学習通信080411
◎レジーム・シフトのメカニズムが破壊される……

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【注12】 地球温暖化問題

 大気中の二酸化炭素(炭酸ガス)の濃度の増大が、地球の気候を温暖化させ、地球上での人間の生活と生存に大被害をおよぼすという最初の警告は、一九七九年、アメリカの四人の科学者によって発せられました。しかし、この警告は、科学者のあいだでも、当時はまだ少数意見でした。

 その後、いろいろな角度から、ことの重大性を裏付ける研究が進み、一九八五年には、地球温暖化問題についての最初の国際会議がオーストラリアで開かれるにいたり、次第に世界的な政治問題に発展して、国連総会の決議にもとづいて一九九二年に開かれた地球サミット(国連環境開発会議)では、地球温暖化問題が会議全体の中心問題に位置づけられ、ここで各国代表が、気候変動枠組み条約(温暖化防止条約)に署名しました(一九九四年三月発効)。

 ついで、一九九七年十二月、この条約にもとづく第三回締約国会議が京都で開かれ、「京都議定書」を採択し、二酸化炭素などの温室効果ガスを削減する具体的な目標を決定するところまで、進みました。二〇〇一年に入って、アメリカのブッシュ政権がその批准を拒否する態度を明らかにしましたが、「京都議定書」は、アメリカの政府代表も参加して、その合意のもとに決められたものであり、政権が替わったからといってそれを拒否するのは、国際的な背信行為といわざるをえないものです。

 地球温暖化の問題は、二十一世紀に危機的な様相を見せることが予想されており、二十一世紀における人類の安全を確保するためには、どうしてもこれを阻止する全地球的な体制を確立しなければならない問題です。

 「国益」、すなわちアメリカ資本主義の「利益」を根拠に、この問題での国際協力を否定するアメリカ政府のやり方は、もはや一アメリカ政府の政策態度の是非という次元の問題ではなくなりつつあります。それは、利潤第一主義の資本主義体制がもはや地球を管理する能力を失っていること、したがって、地球および人類の存続という至上命題のためには、より高度な社会への前進が二十一世紀の避けられない課題となっていることの、なによりの現れだと言わざるをえないものです。

 「京都議定書」は、二〇〇一年十一月のモロッコにおける第七回締約国会議で、難航していた運用ルールがようやく決まり、最終的な合意にいたり、いよいよ各国の批准を待つ段階となりました。最後の交渉で、日本などの主張によって、目標の緩和につながる妥協的な条件が取り入れられましたが、それでも、日本では早くも財界などからの早期批准反対論が出ています。こういう消極論をおさえこんで、締約各国で早急に批准して早く「議定書」を発効させ、その実行に必要な国内体制をととのえること、アメリカを国際的な世論と運動で包囲して、「議定書」が定めた排ガス規制のレールに引き込むこと、さらに「京都議定書」を出発点に、温暖化防止の目標が要求する水準にまで対策をさらに高めてゆくことが、今後の重大課題となってきます。

 なお、地球の環境をこわす温室効果ガスとしては二酸化炭素のほか、メタンガス、亜酸化窒素、オゾン、フロンガス、炭化水素、水蒸気、一酸化炭素、アンモニアなどがあげられます。現在、主役の座を占めているのは二酸化炭素ですが、将来は、その他のガスの破壊的な役割がその比重を大きくすることが予想されています。
(不破哲三「二十一世紀と「科学の目」」新日本出版社 p55-56)

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学問 文化
増田 善信

2020年までに25〜40%削減がポイント
温暖化防止するには

進展度で先進国中最低
日本政府の責任重大

 IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は昨年第四次評価報告書「IPCC(二〇〇七)」を発表し、「温暖化は疑う余地がない」と断定し、二〇二〇年までに温室効果ガスの25〜40%の削減の必要性を強調しました。日本政府の消極的な態度が問題になっています。

 二〇二〇年目標
 なぜボイントか

 IPCC(二〇〇七)は、過去百年の気候の再現実験で、その精度の高さが確かめられた気候モデルを用いて、CO2などの排出量や人口増など色々のシナリオに応じて、二十一世紀末までの予測を行いました。その結果、一九八〇〜一九九九年の平均値に比べ、二十一世紀末の平均地上気温は一・一〜一・四度、平均海面水位は十八〜五十九ab上昇するほか、降水量の予測などから、異常気象の増加、小さな島嶼(とうしょ)や沿岸域の水没、生態系、健康などに深刻な影響が出る可能性があることが分かりました。まさに、「このまま温室効果ガスを排出し続けると、『回復不能な影響』により、人類の生存が脅かされる」のです。

 しかしその半面、二〇二〇年ころまでは、どのシナリオでも、気温上昇が十年当たりで〇・二〜〇・三度の範囲内にあることが予測されたのです。この予測結果から、温室効果ガスを二〇二〇年までに25〜40%削減し、排出量のピークを二〇一五年ごろにし、引き続き二〇五〇年までに50%削減すれば、二十一世紀末の気温上昇を二〜二・四度に抑えることができるのです。

 実に、二〇二〇年までに温室効果ガスを25〜40%減らすこと、すなわち「中期目標」を実行することが温暖化防止のポイントになったのです。

 まず京都議定書
 約束守ってこそ

 しかし、その前に京都議定書の完全達成が求められています。京都議定書の約束期間の四月一日が来ましたが、日本は6%の削減義務を負いながら、〇六年度速報値で6・4%も増やしています。しかも、世界銀行が調査した温暖化対策の進展度は、先進国で最低とのことです。

 三月二十八日、政府は新たな京都議定書目標達成計画を閣議決定しました。森林の吸収、他国との排出量取引が主で、実質的削減はわずかO・6%です。一方、8%削減の義務を負う欧州連合(EU)は、すでにドイツ20%、イギリス15%など着実に実績を上げています。

 京都議定書が完全達成されたとしても、全世界の温室効果ガスの削減量はわずか3%です。これさえも達成できないようでは、「京都」以後はおぼつかない状況です。日本政府に京都議定書の約束を守らせる必要があります。

 福田首相が、温暖化問題で「世界を先導する」と大みえを切って参加したダボス会議二月二十六日)でも、三月十六日に千葉で聞かれた第四回主要国閣僚会議(G20)でも、また、先日終わったバンコク会議でも、日本政府はエネルギー効率などをセクター別に割り出し、技術開発に基づき削減可能量を積み上げる「セクター別目標」方式を提案しています。

 しかし、いくらエネルギー効率を上げても、エネルギー消費が増えれば、温室効果ガスも増えるので、この方式は温暖化防止にはつながりません。

 産業界と削減の
 協定しないのは

 アメリカの多くの州や東京都でさえ、産業界との削減協定締結を目指しているのに、日本政府は、なぜ、削減数値目標の設定に反対し、産業界の「自主性」に任せているのでしょう。それは日本経団連など財界が反対しているからです。この方式を洞爺湖サミットでも提案し続けるなら、わが国は国際社会で孤立するでしょう。

 同じ資本主義国でもドイツやイギリスは、法的拘束力のある温暖化対策を実施し、確実に温室効果ガスを削減しています。日本政府も産業界に削減量を割り当て、目標達成に有効な排出権取引や環境税の導人などをはかるべきです。まず、日本政府が京都議定書を確実に実行し、次いで、温暖化防止のポイントである「中期目標」を策定することが先決です。
(ますだ・よしのぶ 元気象研究所研究室長)
(「赤旗」20080410)

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学問 文化
川崎 健

レジーム・シフトに
作用する地球温暖化

海洋生態系の変動リズム
かく乱・破壊への危惧

 レジーム・シフト(regime shift)という言葉は、専門家の間で一九九〇年代に入ってから使われ始めた新しい科学用語ですが、それこそあっという間に世界中に広がり、今年一月に発売された「広辞苑」第六版にも収載されました。

 数十年間隔で
 構造が大変動

 この用語の意味は、「大気──海洋──海洋生態系から構成される地球システムの基本構造(regime)が、数十年の時間スケールで転換(shift)すること」であり、レジーム・シフトという現象は、マイワシ漁獲量の数十年間隔の大変動が、互いに遠く離れた黒潮域、カリフォルニア海流域(北米西岸)、フンボルト海流域(南米西岸)で同調していることから、一九八三年に見いだされました。

 その後同様な現象が、大気──海洋系の物理過程やプランクトン、他の魚類にも次々と見いだされ、いまやその存在は、疑いのないものとなり、一つの研究分野が産みだされました。レジームという言葉は、もともと政治体制・社会体制を意味する社会科学用語ですが、一九八七年に作られた私たちの国際ワークショップによって、自然科学の領域に導入されました。

 大気中の二酸化炭素濃度は産業革命以来一貫して増大していますが、地表気温はそうではなく変動しています。北半球においては、一九六五〜一九八〇年には平均気温は平年値に対してマイナスの偏差を示しており、寒冷化していますが、これもレジーム・シフトとして理解できます。

 このように地球システムの基本構造は数十年スケールのリズムで転換しており、地球システムの持続性とは、レジーム・シフトの変動リズムが撹乱(かくらん)されないで、持続されることなのです。そして、変動リズムの持続性を撹乱する要因が、大気──海洋系においては温室効果ガスの過剰放出=地球温暖化であり、海洋生態系においてはそれに過剰漁獲=乱獲が加わります。

 引き返せない
 気候の暴走も

 温室効果ガスの放出が現在のペースで増加すれば、レジーム・シフトはどうなってしまうのでしょうか? 地球には熱塩循環(世界中に熱と塩分を均一化するベルトコンベア・ベルト)とよばれる全海洋を結ぶ深層大循環があり、その出発点は北大西洋北部で、塩分が高くて水温が低い高密度の海水が数千bの深層に沈降します。沈み込むのは、グリーンランド沖とラブラドル沖の二ヵ所です。この二ヵ所における沈み込みの活発な年代は、海洋と大気の相互作用によって数十年間隔で交代してシーソー運勣を行なっており、この運動が、レジーム・シフトのリズムを作っています。

 温暖化によって北極海の海氷とグリーンランドの氷床が解けると、この水域に低塩分の水が流れ込み、海水が沈降しなくなり、メキシコ湾流の腹水の北上が妨げられて、北欧やカナダは寒冷化します。気候の暴走が始まるのです。レジーム・シフトのリズムが破壊され、海洋生態系の変動リズムも破壊されます。この時点が、point ofno return(引き返すことのできない点)と呼ばれる気候とレジーム・シフトの崩壊点であり、過去三十年の平均値よりプラス三・一度Cという推測があります。

 資源管理不在も
 追いうちかける

 海洋における温暖化というと、南の魚が日本近海で増えたというようなことがジャーナリズムで取りあげられますが、温暖化でもっとも問題になるのは、海の変動機序=レジーム・シフトのメカニズムが破壊されることなのです。

 漁業資源の変動メカニズムが過剰漁獲によって損なわれていることも、忘れてはなりません。資源管理の失敗というよりも不在によって、日本近海のマイワシやマサバの資源は回復の芽を摘まれています。漁業資源は地球環境の構成部分です。温室効果ガス排出削減と相まって、日本政府は科学者の警告に耳を煩けるべきではないでしょうか。
(「赤旗」20080408)

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◎「このまま温室効果ガスを排出し続けると、『回復不能な影響』により、人類の生存が脅かされる」のです。