学習通信080408
◎米軍のシステムにこそ、性的暴行がくりかえされる根源が……

■━━━━━

 日本共産党前参院議員
 吉川春子さんの寄稿

女性の人権からみた
米兵による暴行事件

 二十三日の沖縄県民大会を前に、国会で米兵の性犯罪の問題を追及してきた日本共産党の吉川春子前参院議員が手記を寄せました。

 沖縄では今年二月に米海兵隊員による少女レイプ事件がまた起きました。米軍基地の存在するがゆえに米兵の性犯罪に女性たちは恐怖のうちに生活しています。政府の無策ぶりに憤りがつのります。

 十三年前の一九九五年九月、沖縄で小学生にたいする強姦(ごうかん)事件が発生した直後のこと。同年十月十八日、アメリカのオハイオ州の地元紙デイトン・デイリーニューズ紙がこう報じました。八八年から九五年までに、世界中の米軍基地の性犯罪で軍法会議が開かれた件数を公表し、第一位が在沖縄基地で百六十九件、第二位がカリフォルニア・サンディエゴ基地で百二件というものでした。

 実際は10倍以上

 これは「米軍犯罪の記録された数字の氷山の一角にすぎない。実際の性犯罪の発生件数は軍の記録にあるものの十倍以上」。アメリカの現地まで取材に行った日本共産党調査団に対し、記事を書いた「ピュリツァー賞受賞経験もある」力口ー口記者が語っています。

 私は参議院総務委員会で、「政府が同じ期間に沖縄で起きた米兵の性犯罪数は何件か」と質問しました。政府がつかんでいる数は「八八年から九五年の八年間で二十一件」というものでした。米軍発表の八分の一しかつかんでいないという無責任ぶりです。

 私の追及に青木官房長官(当時)は「こういう事件が絶対に起きないように米軍と話し合いを続けていく」と約束しました。しかし、それ以降も性犯罪は発生し続けています。

 昨年十月十四日には広島市内で米海兵隊岩国基地の米兵四人が十九歳の女性を車に無理やり押し込めて車の中で集団強姦したという事件が発生しています。広島地検は、早々と十一月十五日に嫌疑不十分で不起訴処分にしました。今年になって日本の世論に配慮してか、米海兵隊基地の軍法会議の予備審問が開始されています(「朝日」二月十五日付)。

 広島県知事は事件直後の女性の集会で、深夜に街を歩く女性に責任があるかのような発言をしてひんしゅくを買いました。女性の人権を守れなかった反省こそすべきでしょう。

 また、ある週刊誌は沖縄の事件について「危ない海兵隊員」と分かっているのに、などと女子中学生に責任があると言わんばかりの記事を書いています。女性の人権にたいする感覚が疑われます。これに対して、別の週刊誌は「老人が振り込め詐欺に引っかかったとしても老人を責める論議はまれでしょう。レイプだけが……被害者が『スキがあって』『挑発していて』『油断していて』『ついてゆくのが悪い』と繰り返されるのです」と痛烈に批判しました。

 今回の沖縄の事件は、二月二十九日、被害者の告訴取り下げによって海兵隊員が釈放されました。「そっとしておいてほしい」との被害者の心情は痛いほどわかります。

 同時に私は、女性の人権が問題にされなかった百年前の日本の刑法が強姦罪という重罪を親告罪にしていることについての是非が議論されるべきだと思いました。

 細心の対応必要

 性犯罪については捜査段階でのセカンドレイプにあわないための細心の対応が必要です。繰り返し捜査官から事件の状況について聞かれることの心痛は察して余りがあります。

 政府はセカンドレイプ防止のために女性の捜査官、検察官に立ち会わせる配慮をしているとかつて私に答弁しました。しかし、取り調べの中心である巡査部長七万人中、女性は千五百人で2%しかいません。(〇一年十一月六日、政府答弁)

 女性の人権に配慮した捜査と、何よりも基地撤去が米兵の性犯罪根絶の道です。
(「赤旗」20080322)

■━━━━━

──以上略──

 性的暴行は米軍の本質的問題

 米軍の性犯罪がなぜこれほどまでに深刻なのか。それは、兵役に志願するような人間が、もともと犯罪者やその予備軍だからではない。兵役を志願するものの多くが、低所得層や黒人などの非アングロ・サクソン系民族ではあっても、根っからの「ならず者」ではない。こうした一般市民が、銃をとって殺戮をおこなえるようにする米軍のシステムにこそ、性的暴行がくりかえされる根源がある。

《殺人を可能とするシステム》

 戦争の近代化は、騎士団や武士のような世襲的武装専門集団ではなく、徴兵制をふくむ市民の大衆的徴用に依拠するようになった。だが第二次世界大戦後の研究は、その大量動員が、かならずしも戦闘力の強化にならないことを発見する。

 第二次世界大戦中に米軍兵士のなかで対人発砲をおこなうことができたのは、全体の二〇〜二五%だったという数字がある。ちなみに、南北戦争や普仏戦争などでは、この比率がいっそう極端に低下する。殺人の経験などまったくない人間が、目の前で人を殺めるということには、大きな心理的、本能的抵抗がある。現実は映画とは大きく異なるのである。

 この事実に衝撃をうけた米軍当局は、「殺人の抵抗感」を除去する様々な訓練の改革をおこない、朝鮮戦争時には五〇%、ベトナム戦争時には八五〜九〇%の対人射撃が可能になったといわれる。その訓練の本質は、@攻撃対象の徹底した「非人間化」(自分たちと同じ人間を殺すことの意識の希薄化)、A軍への帰属意識と忠誠心の徹底(罪意識の拡散。「仲間のためにやった」など)を特徴とする。

 軍隊とは、力のあるものが優位にたって、他者を抑圧・支配することを体質・価値観とする。それは、女性よりも筋力に富む男性的なものによって表象されてきた。このもとで、軍隊的価値観にとっての他者・異質な者は、「女性的なもの」(※)である。それゆえ、「女性的なもの」は「非人間化」の対象、抑圧され、破壊されるべき対象となる。

※ここではかならずしも女性を意味しない。人格、慣習、文化、体質など生物的雌雄に固着しない属性である。例えば、米軍では女性兵士も「男性化」し、男性兵士も同性愛者は排斥にあう。

 一方、「軍への帰属意識」は、軍外の社会を「他者化」する。同時に警察力が市民社会の法規範遵守のために力を行使するのにたいし、兵士は、市民社会の規範を蹂躙(じゅうりん)する(殺傷、器物損壊)ことを任務としている。それゆえ、彼らに求められているのは、法を遵守する規律の強化ではなく、「他者」の法秩序を破壊する抵抗感の除去である。

 このような兵士が、市民社会のなかで日常生活を送るならば、「非人間化」の対象とされ得る女性が不法な行為をうけるリスクはきわめて大きい。

《兵士による性的暴行の本質》

 以上のことは、「女性的なもの」に対する力による威嚇、蹂躙と支配、その具体的な表れとしての性的暴行が、米軍の本質から発生するものであることを示している。無論、兵士の誰もが性犯罪者となるわけではない。ここで問題にしているのは、軍という組織と性犯罪との本質的関係である。

 平和教育や女性問題研究で有名なベティ・リアドン(コロンビア大学・平和教育センター創設理事、ユネスコ平和教育賞・名誉賞)は、男性優位の家父長制と女性差別が、戦争体制との間に本質的な関係があることをあきらかにしている。

 彼女は、戦争を可能にする「根本的な脅迫システム」の「二つの源」について語っている。ひとつは、「暴力的かつ攻撃的衝動を実行に移す許可、すなわち、社会的、政治的合法化」である。そして、もうひとつが、「(敵対する)一方の側の非人間化」である。この「他性の強調は、他者の価値の劣性の合理化とあいまって、(中略)暴力的対決へと押しやる可能性のある疎外を助長する」のである(前掲書七二n)。

つまり、戦争と軍隊における「非人間化」という「他性強調」が、他者を劣ったものとみなし、侵略と支配という「暴力解決」に導くのである。彼女は、この暴力的支配において優位にたつのが、攻撃的な「男性的属性」であり、「女性的属性」は、これにたいする恐怖と従順、耐性を強いられるとし、ここに戦争システムと性差別主義の関係をみてとるのである。

 この視点から、リアドンは「レイプの本質は、力と暴力を使って、あるいは力と暴力で脅して、人もしくは人びとに、従属と従順を強いることである」とする。彼女はこれを、レイプの一般的定義づけとしておこなっているが、むしろ私は、戦争システムの中枢である軍隊、兵士の性犯罪の本質をあばきだす規定として使いたい。この定義に立つならば、レイプ、とりわけ兵士によるそれは、性的衝動に突き動かされた、自制心や規範意識の薄い男性が犯す犯罪ではなく、戦争と軍隊の構造、本質に起因するものだということになるのである。

 リアドンがこの理解に到達するうえで、重要な役割を果たしたのが、ジャーナリストでジェンダー学者でもあるスーザン・ブラウンミラーの研究である。彼女は、女性ヘの性暴力体験の取材、歴史的文献の丹念な精査などを通じて、レイプとは女性を「恐怖状態にとどめておくことによって成立する、意識的な威嚇のプロセスにほかならない」と規定した。

レイプをこのように社会的、構造的に把握したのは彼女が最初ではないだろうか。「すべての男がすべての女を」支配するなどのように、レイプを男女一般の関係に図式化する点など、賛成できない部分もあるが、それでもなお彼女の慧眼は高く評価されるべきである。

 いずれにせよ、我々が今日、米兵による性的暴行の問題をとりあげるとき、これを「規律のなさ」や個々の兵士の「資質」の問題に解消するのではなく、軍隊という組織がもつ構造的なものとしてとらえることが重要である。

《戦争政策と性犯罪の深刻化》

 いまひとつ指摘しなければならないのは、先の国防総省の報告にみられるように、9・11同時多発テロに続く、アフガニスタンヘの攻撃、イラクヘの侵略など、アメリカが実際に戦火を拡大するプロセスと軌を一つにして、米軍の性的暴行が深刻化していることである。

 美術史家で、ジェンダー研究家でもあった若桑みどり氏は、ブラウンミラーのレイプ=「威嚇のプロセス」論をひきながら、「強姦がもっともその威嚇装置としての機能を爆発させる場、それが戦争である」「なぜなら、戦争における強姦は軍事的効果が高い。それは相手への威嚇であり、侮辱であり、その士気低下を招く有効な手段である」からだと指摘している。

 また、長谷川博子氏は、戦時におけるレイプは、戦争時暴力の一形態、「形をかえた戦闘」であり、「敵の男たちに精神的・身体的ダメージを与えることで、彼らの優位性と支配を『敵』の瞳に焼付け、刻印する儀礼である」と指摘する。

 アブグレイブ刑務所での虐待を含むイラク占領の実態や、米軍内での性的暴行の横行などは、これらの分析を事実で示している。今日の米兵の性犯罪の深刻化が、アメリカの戦争拡大政策のなかで進行していることをおさえておくことは、その出撃拠点を多数かかえる日本のケースを考えるうえで重要である。

〔補〕「家父長制こそは、戦争と抑圧の根本原因だ」という議論もある。しかし、今日の「戦争と抑圧の根本原因」は、「家父長制」そのものというよりも、その由来でもある階級社会の構造的問題ではないか。性差別主義と戦争の問題について言えば、筋力の優劣によって支配者が表象された時代とはことなり、生物的雌雄の差異だけではなく、階級性、社会性がより重視されるべきだろう。個のレベルでも、生物的雌雄ではなく、価値観や社会的役割の差異の問題として、論じられるべきだと考える。また、国際関係においては米軍の動向に焦点があてられなければならない。
──以下略──

(川田忠明「米兵の性犯罪はなぜ繰り返されるのか」08年5月号 日本共産党中央委員会 p86-89)

〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓
◎「女性の人権が問題にされなかった百年前の日本の刑法が強姦罪という重罪を親告罪にしていることについての是非が議論されるべき」と。

※親告罪(しんこくざい)とは、告訴がなければ公訴を提起することができない犯罪をいう。告訴を欠く公訴は、訴訟条件を欠くものとして判決で公訴棄却とされる。

 親告罪のうち、犯人と被害者の間一定の関係がある場合にかぎり親告罪となるものを相対的親告罪、それ以外の親告罪を絶対的親告罪という。前者の例としては親族間の窃盗(刑法244条・親族相盗例)がある。(Wikipedia)