学習通信080509
◎判決は道理の通った画期的なもの……
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イラク偵察派兵
独の違憲判決
海外軍事活動に歯止め
解説
ドイツ連邦憲法裁判所は七日、イラク戦争開始前後の時期におけるドイツ軍の北大西洋条約機構(NATO)軍の偵察活動ヘの参加を違憲だとする判決を出しました。
ドイツの憲法に当たる基本法は、第二次大戦時のナチスによる外国侵略への反省から第二六条で「侵略戦争の遂行を準備する行為は違憲である。これらの行為は処罰される」と規定。八七条a項でドイツ軍の任務を「防衛」のみに限定しています。
しかし、一九五五年のドイツのNATOへの加盟で「防衛」の定義がNATO域内に拡大。東西ドイツ再統一後の一九九四年に連邦憲法裁判決でこの定義がさらに拡大されました。これにより、ドイツの「防衛」は、国境を守るだけでなく、危機への対応や紛争防止などの行動も指すものとされ、下院の議決による事前承認でNATO域外への派兵が認められることになりました。
この判決後、国連の平和維持活動(PKO)への参加や旧ユーゴスラビアのボスニア・ヘルツェゴビナの欧州連合軍(EUFOR)、コソボの国際治安維持部隊(KFOR)、アフガニスタンの国際治安支援部隊(ISAF)などドイツ軍の外国での軍事活動が活発化しています。
今回の連邦憲法裁判決はこうした動きに歯止めをかけるものです。とくにNATO域内であるトルコ上空での軍事活動をも規制するものとして注目されています。(夏目雅至)
(「赤旗」20080509)
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主張
派兵違憲判決
国は自衛隊を即時撤退させよ
イラクで航空自衛隊がおこなっている米軍への空輸支援を違憲とする名古屋高裁の判決に、政府は不服従の姿勢をむきだしにしています。
福田康夫首相は「裁判のためどうこうする考えはない」とのべ、町村信孝官房長官や石破茂防衛相もあくまでイラク派兵を継続するといっています。判決が憲法九条違反だといっているのに耳を貸さないのは、行政の横暴であり、法治国家としての基本を政府みずからふみにじる行為です。憲法九条に背を向ける政府の態度を許すわけにはいきません。
空輸支援は九条違反
名古屋高裁の青山邦夫裁判長(高田健一裁判長代読)は、航空自衛隊がイラクでおこなっている米軍への空輸支援が「憲法九条一項に違反する活動を含んでいる」と断じました。イラク特措法にさえ「違反」していると認めました。憲法が保障する平和的生存権についても「具体的権利性がある」とのべました。判決は道理の通った画期的なものです。
判決は、イラク派兵を強行するさいに政府がもちだした根拠を、政府の憲法解釈にもとづいて否定したことが特徴です。
判決は、イラク情勢を二〇〇三年三月のイラク攻撃の延長であり、「外国勢力である多国籍軍対イラク国内の武装勢力の国際的な戦闘」だといっています。政府は、治安は悪いがイラク全土が戦闘地域とはいえないといって陸自を南部に派兵し、空自の活動地域をバグダッドに拡大してきました。判決は、この政府の言い分が詭弁(きべん)にすぎないことをあきらかにしたものです。
判決がバグダッドを「人を殺傷し又は物を破壊する行為が現におこなわれている地域」とのべたのは、とくに重要です。バグダッドを非戦闘地域として、空自の輸送機をバグダッド飛行場に離着陸させている政府の説明が通用しないことを認めているのです。バグダッドが戦闘地域であるのは、輸送機が常におとりの熱源体「フレア」を発射しながら着陸せざるをえない実態をみても明白です。非戦闘地域だからという派兵合法化論はもはや通用しません。
判決は多国籍軍への空輸支援を、米軍の「武力行使と一体化した行動」「自らも武力行使を行ったとの評価を受けざるを得ない」といっています。空自が米兵や軍事物資をバグダッドに空輸する結果、米軍は補充米兵など新たな戦力を手に入れることになります。それによって米軍は戦闘活動を続けることができるのです。自衛隊の空輸支援活動が米軍の武力行使と一体化しているのは否定のしようがありません。他国の武力行使と一体化する活動は憲法違反というのが政府見解です。判決は当然のことをいっているにすぎません。
判決が憲法前文にある平和的生存権についても大きく前進させたことは重要です。平和的生存権がたんなる理念でなく法的な権利として認められるべきで、違憲行為を裁判に訴えることができる具体的な権利だとしたことは、こんごの国民のたたかいにとって大きな意味を持ちます。
判決を武器に
判決は、イラク派兵反対、自衛隊の即時撤退要求が憲法にそった正当な要求であることを認めました。政府は判決で示された違憲判断を尊重すべきです。
裁判所の違憲判断が示されてもなお、派兵に固執する政府をおいつめ、航空自衛隊のイラクからの撤退と派兵拡大をねらう恒久法などの策動を阻止することこそ、国民の平和の願いにこたえる道です。
(「赤旗」20080419)
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社説
イラク空自判決 兵輸送は武力行使ではない
イラクでの自衛隊の活動などに対する事実誤認や、法解釈の誤りがある。極めて問題の多い判決文である。
航空自衛隊がクウェートとイラクの間で実施中の空輸活動の一部について、名古屋高裁は、国際紛争解決の手段としての武力行使を禁じた憲法9条に違反するとの判断を示した。
市民団体メンバーらが空自のイラク派遣の違憲確認と差し止め、損害賠償を国に求めていた。
判決は、原告の請求をいずれも退けた。違憲確認の請求についても「利益を欠き、不適法」と判断している。それなのに、わざわざ傍論で「違憲」との見解を加える必要があったのだろうか。
国は、訴訟上は勝訴したため、上告できない。原告側も上告しないため、この判決が確定する。こうした形の判例が残るのは、好ましいことではない。
イラク復興支援特別措置法は、自衛隊の活動について、人道復興支援などを「非戦闘地域」で行うよう定めている。
判決文は、イラクでの多国籍軍と国内の武装勢力との抗争を「国際的な戦闘」と“認定”した。それを前提として、空自による多国籍軍兵の空輸は「他国による武力行使と一体化した行動」で、武力行使に当たる、と結論づけた。
だが、多国籍軍による武装勢力の掃討活動は、イラクの安定と安全への貢献を求めた2003年5月の国連安全保障理事会決議1483などを根拠としている。イラク政府も支持しており、正当な治安維持活動にほかならない。
仮に掃討活動が武力行使だとしても、憲法上の問題はない。空自による多国籍軍兵の空輸は、武力行使と一体化しないからだ。
内閣法制局は、「一体化」の有無を判断する基準として、地理的関係、密接性など4項目を挙げている。空自の輸送機から降り立った兵士がすぐに戦闘活動を開始するなら、一体化する恐れもあるだろうが、実態は全く違う。
判決文は、バグダッドが「戦闘地域」に該当するとしている。
だが、イラク特措法に基づく基本計画は、空自の活動地域をバグダッド空港に限定している。空港は、治安が保たれ、民間機も発着しており、「戦闘地域」とはほど遠い。空港が「戦闘地域」になれば、空自は活動を中止する。
イラク空輸活動は、日本の国際平和活動の中核を担っている。空自隊員には、今回の判決に動じることなく、その重要な任務を着実に果たしてもらいたい。
(「読売」20080418)
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社説
イラク判決―違憲とされた自衛隊派遣
あのイラクに「非戦闘地域」などあり得るのか。武装した米兵を輸送しているのに、なお武力行使にかかわっていないと言い張れるのか。
戦闘が続くイラクへの航空自衛隊の派遣をめぐって、こんな素朴な疑問に裁判所が答えてくれた。いずれも「ノー」である。
自衛隊が派遣されて4年。長年、疑念を抱いていた人々も「やっぱり」という思いを深めたのではないか。
航空自衛隊の派遣に反対する3千人余りの人々が派遣差し止めを求めて起こした訴訟で、名古屋高裁が判決を言い渡した。
差し止め請求は退けられ、その意味では一審に続いて原告敗訴だった。だが、判決理由のなかで憲法などとのかかわりが論じられ、派遣当時の小泉政権が示し、その後の安倍、福田両政権が踏襲した論拠を明確に否定した。
判決は、イラクの現状は単なる治安問題の域を超え、泥沼化した戦争状態になっていると指摘した。とくに航空自衛隊が活動する首都バグダッドの状況はひどく、イラク特措法の言う「戦闘地域」にあたるとした。
小泉政権は、イラクのなかでも戦火の及ばない「非戦闘地域」が存在し、そこなら自衛隊を派遣しても問題ないと主張した。陸上自衛隊を派遣した南部サマワや、首都の空港などはそれにあたるというわけだ。
判決はそれを認めず、空輸活動はイラク特措法違反と明確に述べた。空自の輸送機はこれまで攻撃を受けなかったものの、何度も危険回避行動をとったことを防衛省は認めている。実際に米軍機などが被弾したこともあった。判決の認識は納得がいく。
もう一つ、多国籍軍の武装兵員を空輸するのは、他国による武力行使と一体化した行動であり、自らも武力を使ったと見られても仕方ない、つまり憲法9条に違反するとした。
もともと、無理のうえに無理を重ねた法解釈での派遣だった。当時の小泉首相は、非戦闘地域とはなにかと国会で聞かれ、「自衛隊が活動する地域は非戦闘地域」などと開き直ったような答弁を繰り返した。
判決後、町村官房長官は派遣続行を表明した。最高裁による最終判断ではないからということだろう。それでも、高裁の司法判断は重い。判決を踏まえ、与野党は撤収に向けてすぐにも真剣な論議を始めるべきだ。
日本の裁判所は憲法判断を避ける傾向が強く、行政追認との批判がある。それだけにこの判決に新鮮な驚きを感じた人も少なくあるまい。
本来、政府や国会をチェックするのは裁判所の仕事だ。その役割を果たそうとした高裁判決が国民の驚きを呼ぶという現実を、憲法の番人であるはずの最高裁は重く受け止めるべきだ。
(「朝日」20080418)
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【主張】
空自派遣違憲判決
平和協力を否定するのか
イラクでの航空自衛隊の平和構築や復興支援活動を貶(おとし)めるきわめて問題のある高裁判断だ。
名古屋高裁は自衛隊のイラク派遣差し止め訴訟の控訴審判決で、差し止めと慰謝料請求の訴えを棄却しながらも「米兵らを空輸した空自の活動は憲法9条1項に違反するものを含んでいる」と、違憲判断を示した。
原告側は上告しない方針で、国側も上告できない。自衛隊のイラク派遣を違憲とする初の判決は確定する。この違憲判断は主文と無関係な傍論の中で示された。
傍論で違憲の疑義を表明することは、憲法訴訟のあり方から逸脱している。
しかも被告の国側は最高裁への上告を封じられる。これは三審制に基づき最高裁をもって憲法判断を行う終審裁判所としたわが国の違憲審査制を否定するものと指摘せざるを得ない。
違憲判断自体も問題だ。空自が多国籍軍の兵士をバグダッドへ空輸する任務は、他国による武力行使と一体化した行動であり、自らも武力行使したとの評価を受けざるを得ないとした。
空自は平成16年3月から、クウェートを拠点にC130輸送機で陸自などの人員、物資をイラク南部に輸送してきた。一昨年に陸自が撤退後、輸送範囲をバグダッドなどに拡大し、現在、国連や多国籍軍の人員・物資を輸送している。政府は「バグダッドはイラク特別措置法がうたう非戦闘地域の要件を満たしている」と主張しており、空自は当たり前の支援活動を行っているにすぎない。
忘れてならないのは空自の活動が国連安保理による多国籍軍の駐留決議も踏まえていることだ。
これにより、日本はイラクをテロリストの温床にしないという国際社会の決意を共有している。
憲法9条で禁止されている「武力による威嚇又は武力の行使」は、侵略戦争を対象にしたものと解釈するのが有力だ。国際平和協力活動を違憲という判断は日本が置かれている国際環境を考えれば、理解に苦しむ。
「自衛隊違憲」判断は35年前、あったが、上級審で退けられた。今回は、統治の基本にかかわる高度に政治的な行為は裁判所の審査権が及ばないという統治行為論を覆そうという狙いもあるのだろう。傍論に法的拘束力はない。
政府は空自の活動を継続すると表明している。当然なことだ。
(「産経」20080418)
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社説
イラク空自派遣
違憲判断に向き合え
自衛隊のイラク派遣は憲法違反として、天木直人元駐レバノン大使や市民ら約千百人が国を相手取り、派遣の差し止めや慰謝料などを求めた訴訟の控訴審で、名古屋高裁は「航空自衛隊の活動は違憲」とする画期的な判断を下した。
イラク派遣問題で違憲判断が出たのは初めてだ。一審は憲法判断に踏み込まぬまま原告の訴えを退けている。
高裁判決も、派遣差し止めや慰謝料請求は退けた。だが高裁は空自の活動内容と憲法との関係を判断した。その姿勢を高く評価したい。
憲法九条はその第一項で「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇または武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」と定めている。
これに対し小泉政権下で自衛隊の派遣を可能にしたイラク復興支援特別措置法は、非戦闘地域で輸送や給水などの人道支援活動を行うことを明記。政府は武力行使にあたらないとした。
しかし当時から、非戦闘地域の位置づけはあいまいで、サマワに派遣された陸自や、陸自撤退後にバグダッドに乗り入れた空自の活動が特措法の範囲内かは、疑問だった。
今回の判決はバグダッドを「戦闘地域」と断じ、そこに武装した多国籍軍の兵員を空輸することは「武力行使を行ったとの評価を受けざるをえない」と明確に述べている。
空港周辺は厳重に警備されているとはいえ、中心部の米軍管理区域(グリーンゾーン)にすら、迫撃砲弾が撃ち込まれるのが珍しくない現状を考えれば、首都を「戦闘地域」と見る高裁判断は一定の説得力がある。
一方で、判断が限定的であることにも留意すべきだろう。自衛隊のイラク派遣や特措法自体の是非は判断せず、実際の空自の活動についてのみ、違憲性、違法性を認めている。
それでも空自の活動内容に照らし合わせて明確に憲法違反の判断を示した今回判決の持つ意味は大きい。原告側は上告しない方針だ。請求自体は退けられたため国は上告できず、判決は確定するとみられる。
福田康夫首相は違憲判断にとらわれずに活動を継続する意向だ。派遣差し止めを求める他の裁判がすべて原告敗訴のことも背景にあろう。しかしそれらの判決の多くが憲法判断を避けて下されたことも考慮すべきだ。
あくまで特措法の範囲内で活動していると主張する福田政権が今後も空自の活動を継続させたいなら、情報公開を徹底し、輸送の場所も中身も明確にすべきだ。党首討論で空自撤退の是非を議論することも望みたい。
憲法の制約をクリアしようと無理を重ねた特措法に基づく自衛隊派遣の矛盾が、判決に反映されている。
(「京都」20080418)
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◎「判決が憲法前文にある平和的生存権についても大きく前進させたことは重要」と。