学習通信080526
◎自衛隊が衛星を保有できるようになる……

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Q&A
宇宙基本法 産業振興盛る
民生技術 底上げ狙う

 防衛目的の宇宙利用や産業振興を盛り込んだ宇宙基本法が二十一日に成立した。基本法のポイントと、具体化に向けた検討課題をまとめた。

Q 宇宙基本法とは何か。

A 日本の宇宙開発の方向性を示す初めての法律で、国の責務や宇宙開発の推進体制を定めた。昨年六月に与党が議員立法で法案を提出した。その後、民主党との調整を経て、今国会で改めて三党で共同提案し、成立させた。

 宇宙開発の目的として安全保障を明記した。一九六九年の国会決議で宇宙は平和利用に限るとしたが、その際、「非軍事」と解釈した政府見解を、今回「非侵略」に拡大した。基本理念として宇宙産業の振興も盛り込んだ。政治主導で国の宇宙戦略を練るため、内閣に首相を本部長とする「宇宙開発戦略本部」を設ける。

Q なぜ今、基本法を作ったのか。

A 北朝鮮のミサイル発射で偵察衛星など字宙の防衛利用を訴える声が強まったのに加え、宇宙産業の弱体化が進んでいたことが背景にある。「研究開発要素のない実用衛星は国際入札で調達する」とする九〇年の日米合意で官需の通信・放送衛星などの受注を失った国内メーカーは打撃を受け、立ち直れていなかった。文部科学省が中心の現在の宇宙開発体制では、研究開発に偏り、実利用や産業化につながりにくいとの指摘もあった。

 また、中国が宇宙開発を活用した外交を展開しているのに対し、日本は技術力の割に存在感が薄い。このため途上国への衛星データの提供など宇宙外交を戦略的に進める体制が必要になっていた。

Q 日本の宇宙開発は具体的にどう変わるのか。

A 自衛隊が衛星を保有できるようになるほか、高解像度な偵察衛星や早期警戒衛星の配備も可能になる。しぼんだ官需が拡大するとの期待が産業界にはある。高性能な防衛衛星の開発が、民生技術の底上げにも波及する効果も見込まれる。

 基本法は、衛星や宇宙機器を政府が計画的に民間から調達することを求めている。長期間、安定した官需があれば、企業は投資や雇用維持がしやすい。衛星の利用に必要な地上施設やロケットの射場整備も進めるとした。「必要な税制・金融上の措置」での産業支援も検討していく。

Q 課題は何か。

A 厳しい財政状況のなか防衛衛星に巨費を投じることに「宇宙開発のバランスを欠く」「産業振興への実効性にも疑問が残る」など慎重な意見がある。防災・環境など新分野で衛星の需要を発掘したり、新興国に市場を開拓したりしなければならない。現在の宇宙開発のムダを省く作業もいる。

 各省や民間にまたがる戦略本部の体制作りや宇宙航空研究開発機構の見直し作業はこれから。宇宙機構について宇宙科学や航空機開発部門の分離などが検討されているが、「部門間に共通した開発要素もある」と研究の断絶を懸念する声もある。

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 宇宙基本法の主なポイント
・安全保障に資する宇宙利用
・産業の競争力強化
・内閣に宇宙開発戦略本部を設置
・戦略本部の事務機能を内開府に移行(施行後1年メド)
・宇宙航空研究開発機構の見直し(施行後1年メド)
(「日経」20080526)

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主張

宇宙基本法案
戦争態勢を強めることになる

 自衛隊の軍事衛星保有を公然と認め、宇宙軍拡競争に日本を引き込む宇宙基本法案の審議が連休明けにも始まろうとしています。

 自民・公明両党が昨年国会に提出していた法案を一部修正して、自民・公明・民主三党の共同提案とすることに民主党が合意しました。宇宙基本法案のねらいは、国会決議と宇宙航空研究開発機構法が明記し、政府が確認してきた、宇宙の軍事利用を禁止するという制約をとりはらい、アメリカのように、日本が宇宙を戦争のために自由に利用できるようにすることです。憲法の平和原則に違反するのは明白です。

海外での戦争への備え
 国会決議や宇宙航空研究開発機構法は、宇宙開発利用を「平和の目的に限り」と明記しています。これを基本に宇宙開発や研究を進めてきたことが、日本への国際的な高い評価につながっています。

 「平和の目的に限り」とは「非軍事」(一九六九年五月八日木内四郎科学技術庁長官=当時)のことです。自衛隊は本来、軍事偵察衛星でさえ持つことが「できない」(八三年五月角田禮次郎内閣法制局長官=当時)のです。

 宇宙基本法案は、「非軍事」の原則を破棄して、偵察衛星、早期警戒衛星、軍事通信衛星などの保有と宇宙の軍事利用に道を開くものです。

 自公民三党案は、「平和の目的に限り」を排除しています。「日本国憲法の平和主義の理念を踏まえ」と書いても、肝心の原則である「平和の目的に限り」を捨て、軍事利用に道を開くのでは、憲法を守ることにはなりません。

 「国際社会の平和及び安全の確保並びに我が国の安全保障に資する」との規定は、とりわけ重大です。

 宇宙基本法案を準備してきた自民党の「日本の安全保障に関する宇宙利用を考える会」は、二〇〇六年にだした文書で、宇宙利用が必要なのは、「弾道ミサイル防衛」だけでなく、イラクやインド洋での活動のように、「自衛隊の海外活動を支える」ためとのべています。イラクなどで衛星情報をもとに無差別爆撃をくりかえしている米軍と同じことを、自衛隊にやらせる考えです。イラク派兵を憲法違反とする名古屋高裁判決が確定判決になったいま、海外派兵と結びついた宇宙の軍事利用は許されるはずはありません。

 さらに問題なのは、宇宙基本法案が宇宙開発利用に秘密保全の網をかぶせようとしていることです。

 宇宙基本法案は、「宇宙開発利用に関する情報の適切な管理のために必要な施策を講ずる」とうたっています。宇宙開発利用の情報を秘匿(ひとく)するため、法的な措置をとるというのは重大です。日本の宇宙科学や技術の成果が秘密のベールにつつまれるのは避けられません。法案の情報管理規定が、「自主・民主・公開」の宇宙開発利用の原則と両立しないのはあきらかです。

 「平和の目的に限り」との国会決議はいまも生きています。自公民三党は自己否定につながることをやめるべきです。

国民犠牲を許さない
 高額な衛星を何機もうちあげ、更新も必要になる宇宙の軍事利用は、それだけでも軍事予算を肥大化させます。軍事利用に道を開くのは軍需産業を大もうけさせるためでもあります。国民生活予算を削り、軍事予算を肥大化させるなど許せません。

 日本を宇宙軍拡に引き込み、国民犠牲を強める宇宙基本法案を阻止することが重要です。
(「赤旗」20080506)

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◎「自衛隊の軍事衛星保有を公然と認め、宇宙軍拡競争に日本を引き込む宇宙基本法案の審議が連休明けにも始ま」ると。