学習通信080410
◎問題の背景には……
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映画「靖国」上映中止館相次ぐ
「8月15日」への冷静な視線
中国人監督、日本人の盲点指摘
佐藤 忠男
東京と大阪で公開される予定だったドキュメンタリー映画「靖国 YASUKUNI」の上映が、一斉に中止になったという。その後、各地で上映の動きが出てきてはいるが、中止した理由は上映する映画館の近隣に迷惑が掛かりそうだということで、それ以上は具体的に公表されていない。
しかし、それがもし、何かの圧力が掛かっていて混乱が予想されるということであれば、言論、表現の自由という民主主義の原則が圧迫されたということになって大きな問題である。政治的、思想的な表現の自由は特に大切に保たれなければならない。
私は既に試写会でこの作品は見ているが、多くの人に見てほしい優れた映画である。リ・イン監督が中国人であるために、中国側の政治的な主張が一方的かつ宣伝的に盛り込まれているのではないか、と先入観を持った人たちがいたのかもしれないと思うが、決してそういう作品ではない。
むしろこれを中国で上映した場合、この監督は長年日本に住んで日本に同情的になり過ぎている、と批判されるのではないかと思えるほどである。
境内の情景を詳細に
この映画は、近年、毎年八月十五日に靖国神社の境内で繰り広げられるにぎやかな情景を詳しく記録している。旧帝国陸海軍の軍服などを着て「大東亜戦争」肯定の演説をするさまざまなグループが特に目立ち、逆に自分たちの肉親の霊を靖国神社が勝手にまつっているのは許せない、と抗議に来る韓国や台湾、沖縄の人たちなどもいる。
マスコミで報道される靖国問題とは主に首相の参拝の是非ということだが、ここではそれが民衆の中のナショナリズムの突出した表現として燃え上がっている。さまざまに違う立場の人々の間に争いも起こるし、暴力ざたにもなる。
御神体の「刀」を語る
この映画は、それらの全体を、一方に味方するようなコメントは加えないで極力平等に客観的に見渡している。リ・イン監督自身が出てきてしゃべるのは、靖国神社で御神体とされているのは実は日本刀であると指摘して、それを今も作っている刀鍛冶の老人と日本刀の意味についてやさしく語り合う場面である。
この冷静さが見事だ。「日本人のことは日本人にしか分からない。外国人にとやかく言われたくない」という気持ちが日本人にはあるが、国際化の時代の今では日本人以上に日本を知っている外国人はもう珍しくないし、彼らの方が日本人にとって盲点になっているところを指摘してくれたりして有難い。この映画はその一例である。
公開妨げない度量を
仮に日本を一方的に批判するような作品でも公開は妨げないのが言論の自由だし、それだけの度量を養うようにしないと、これからの国際社会はやってゆけない。むしろ外国人に積極的に日本を観察し理解してもらうことが必要である。
その意味でこの優れた作品が文化庁の映画制作補助金を受けていることは当然であり、好ましいことである。文化庁は自信を持ってこの制度を推し進めてほしい。(映画評論家)
(「京都」20080410)
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映画「靖国」 李監督が自民議員に憤り
「出演納得の夫婦に介入で返心させた」
映画「靖国 YASUKUNI」の中心的出演者で刀匠の刈谷直治さん(90)夫妻=高知県在住=から有村治子参院議員(自民、比例)が事情を聴き「刈谷さんらは出演シーンの削除を希望している」と主張していることが分かった。李纓(リイン)監督(44)は九日、共同通信のインタビューで「出演を納得してくれていた夫妻を変心させた。許せない介入だ」と訴えた。
議員反論「事実無根だ」
映画は「靖国刀」を作り続ける刈谷さんの姿と靖国神社をめぐる動きを描いたドキュメンタリーで、上映中止が相次いだ。シーンの削除になれば作品の成立自体を左右しそうだ。
有村議員は九日夜「(監督の主張を)刈谷さんに電話で確かめたが、わたしの話で気持ちが変わったことはないということだった。監督の話は事実無根だ」と反論した。
有村議員によると、「刈谷さんが困惑している」との情報があったため、三月二十五日、刈谷さん夫妻と電話で話し、削除希望を聞いたという。
これに対し李監督は「(削除希望は)信じられない。どうして政治家がそこまで介入するのか」と反発している。
監督によると、映画は完成後、夫妻に見てもらった。「奥さまは刈谷さんの刀の世界がよく分かっていない面があり(映画の内容に)ショックを受けていたが、説明すると、二人とも納得してくれた」という。
その後、今年二月ごろ、夫妻が「この映画は反日」と聞かされ非常に不安がっていると知り、映画の意味をあらためて説明。最終的には「どこでも上映してください」と了承を得たとしている。
制作過程について李監督は「ドキュメンタリーで大切なのは人間関係。長い時間をかけ段階を踏んでコミュニケーションをとってきた」と述べ「刈谷さんは非常に優しい、職人の魂を持っている方」とたたえた。
監督は一九八九年以来日本に住む中国人で、日本映画監督協会に所属している。
介入と受け取れる
フォトジャーナリストの広河隆一さんの話
政治家は自分たちが何を守るべきかということを勘違いしている。憲法二五条で保障された生存権を守るためには知る権利が必要で、政治家は知る権利を守るために動かなければいけないのに、制限するために動くのはおごり。自分たちに不利な情報を隠すことができると考えることは大間違いだ。政治家として話をした以上、介入と受け取られても仕方がない。バッジを着けて話をする以上は、自らの言葉の影響力を認識するべきだ。
(「京都」20080410)
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「靖国」上映中止
何が起きた
「靖国」派の圧力 手貸した文化庁
ドキュメンタリー映画「靖国 YASUKUNI」の上映を四月から予定していた映画館五館がすべて、上映中止を決定しました。右翼団体の妨害も受け、公開前の映画が上映中止に追い込まれるかつてない問題の背景には、「靖国」派国会議員による助成を口実にした圧力と、それを手助けした文化庁の動きがあります。
異例の国会議員試写会
ことの発端は、三月十二日に開かれた国会議員向けの事前試写会です。昨年末、『週刊新潮』が、この映画に政府出資の芸術文化振興基金から助成金が出ていることを疑問視する記事を掲載。それを受け二月、自民党の稲田朋美衆院議員らが、文化庁を通じ、製作者に映画を見たいと要請してきました。
対応した配給協力・宣伝会社のアルゴ・ピクチャーズらは、協議のすえ、特定の議員に限定せず、全国会議員を対象にした試写会をアルゴ主催で開くことを決定。文化庁の要請で国会議員のみを対象にした試写会が開かれるのは極めて異例です。
当日は約八十人の議員らが出席。稲田議員は試写後、「靖国神社が国民を侵略戦争に駆り立てる装置だったという政治的メッセージを感じた」と感想を述べ、翌日には、自身が会長を務める「伝統と創造の会」と、「平和靖国議連」のメンバーで文化庁を呼び、公的助成は不当だと声をあげました。両団体とも、日本の侵略戦争を正当化する議員の集まりです。
上映予定だった新宿バルト9が、今後起こりうるトラブルや他のテナントへの迷惑を懸念し、上映中止を決定したのは、この試写会の後。ほかの東京・大阪の四館も、これに続き上映中止を決めた格好です。
助成口実に国会質問
試写後、自民党の水落敏栄参院議員、有村治子参院議員が、映画への公的助成の返還を求める国会質問をしました。
水落議員は、監督が中国人で、スタッフにも中国人が多いこと、タイトルに「YASUKUNI」と英語表記があることなどを、この映画が助成対象にふさわしくない理由としてあげました。
「靖国」は日中合作の映画ですが、「基金」は一定の条件のもとで、合作映画も助成対象になると規定しています。
ほかに、製作者が「映画の製作活動を行うことを主たる目的とする団体」であり「日本映画を製作した実績」があることなどが、助成を受ける条件ですが、同映画は当然、いずれの条件も満たしているからこそ、審査を通過しました。文化庁も審査は「所定の手続き」で審査されたと説明しています。
有村議員は、靖国神社とは「本来、御霊(みたま)と静かに向き合う場所」で「イデオロギー論争の場であり続けるのは、極めて御霊や御遺族に対して不遜(ふそん)」と主張。映画を助成した「文化行政の過失は決して小さくない」と述べています。助成審査の中身をただし、審査の具体的内容を書面で提出するよう文化庁に求めました。
会場手配・資料も提供
見過ごせないのは、映画の内容に介入しようとする議員らに、文化庁が手を貸し、公開前に、事前試写や資料提供の協力を図ったことです。
文化庁は、稲田議員らの「見たい」との要求にこたえ、製作・配給側に繰り返し話を持ちかけました。製作・配給側は当初、特定議員にだけ見せることはできないと主張。それでも文化庁は食い下がり、製作・配給側も次善の策として、全議員むけの試写会を開くことに合意しました。
もとは、文化庁が稲田議員らのためにおさえていた会場を使い、費用も文化庁負担で進められていた話でした。ところが、試写の対象が、一部議員から全議員に変わったことで、文化庁は製作・配給側に費用負担を求めてきました。
文化庁はまた、「靖国」の製作者が助成を受けるため、基金に提出した交付要望書などを、議員の求めに応じて提供。国会質問も、それらの書類をもとに、審査過程を問題にしています。
九二年に「ミンボーの女」の伊丹十三監督が暴力団に襲われ、九八年には「南京1937」のスクリーンが切りつけられるなど、過去にも暴力による上映妨害の事件はありました。今回、最も深刻なのは、公開前の映画に対し、国会議員が文化庁を通じて圧力をかけ、一つの映画作品から公開の場を奪い、国民の鑑賞機会をも奪ったことです。
製作・配給側は、今後の動きも含め、近く記者会見を開く予定だといいます。
※ 映画「靖国」 日本在住十九年の中国人監督、李纓(りいん)さんが、十年にわたり、「靖国刀」を造る刀鍛冶(かじ)の姿や、終戦記念日の境内の様子を記録した、日中合作のドキュメンタリー映画。
(「赤旗」20080405)
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◎「見過ごせないのは、映画の内容に介入しようとする議員らに、文化庁が手を貸し、公開前に、事前試写や資料提供の協力を図ったこと」と。