学習通信080422
◎「貯蓄から投資へ」とは何か。……

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マネー
この人に聞く
金融相 渡辺善美氏

「貯蓄から投資」なぜ推進
経済活性化、家計も潤う

 個人金融資産を「投資を通じてもっと上手に動かそう」と旗を振る渡辺喜美金融相。個人マネーの「潜在力」を聞いた。

──なぜ「貯蓄から投資へ」なのですか。

 「日本の個人金融資産の半分は預貯金です。マネーが資本市場に向かわず、預貯金に塩漬けになったままでは、いつまでたっても自分が豊かになったと実感できません」

 「いま世界では金融資産がものすごい勢いで膨らんでいますが、日本はこぢんまりとしたまま。これでは経済も活性化しません。預貯金を投資ヘいかに回すか。これは極めて大事なテーマです」

──家計は投資のリスクを嫌うようです。金融市場の混乱で預貯金、あるいは現金といった安全資産に逃げる傾向も。

 「リスクをとるということは、リターンが大きくなるということです。相場の変動はあるでしょうが、長期で保有していれば経済成長の果実を享受できるのが株式投資です。預貯金はリスクは小さいですが、一定の利子しか入ってきません」

──家計が投資に動き出す効果とは?

 「市場を通じて企業に成長資金が回るようになれば、経済活動の効率が上がり企業収益も拡大します。長期でみれば、企業や経済の成長がまさに自分の家計の収益に直結するわけですね」

──逆に預貯金偏重が続くとどうでしょう。

 「成長の果実が得られないと、家計の暮らしは苦しくなっていくでしょうね。戦前の日本では投資家が産業界に資金を出していました。祖先は立派にリスクをとってお金を供給したのですから、日本人がリスクをとらないというのは俗説です」

──投資の妨げになる制度もあるのでは。

 「税制は重要なポイントです。投資活動が税制でくるくる変わることのないように、制度を考えていく必要があります」

──金融商品取引法の施行で一部の金融サービスの提供が鈍りました。

 「コンプライアンス(法令順守)不況ではないかと、ずいぶん苦情を受けました。金商法を順守するためといって過剰反応するのは法律の趣旨ではありません。投資家保護などにつながっていないようなら、朝令暮改を恐れずに改めるのも大事です」
(「日経」20080421)

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経済時評
「貯蓄から投資へ」を考える

 東京地裁は三月、ライブドア事件の三つの裁判の判決を、相次いで言い渡しました。堀江貴文前社長に実刑二年六月、宮内亮治前取締役に実刑一年八月、ライブドア社に罰金二億八千万円。いずれも証券取引法違反です。

 堀江前社長が“時代の寵児(ちょうじ)”ともてはやされていたころ、自民党幹事長代理だった安倍首相は“堀江さんは小泉改革の成果”と持ち上げました。「貯蓄から投資へ」という異常なまでの政策誘導があったからです。

 「貯蓄から投資へ」とは何か。

 ―これまでは国民の多くは銀行などへ預貯金をしてきたが、これからは証券市場で株を買うとか、証券会社や銀行から投資信託を買うなどの投資をしたほうがよい―このように国民を誘導することです。

異常なまでの政策誘導の展開
 小泉内閣は発足後最初の「骨太の方針」(二〇〇一年六月)に、「個人投資家の市場参加が戦略的に重要」、「貯蓄優遇から投資優遇への金融のあり方の切り替え」と明記しました。

 証券取引法が改正されて証券仲介業制度が導入され、銀行などが証券業務をやりやすくなり、インターネットを通じてケータイでも株取引ができるようになりました。金融庁はホームページに、「証券投資がより身近になりました!」という特設欄をつくりました。

 また、証券優遇税制もスタートし、預貯金利子の税金は20%に据え置いて、株式売却益や株の配当の税金だけは10%に引き下げました。

 「貯蓄から投資へ」の露骨な政策誘導に、かつては預金獲得競争でしのぎを削っていた大銀行は、なぜ反対しなかったのか。日本の銀行経営そのものが、アメリカの強い圧力による金融制度の大改革のなかで、大きく変わってきたからです。

 金融制度の規制緩和によって銀行は証券業務へ競って進出し、窓口で投資信託を売り込むことに力をそそいでいます。すでに、株式投信の公募残高のうち銀行経由が五割を占め、銀行収益の柱の一つになっています。

「貨幣の資本への転化」を促進する条件
 政府が「貯蓄から投資へ」の政策誘導をしてきた時期は、ちょうど労働法制の規制緩和で非正規雇用が大量につくりだされ、ワーキングプアが増えてきた時期とも、ぴったり重なっています。これは、たんなる偶然ではありません。この二つの流れは、深いところでつながっているからです。

 「貯蓄から投資へ」は、お金の流れとしては、「間接金融から直接金融へ」ということです。

 「間接金融から直接金融へ」とはどういうことか。(別項参照)

 「間接金融」も「直接金融」も、出発点は国民の保有する貨幣で、終着点は企業の資本調達です。どちらも「貨幣の資本への転化」ですが、「直接金融」では、小口の投資家全体に投資リスクを分散できます。また、アメリカ的な株式資本主義では、「直接金融」の比率を高めていく流れになっています。

 しかし、「貨幣の資本への転化」を促進するためには、資本にとっては、もう一つの条件――自由に安く活用できる「労働力」を確保することが必要です。そこで、小泉「構造改革」のなかでは、金融の規制緩和と労働法制の規制緩和は、資本がいっそう利益をあげられる条件づくりとして、車の前輪と後輪のように一体的に展開されてきました。

国民の立場からみた間接金融と直接金融
 「国民にとっては『間接金融』と『直接金融』は、どちらがよいか」―この問題は、「間接金融」を公共交通、「直接金融」を自家用車にたとえてみるとわかりやすいでしょう。

 鉄道や電車などの公共交通は、だれでも気軽に安い料金で利用できる安全な乗り物ですが、自由に好きなときに、どこにでも運んでくれるというわけにはいきません。

 自家用車は、自分の責任でどこにでも好きなときにドライブできますが、車の購入資金やガソリン代、交通事故をおこさない安全運転も自己責任になります。

 「間接金融」の場合は、国民の貯蓄は、預金通貨(貨幣)としての機能をもっていますから、流動性と安全性を保障されますが、ばからしいほどの低金利を押し付けられます。

 「直接金融」の場合は、株式の配当や売買益という利殖性がありますが、投資した会社が倒産するなどのリスクがあります。

 このように、「間接金融」と「直接金融」は、それぞれ機能がちがうので、資本主義の金融制度としては、単純に一つにしぼることはできません。交通機関における公共交通と自家用車の場合と同じです。

 アメリカ的な株式資本主義をめざして「間接金融から直接金融へ」と一方的に誘導することは、ちょうどモータリゼーションのために公共交通をどんどん切り捨てていくことと同じ結果をもたらします。すでに銀行は、政府の政策誘導を後ろ盾にして、小口の預金者が口座を開くのに高い手数料をかけるなど、どんどん預金サービスを切り捨てています。

 しかも現代の株式市場は、カジノ(賭博場)資本主義の中心的舞台です。資本取引の素人である国民をそこへ誘導することは、国民の小口資金を投機的資本の餌食にすることにもなります。「一億総投資家」などとはやしたてることは、国民の意識を資本主義につなぎとめるイデオロギー的ねらいもあるでしょう。

 国民の立場からいえば、「貯蓄から投資へ」とあおって誘導するのでなく、国民収奪の超低金利政策や不公平な証券優遇税制などを直ちにやめること、そして金融のルールを国民にわかりやすく、公正で民主的なものにあらためることこそ求められます。(友寄英隆)

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 間接金融 国民から預貯金を集めて銀行などの金融機関が企業へ貸し付けます。国民の資金が銀行などを介して貸付資本へ転化するので「間接金融」といいます。

 直接金融 国民が、株式や債券を購入して企業に投資します。企業が直接、国民から資本調達するので「直接金融」といいます。
(「赤旗」20070404)

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◎「アメリカ的な株式資本主義をめざして「間接金融から直接金融へ」と一方的に誘導することは、ちょうどモータリゼーションのために公共交通をどんどん切り捨てていくことと同じ結果をもたらします」と。