学習通信080423
◎そもそも性犯罪が、軍隊と戦争の本質に深く根ざしたもの……

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社会リポート
自衛隊 性犯罪多発
買春・セクハラ 幹部も
懲戒処分 2日に1件

 「海自の根底に潜むものを考えたい」。イージス艦によるマグロ漁船への衝突・沈没事件など相次ぐ「不祥事」の対策会議でこう語った吉川栄治海上幕僚長(当時)。しかし「不祥事」は海上自衛隊に限ったことではありません。自衛隊の「不祥事」から見えるのは――。

 「私行上の非行による懲戒処分」と題した一覧があります。防衛省がまとめた陸・海・空各自衛隊ごとの処分一覧です。

 航空自衛隊の男性隊員による女性隊員へのセクシュアルハラスメント(性的嫌がらせ)問題を追及する日本共産党の紙智子参院議員の求めに応じて防衛省が作成しました。

 一覧は二〇〇五年度と〇六年度分。陸海空ごとに被処分者の階級、年齢、「事案の概要」、処分年月日、処分量定が記されています。

暴行・殺人も
 それによると、「懲戒処分」数は両年度とも百六十件強。自衛隊員がほぼ二日に一件の割合で規律や刑法に係る事件・犯罪をくりかえしている、という数字です。

 〇五年度の処分総数は百六十一件(陸自・八十件、海自・六十件、空自・十五件、防衛大学など六件)で、〇六年度は百六十七件(陸自七十件、海自六十七件、空自二十五件、防衛大学など五件)。

 「事案の概要」は深刻です。暴行・殺人、児童虐待死、公然・強制わいせつ、児童買春、セクシュアルハラスメント、覚せい剤などの凶悪・破廉恥罪が続きます。

 このうち陸海空の各自衛隊で共通して多いのが性的破廉恥行為。陸自では〇五年度で三十七件、〇六年度は四十五件です。空自は九件、十三件。海自は十八件、十四件です。防衛大なども各三件となっています。両年度とも毎週のように性犯罪をおこしていることになります。

 見過ごせないのは、こうした犯罪に手をそめているのが一般隊員だけでなく幹部自衛官も例外ではないこと。

 ――〇五年七月、杉並区の路上で通行中の女性に公然わいせつ行為を行ったとして三等陸佐を逮捕

 ――〇七年三月、北海道のホテルで出会い系サイトで知り合った十六歳の少女に現金三万円を渡して買春した容疑で三等空佐を逮捕

 男性自衛官などによる女性隊員(職員)への性的嫌がらせは多発しています。

“精強”に恐怖
 これに「強い恐怖を感じる」と指摘するのは男性航空自衛官によるセクハラ被害で国家賠償請求訴訟を起こした女性自衛官を支援している、アジア女性資料センターの丹羽雅代運営委員長です。

 丹羽さんは、腕力と刃物を使った暴力的な性的行為の強要や、児童買春などが目立っていることをあげ強調します。

 「処分されているのは氷山の一角です。それでもこれだけの数は異常です。ここには自衛隊内の女性観、男はこういうものという“神話”が根強くはびこっているのではないか。旧日本軍の“慰安婦”問題と同じで、こうしたことが士気高揚に欠かせないという発想です。だから処分も軽い。米軍でもイラク派兵部隊でセクハラ、レイプが横行しています。イラク派兵など海外任務の拡大とともに自衛隊内で強調される“精強”という言葉に怖さを感じる」
(「赤旗」20080420)

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新兵不足の米軍
暴行・レイプ・薬物使用…
犯罪者を免責 採用急増

 【ワシントン=鎌塚由美】新兵確保に苦慮する米軍が、強盗やレイプといった犯罪歴のある人物を免責して入隊を認め、その数が増えていることが分かりました。二〇〇六会計年度(〇五年十月―〇六年九月)と〇七会計年度に陸軍と海兵隊に入隊した元「犯罪者」の数はそれぞれ、四百五十七人と八百六十一人でほぼ倍増となっています。

 これは米下院監視・政府改革委員会のワクスマン委員長(民主)が国防総省に開示を求めていたもの。同氏が二十一日に明らかにしました。

 それによると、陸軍による免責は〇六会計年度の二百四十九件から、〇七会計年度は五百十一件に倍加。海兵隊では二百八件から三百五十件に増えました。

 免責された犯罪のなかには「加重暴行」や「窃盗」、さらには「レイプ」や「テロの脅迫」が含まれています。両軍あわせて「加重暴行や凶器による暴行」という凶悪犯罪で免責されたのは八十七人。「窃盗」では、二百四十八人でした。また、マリフアナを含まない「麻薬・常習性をもたらす薬物の保持または使用」で有罪となった数は百三十人に上りました。

 ワクスマン氏は同日、新兵確保を担当するチュー国防次官あてに書簡を送付。「少人数」だとしながらも「レイプ、性的虐待」などの性犯罪から「爆弾脅迫を含むテロの脅迫」という犯罪でも免責し、入隊させていることに厳しい目をむけ、同省に〇七―〇八年の数字など、いっそうの情報開示を求めました。
(「赤旗」20080423)

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米兵の性犯罪は
なぜ繰り返されるのか
 川田 忠明
  日本共産党国民運動委員会
  日本平和委員会常任理事

 なぜ米兵による性犯罪は繰り返されるのか。沖縄北谷町で二月十日、またもや米兵による女子中学生への暴行事件がおきた。

 忌まわしい記憶の反復をよぎなくされたであろうことを思うと、少女の告訴取り下げの決断には、いたたまれない思いが残る。

 いま私たちにできることは何か。平和運動にたずさわる者として、私は米兵による性犯罪を、戦争と政治が生み出す構造的問題としてとらえなおし、その根絶の方策を多くの人々とともに考えていきたい。

米軍に蔓延する性犯罪

 米軍はいま、性犯罪という「疫病」に侵食されている。

《世界で年間二七〇〇件もの米兵暴行事件》

 国防総省は今年三月十四日、「軍における性的暴行についての年次報告書」と題する文書を発表した。これは、世界中で米兵がおこした性的暴行事件について、四軍(陸軍、空軍、海軍、海兵隊)がそれぞれ調査した結果をまとめたものである(二〇〇四年から開始)。報告書によれば、二〇〇六年十月から〇七年九月までの間(〇七年財政年度)に、申告された性的暴行は二六八八件にのぼる。これは一日に七件以上の暴行事件が世界のどこかでおきていることになる。

それはまた、米兵一万人につき約一九件の暴行事件がおきている計算になるが、それは、米国社会全体での強姦事件の約六倍以上の高い比率である(二〇〇六年度FBI報告書)。また軍務にともなう性的暴行は、一般公務員の場合の二十倍以上になるという報告もある。いずれにしても、米軍がかかわる性犯罪は、一般社会とくらべても、異常に高い率で発生しているということは疑いない。

 なお、〇六年度までの報告書は、一月一日から十二月三十一日までの暦年でまとめられているため、〇七年度との単純比較ができない。しかし、〇四年からの数宇をならべてみると(表)、〇六年は〇五年から二四%も犯罪件数が増えるなど、その増加傾向がわかる。

 報告書の数字は、あくまで被害者の申告にもとづくものであり、実態はこの数字以上に深刻であることは想像に難くない。この報告を発表した担当官ですら記者会見で、「一般的に性犯罪は、被害者からの申告は五%程度である」と述べている。

 報告書によると、加害者・被害者ともに兵士である事件が、五七%(一一八四件)と半数をしめる一方、兵士が民間人にたいしておこなった事件が二八%(五七四件)と三割近くに達している。しかも、犯罪の現場が、基地などの軍事施設の外の事件が三六%(七四九件)もある。つまり、米軍施設内での犯罪とともに、基地外での一般市民にたいする米兵の性的暴行が、相当の割合で起きているところに、問題の重大性がある。

 この報告書には、事件発生地も被害者の国籍も十分にあきらかにされておらず、米軍基地を受け入れている国々での実態をリアルに見ることはできない。しかし、二月の沖縄での中学生暴行事件をはじめ日本での一連の米兵による性犯罪が、こうした米軍のおぞましい実態の一部であることは明白である。

 このように問題が深刻化するもとで、国防総省は現在、性的暴行を根絶するための組織をあげた一大キャンペーンをくりひろげている。

 国防総省が作製したポスターには「性的暴行を予防しよう」「尋ねよう、友人に助けが必要かと」「行動しよう、彼らが求めているなら」「やめさせよう、事件を目にしたら」などのコピーが並んでいる。配布用のパンフレットもある。そこには「性的暴行の予防と対応」。「性的暴行に立ち向かおう、事態を変えよう」といったスローガンが書かれている。このポスターに記されているSAPROとは、「性的暴行予防対応局」の略称であり、国防総省が、この問題を専門にあつかう組織として、二〇〇五年たちあげたものである。

 そもそも米軍は後述するように、兵士の性犯罪を容認、隠蔽する傾向が強かった。それが、こうして公に大々的なキャンペーンを張らざるをえないところに、事態が抜きさしならないところにまできていることが示されている。

《湾岸戦争以降──急増する性犯罪》

 米軍内の性的暴行の深刻化は、ソ連崩壊後、アメリカの戦争政策の露骨な推進と、並行してすすんできた。

 一九七二年に徴兵制を廃止し、志願制度に切り替えた米国では、女性兵士の比率が飛躍的に増大した。七二年に女性兵士は四万五〇〇〇人、全体の二%だったのが、湾岸戦争直前の九〇年には二二万人、全体の一一%に達する。その一方で、海軍(海兵隊を含む)を例にとると、一九八七年から一九九〇年にかけて性的暴行事件が一六六件から二四〇件へ四五%も増え、一九九二年には四二二件へと七六%も増加している(それぞれ海軍犯罪調査局、国防次官事務室による調査)。

 国防総省は当初、この問題を曖昧にする態度をとりつづけた。しかし、海軍の集団暴行事件(「タイルフック事件」一九九一年)、陸軍での系統的な性的暴行の発覚(「アバディーン事件」一九九六年)などによって、世論の大きな批判をあび、軍はある程度対応する姿勢を示さざるをえなくなる。

 しかし、軍のなにかには、アバディーン事件の告発者を「一握りの連中」など問題を軽視する幹部がいたように、真剣にこの問題に取り組まない状況があった。軍はその後も、性的暴行を「犯罪」とは定義せず、「不適切な行為」(国防長官覚書)と表現されるなど、法に基づく厳罰の対象として明確化していなかった。とくに一般司法から独立した、閉鎖的な軍事法廷は、たとえ告発があっても、性犯罪を軽視し、加害者を擁護する傾向すらあった。

《イラク戦争──噴出する問題と世論の批判》

 こうした軍の性犯罪容認、隠蔽の体質のもとで事態の抜本的改善がはかられない一方で、アフガニスタンヘの攻撃、イラクヘの侵略と占領という戦争政策の展開のなかで、性的暴行は、おぞましい「進化」をとげていく。

 イラクでの米占領軍を取材したあるアメリカのジャーナリストは、女性兵士が、同僚の男性兵士のレイプから身を守るために、外から見えるところにナイフを携行して牽制している実態をレポートしている。この女性兵士はインタビューに答えて「これはイラク人から身を守るためのものではない。イラクでの戦闘にはM16自動小銃がある。ナイフは同僚からレイプされないように身を守るためのもの」と証言している。さらに、「イラクでは、他の兵士にレイプされる危険が広く知られているので、上官はかならず、トイレやシャワーには一人で行かないようにと指示している」(「クリスチャン・サイエンス・モニタ」二〇〇七年三月十九日)。

 さらには、夜トイレに行って、レイプされることを恐れて、灼熱の地であるにもかかわらず、午後からは水を飲まないようにする女性兵士がおり、そのため脱水症で死亡するものもいるという証言もある。

 イラク戦争以降の特徴は、被害をうけた女性兵士が、勇気をもってその犯罪を告発し、市民運動やジャーナリズムも被害者の立場にたった論陣をはって、世論を動かしていったことだった。

 スーザン・スイフト陸軍伍長は、イラク従軍中にレイプの被害を告発したが、軍の側は、これにまともに対処せず、逆に彼女の階級を剥奪し、帰国後再度イラクに赴任すべしとの決定を下した。これに対して彼女自身や家族、さらには市民運動がともに、「ストップ・コマンド・レイプ」(司令官のレイプをやめさせよう)という運動をくりひろげた。結果として二〇〇六年に減刑で和解が成立したが、これを機会に多くの被害者が声を上げるようになったのである。

 また、二〇〇四年には、米下院の女性問題特別会で、イラクで深刻化する米軍内での性的暴行についての事情聴取、審議がおこなわれた。そこで女性兵士は自らの体験を次々に明らかにした。ある女性陸軍少佐は、湾岸戦争でスカッドミサイルの攻撃中に同僚男性兵士からレイプされ、それを上官に告発したが、軍は大量の避妊薬を支給しただけで、加害者も罰せられず、泣き寝入りを強いられた。また海兵隊の女性中尉は、暴行被害を組織に報告したところ、逆に被害者の方が命令不服従と任務中飲酒の罪状で三〇日の服役を命じられた。一方、その加害者は軍法会議での証言を免除されている。

〔補〕ここで私は、女性米兵を単純に「戦争の被害者」とみなしているわけではない。彼女たちも侵略者の一員である。しかし、その個々の犯罪例は、軍隊と性犯罪の本質的関係をしめすものとしてここにとりあげたのである。

 こうした状況のなかで、さすがに国防総省も重い腰を上げざるをえなくなり、二〇〇四年一〇月に「性的暴行予防対応共同特別行動委員会」(翌年十月に常設組織としての「局」=SAPROに昇格)を設置し、公に性犯罪の根絶にとりくむこととなった。そして、二〇〇五年には、それまで「不適切な行為」とされてきた性的暴行を、はじめて公式文書(指令覚書)のなかで「犯罪」と定義し、冒頭にのべたような大がかりなキャンペーンを展開することとなったのである。

 いまや表向きには、軍をあげて、その根絶をかかげざるを得ない状況にまでなっているが、その犯罪根絶のキャンペーンに成果を期待することはできないだろう。なぜなら、次にみるように、そもそも性犯罪が、軍隊と戦争の本質に深く根ざしたものだからである。
──以下略

(「前衛」08年五月号 日本共産党中央委員会 p81-86)

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◎「陸海空の各自衛隊で共通して多いのが性的破廉恥行為」と。
学習通信080408 を参照して深めよう。