官に頼るな

──自転車の全国共通ルールを作り、マナー冊子を配布すべきだとお考えだとか。

 「自動車やオートバイは免許を取得する際に交通ルールをしっかり学びます。一方、自転車はだれでも自由に乗れます。そのためマナー違反が目立ち、放置自転車や夜間の無灯火走行、歩行者を巻き込む事故など多様な社会問題が生まれています。自転車も道路交通法で車両の枠組みの中にあるのに、運転のルールやマナーに関する知識が共有されていないように思います」

 「やむなく歩道を走るとき何に注意すればよいのか。自転車道がない横断歩道を渡るときはどこを走行するのか。こうした基本知識に加えて、例えば走行中に歩行者や自転車が対向してきたら左に避けるといった安全に走行するための全国共通のルールを作れば、歩行者や自動車との共存が可能になります。マナー冊子を購入時に全員に配布し、周知徹底すべきだと考えます。作製費用も少額で済むはず。自転車の販売価格に上乗せすればよいでしょう」

──なぜ今、自転車なのですか。

 「最近電動自転車を購入し、ちょっとした買い物や街中の散策を楽しんでいます。久しぶりに乗ってみて、価値を再認識しました。今後、日本は急速に高齢化します。体力が衰えた高齢者の移動手段の確保が課題であり、電動自転車はその解決策になるでしょう。またエネルギー消費や二酸化炭素(CO2)排出量の削減にも自転車は有効です。高齢者と地球環境に優しい次代の交通手段としてもっと普及を図るべきでしょう」

──六月に改正道路交通法が施行され「交通の方法に関する教則」も改められるなど国も見直しを進めています。

 「法律改正などによる規制強化には賛成しかねます。ややもすると自転車を街中から締め出すことを前提に禁止事項だらけになる恐れがあるからです。例えば幼児二人を乗せる『三人乗り』の問題です。危険が伴い、道路交通法では禁止されています。ですが共働きの夫婦が子どもを保育園に送迎するとき、三人乗りに頼らざるを得ない現実もあります。安易に規制強化して排除するのではなく、どうすれば現状を解決できるのか、考えていくことが大切です」

 「ルールやマナー作りを監督官庁に任せるのではなく、乗る人や自転車メーカーなど当事者が集まり、自主的に取り組んでほしい。当事者がルールを決め、守っていくのです。これが実現したら、法的規制に頼らず、当事者同土で利害を調整する新たな共生社会モデルにもなりえます」

聞き手から
 記者も自転車で月三百`乗りこなし、規則を知っていると自認していたが、「歩道を走る場合、どこを走るか」と問われ、返答に窮した。正解は歩道の車道寄り。二〇〇六年に自転車が当事者となった交通事故は約十七万四千件、十年前の約二五%増だ。一人ひとりの知ってるつもりが、事故の原因かもしれない。(編集委員 石塚由紀夫)
(「日経」20080331)

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◎「道路は戦場≠ニ思って万全の対応策を考えてほしい」と。